☆山形大学教育学部の在り方についての提案
. [he-forum 4418] 山形県による山大教育学部の在り方についての提案
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山形大学教育学部の在り方についての提案
平成14年8月 山 形 県
目次
1 教員養成の基本的な考え方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
2 提案の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
3 教員養成学部を取り巻く現状と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・9
(1)教育の現状と課題
(2)教員養成学部の現状と課題
4 課題解決のための、教育学部の在り方についての提案・・・・・・・・・12
(1)新しい教育学部の在り方についての提案
(2)新しい教育学部の特色
(3)教育研究組織
(4)授業
5 山形大学に新しい教育学部を設置する事由・・・・・・・・・・・・・・18
(1)「総合性を有すること」からの事由
(2)「実践性を有すること」からの事由
(3)「地域性を有すること」からの事由
6 期待される効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
※ 新しい教育学部構想図
1 教員養成の基本的な考え方
国家の命運は教育にかかっており、待に初等・中等教育の役割の重要性は、いくら強調
してもしすぎることはない。したがって、その担い手となる教員の養成の在り方は、国家
の存亡にかかわる最も根源的な政策であり、それを担うに値する高度な資質、能力、更に
は、教養、人格、熱意をもった教員の養成につながるシステムづくりが、何よりも大切で
ある。そして、その新たなシステムづくりが、現在最も緊急で、かつ重要な課題となって
いる。
特に、初等・中等教育を担うすべての教員には、子ども一人一人への愛情を出発点とし
ながら、更には、次のような資質と能が具備されるべきものであり、教員養成もこのこと
を目指して行われなければならない。すなわち、
(1) 総合性を有すること
教員の基本的資質について疑問が呈されることが少なくない。いわゆる視野が狭い、独
善的だ、社会性に乏しい等々である。教員は、その批判に応えるためにも、自らの資質向
上のための研鑽に努める必要があり、教員養成もかくあるべきである。教員には、21世紀
に生きる人材の育成を目指す教育にふさわしい、総合的祖点と社会的実践力が期待されて
いる。それは、幅広い視野(グローバリズム)と地域の視点(ローカリズム)とを併せ持
ち、複眼的な思索ができ、しかも、それを国際的な場面でも的確に表現できる能力や、社
会的に自らも行動できる能力など、豊かな広がりを持った人間性、いわば「大教養人」と
しての資質である。山形大学は、総合大学である。学生にとっては、多様な学問領域との
出会いや、数多い教官、学生との幅広い交流などによって、若い感性と鋭い知性とを磨く
ことのできる絶好の場であり、そのための有効な仕組みづくりを行うことは、大学として
の責務である。
(2) 実践性を有すること
教育は、教育現場における実践であると言っても過言ではない。その究極は、一人一人
の子どもを、どのように伸ばしてやるかということに尽きる。そのことに向かって、個々
の教員が、あるいは教員の組織が、どういうことを、どういう方法で、どんな恩いで、実
践に取り組むかということである。山形県の教育実践には、数多くの貴重な積み上げがあ
った。例えば、小規模学校における実践研究、複式学級における実践研究などは、まさに
全国をリードした分野である。そういうことを起点として、教育実習の充実による実践的
な感覚の醸成が、常に求められてきた。そのためには、現場的な感覚を磨き上げることが
大切であり、臨床心理学などの成果も取り入れながら、実践的研修も積み上げていく必要
