独行法反対首都圏ネットワーク |
佐賀大学の豊島です.
岡山大学での全大教教研集会関連の文章を4本掲示しましたので,ご覧いただけれ
ばありがたく存じます.なお,A,Bについてはすでに[reform:04258],
[he-forum 4433] ですでにお知らせしました.(些細な改訂はあります.)
ミラー
A.「基調報告」には重要な一章が欠けている(当日配布した文書)
(ミラーサイトにもあります.以下同じ.)
B. 学長・学部長など管理者になった大学教員がほとんど必ず「変節」するのはな
ぜか(当日配布した文書)
C. 当日の発言(プラス,加筆修正)
D.「たたかう」という言葉を理解しない組合に存在意義はあるか(教研の感想文)
以下は要約ですが,件数が多いため長くなりました.
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A. 「基調報告」には重要な一章が欠けている(当日配布した文書)
阻止運動・反対運動をどう進めるのか,という章が欠けています.今は「独法化対
応」の議論より阻止・反対の活動について多くの時間を割くべきです.なぜなら,
その活動は法律が国会を通過する前の今しか出来ないからです.そこで,私なりに
考えた,重要と思われる活動を列挙します.
1. 何よりも独法化が何ものかを世論に訴えること.その際「違法性」ほど強力で
万人に訴える論拠はないと思われる.メディア対策,諸団体のオルグ.
2. 著名人のオルグ.著名人とは一種のメディアである.
3. 国会議員,政党のオルグ.
4. ユネスコなど国際機関に問題の重大性を,特にユネスコが出した諸宣言に反す
る内容であることを理解させる活動.当局者の何らかの発言を引き出す.海外
の大学や団体との国際協力.
5. 各大学の評議会・教授会メンバー,特に組合員であるメンバーが責任ある態度
を取るよう求めること.重要な決定に対しては,記名投票で個人責任を明確に
することも必要と思われる.いくら文部科学省の圧力だといっても,最終的に
は教授会・評議会の決定を通じて事態は進行しているのである.
6. 隣接する分野の社会運動との連携.教育基本法改悪反対の団体に,独法化が10
条改悪の先行実施であることを理解してもらう.これは阻止運動に大きな可能
性を開くと思われる.
7. 教育行政や憲法の専門家(国立大学にも多数いるはずではないか!)に,独法
化の問題点を国民にアピールしてもらう.これは,これらの専門家にとって
「社会貢献」が本物かどうかが試されることでもある.
8 多分野の才能を動員すること.特に美術分野.すぐれた風刺画は強力な力を持
つ.すぐれたコピーも同様.プロに発注することも考慮すべきである.
9. 署名活動.
B. 学長・学部長など管理者になった大学教員がほとんど必ず「変節」するのはな
ぜか(当日配布した文書)
管理者は自己の属する大学や学部の利害を背負って文部科学省に当たらなければ
ならないので,当然「中間管理職」的なディレンマは避けられない.その場合,「原
理原則」と呼ぶべき大学存立の根源的な価値を十分理解しているはずの人でも,そ
れを犠牲にする場合が多い.
その原因の主なものとして,この社会の文化的背景,すなわち「原理原則」を貫
くことはそれほど誉められたことではなく,自己の属する集団の利益を守るために
むしろ「泥をかぶる」ことこそ立派な行いである,というイデオロギーが存在する
ようだ.つまり「人間関係がすべて」という態度である.たとえそれが従属的,隷
属的な要素を含んでいるとしても,である.
付論2 「悪法といえども法」は逃避の一形態
独法化準備がもし「職務専念義務」を定めた公務員法に対する違法行為であれば
避けなければならないが,しかし教授会の決定や上司の命令であればそれに背くこ
ともやはり違法行為となる.この場合ほとんどの人は後者の違法行為を避けること
を選び,その理由として「悪法といえども法」と言うかもしれない.しかしこれは
口実に過ぎない.つまりその時は公務員法の方を破ることになるからである.した
がって突きつけられている本当の問題は,「どちらの“法”を選ぶか」という事で
ある.正しい選択は,命令より法律を,そして法律でもより上位の法を選ぶ,とい
うことのはずだ.
問題はこれら上位の法には罰則がないと言うことだ.このため憲法違反者も教育
基本法違反者もそのことだけでは逮捕されない.これに対して上司の命令を無視す
れば処分されたり逮捕されることもある.だから普通の人にとっての選択肢は,処
分されたりする恐れのある違法行為の方を避けることである.しかしこれはより大
きな違法行為を放置あるいはこれに加担するというディレンマをかかえる.
