独行法反対首都圏ネットワーク |
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目 次
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[96-0] 内容紹介
[96-0-1] 勝敗にかかわりなく荒廃をもたらす戦略
[96-0-2] 産学連携政策の政策評価はされているのか?
[96-0-3] 米国の大学研究費に占める特許ライセンスは5%程度
[96-0-4] 産学連携に伴う、大学の利益相反
[96-0-5] 産学連携を阻む可能性のある国立大学独立行政法人化
[96-0-6] 文科省「我が国の研究活動の実態に関する調査報告」の意図への疑念
[96-0-7] 科学技術政策の重大な政策ミス
[96-0-8] 経済産業省独法評価委員会での独立行政法人制度批判
[96-0-9] 新しい時代到来の予兆
[96-1] 田中康夫氏 告示日第一声 2002.8.15 より
[96-2] 「米国の産学連携」アルカディア学報88
[96-2-1] 日本経済政策学会での宮田氏他の講演のレジュメ(PDF)
[96-2-2] 宮田由紀夫著「アメリカの産学連携―日本は何を学ぶべきか」
[96-2-3] 第一回産学官連携推進会議 2002.6.15/16
[96-3] 平成13年度「我が国の研究活動の実態に関する調査報告」
[96-3-1] 第1期科学技術基本計画の実効性についての調査
[96-4] 大プロジェクト偏重政策の危険性を指摘する先端分野研究者
[96-4-1] 江守正多「「第一世代」の環境研究者と「第二世代」の環境研究者」
[96-4-2] 牧野淳一郎「最近の科学技術政策は大プロジェクト偏重?」
[96-5] 9/06 経産省独法評価委員会第8回(2002.7.11) 議事録 抜粋
[96-5-1] 文部科学省が3月28日の総合科学技術会議提出した資料
[96-6] 小野善康著「景気と経済政策」岩波新書576、1998.7
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[96-0] 内容紹介
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[96-0-1] 勝敗にかかわりなく荒廃をもたらす戦略
「勝敗」にかかわらず衰退と広汎な荒廃をもたらす戦略を選ぶ者は、戦う前に
負けを確信し正気を失ない自暴自棄に陥っていると言えるだろう。人と文化を
犠牲にする戦略により経済「危機」に立ち向かおうとしている日本は、この様
相を深めつつある。危機を乗りこえたとしても、少数の財閥が笑い、少数の巨
大企業が市場を征覇し、大多数の個人と法人が痛みを負い基本的人権が広汎に
阻害される。大学は産業に仕える会社もどきに改造され、大学教員は、産業に
直接役立つ研究成果を挙げることと、即戦力のある「人材」を製造することと
を本務とする労働者となり、本来の学術研究は趣味とされ、隱れてコッソリ行
うしかない場所となる。このような副作用を持つ戦略は、「勝った後」への無
関心を意味し、それは、また、何のための戦いか、という問が欠けていること
を証すものである。
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[96-0-2] 産学官連携政策の政策評価はされているのか?
産学官連携が叫ばれ、2002年6月に国立京都国際会館で第一回産学官連携推会
議が開催された[96-2-3]。技術革新を経済的危機打開の特効薬とする発想は
「供給側の経済学」に根拠を持つが、不況時における当該理論の妥当性につい
ては、「需要側の経済学」から徹底した批判[96-6]があり、その批判への理解
は次第に日本社会に広がりつつある。有効性が疑われている産学官連携政策を
過信して大学の多様な機能を犠牲にすることは日本をさらなる危機に追いやる
危険性がある。また、当該政策の有効性以前に、強者として世界に勝つことを
目標に掲げていること自身に、21世紀の世界が直面している問題の本質への洞
察の欠如が現れている。そのような貧しい現状認識で、世界で指導的な役割り
を果せるはずもない。
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[96-0-3] 米国の大学研究費に占める特許ライセンスは5%程度
産学連携の基盤は、大学セクタと産業セクタとの多様で長期的な相互作用に
ある。TLO(技術移転機構)などの存在意義は、相互作用の新しい契機をもた
らすところにあって、大学が利益を得ることにあるわけではない。米国の大学
でも、特許ライセンス収入は大学の研究費の5%程度であり、最も多い部類のス
タンフォード大学でもライセンス収入は年間4千万ドル(約48億円)であり、
年間研究費4.17億ドル(約500億円)の大半は連邦政府によっている[96-2-2].