がある。今、山形県は、新たな実践の時代を迎えている。小人数学級編成の「教育山形さ
んさんプラン」のスタートである。各学校でのさまざまな実践には、迷いや悩みがないわ
けではない。教員養成の段階から、こういう問題に、どのように取り組むかということは
、新たな課題である。これらの実践をより確かなものとするための理論的な研究など、教
育の研究機関としての教育学部に期待するところも大きい。
(3) 地域性を有すること
現在の教育の最大のテーマは、「公開と評価」である。特に、義務教育については、「
菌かれた学校づくり」として、地域への開放が求められている。同時に、教育の内容も、
広範囲にわたり、地域を題材にした、体験的な問題解決の学習なども取り入れられ、教室
の中の授業だけで、必ずしも完結するものではなくなった。教員は、文化の拠点として、
地域から支えられている学校として、その存在を認識し、自らの使命を自覚しなければな
らない。
こういうことは、時代の流れを通して考えて見ても、今更改めて言うまでもないことで
あり、山形県には、そういう考えに基づく豊かな実践があった。山形県の近代の学校教育
の歴史そのものが、「地域性を有すること」の実証でもある。こういう中における教員の
在り方も、地域に開かれていなけれぱならないのは当然のことである。地域を知り、地域
の課題をしっかりと把屋し、それにどう取り組むかという基本姿勢力確立していなければ
ならない。子どもたちに密着して地域課題に向かう、このような教員としての姿勢の確立
は、豊かな実意を持つ地域において、教員を目指す養成期間の瑞々しい感性の中で、育ま
れることが望ましい。
2 提案の概要
(1)目的
初等・中等教育の中核となる、より専門的な知識・技能をもち、豊かな教養を備えた、
言わば「大教養人」たる教員の養成を行う。
(2)修業年限
修業年限は、学部4年及び大学院研究科(修士過程)2年とする。6年間の一貫教育を重
視し、それにそったカリキュラムを準備する。
(3)入学定員
3県の実情を踏まえた定員とする。
(4)設置形態
行政、民間機関等と一種のコンソーシアム(ネットワーク化した共同体)とし、地域と
の連携を重視した教育機構とする。
(5)教育内容
学部、大学院の学生の教育に当たっては、山形大学が総合大学であるという利点を生か
し、全学の教官が協力してく教養および人格形成のための、全学教育や合同講義を行う。
更に、国際化時代に対応するため、英語コミュニケーション能力を高めるとともに、情報
化社会における情報処理能力も、教員養成の基本として位置づける。
また、学外からの講師による講義など、例えば、他大学、行政機関、民間、地域など、
地域社会と連携した教育を行う。そうすることによって、地域社会とのかかわりの中で、
自己の位置づけを考え、自ら社会秩序をつくりだしていこうとする姿勢をもった、言わば
「大教養人」としての人材づくりと、そういう資質を持った教員の養成に努める。また、
いじめや不登校等の諸問題に対応するため、臨床心理士の養成を目指す。更に、現職教員
および免許状を所有する潜在的教員のリカレント教育を行うとともに、発展途上国の外国
人教員養成をも積極的に行う。
公開講座、公開授業、講演等、地域に貢献する開かれた大学にするとともに、学生の学
外研修、地域ボランティア活動などを積極的に推奨し、更には、行政、民間、地域の伝統
文化や特殊技能保持者、また種々の分野の有識者から学ぶ体詞を作る。
アカウンタビリティ、すなわち地域社会に対する学部の説明責任を促進するため、広く
地域社会と交流を保つよう努める。
(6)諮問と評価
中長期目標を設定し、またそれを実行するため、広く外部と意見交換を行う「諮問会議
」を設置する。また、教育研究の改善と促進を図るために、「外部評価委員会」を設置し
、定期的に学部の諸事項を評価し、その結果を県民に公開する。
(7)入学試験
いわゆるAO制度(アドミッション・オフィス制度・推薦入学のための入試担当組織によ
る、面接などを重視した選抜制度)を設置し、意欲ある教員志望学生の推薦入学を促進す
