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独行法反対首都圏ネットワーク

新 教育の森       企画「大学大変」への反響 目立つ「国立大法人化」への異論
 .[he-forum 4262] 毎日新聞07/08  
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『毎日新聞』2002年7月8日付
 
 新 教育の森
 
  企画「大学大変」への反響 目立つ「国立大法人化」への異論


 国立大学の法人化などをテーマにした企画「大学大変」(6月17日から8
回掲載)には、大学関係者などから多くの投書をいただいた。ぬるま湯につかっ
た大学人の現状を批判する一方で、「教育が軽視される」「文部科学省の権限
が強く残る」などとして、法人化に異を唱える意見も目立った。一部を紹介す
る。【教育取材班】

◇教育の質向上は小さな学科統合が条件−−鳥取大農学部教授、上原正人さん
(53)

 学生は大学の中の特定の学科で教育を受けますが、学科は教育の単位として
は規模が小さすぎます。鳥取大工学部の場合、助教授以上の教員は1学科当た
りわずか12人です。

 ところが、教育をまともにできない数の教員しかいないのに、教員には「企
業を設立しろ」とか「地域に貢献しろ」とか、大学の外での活動を求める圧力
が強まっています。これで誰が学生の教育に取り組むのでしょうか。技官など
の支援職員も少なく、支援職員の行うべき雑用が学生に押し付けられています。

 教育の質を高めるには、学長を頂点とする管理運営組織を統合するだけでな
く、全国の小さな学科を統合してカリキュラムに責任を持つ教員組織を大きく
しなければなりません。

◇「一県に一教育学部」原則守れ−−大阪府茨木市、図書館司書、松延秀一さ
ん(47)

 連載では、地方大学の生き残りということで、地域産業への貢献に焦点を当
てていましたが、文化・教育分野も忘れてはならないと思います。その意味で、
地域における教育学部の役割は大きかったはずですが、それがないがしろにさ
れているのではないでしょうか。

 文部科学省は教員養成系大学の再編、統合を強硬に進め、教育学部は再編、
統合の草刈り場です。これは地方の切り捨てにつながり、国家百年の大計を誤
る失政ではないでしょうか。目先の財政事情にこだわって一県一教育学部の原
則を崩すべきではないと思います。

◇禍根残す競争原理の徹底−−金沢大付属病院講師、打出喜義さん(49)

 国立大の法人化は既定路線のようですが、ぜひもう一度、「競争原理を導入
すると、本当に研究や教育が活性化し、運営が効率化されるのか」を国民的に
論議してほしいと思います。

 先日、大学当局が提出を求めた個人業績調査票は、研究成果の記入欄はたっ
ぷりあったのに、教育についての記入欄は2カ所。診療の欄はなし。大学病院
のスタッフを論文の数だけで評価したら、臨床医の育成に必須な教育がおろそ
かになりかねません。各地の大学病院で医療事故が頻発しているのも、間違っ
た業績主義がまん延し、診療や研修医の教育がおろそかになっているから。

 国立大法人化で競争原理が徹底されたら、業績を上げるために患者をだしに
して研究費を稼ぐ研究者が増え、21世紀の教育、研究に大きな禍根を残すと
思います。

◇「大学教員=教育不熱心」は昔話だ−−金沢大法学部助教授、仲正昌樹さん
(39)

 大学同士や学内の再編統合はほとんど、何が学生や地域、教員の研究のため
になるか示されないまま進められる。金沢大の場合、工学部出身の学長主導で
理学、工学部の統合が進められ、それに合わせて文、法、経済学部も統合を検
討せよと「要請」が来ている。

 こうした教育研究の現状を考慮しない高圧的な命令はおかしい。現場を知ら
ない官僚が「改革」を業績にしたいと思い、それをくんだ学長らが意義も分か
らない改革を押し付けるのだろう。

 大学教員は教育に不熱心といわれる。確かに教育嫌いの教員も依然として多
いが、学力低下の著しい地方の国立大で、勉学意欲がない学生を相手にどうやっ
て教えればいいのか苦慮しない人間は今や極めて少数だ。20〜30年前のイ
メージで語ってほしくない。

◇「改革も役人しだい」変わるか疑問−−新潟大人文学部教授、三浦淳さん
(49)

