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独行法反対首都圏ネットワーク

私の視点 「法科大学院 専門分野の高度教育機関に」
弁護士(元司法研修所教官) 青木 一男
  [he-forum 4435] 朝日新聞09/06
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『朝日新聞』2002年9月6日付

私の視点 「法科大学院 専門分野の高度教育機関に」
弁護士(元司法研修所教官) 青木 一男

 司法試験は現在、毎年3万数千人が受験し、約1千人が合格している。合格者
の平均年齢は27歳前後だが、半数近い42%が25歳以下で合格している。大学を
卒業しなくても、一定の教養試験に合格すれば受験資格を得られ、また学部の
別なく大学の2年の教養課程を履修すれば、受験資格を与えられる。

 ところが、今回の司法改革は、試験合格者を3千人に増員する代わりに、受
験資格を大学卒業後に入学する法科大学院(ロースクール)で原則3年の課程
を修了した者に与えるという。

 司法試験受験予備校中心の一発試験ではなく、ロースクールでの進級でえり
分けていくという課程を重視しようというのである。

 しかし、今回の改革論議には、残念なことに人を裁く裁判官や検察官、弁護
士(以下「法曹」といういう)にはどのような人間像が必要なのか、そのため
の人材の供給源はどのような社会層でなければならないか、といった論議は全
くない。

 私は、高校、大学とも夜間学校に学び、昼は職に就きながら司法試験を受験
した。66 年4月に弁護士登録したが、当時、合格者の3割くらいは有職者であっ
たと記憶している。

 たとえ家は貧しくても、親の苦労や社会を直視して法律家になろうと大志を
抱き、努力さえすれば法曹になる機会を与える。それが本来の司法試験ではな
いのだろうか。私は98年度から3年間、司法試験の考査委員をしたが、ロース
クールを必要とする問題があるとは感じなかった。

 ロースクールの授業料は年間で私立が200万円、国立でも100万円を超えるの
で、入学できるのは裕福な家庭に限られることになるうえ、法曹を志す者から
すれば、ロースクールの入学試験と進級試験、さらに司法試験がある。予備校
の弊害もいっそう助長される可能性がある。

 経済的な負担が増しながら、ロースクール入学から司法試験合格までの道の
りの過酷さに変わりはない。

 法曹の仕事な生身の人間を理解し、商取引を含め実際の社会の活動を知るこ
とから始まる。仕事の知識や能力は、基礎的法律知識と応用力を基礎に司法修
習を経て職に就き、先輩の指導を受けながら実務を遂行する中で涵養される。

 実務家の教員を配したロースクールであれ、学校教育で習得出来るものでは
ない。それでもロースクールが必要なのであろうか。

 そして、職業に就けるのは一体何歳になるのか。平均的には大学卒業が23歳、
仮にロースクール入学に1浪すると、司法研修所修了は27歳。受験浪人すると、
28歳から29歳でようやく法曹になるのが通常の姿となってしまう。

 では、ロースクールはいかにあるべきか。司法試験受験予備校にとって代わ
るのではなく、今後の大量な司法試験合格者や行政、企業の従事者を対象にし
て知的財産法とか行政法などの高度な専門分野についての教育と研究の高度教
育機関とすべきである。

 ロースクールをつくることは既定方針としても、法制度の整備はこれからで
ある。今一度ロースクールはいかにあるべきか、司法試験制度はいかにあるべ
きかを国民皆で考えて議論をしてもらいたい。