る。また、入学条件を満たし、学力及び意欲のある一般社会人の入学も積極的に推進する
。
(8)学生の就職
初等・中等教育の中核的な教員として、全員の教職採用を目指す。
山形県としては、専修免許状所有を重視するなど、教員選考制度に工夫を凝らし、すぐ
れた教員人材の採用に向けた努力をする。
(9)財政支援
関係自治体、民間企業、地域有志等による支援のための教育財団を設立する。
行政機関は、財政支援を行うことによって、教育学部の円滑な運営と教育学部学生の勉
学を支援する。
(10)附属学校・園
現在、教育学部に設置されている附属幼稚園、附属小学校、附属中学校および附属養護
学校は、従来どおり存続させ、研究実験校としての責務を全うさせる。
3 教員養成学部を取り巻く現状と課題
(1)教育の現状と課題
国家、企業、家族など、あらゆる社会システムの基盤をなすものは教育である。日本は
新しい夜明けの明治時代にも、第2次世界大戦後の荒廃した時代にも、最も重要視したの
は斜交教育であった。その結果、日本は奇跡的といわれる発展を遂げ、日本の学校教育の
水準は、世界から高く評価されるまでになった。
しかしながら、国の発展と同時に、種々の「ひずみ」もまた顕著となった。都市への人
口集中化、少子化、家庭での子どものrあまやかし」、家庭や地域の著しい教育力の低下、
目的なしの進学、受験競争の激化、モラルの低下、更には、これらに起因すると恩われる
いじめ、不登校、校内暴力、学級崩壊、青少年の凶悪犯罪などの続発など、大きな社会問
題となった。また、行き過ぎた平等主義による児童生徒の個性や能力の相違の軽視、ある
いは逆に、個人の尊重を強調するあまり、「公」に対する協調性の低下、更には、地道な
努力なしでの拝金主義、情報化社会の進展に伴う、不必要な情報の洪水などによる人間形
成の「ゆがみ」も問題となってきた。さらに、工業など、産業の急激な発展による自然環
境の破壊、インターネットの発達による、顔を合わせない形でのコミュニケーションなど
が、これらの問題をさらに深刻化し、児童生徒には自分を見失い、孤立化する傾向が目立
ってきた。こういう状況の中で、20世紀は、世紀末を思わせるような退廃と混乱の中に終
わった。
このように動揺する世界の中で、最も重要なことは、しっかりとした価値観を持ち、多
様化する社会において自己を確立し、それとともに異文化、すなわち異質な宗教観、風俗
、習慣をも理解する能力を有して、幅の広い常識を併せもった人材を作ることである。そ
の意味から21世紀は知生の時代と位置づけられ、文部科学省もまた、2001年を「教育新生
元年」と位置付け、これらの諸問題を解決すべく、教育理念と教育方針の抜本的な見直し
を行った。さらに文部科学大臣の諮問機関である「生涯教育審議会」や「中央教育審議会
」も、児童生徒の教育には、地域一本となった教育が不可欠であると結論し、そのための
地域住民の生涯教育の推進や、1初等・中等教育教員に対する教養教育の充実を提言した。
さらに児童生徒には、学力に加えて、人格カ清武されるよう「総合学習」や「ゆとり学習
」などの新学習指導要領や、「学校週5日制」が導入されるなど、今や、初等教育から大
学や大学院を含む高等教育まで、その在り方の改革は、全国民にとって最も重要な課題と
なった。その中でも、児童生徒の資質や能力を真っ先に見いだし、その人格を形成する初
等・中等教育における教員の役割は重要であり、その教員養成の在り方は、最も緊急的な
課題として、抜本から見直す時期となった。
(2)教員養成学部の現状と課題
全国的な少子化傾向とあいまって、教育学部に教員免許状を取らなくてもよい課程、い
わゆる「O免コース」が設置され、以来15年目を迎え、教員養成学部は新たな局面を迎え
ている。
この新課程は、教養人を育成する意味では、それなりの効果を上げてきたが、反面、こ
れら新課程の学生は、必ずしも教員をなることを主目的としないため、学部の本来の目的
が不明瞭となるとともに、学生の教員就職率の低下とあいまって、教員養成学部を卒業す
る学生の就職先も従来と違って多岐にわたるなど、教官、学生双方にとって「とまどい」
