☆焦点 大学が変わる 国立大学再編 上
. [he-forum 4304] 朝日新聞07/17
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『朝日新聞』2002年7月17日付
焦点 大学が変わる 国立大学再編 上
県境を超えた総合大学同士の統合
利害不一致、進まぬ議論
文部科学省から国立大学の再編統合を促す構造改革の方針が示されて1年余
り。県境を超えた大胆な統合を構想する大学が相次ぐ。しかしどういう大学を
つくるのかという明確な方向性が見えてこない。その様子は行政主導によって
誕生したメガバンクと酷似している。生き残りを模索する地方大学の現状を追
うとともに再編の意味を考える。
焦点は教員養成学部
「厳しい状況を真摯に受け止め、危機感を持って大胆な再編統合を視野に入
れなければ、今後の発展は望めません」
先月13日、遠山敦子文科相は、全国の国立大の学長を集めた会議でそう発破
をかけた。
再編統合は昨年6月、遠山文科相が「大学の構造改革の方針」として突然打
ち出した三つの柱の一つだ。
だが、国立大にとっては04年度にも始まる「法人化」の準備だけでも大変。
合意した統合は、今年10月が2組、来年10月が10組=地図(略)=あるだけで、
県境を超えた総合大同士の統合などは、利害が一致せず合意には至っていない。
焦点になっているのが教員養成学部の統合だ。同省の懇談会は昨年11月、複
数の教員養成大学・学部を統合し、いまよりも大規模の「教員養成担当大」を
つくるよう、報告をまとめた。
国立大の教育学部の多くは、学校の教員を育てる教員養成課程と、それ以外
の教育にかかわる人を育てる新課程の両方で成り立っている。教員養成課程を
手放し新課程を拡充するか、新課程を手放し教員養成に特化するか、そこでま
ず問題が起きる。教員養成をなくすことには地元の自治体からの反発も強い。
大学間で協議の場を設けても、教員養成の折り合いなどで、統合話は進まない。
今月5日から、文科省で各国立大からの来年度の概算要求のヒアリングがあ
り、合わせて再編の検討状況の聴取もあった。工藤智規・高等教育局長は「教
育学部も今のままが良い、法科大学院もつくりたいでは、おつきあいしかねる」
という。
だが、文科省の姿勢は1年前よりは緩和されてきた。実際に統合協議を進め
ていても「地理的にも無理があるし、メリットがないのでは?」と慎重な姿勢
を促すケースもある。「必ずしも大学を丸ごと統合しなくとも連携だけで意義
がある」などとも言い出した。今年度中の再編統合の青写真も、文科省が「そ
の時点の検討状況をまとめるだけ」という。
再編統合という爆弾を投げつけられ組織防衛に走る大学と、真意が見えない
文科省。再編で国立大はどうなるのか。根本ビジョンはみえない。
(社会部・宮坂 麻子)
「最有力」も拠点で譲らず
いまのところ、県境を超えた統合に向けて一番近い位置にある、と目されて
いるのが、群馬、埼玉の両大だ。学生数を単純に合わせただけでも約1万5千人。
統合が実現すれば、北海道大、名古屋大に迫る規模となる。
教育学部同士の再編を前提に、群馬大の赤岩英夫学長が昨年12月、埼玉県の
兵藤つとむ学長に持ちかけた。1月から8回にわたって「学長懇談会」を開催。
話し合いを続けてきた。
教育、社会情報、医、工の4学部がある群馬大と、教養、教育、経済、理、
工の5学部の埼玉大。ともに、その規模を生かして(1)専門的研究の充実や
競争力の強化(2)新たな教育研究領域の開拓などが可能になる、と再編統合
の利点を説明する。
ところが、話し合いは、やや足踏み状態になりつつある。互いに「統合後の
教育学部の教員養成は自分の側に」と主張しているからだ。教育学部と社会情
報学部がある前橋・荒牧キャンパスの縮小を回避したい群馬大に対し、埼玉大
は人口増が続く埼玉県の教員需要の多さをその理由に挙げる。意見はまとまら
ず、6月内をめどにしていた統合協議会の発足をひとまず延期した。
こうした膠着状態を打開しようと、今月下旬には、9回目の学長懇談会を開
くことにしている。最速で04年10月統合、05年4月学生受け入れが目標になっ
ている。
距離的に近い宇都宮大は、両大学とも連携の道を探ってきたが、統合を巡っ
ては「蚊帳の外」に置かれた。
宇都宮大では、大学院農学研究科が東京農工、茨城の両大と大学院連合を組
む。このため、農学部内には東京農工大との連携を強めたい、という意見があ
る。田原博人・宇都宮大学長は「実力を高めた上で統合するなら、相乗効果も
期待できるだろうが、弱いまま一緒になっても意味がない」という立場だ。当
面は大学の特色づくりに力を注ぐ。
7校の国立大がある四国。これまでに「四国総合大」や「四国教育大」といっ
た構想が、浮上した。
四国総合大はまず愛媛、高知、香川の3校による農学分野の一本化を志向。
四国教育大は、高知、香川、愛媛、鳴門教育の4校による教育学部の再編統合
を掲げている。いずれも担当者レベルの「私案」に近い。今年4月には、7校で
「四国国立大学協議会」を設立したが、統合に向けた具体的な協議が始まるか
どうかは未知数だ。
こうした大学とは対照的に、東京商船大と東京水産大は、早々と昨年の7月
に、単科大同士としては初めてとなる統合を決めた。来年10月の統合に向け、
概算要求もすでに提出。海洋科学部と海洋工学部の2学部からなる「東京海洋
大学」(仮称)として生まれ変わる予定だ。
(社会部・白金 泰、企画報道室・南島 信也)