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独行法反対首都圏ネットワーク

☆[理系白書]課題を聞く/下 山元孝二さん
 .  [he-forum 4219] 毎日新聞07/01
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『毎日新聞』2002年7月1日付

[理系白書]課題を聞く/下 山元孝二さん


 山元孝二さん=文部科学省科学技術・学術政策局長

 ◇研究開発にも競争を−−産学官で「質の後れ」ばん回

 ――独創的な研究が少ないといわれる日本。どんな特徴がありますか。

 研究費や研究者数は米国に次いで2番目。研究成果の指標でも、特許数や研
究論文数など量的なものは優れています。しかし、自社特許の改良特許が多く、
論文が他に引用される回数(被引用回数)が少ないなど、質的な面で後れをとっ
ています。ハイテク産業の輸出も米国に次ぐもののシェアは減少傾向。全体に
は研究費などのインプットが、必ずしも我が国の産業技術力に結びついていな
い面があります。

 こう言うと、マイナスイメージを持つかもしれませんが、個々には非常にが
んばっている所が少なくない。個人では、青色発光ダイオード研究の赤崎勇氏
(名城大教授)の被引用回数は世界で4位だし、機関別では東大が物理、東北
大が材料科学でそれぞれ1位、京大が化学で2位です。

 ――何が足りないのでしょうか。

 W杯を見て思ったのですが、研究もサッカーも同じで、要は「システム」と
「人材」です。トルシエという、上に立つ人を得て、そこに可能性を秘めた若
者が集まり、互いに競いながらチームとして強化されました。

 研究開発でいえば、研究システムと研究人材の問題です。これまで足りなかっ
たのは、研究システムにおける競争です。その反省から、今、競争的環境とい
うのがあらゆる面で出てきています。人材では、博士課程の学生をどう育て、
博士号を取得したあとの「ポスドク」など若手研究者の力をどう生かすのかと
いう問題があります。彼らを研究室の手足に使うのではなく、自立した研究者
として資金を配分していくことが大切です。

 強調したいのは、お金を投資しても、実験装置を作っても、要は人材だとい
うことです。世界トップレベルの若手研究者を育てていく必要があります。

 ――今年の科学技術白書は、日本が「大競争時代」を生き抜くための戦略を
取り上げました。

 これからは、大量生産の技術だけではなく、新しい知識・技術に基づいた、
知識集約型の製品やサービスを日常的に送り出すことが求められます。その意
味で、独創的な「知」の源泉としての大学が今ほど注目される時代はない。大
学などで生み出された「知」を産業に結びつける枠組みとして、産学官の連携
強化やベンチャー起業の促進、地域での研究開発能力を集積する「知的クラス
ター(ブドウの房の意味)」の形成、知的財産の戦略的活用が重要です。

 ――でも、全体の動きは遅いですね。

 大学発ベンチャーや国立大学の独立法人化など、いずれの動きも、まだここ
1、2年です。成果が出るのは、もう少し先でしょう。私が関係した「知的ク
ラスター創成事業」でいうと、全国30の地域から応募があり、その中から1
0カ所を選びました。知事、学長、産業界が熱心に取り組み、大いに競ってい
ただきました。落選しても、自前の金でやっていく前向きな県もあります。こ
うした活気が大切です。

 ――競争ばかり注目されると、長期的な研究がおろそかになりませんか。

 常に気を付けないといけない点です。今は日の当たらない研究が、いずれ役
に立つかもしれない。企業の収益に直結しない防災研究や最先端研究。さらに
人文科学の研究も含め、大切な研究や学問はいっぱいあります。すべて競争的
資金でいいということにはなりません。

 ――日本を変えるには、官庁も従来の縦割り組織を変革すべきでは。

 意識はものすごく変えているつもりです。例えば、文科省の「知的クラス
ター」と経済産業省の「産業クラスター」は、どちらも地域に焦点を当ててい
ますが、決して縦割りで同じことをやっているわけではありません。むしろ、
両者の連携がすごく重要になります。

 日本の研究開発力は、そう悲観するものではありません。産・官・学が互い
に協力し、足りない点を補い合えば、展望は開けます。自信をもってやること
が一番大切だと思います。【聞き手・瀬川至朗】

 ◇やまもと・こうじ

 1948年鹿児島県生まれ。東大法学部卒。旧科学技術庁に入庁。主に原子
力・宇宙開発の行政を担当し、文化庁官房審議官などを経て、01年7月から
現職。「知による新時代の社会経済の創造に向けて」をテーマとする01年度
の科学技術白書をまとめ、今年6月に発表した。