がみられる現状にある。
また、教員養成学部の学生は学習する教科が多く、また長期に亙る教育実習や卒業研究
などもあり、十分な教育研究を行うには、絶対的に時間が不足している。結果として、学
生は浅く広く学習せざるを得なくなり、新世紀の教育を担う教員としては不安が残る状況
にある。医学部学生と同様、深い専門的知識と技術、人格形成上の教養が求められるため
、修業年限の見直しを行い、質の高い教員養成を求める声が高い。
さらに、国立大学が独立法人化に移行した場合には、教員養成学部は、他の理工系学部
に比較して、外部からの資金を獲得することが困難となり、教育研究にも支障の起こるこ
とが懸念されており、また今後は、地域社会や教育界、行政機関との密接な連携なくして
は存続が困難と恩われている。したがって、支援団体や財団の設立など、。教員養成学部
を精神的、財政的にも支援していく、体制とシステムの確立が強く望まれている。
また一般に、大学では、教育よりも研究業績を評価する傾向があり、その結果、教官も
、研究業績重視の観点に立って採用、評価されることが多く、教員養成に関する教育や情
熱の希薄を懸念する声もある。
4 課題解決のための、教育学部の在り方についての提案
(1)新しい教育学部の在り方についての提案
上記の諸問題を解決するとともに、積極的なアプローチとして21世紀の初等・中等教育
に対処するため、教員養成機関としての教育学部の在り方を抜本的に改革して、学部教育
と大学院教育学研究科(修士課程)教育に一貫性を持たせ、教員養成機能の高度化を図る
。
・ 教員の資質能力は、いつの時代でも求められる資質能力と今後特に求められる資質能
力の両方を含め、教職生活を通じて変化し、成長し、向上していくものである。
教員養成機関は、このことを前提としながらも、少なくとも今日の教壇に立つための基
礎として、使命感を涵養し、教科指導をはじめとする実践的指導力を培い、しかも、社会
の変化に対応できるとともに得意分野を持つ人材にまで学生を育成しなければならない。
しかし、4年課程の教員養成機関におけるこれらの資質能力の育成は、今日の学校教育
の高度化複楚化の速度・拡大に対して質量ともに姪ずしも十分とはいえない。
・ 今日の高度専門職業人養成の観点からすれば、教職は職務内容の高度化複雑化が著し
いので修士レベルでの養成が強く望まれるところである。
これからの教員には、学校問題をめぐる諸問題に主体的に取り組み、日々の教科指導や
生徒指導等を創造的に実践し、変化の激しい新たな時代に適応できるように、自らの力量
を高めることが求められている。そのためには大学院教育学研究科修士課程において教育
を受け実践研究に取り組むことが最も効果的である。
・ 学校毎の組織的教育力の向上という観点からすれば、現在の教育学部を母体とする大
学院教育学研究科修士課程の毎年の僅かな修了者(現職教員も含めて)のみに依存してい
たのでは、長期間にわたる現段教員の大幅な世代交代が進まない限り、高度の資質能力を
備えた教員力学校教育の主体となる状況は生まれてこない。そこで、新規教員に大学院教
育学研究科修士課程修了者を大幅に採用されること望ましい。
・ 同じく現職教員の再教育の機会として大学院教育学研究科修士課程を活用するならば
、斜交の組織的教育力の急速な向上にとっても意義のあることになってくる。しかも、優
れた教育実践の理論化、優れた教育理論の実践化という「実践と理論の統合」という観点
に立つならば、大学と教育現場との相互作用を効果的にする大きな働きがあり、現段教員
が大学院教育学研究科修士課程で学ぶ機会の拡大には大きな意義がある。
・ 大学院教育学研究科修士課程修了者の増加による学校の組織酌な教育力の向上は、生
きる力・考える力の育成、基礎的基本的な内容の確実な定着、総合的な学習の充実、学校
週5日割への対応、等を緊急の課題ニする教育改革の推進や本県独特の小人数教育「さん
さんプラン」をはじめとする新しい学校教育の実現に資することになる。
(2)新しい教育学部の特色
