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新教育の森 第四部 競争再考 大学大変 8   「公平」難しい、第三者評価
 . [he-forum 4192] 毎日新聞06/26
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『毎日新聞』2002年6月26日付

新教育の森 第四部 競争再考 大学大変 8

「公平」難しい、第三者評価

 
◇「資金」と連動、格付けの恐れ

 国立大は法人化後、第三者の評価を受けることが義務づけられる。「成績」
が悪いと、国の交付金を減らされる。だが、実績を公平に評価するのは、たや
すいことではない。

 文部科学省の「大学評価・学位授与機構」は00年度から試験的に国立大の
評価を始めた。初年度は教育、研究それぞれについて、11〜12大学の医学、
理学系の学部、大学院を審査した。別に「社会への貢献度」も評価し、今年1
月、結果を各大学に通知した。

 しかし、大学側から「根拠が不明確」「事実誤認がある」と不満が続出し、
評価機構には約170件の異議申し立てが殺到した。国立大学協会も「評価の
一貫性に疑問がある」と改善を求める要望書を送った。

 評価ではまず、大学側が自ら示した目標に照らして達成状況を自己評価する。
評価機構はヒアリングや現地調査を行い、自己評価の結果と合わせて判定する。

 「大学側が目標を高く設定すると達成できない事項が増え、それを短所とさ
れる。目標を低くして問題点に触れないと評価が高くなる」と国大協の専門委
員を務める金子元久・東京大教授は指摘する。

 京都大医学部は、入試について「成績優先で、教育目標にそぐわない学生を
入学させている」という理由で「大幅な改善の必要がある」とされた。4段階
で最低ランクの評価である。定員の9割を募集する前期試験で、面接を導入し
ていないことが原因だった。

 「面接官によって評価の分かれる面接より、学業成績を重視した方が客観的
だ」と反論したが、評価は覆らなかった。「他大学のような短時間の面接で医
師としての適性が分かるとは思えない」。大学側の自己評価報告書の作成メン
バーだった日合(ひあい)弘教授は不満を隠さない。評価機構の木村孟(つと
む)機構長も「確かに客観的な評価は難しい。評価を評価する体制も必要かも
しれない」と話す。

 しかし、心もとない評価でも独り歩きを始める。

 北陸先端科学技術大学院大(石川県辰口町)は4月22日、日本経済新聞に
学生募集の広告を出した。国立大としては異例の試みで、「確かなAクラス」
と評価機構から最高の評価を受けたことを強調した。大学の地域開放や、社会
人の研修受け入れなどの「社会貢献」に対する評価だった。

 評価機構は「評価はランク付けではない。広告に使われるとは思わなかった」
と不快感をあらわにするが、北陸先端大は「高い評価を得たのは間違いない。
学生を引っ張ってくるためには何でも利用する」と意に介さない。

 文科省は教育、研究については評価機構の評価を「尊重」し、交付金の配分
額を決めるという。私立大でも早稲田、慶応などは評価機構の評価を受けるこ
とを検討しており、今後、評価機構の重みが増すことは間違いない。

 しかし、評価機構は大学の自主評価を点検するための組織として出発した。
資金配分に関与することは想定していなかった。評価をカネに結びつけたら、
大学が外部の顔色をうかがって「受け」のいい研究に走り、基礎研究や教育が
おろそかになる恐れもある。

 「大学評価は、評価で指摘されたことを大学がそれぞれの判断で教育、研究
に役立てるもの。資金配分に利用すると大学の格付けになり、大きな弊害が出
る」と私学高等教育研究所の喜多村和之主幹は危ぶむ。

 世間の風にさらされ、大学の「自立」が揺らぐ。それがこの国に何をもたら
すのか。「実験」を前に論じるべき課題は少なくない。

<文・横井信洋、中尾卓司>
=第4部終わり

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