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『新潟日報』2002年8月22日〜24日付
■ 長岡技科大の挑戦 再編・独立法人化の波のなかで
国立大学の再編・統合、独立行政法人化をめぐる動きが慌ただしい中、長岡
市にある国立長岡技術科学大学もその動きのまっただ中にある。実践的な技術
の開発を主眼に置いた新構想大学として設立されて27年。産学連携の推進、学
生の約八割が高等専門学校(高専)出身、大学院修士課程までの一貫教育と、
他大学とは異なる特色を有してきた。国立大の一大転換期を間近に控え、同大
学が自らの特色を武器に、いかに改革の荒波を乗り越えようとしているのか。
その軌跡をたどりながら、明日への「挑戦」を追った。
産学連携 <上>・起業家育成へ新組織 共同研究パイプを強化
技科大キャンパスの一角に2階建ての「技術開発センター」がある。1981年、
全国に先駆けて産学連携の中枢的な役割を担う機関として設立、民間企業と共
同研究を行ってきた。文部省(当時)が技科大の制度を基に、国立大と企業と
の「共同研究制度」をスタートさせるのは、その2年後だ。
同センターが実施してきた産学共同研究制度「センタープロジェクト」は、
技科大の基本理念である実践的な技術教育に基づく制度として、他大学とは異
なる特徴を持つ。
一つのプロジェクトにメンバーとして、技科大の教官、民間企業の研究者、
さらに技科大の大学院生が参加。教官がプロジェクトリーダーとなり、企業の
研究者には客員教授の肩書を与える。大学院生は共同研究の期間中、企業の研
究者から実践的な技術指導が受けられる仕組みだ。「実学的な教育を図る目的
があった」と高橋勲教授(技術開発センター長)は説明する。
「技科大には技術開発センターの設立前から産学連携が行える下地があっ
た」。開学時から教官を務めてきた服部賢学長は振り返る。
技科大は既存大学に比べ、教官の構成が異なっている。開学当初、教官数の
約4割が民間企業出身者。これら企業出身の教官たちが産学連携、産学共同研
究を後押しした。高橋教授は「企業出身の教官が大学と企業とのパイプ役とな
り、共同研究を行ってきた」と指摘する。
「センタープロジェクト」が始動した当初のプロジェクト研究の件数は5件。
その後、毎年10数件の研究を実施するまでに発展、テーマはエネルギー、材料、
情報と、あらゆる分野に及ぶ。研究成果のほとんどは企業で実用化済み。現在
も19件のプロジェクト研究が進行中だ。
今年4月、大学発の起業家の育成、大学・産業界の連携強化を目的とした
「長岡技科大テクノインキュベーションセンター(NTIC)」を開設した。
構想からわずか2年足らず。学内にインキュベーション(ふ卵器)施設を持つ
のは早大に次いで2番目、国立大では初めてだ。
NTIC内には「リエゾン(連絡)オフィス」を設置。教官個人と企業と個々
の連携だった技術開発センターと別に、産学連携の技科大側窓口を1本化した。
「全国の大学の中でも長岡技科大の共同研究のレベルは高い」と、昨年4月
まで長岡市内で経営管理コンサルタントをしていたリエゾン担当の小田原勝夫
客員教授。服部学長は「技術を持つ大学として、外部と連携を図る大きな窓口
は必要不可欠だ」と話す。同オフィスは企業からの技術相談や大学で眠ってい
る技術の発信など、技科大にはなかった活動にも取り組み始めた。
(2002年08月22日掲載)
地域密着 <中>・企業や行政と研究会 開学から関係構築推進
4月に開設された「長岡技科大テクノインキュベーションセンター(NTI
C)」は、長岡ビジネスモデル研究会を発足、5月に長岡商工会議所で初会合
を開いた。地元自治体職員らが出席し、月1回程度の会合を重ねている。
こうした活動に見られるように、技科大は開学以来、長岡市を中心とした地
域密着型のネットワーク作りに力を注いできた。
その一つが、教官と県内産業界の人たちで組織される「研究交流会」。現在、
先端技術やバイオなど分野別に約30の会が組織されている。
延長上には、24日に開く「地域企業との交流フェア」がある。産学官の交流
促進を目的に2年前から開催、主に中越地域の企業が参加している。今年は研
究交流会を前面に出した内容に変更し、会の認知度を上げようとしている。
このフェアを共催という形で技科大と一緒に取り組んでいるのが県内ただ一
カ所の高専、長岡工業高等専門学校だ。
技科大はもともと、高専卒業生を受け入れるための"高専の大学院大学"とし
て開学。今も長岡高専をはじめ、全国の高専からの編入生が約8割を占めてい
る。