C. 当日の発言(プラス,加筆修正)
法律の成立以前に行われたいかなるその実施行為も無効である.100メートル競
走でピストルの前にスタートすればやり直しになるのと同じように,いま「中期目
標・計画」を作成しても,法律成立後それは何の効力も持たないのである.そのよ
うな全く無駄な作業に時間を使うことは明らかに「職務専念義務」違反であろう*.
今の時点で最も重要なのは阻止・反対のための活動である.これこそ法律が通って
からでは「間に合わない」のであり,まさに「今」しか出来ない活動である.
国会審議前に法律を実施するという異常な事態は実は文部科学省と国大協,大学
当局を告発する絶好のチャンスを我々に与えている.独法化がいかに独裁的である
か,官僚支配そのものであるかをよく物語っているだけでなく,このこと事態が違
法行為の疑いがあるのである.法的措置などこの告発にこそ大きなマンパワーを注
ぐべきであろう.「独法化粉砕なくして真の大学改革なし」
「統合・再編」をめぐる動きは,はしなくも「法人化問題」の本質を浮き彫りに
している.「法人格」を持っていないはずの大学どうしが,隣の大学と勝手に「統
合協定」を結び,発表している.これはもはや(部分的にであれ)法人格を持って
いるということである.つまり「法人格」を持つ・持たないと言ってもそれは「程
度問題」なのである.
これに対して独法化された後はどうか.組織の「目標」が何年か毎にお役所から
与えられるような機関,つまり根本のところで政府の命令で動かなければならない
ような機関がはたして「法人格」を持っているなどと言えるのだろうか.これは決
して「程度問題」ではない.
全大教の態度は「法人化そのものは必要.その内容が問題」ということだが,こ
れ自体が「『法人格』が重要な問題」という,文部科学省のアジェンダ・セッティ
ングに乗せられてしまったものだ.これにとらわれる限りどこまでも限りなく独法
化の引力に引き寄せられる.それに対する最も効果的でインパクトのある対応は,
このアジェンダ・セッティングそのものを批判することである.そして大学のかか
える真の問題を国民全体のアジェンダにしていくことである.
* もしこれが「無駄な作業」にならなければ,もっと重大な不法行為,すな
わち国会無視の「法律」の先行実施ということになる.つまり「有事法」
が継続審議中なのに自衛隊・防衛庁がこれを実施するのと同じである.
D. 「たたかう」という言葉を理解しない組合に存在意義はあるか(教研の感想文)
今わが国の大学の労働組合は,「組合」(union) という名称が適切かどうかとい
う問題に直面している.unionという言葉には結合,団結という意味がある.結合
したり団結するのには目的があって,それは相手との関係で出来るだけ有利に立と
うとすることである.もし問題が重要な利害関係に関わるものであれば,相手と「た
たかう」ためでもある.しかるに今,独法化がいよいよ国会に提案されようという
時期に,大学教職員の組合とその連合体は,「たたかう」意志をもっているのかど
うか疑われる兆候が多い.
口で「反対」と言っても,そのための最善の行動をとらなければ,それは欺瞞で
あってむしろ有害である.なぜなら人々が「当然のこととして最善を尽くしている
はずだ,それでもダメなら仕方がない」と思ってしまうからである.
大学の組合は「教員組合」の色彩が強いが,組合の教員メンバーの中には,この
組織を学会と間違えているのではないか,と思われるふしがある.現象を説明し,
予測すること,そして「行動」らしきものとしてはせいぜいその予測に「対応」す
ること,このような態度としか思われない言説,態度が多いように思われる.加藤
周一氏の近著「私にとっての二〇世紀」**の中で指摘されている,文系の学者の陥り
やすい「決定論の罠」の問題はつねに存在するようだ.
いろいろと理屈をつけてこの問題と,そして文部科学省・国大協執行部など推進
勢力とまっとうに confront しようとせず,結果的に相手の逆鱗に触れるのを避け
る道だけを選んでしまう原因は,結局のところ臆病さである.新しい分野への挑戦,
つまり間違ったことは折り目正しく拒否するという世界に挑戦する勇気がない.
「葉隠」は知識人の習性を鋭く見抜いて次のように記している.
又学問者は,才智・弁口にて本体の臆病・欲心などを
仕隠すもの也。人の見誤る所也。(葉隠,聞書第一)
百歩譲って,独法化は「ほぼ絶対に止められない」としても,間違いを間違いと
最後まで言い続けることは,真理に仕えるべき研究者の義務である.「愚直」とい
う言葉を政治家さえ使っているが,むしろこれは「大学の先生」の十八番(おはこ)
ではなかったのか.
** 岩波書店,2000年刊,72ページ.著者の許可を得て該当の数ページを
ウェブに転載しています.
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佐賀大学理工学部 豊島耕一
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