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独行法反対首都圏ネットワーク

☆[理系白書]課題を聞く/上 倉地幸徳さん=産業技術総合研究所
 . [he-forum 4218] 毎日新聞06/24 
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『毎日新聞』2002年6月24日付

[理系白書]課題を聞く/上 倉地幸徳さん=産業技術総合研究所



 ◇倉地幸徳さん=産業技術総合研究所・ジーンディスカバリー研究センター長

 ◇「独創」摘む研究風土−−公正なカネ配分と若手支援を

 これまで第1〜4部で、研究の資金や人材(博士)をめぐる問題、「文系支
配」が目立つ官僚構造、変革の波にさらされる大学の研究環境などを取り上げ
てきた。日本が研究によって競争力を持つためには、何が問題で、どうすれば
いいのか。2回に分けて、課題を聞く。

 ――「古巣」の住み心地は。

 約30年ぶりに帰ってきてカルチャーショックでした。変ぼうぶりではなく、
変化のなさにです。まるで着せ替え人形。着る物は変わったが、中身が変わっ
てない。

 知人に「まず日本中を行脚して顔を売れ。学会のボスとは知り合いになれ」
と言われました。科研費(競争的資金)獲得に有利なんだそうです。残念なが
ら私にはそんな悠長にできる時間はありません。研究をしていた方がいい。

 ――研究費、どう工面していますか。

 米国では、NIH(国立衛生研究所)と企業から、実際使える額として年間
計100万ドル(約1億3000万円)ほどもらっていました。昨年、今年と
2度、同様の研究で日本の科研費などに申請を出しましたが、どちらも落ちま
した。落選通知には「領域が違う」というコメントが1行付いているだけ。こ
れでは、どこが問題か分からないし、進歩しようがない。

 驚いたのは、知人から「申請書類をこんなに詳しく書いたら読んでもらえな
い」と注意されたことです。審査員がしっかりと応募書類を読み理解せずに、
どうやって評価するんです。新しい独創的な研究を、どうやって見つけるんで
すか。申請者の実績やコネで支給対象が決まっているとしたらがっかりです。

 ――分配が公正ではない、と。

 日本はいま、研究費バブルです。科学技術関連予算が伸びている。しかし、
限られた研究者に巨額のカネが集まる一方、新しい独創的な研究に予算がつき
にくい。米国の場合、各部門で約20人の審査員が、研究の重要性や独創性、
確実性、本人の力量などを点数化し、その平均で採択を決めますが、若手の応
募が当落線上にある場合「ブラウニー(甘いチョコケーキ)ポイント」を加算
します。つまり「ゲタを履かせる」。日本でも可能性に投資する仕組みがあっ
ていい。

 ――日本の若手研究者について思うことは。

 就職も留学も、教授のしがらみがついて回る。優秀な人ほど囲い込まれ、外
の空気を吸えない。院生には給料がない。すべて、米国では考えられない。今
回、センターに、新たに米国留学中の優秀な日本人をスカウトしたが、断られ
た。しかたないかな、と思いますね。やる気のある若い人を育てる環境は、米
国の方がはるかに充実している。

 ――日本人は独創性がないですか。

 そうじゃない。おもしろい研究をしている人は多い。ただ、その価値を見極
められる人が少ない。

 グラウンドを長距離ランナーが1人走っているとしましょう。アメリカ人は
独走する彼をいち早く見つけて応援する。日本人は様子を見ていて、後続が1
人、2人とくるのを見て初めて、先頭の彼を応援しだす。ヒトゲノム(ヒトの
全遺伝情報)もイネゲノムも、重要性は分かっていたのにエネルギーを集中で
きず、追い越された。

 日本はモノづくりの国です。トヨタもホンダもすばらしいが、車は車以上に
はなれない。日本は過去の財産を食いつぶして生きている。枯渇する前に独創
的なアイデアを育てる必要があります。

 ――変わらないといけませんね。

 官僚さんは優秀で判断も早いが、研究を本当に分かっている人が少ない。つ
い近視眼的、安全志向になる。米国は、大小を問わず、悪いところは変える勇
気を持っている。この違いが、日本を着せ替え人形のままにしているのではな
いですか。【聞き手・元村有希子】

 ◇くらち・こうとく

 1941年福岡県生まれ。九州大農学部博士課程修了。ワシントン大学医学
部を経て86年、ミシガン大学医学部人類遺伝学科準教授、90年教授。01
年から現職(併任)。02年4月に名誉教授となり専任に。加齢に伴う現象を
遺伝子レベルで調節する仕組みを初めて見つけ、新薬への応用を研究している。

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