 再選されなかった新潟大の前学長は、文部科学省の方針通りの「改革」をし
ただけです。いくら「大胆な改革」を構想しても、文科省の役人の考えに合わ
なければ受け入れられず、予算措置されません。

 学長は中間管理職であり、文科省の指示通りに動くロボットにすぎません。
岩手大では学長選の討論会が閑散としていたそうですが、それは花見に負けた
からではなく、だれが学長になっても同じだからです。法人化後も、文科省の
審査でカネが下りる構造は変わらないわけで、この点が改まるかどうかは疑問
です。

 「国に守られた大学」などというのは神話。新潟大では校舎が雨漏りしても
一向に直りません。修繕費用が国から下りないからです。これが「各部局のわ
がままを許さない」改革の実態です。

◇経営面の指導力が必要−−長崎県総務部長、古川康さん(43)

 長崎県でも昨年から県内の国公私立の大学、短大15校すべてが参加した単
位互換制度をつくるなど、大学改革を進めています。大学に経営の概念を持ち
込もうとした時、最もそれを阻害するのは「大学というものは世間と違う存在
である」という大学人の意識と、教育公務員特例法に象徴される制度です。大
学改革とは、そこに世間の風を入れることにほかならないと思います。

 公立大は、設置者である自治体がある目的をもって住民の負担で設置したも
のです。設置者の要求に応えられない大学は、納税者の視点から見れば、存在
意義が問われるのは自然だと考えます。

 これからの大学には経営面でのリーダーシップが強く求められます。そのた
めに外部から、しかも学者以外の人も学長に招き、柔軟に運営できるようにす
ることが必要だと思います。

◇法人化されれば私学との競争に−−札幌市、元高校教諭、中野義夫さん(6
7)

 連載2回目に「(大学教員は)改革論議に参加せず、既得権が脅かされそう
になると感じた時だけ反発する」と書かれていましたが、その通りだと思いま
す。国立大は今まで、国の保護に浸りきっていました。しかし、法人化されれ
ば、私学と競争しなければならないでしょう。この点も今後、取り上げてくだ
さい。

 北海道の国立大も、北海道大を除いては大変です。北海道教育大は五つの市
に分校があり、それぞれが師範学校の流れをくむ伝統校なので、統合は簡単に
いきそうもありません。室蘭工業大や小樽商科大は、授業改革の実践書を出版
したり、高校生向けの授業をするなどPRに懸命です。

◇国立大は今でも「護送船団」−−九州大工学研究院教授、船津和守さん(6
0)

 国民の税金で賄われているのに、国立大は以前の銀行と同様に護送船団方式
の中で関係者がリスクのない環境にどっぷりつかっているのが現状です。

 国立大は、国際的な競争力が低下し、財政難にあえぐ国の現状を打破する方
策を提示できていません。教育面でも、困難に立ち向かえる人材、将来をゆだ
ねて大丈夫と感じさせる若手の育成に失敗し、具体的な産業の芽を創造するこ
とにも失敗しています。こうしたことを根本的に総括せず、貴重な年月がどん
どん過ぎ去っていると思います。

 2年半前、日本の大学教育への評価がいかに低いかを小文にまとめ、同僚に
配りましたが、反応はほとんどありませんでした。大学が送り出す学生の「品
質」を保証できないという問題点は、今も変わっていません。

◇法人化は独立を助けない−−佐賀大理工学部教授、豊島耕一さん(54)

 連載2回目の記事は「改革」を進める大学首脳と文部科学省、これに「教授
会自治」を盾に既得権を守ることしか考えない「抵抗勢力」という図式で書か
れていた。

 しかし、教授会は「抵抗勢力」と言えるほどの抵抗をしているか。教室や講
座など身近な集団の利益を守ろうとする習性はそれほど衰えてはいないかもし
れないが、それと「改革」が衝突することが今の大学の主要な問題とは思えな
い。

 むしろ学問の自由など大学に共通の価値を守るという点では「抵抗勢力」は
見る影もない。ほとんどの教職員は法人化に反対だが、反対を決議した教授会
は少なく、実際にはあきらめが支配している。

 法人化は法案さえなく、国会で論議もされていない。それを既定の方針のよ
うに書くのはおかしい。法人化は本当に大学の「独立」を助けるものなのか、
きちんと分析して書いてもらいたい。