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焦点 大学が変わる 国立大学再編 中
 . [he-forum 4312] 朝日新聞07/18 
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『朝日新聞』2002年7月18日付

焦点 大学が変わる 国立大学再編 中


進行中の2つの大規模統合構想
見えてこない具体像

 滋賀、滋賀医科、京都教育、京都工芸繊維の近畿4大学と、弘前、岩手、秋
田の北東北3大学。それぞれ周囲から「第2京大」「ミニ東北大」と言われる大
規模な統合構想が進行しつつある。その現状や可能性を追った。
(企画報道室・南島 信也、社会部・白髪 泰)

京都・滋賀 「激震」越え、協議へ

 5月31日、京都教育大(村田隆紀学長)と滋賀大(宮本憲一学長)の教育学
部が「統合を前提にした話し合いに入る」ことで合意した。

 同時に、この合意は滋賀医科大(吉川隆一学長)と京都工芸繊維大(木村光
佑学長)も含めた「4大学の統合」も新たな段階に入ったことを意味していた。

 4大学学長が統合を視野に入れて初めて会ったのは今年2月。以来、「当面の
最大の懸案」となっていた教員養成系の統合問題の行方を、滋賀医科大、京都
工芸繊維大の両学長が見守ってきたからだ。

 4大学の統合構想の始まりは滋賀大と滋賀医科大の協議がきっかけで、03年
の統合を想定した中間報告も出した。経済学部と教育学部の現行2学部のほか
に、自然科学系などの学部も持ちたい滋賀大。単科大から脱皮したい医科大。

 ところが統合協定の調印寸前まで来ていた昨年11月、「激震」が襲う。教員
養成系学部の統合を促す、文部科学省懇談会の最終報告だった。

 両大学とも「問題を積み残した上での統合は得策ではない。解決してからの
方がいい」という考えで一致した。2大学による統合は棚上げした。予想通り、
約1ヶ月後には、京都教育大が滋賀大に教員養成系の再編統合協議を打診して
きた。

 京都工芸繊維大が話し合いに加わったのは昨年8月。木村学長は「バイオや
セラミックスなど、うちの繊維学部と工芸学部の研究に興味を持たれた滋賀医
科大から声がかかった」と明かす。

 今年7月3日、京都工芸繊維大で、教員養成系問題の進展を受けて4大学の学
長懇談会が開かれた。4大学は構想から正式な「統合協議の開始」へと傾きつ
つある。京都−大津間なら電車で10分程度という「地の利」も後押しする。

 地元の西口泰夫・京セラ社長は「世間のニーズを十分踏まえ、国民を納得さ
せられる統合にしてほしい」という。「京大に次ぐ有力大学の出現となり、大
きな脅威を感じる」と指摘するのは同志社大の八田英二学長だ。国立大学協会
会長も務める長尾真・京都大学長は「単なる寄せ集めではなくて、新しい学問
分野とか教育の方向性を、どういう形で作り出せるかが重要になる」という。

北東北 移動距離も障害に

 弘前、秋田、岩手の国立3大学の学生の多くは東北出身者で、地方公務員や
教員などとして地元に残る卒業生が多い。その3大学の「北東北大学連合」構
想が浮上したのは一昨年にさかのぼる。

 3大学の学長は00年2月から定期的に懇談し、大学の将来像について意見交換
をしてきた。同年8月には「北東北国立3大学連携推進会議」を設けて単位互換
など具体的な連携策を模索し始めた。

 昨年8月、3学長が「統合も選択肢の一つ」とすることで合意。同年12月、岩
手大が他の2大学に、統合や大学間の学部再編を検討する専門委員会の設置を
提案した。これを受け今年2月、「3大学の再編・統合問題に関する懇談会」が
設置され、統合の可能性やその長所や短所などが話し合われている。

 しかし3大学のスタンスには微妙に温度差がある。「実現すれば素晴らしい
こと」(平山健一・岩手大学長)、「お互いの弱点を補完し会える」(遠藤正
彦・弘前大学長)と2大学は積極的だが、秋田大の三浦亮学長は「統合ありき
ではないし、統合反対でもない。まだ白紙だ」と慎重な姿勢を崩さない。三浦
学長は「大学統合に失敗した場合、教育の結果を取り戻すことはできないから
だ」と説明する。

 今月10日、秋田大の今後を検討する運営諮問会議が開かれた。秋田県内の財
界人や教育関係者らのメンバーから「地元は統合を要望していない」「まず県
内の大学間連携を考えるべきだ」といった統合に消極的な意見が多く出された。

 統合に向けて最も障害になりそうなのが大学間の距離だ。3大学間は鉄道や
高速道路などで130〜170キロメートル、移動に1時間半から2時間半程度かかる。
冬季はさらに時間がかかる。

 懇談会は5月に中間報告をまとめた。「遅くとも来年春までに一定の方向性
を出す必要がある」としながらも、「再編・統合の組織・形態に踏み込んで議
論するのは時期尚早」とした。3学長とも「単独ではいずれ大学が立ちゆかな
くなる」という危機感や、「ミニ東北大を目指すわけではない」ということで
は一致している。しかし、どういう大学をつくるのかという具体像については
まだ見えてこない。

魅力ある大学に

 丹羽健夫・河合塾顧問の話

 予備校としても当初は「再編統合で新しい受験地図ができる」と意気込んだ。
しかし現実的には一部の大学を除いて難航している。受験生からは再編統合を
見越して「どの大学を受けたらいいでしょうか」という質問をよく受けるが、
現段階では答えようがない。

 いずれにせよ、受験生が進学したくなるような魅力ある大学や学部に生まれ
変わってほしいと思う。そして、それをつくるのが大学人の使命ではないだろ
うか。