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[96-0-4] 産学連携に伴う、大学の利益相反
企業研究者の立場からアメリカの産学連携について調査研究している宮田氏
は、産学連携の弊害について、3種類の「利益相反(conflict)」について言及
している[96-2]。企業から資金を受けた大学の研究者が、企業に有利なように
研究結果を歪める利益相反(実際には、企業が、自分にとり有利な研究結果を
出している研究者を搜し支援する場合が多いが企業に有利な研究が当該分野を
圧倒することになって分野全体が社会的信用を失う危険がある。)。大学教員
が企業のための研究に時間と精力を費やして本務である基礎研究や教育が疎か
になる責務相反。そして、非営利団体である大学が、特許収入等の獲得などの
営利活動に熱中する組織的利益相反の3つの相反である。
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[96-0-5] 産学連携を阻む可能性のある国立大学独立行政法人化
国立大学の独立行政法人化政策では、特許ライセンス収入による国費節約が
意識されている。独立行政法人化した場合、大学がTLOに利潤を要求する懸
念があり,もしもそのようなことになれば、政府からの補助金がなくなる頃に
は、多くのTLOが閉鎖に追いこまれることになろう。独立行政法人制度は、
大学に利潤追及行動を要求するため、大学経営者は、産学連携促進そのものよ
り、産学連携からの即効的収益を追及し、結果的には、産学連携を阻むことに
なるリスクは無視できない。
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[96-0-6] 文科省「我が国の研究活動の実態に関する調査報告」の意図への疑念
この調査[96-3]の対象となったのは、科学技術振興事業団が作成している研
究者データベースから無作為に選んだ1200名。889名からの回答を集計
している。応用科学分野の研究者を対象とした調査でありながら、「我が国の
研究活動の調査報告」と称すことは、調査報告全体の意図に疑念を抱かせる。
また、調査内容に「第1期科学技術基本計画の実効性/実効性がなかったと思
う施策」[96-3-1]という設問があるが、16の施策について「複数回答 3つま
で選択可」という問い方には疑念を感じる。このような問い方は、各施策だけ
みると一見すると疑義が少ない外見をとる結果が出ることは自明である。政策
評価の最も重要な問である以上、16施策毎にその有効性を問うべきであったと
思う。
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[96-0-7] 科学技術政策の重大な政策ミス
先端分野の研究者をインタビューするメールマガジンNetScience Interview
Mail で、大型研究プロジェクト一辺倒になっていくことに強い懸念を表明す
る複数の発言が最近あった[96-4]。「本当にそれをやりたい人」にお金がつい
ていないこと、学問の多様性が失われる危険があること、種々の省庁から同じ
ようなテーマで大型資金が来て「疲れる」こと、などの指摘がある。大型プロ
ジェクトを取ってこないと研究が出来ないように大学を変えようとしている、
現在の科学技術政策は、取り返しのできない重大な政策ミスを犯していること
を示唆しているように思う。
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[96-0-8] 経済産業省独法評価委員会での独立行政法人制度批判
経済産業省の独立行政法人評価委員会で、独立行政法人が「嫌みな制度」で
あること、すなわち、良い業績を挙げれば民営化され、そうでなければ廃止さ
れる、という不安定な制度である点に言及し、大学の独立行政法人化を懸念す
る発言が、記録されている[96-5]。「国立大学法人」という名称である以上独
立行政法人ではない、という人は、最終報告と同時に、文部科学大臣が総合科
学技術会議で報告した要約[96-5-1]を読むことを勧めたい。
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[96-0-9] 新しい時代到来の予兆
長野県知事選の結果は、企業と財閥と中央官庁に振り回され、日本社会に背を
向け続ける政党政治に何も期待も持たない多くの人々にとって、本当の民主主
義の到来を予感させるものが、かすかにある[96-1]。
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[96-1] 田中康夫氏 告示日第一声 2002.8.15 より