・ 学生数は、3県の実状に応じた定員とし、学生全員の教職就職を大学、行政一体とな
って取り組み、実質的に教員養成のCOE(卓越拠点)を目指す。
教員養成に当たっては、医師養成と同様、高度な専門的な知識と技術、豊かな人間性な
ど、教員として必要な全人的な資質壷力を身につけること、言わば「大教養人」たること
を目指して行わなければならない。
本県の教員選考試験においては、専修免許状所有を重視する。
・ 地域行政や教育機関との連携で、学部運営や学生の指導にあたる。児童生徒の教育は
学校だけでなく、家庭、行政、地域住民が一体となって行うべきものであり、したがって
教員養成の教育にも、教育現場や行政、民間、地域の有識者の関与と協力がなければ、そ
の教育を十分に行うことはできない。
・ リカレント教育(再教育)を行う。この場合、現職教員の再教育および教員免許状を
保持する潜在的教員の再教育は、従来からの長期研修の制度のほかに、大学院への入学と
いう形でも実施する。そこではより高い学問と国際的感覚と情報技術を学び、修士の学位
を待て教育現場で再び活躍するシステムを構築する。
・ 初等・中等教育の重要性に鑑み、教育学部の学生に対する教育には、全学の教官が協
力する。学部横断的なカリキュラムを紀成することによって、新し学際的な学問、関連す
る専門的学問、国際化や情報化に関する学問の充実を図る。また、民間の有識者や伝統文
化・技術保持者などとの積極的な協力・連携を図る。
・ 学部に「諮問合議」を設置し、学部と地域社会との意志や意見の疎通を図り、教育に
関する諸問題を共に相談し、協力して解決するような機能をもつ体制を作る。
・ 地域社会との共同研究および委託研究を促進する。行政や地域社会の抱えている教育
上の問題、例えば小人数教育の在り方、ゆとり教育や総合的な学習の在り方、学校週5日
割等の教育課題の外に、豪雪や過疎地における小規模教育などの地域課題の解決こ向けた
研究にも積極的に取り組む。
・ AO(アドミッション・オッフィス)御度を導入し、推薦入学を促進する。推薦書や面
接などによって、意欲のある教員志望学生を確保する。
・ 国際的な要請に応じるためζこ、発展途上国などからの海外教員の積極的な養成を行
う。英語による講義や海外研修などを行い、実践的な英語コミュニケーション能力を高め
る。また、大学での外国人教官の採用を促進する。
・ 地域住民に対する貢献とアカウンタビリティ(説明責任)を重視する。従来の公開講
座、公開研究、授業指導、研修会の開催、講演会などに加え、例えば「ニュースレター」
を定期的に発行し、学部の教育研究の紹介や活動を社会に知らせる。
・ 学部自身による自己評価、及び第三者による外部評価システムを強化する。定期的に
評価を実施し、結果は県民に公開し、教育研究の改善に資する。
・ 行政機関からの財政的支援を強化する。そのため委託研究、現職教員の再教育費用、
学生の奨学金など、行政ができるかぎりの財政的支援を、委員会などを設置して検討する
。
・ 立法人化後の学部運営を考慮し、「教育財団(仮称)」を設置し、財政を支援する。
(3)教育研究組織
新しい学部は、小学校教員養成を中心として、更に中等教員養成をも含めて、学校教育
教員養成課程とし、本課程は、学部教育4年と大学院(修士課程)教育2年とする。
従来からの枠にとらわれない教員養成を目指し、6年連続の一貫教育制度の教育課程を
も準備する。
本課程は、小人数教育を通して、高度な学問知識、技術、教養を身に付けた、質の高い
教員の養成を行う。
更に、この課程においては、現職教員や、免許状を有しながら教職に付いていない潜在
的教員のリカレント教育を行い、また、発展途上国の教員志望者などの教育も積極的に行
う。
学校教育教員養成課程を、初等教育コース、中等教育コース、更に専門分野に分けるが
、それぞれ3県の実状にあった定員とする。
ここでは、指導教官の指導に基づき、各専門分野についての研究及び指導法の研究に努
めるのは当然のこと、行政、民間企業、教育現場での経験のある教員、有識者を迎え、教