一方、県内きっての進学校、地元長岡高校との結びつきも強まりつつある。
同高は本年度から文部科学省の理系離れ対策の一つとして、科学技術や理科教
育を重点的に行うスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に本県で唯一指
定された。
技科大は先ごろ、同高生徒を招いて講義を行ってもいる。高専同様、まず地
元の優秀な人材を確保しようとの狙いが込められている。
また、技科大は長岡市との間で7月、長岡地域連携推進協議会を発足させた。
議長には服部賢学長が就任。今後は産学官連携推進と地域支援推進の両面から
活動内容を検討するとしている。
かつて長岡市には新潟大学工学部があった。技科大開学は工学部が移転され
ることに伴い、危機感を持った地元が熱心な誘致活動を行った結果、実現した
経緯がある。それだけに地元関係者の推進協に掛ける思いは特別だ。
一方で、学生と地域との結びつきはどうか。全国各地から集まる技科大の学
生。卒業・修了後の就職地は必ずしも本県とは限らない。昨年度、卒業修了生
が本県企業などに就職したのは、全体数411人のうち51人。出身地に帰り、就
職する学生が多いからだ。
同様のことが、技科大が開学当初から実施している「実務訓練」制度でもい
える。4年生を約5カ月間、企業などへ派遣するが、受け入れ先は県外がほと
んど。「訓練として高いレベルの技術内容がほしい」(服部学長)という理由
からだ。
地域との密着度を深めようとする技科大。しかし一方で、学生と地域との結
びつきが薄いという一面も見えてくる。NTIC、研究交流会をはじめとする
技科大と地域とのネットワーク作りはこれから正念場を迎える。
(2002年08月23日掲載)
独自性 <下>・高専との連携に活路 留学生受け入れ手厚く
一月、文部科学省が国立の大学・短大に対して行ったアンケートで、新潟大
は長岡技科大と上越教育大との再編統合を検討していると回答した。その後、
新大と上教大は七月に連絡協議会を発足。しかし、技科大は「学内で将来の在
り方を中心に検討している段階」と答えるにとどまった。新大、上教大が生き
残りをかけて連携を模索しようとする中で、技科大は両大学と距離を置いてい
るかに映る。
「独立してやっていく。高専との連携が第一義」。昨年度末、技科大内部は
一つの結論に達した。独立行政法人化を検討する部会で、昨年六月から部会長
の井上明俊副学長を含む七人のメンバーが大学の再編統合について検討を重ね、
方針を決めた。高専から技科大への一貫教育制度を維持する上で「技科大は独
立した大学でやっていくのがベター」(服部賢学長)という考えからだ。
近年、技科大は高専との連携の充実、強化に力を入れている。これまで行わ
れてきた教官同士の教育・研究交流に加え、一九九九年から始まった技科大の
教官が各高専で授業を行う「出前授業」や高専生が技科大に泊まり込んで講義
を受ける「オープンハウス」。二〇〇〇年にはもう一つの技科大の豊橋技科大
(愛知県)、全国の高専と「連携協議会」を発足させた。
また、高専との間に新たなネットワークを計画している。全国約三十の高専
に設置されている高専の産学連携を受け持つ地域共同センターを結び、人と情
報の相互補完機能を高める関係を構築させようとしている。「高専ひとつひと
つは小さいが、そのネットワークは大きな力になる」と服部学長は語る。
一方で、技科大は海外との連携にも目を向け始めた。技科大の大きな特色は
留学生を積極的に受け入れていることにある。本年度、在学中の留学生数は百
七十一人と「全国の工学部の中でもトップクラスの数」(服部学長)だ。これ
までタイ、中国など海外十三カ国、十九の大学・研究所と交流協定を締結、相
互交流を図るほか、ISDNデータ通信回線を使った面接試験や遠隔授業を行っ
ている。
現在、その特色を生かし、母国に帰った留学生OBに対して技術支援を行う
ネットワークを計画中。将来的には技科大との間で共同研究を行えるまでに発
展させたいとしている。
さらに、日本に留学する前に留学生を現地で一定期間学ばせる制度「ツイニ
ング・プログラム」を全国の国立大に先駆けて実施しようと取り組んでいる。
二年後の九月にもベトナム・ハノイ工科大で行う予定だ。「海外に日本の技術
を学んだ日本のファンを作りたい」。服部学長の目が輝いた。
工科の単科大学として、決して規模は大きくない長岡技科大。高専との連携、
留学生OBとの関係と、独自の個性を生かした国内外のネットワーク作りが今
後の技科大の鍵を握る。技科大の明日への「挑戦」はまだ始まったばかりだ。
(長岡支社 深沢智徳)
(2002年08月24日掲載) |