「私達長野県民は、見えざる大きな組織や人々とのたたかいに勝利をすること
によって、全国の多くの方々に、私達の社会はまだ捨てたものではない、人間
というものは信じられるのだ、と、多くの希望と勇気をあたえ、長野県からは
じまる市民による市民のための改革が広く伝播することを私は願って、今回の
県知事選の第一声とさせていただきます。」
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[96-2] 「米国の産学連携」アルカディア学報88
教育学術新聞2002.8.28より
「(米国の)大学の研究予算にしめる特許収入の割合は、大半の大学で5%未
満である。・・・・すぐれた大学の研究能力は、米国でも税金で維持されてい
る。」
「米国の事例が示すように、特許収入では研究費はおろかTLOの事務経費をま
かなうのも容易ではない。(中略)研究資金を自分で調達する「市場原理」の
導入は不可能で、税金で支援しない限り、大学の研究水準は低下する。」
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[96-2-1] 日本経済政策学会での宮田氏他の講演のレジュメ(PDF)
「アメリカの産学連携:バイオテクノロジーにおける技術専有性と利
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[96-2-2] 宮田由紀夫著「アメリカの産学連携―日本は何を学ぶべきか」
東洋経済新報社 ISBN: 4492500960(2002/04/01)
#アメリカの大学財政に関連する多数の統計資料が記載されている。
例:主要大学による実用的な成果(1999年度)単位:千ドル
Stanford MIT Harvard Michigan
大学全体の研究資金 417037 725600 401850 499722
#( 500億円 860億円 480億円 600億円 )
企業から 32937 74000 18345 35994
連邦政府から 358942 607600 278460 342239
ライセンス収入 40082 17069 13526 3528
#( 48億円 20億円 15億円 5億円)
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[96-2-3] 第一回産学官連携推進会議 2002.6.15/16
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[96-3] 平成13年度「我が国の研究活動の実態に関する調査報告」
文部科学省科学技術・学術政策局調査調整課:
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[96-3-1] 第1期科学技術基本計画の実効性についての調査
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[96-4] 大プロジェクト偏重政策の危険性を指摘する、先端分野研究者
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[96-4-1]江守正多「「第一世代」の環境研究者と「第二世代」の環境研究者」
(NetScience Interview Mail Vol.200 2002/08/29)
#似たような大プロジェクトが省庁毎に出来て研究者を疲れさせること、と
「本当にそれをやりたい人」にお金がついていないと指摘。
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[96-4-2] 牧野淳一郎「最近の科学技術政策は大プロジェクト偏重?」
(NetScience Interview Mail 2001.12.13 Vol.169)
#(未来開拓(文科省)、CREST(科学技術事業団の戦略的基礎研究推進事業)、
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)で、年間1億円、2億円などの
ものが年間何十件も出て、全部合わせると科研費の総額と変わらないこと、ま
た、原子力関係では、さらに桁外れの資金が流れていることを指摘し、「そこ
まで大きいお金を限られたプロジェクトに入れるのが本当にいいのか」と述べ
ている。
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[96-5] 9/06 経産省独法評価委員会第8回(2002.7.11) 議事録 抜粋