育や地域の抱える課題と教育のかかわり、新しい教育法や教育測度の施行とその結果の解
析、実際の学校での教育問題などを、学問的に研究し教育する。
(4)授業
教育職員免許法及び同施行規則、並びに大学院設置基準等が定める、専門的な科目に関
する授業を開講する。
その内容は、学校が社会を成立母体とするところから、社会の変化に対応していくため
、国際化、少子高齢化、環境重視、情報化、生涯学習等に関する見識や能力を培うもので
あると同時に、地域課題、いじめ、不登校、環境問題、情報技術、芸術文化、健凄・スポ
ーツ等の、現実の身近な課題にも即応できるものでなければならない。
そのために、次のような特色ある授業を設定して、教員となる学生の資質と教養を高め
、また議論(debate)を通して、ものごとを多角的・多面的ni
洞察する能力を養う。また、伝統文化や技術、そして異文化を学ぶことによって、日本の
文化は勿論、外国の文化や宗教を正しく理解できる能力を養う。
・ 全学教官が参画する授業科目
全学の教官が、全学の学生に対して行う授業で、学生に勉学をやる意欲を高めることを
主たる目的とする。この場合、学部の学生、待に1・2年次の学生に対して、教官と学生と
のいわゆる「顔と顔」の授業に取り組み、教官の学問的経験や哲学を紹介しながら、学問
のおもしろさと重要性、学問への取り組み方、テーマについてのディベート(徹底的討論
)、思考や整理、表現、体験や観察などを重視する。
これから学生力学んでいく上で役立ち、教育や学問への意欲をかきたてるような、学生
を主体とした授業に改善を図っていかなければならない。
・ 合同講義科目
ある大きなテーマに関して、学問分野の異なる教官がそれぞれの立場から、アラカルト
式に行う授業である。例えば「環境」という課題に対して、文系、理系を問わず各分野の
教官が、1コマずつ講義や実験を行う。このことは、山形大学のような、いわば総合大学
であればこそ可能なことであり、それらの特色は、大学運営、特に教育や研究に大いに生
かしていかなければならない。
この授業を通して、学生は、1つのテーマに対して、種々異なった面から洞察する能力
を養うことができ、同時に、異なる学問分野に対しても、正しく理解できるようになる。
この授業は、また異なる学問分野の境界的学問、すなわち学際的学問の発掘、にも貢献す
る。
・ 特別講義科目
地域の伝統芸能、伝統工芸、あるいは特殊な環境や生態など、地域文化の継承者や研究
者から、直接講義を受けることによって、各地域の姿や良さを理解するとともに、問題点
を明らかにする。また、県。市町村の行政、民間等も、必要に応じて講義の一部を担当す
る。
これらの講義は、学生が教員となった場合、非常に大きな力となって、児童生徒に対し
て真に生きた教育を行う力を養うことができると期待される。
・ 教養教育科目
6年一貫の教育の教育課程の前半において、専門基礎教育のほかに、教養教育の実施を
基本とする。
教養教育科目においては、地球規模の視野、歴史的な視点、多元的な視点から物事を考
え、自らの立脚点を確認しながら、今後の目標を見定め、その実現に向けて主体的に行動
する力を育成し、グローバル化や科学技術の進展など、社会の激しい変化に対応し得る統
合された、「知」の基盤を培うことを目指す。
5 山形大学に新しい教育学部を設置する事由
新しい教育学部は、以下のような事由から、山形大学に設置し、山形大学力激員養成の
担当校になること望ましい。
(1)「総合性を有すること」からの事由
・ 山形大学は、総合大学である。教員養成は、総合大学で行ってはじめて、真に望まし
い教員を養成することが可能である。すなわち、初等・中等教育、とりわけ、義務教育の
教員は、児童生徒の人間形成に関与する最も重要な人物の一人であり、それだけに豊かな
人間性と高度な学問と、そして広い見識が要求される。これらは、異なる学部の学問に触
れ、また異なる学問分野の学生と交流することによって効果的に育まれる。
・ 総合大学で学んだ教師は、その後の長い教員生活においても、更に人間性を豊かにし
、日進月歩の学問の発展を正しく理解し、自らも研究する情熱と能力を維持することがで
き、その結果、常に児童生徒に新鮮で生き生きとした教育を行うことができる。このよう
な情熱と能力の育成は、総合大学の中にあってこそ可能だからである。
・ 現在多くの大学で、学部の壁を取り払い、全学の教官が全学の学生を教育する、いわ
ゆる横断的な全学教育や合同講義が実施されている。このような教育は、特にリーダーシ
ップの発揮を本質とする教育者の育成には必要である。それが可能なのが、総合大学であ
り、山形大学の最大の利点である。
(2)「実践性を有すること」からの事由
・ 山形県は、各地域住民の教育に対する熱意は高く、また行政も率先して支援を行って
きた。その結果、県内各地域とも質の高い教育の実績を持つようになった。戦前の初等教
育の普及率の高さ、「やまびこ学校」で代表される生活綴り方教育や、複式学級による実
践研究、更には、最近の事例として、高校生による地域ボランティア活動は、「山形方式
」として全国から注目浴びるなど、多くの実践活動が実施され、指導的な役割を果たして
きた。
・ 山形県は、このような地域に密着した、心の通う教育をさらに推進するため、この21
世紀の初頭にあたって、算数や国語等での少人数指導「やまびこプラン」に続いて、更に
それを発展させた形での、県独自の大がかりな企画である、小人数学級編成「教育山形さ
んさんプラン」を、平成14年度から、全国に先駆けてスタートさせて、注目されている。
・ こうした実践を、より確かなものとするための理論的な研究に、これまで山形大学教
育学部が果たしてきた役割には、極めて大なるものがあるとともに、山形県や地域の新し
い取り組みに対する、大学の研究機関としての今後の役割に期待するところも大きい。
・ さらに、山形県特有の豪雪、山村、過疎、高齢化社会会などの要素が複雑に関与し、
新しい教育学部の解明すべき研究課題は多い。
(3)「地域性を有すること」からの事由
・ 山形県は、師範学校時代から教員養成に力を注き、これまで優秀な教員を輩出してき
た。その後の教育学部においても、多くのすぐれた教員を養成し、また附属学校を活用し
て、多く。の実験的授業や研究が行われ、その成果は、広く県内の教育の指針となってい
るなど、地域出会に対する貢献の大きさは計り知れないものがある。
・ 行き届いた教育を行うには、その地域の風土、伝統文化、環境、児童生徒の素質や能
力、家産の事情などを、十分に理解しておくことが必要である。このような、地域に密着
した教育を担う教員としての姿勢の確立は、豊かな実意を持つ地域及び教育学部において
、教員を目指す養成期間の端々しい感性の中で、育まれることが望ましい。新しい教育学
部は、このような活動を中断させず、むしろ発展させる内容をもっている。
6 期待される効果
山形大学教育学部の教員養成の在り方を、新しくすることによって、以下のような効果
が期待される。
・ 高度な学問を有する、人間性豊かで、そして情熱のある、初等・中等教育の教員を養
成することができる。
・ 県の行政や教育機関、地域社会との連携によって、地域と密着した教育や実践研究が
可能となり、地域の伝統や文化を理解したより心の通う教育が可能となる。
・ 総合大学の中で教員を養成することによって、より深い学問と教養を有する教員によ
る、児童生徒への情熱や研究心に溢れる教育が期待される。
・ 地域の抱える教育的課題や行政機関の実験的な企画を、一体となって検討し、解析し
、解決することができる。
・ 大学・学部から外部社会へ、また外部社会から大学・学部への対話や協力体側が強化
され、より開かれた大学や学部となる。
・ 現職教員や免許状を有する潜在教員の再教育は、教員個々人の活性化に資するだけで
なく、小人数教育や複数教員による授業計画をスムーズに遂行させるアとなど、学校の組
織的教育力の向上に資すことができる。
・ 行政機関からの財政的な支援によって、また、教育財団設立によって、独立法人化後
もある程度の財源が確保され、より円滑な運営と教育研究が可能となる。