岩村 日本貿易保険分科会長(早稲田大学アジア太平洋研究センター教授):
「それから、実は僕は独立行政法人という制度というのはなかなか嫌みな制
度だなというふうに思っています。というのは、評価を上げていく、高い評価
をするというのはどういうことかというと、例えば貿易保険について高い評価
が毎年出るようになれば、やりは貿易保険制度そのものが政府の名による過大
な保護なのではないかという指摘が出てくるのが当然であり、むしろ私の理解
では独立行政法人制度というのはそういう評価をつくり出するための仕掛けだ
と。(中略)ただ、独立行政法人という制度は、いわば法人の、特に経営陣の
前にニンジンをぶら下げて走っていただくような制度ですから、毎年のように
基準を変えるということのマイナスもあるかと思うので、これは木村委員長以
下、この委員会全体で考えなければいけない話題だろうと思っております。」
平澤冷(政策研究大学院大学教授 )委員:
「それで、先ほどの岩村先生のお話、全く妥当でして、イギリスの場合のエー
ジェンシーにしても、あれはいわば移行期間の制度というふうに位置づけられ
ているわけで、エージェンシーとして運営する中で民営化できるものとできな
いものというのを見分けていく。そういういわば中間的なものとして位置づけ
られていたわけで、その仕組みをまねしてつくったこの組織なわけで、ですか
ら安定的にずっと独立行政法人であるんだということでは決してないというの
が一番大きな外側の枠組みの中にあるというふうに私も理解しております。」
木村委員長:(#木村 孟 大学評価・学位授与機構長)
「それから、国立大学の場合はちょっとそうはいかないんだと思いますが、私
も独法の最後の姿というのは多分平澤先生がおっしゃったように、例えばスカ
ンジナビアの研究所がずっとやってきましたように、最初は全部国費だけ、と
ころがどんどん自分で稼ぐようになって、今はほとんどの研究所が国費が半分、
自分で稼ぐのが半分、そういうところまできている。多分そういうところを目
指すのがこの独立行政法人ではないかなというふうな印象は持っておりますが、
大学はどうなるのかなと、ちょっとこれは余計な話ですけれど、考えるとよく
わからないところがあります。」
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[96-5-1] 総合科学技術会議2002年3月28日に文部科学省が提出した資料
「新しい「国立大学法人」制度の概要」
#「目標、計画を策定」の主語は何か。最終報告とはかなりニュアンスが違う。
・「大学ごとに法人化」し、自律的な運営を確保
・国の行政組織の一部→ 各大学に独立した法人格を付与
・各大学ごとの目標、計画を策定し、これに基づき運営
・予算、組織等の規制は大幅に縮小し、大学の責任で決定
・産学官連携など多彩な事業を、大学の判断で弾力的に展開
・「民間的発想」のマネジメント手法を導入
・「役員会」制の導入によりトップマネジメントを実現
・全学的観点から資源を最大限に活用した戦略的な経営
・自己収入拡大など経営努力にインセンティブを付与
・組織・業務の一部を柔軟にアウトソーシング・出資
・「学外者の参画」による運営システムを制度化
・「学外役員制度」(学外有識者・専門家を役員に招聘)を導入
・役員以外の運営組織にも学外者の参加を制度化
・学外者も参画する「学長選考委員会」が学長を選考
・「能力主義」人事を徹底⇒ 「非公務員型」へ
・能力・業績に応じた給与システムを各大学の責任で導入
・兼職・兼業の国の規制を撤廃し、能力・成果を社会に還元
・任期制・公募制の積極的導入方法等を中期計画で明確化
・事務職を含め学長の任命権の下での全学的な人事を実現
・「第三者評価」の導入による事後チェック方式に移行
・大学の教育研究実績を第三者機関により評価・チェック
・第三者評価の結果を、大学への資源配分に確実に反映
・評価結果、財務内容、教育研究等の情報を広く公表
==>
「国立大学法人法」を制定し、できるだけ早期に移行
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[96-6] 小野善康著「景気と経済政策」岩波新書576、1998.7
ISBN: 4-00-430576-4
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End of Weekly Reports 96 編集発行人:辻下 徹 tjst@ac-net.org
関連ページ:http://ac-net.org/dgh/
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