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新教育の森 第四部 競争再考 大学大変 7   将来像求め地域共闘/単位互換や「出張授業」も
 .   [he-forum 4181] 毎日新聞06/25
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『毎日新聞』2002年6月25日付

新教育の森 第四部 競争再考 大学大変 7

将来像求め地域共闘/単位互換や「出張授業」も


 地域の大学が独自性を保ったまま互いに協力し合い、パワーアップを図る。
国による統合、再編とはひと味違う「現場からの大学改革」が各地で始まって
いる。発信源は、「大学のまち」京都である。

 「体を整え、心を整え、呼吸を整えましょう」

 静寂に包まれたホールに、僧衣をまとった講師の言葉が響いた。茶髪にTシャ
ツ姿といった今風の若者たちが神妙な面持ちで椅子に座り、目を伏せる。

 金曜日の夕暮れ時、JR京都駅前の「キャンパスプラザ京都」では、初心者向
けに座禅を簡略化した「椅子座禅」の講座が開かれていた。花園大の正規の科
目だが、78人の受講者のうち花園大の学生は8人だけ。ほとんどが他の大学の
学生や社会人である。どういうことか。

 京都では94年に大学、短大の間で他大学の単位を自校の卒業単位に認定し合
う「単位互換」が始まった。実施するのは大学、短大の連合組織「大学コンソー
シアム京都」。府内に拠点を置く50の国公私立大すべてが加盟している。

 学生が取得した他大学の単位は、一定限度内で卒業単位に認められる。単位
互換科目の多くは市民にも開放され、学生に混じって受講できる。「椅子座禅」
もそうした科目の一つだ。

 足りない部分を他大学の科目で補い、得意分野の質の高い授業をほかの大学
の学生や社会人に提供する。大学の知的資源の有効活用である。

 「大学のまち」生き残りに力を注ぐ京都市も全面的に支援している。キャン
パスプラザ京都は00年9月、市が約100億円かけて建設した。6階建てビルの4階
分がコンソーシアムの事務室や講義室で、各大学の教員が出向いて「出張授業」
をする。

 駅前の一頭地だから、キャンパスの遠い大学の学生や社会人も通いやすい。
「日本の伝統芸能」「食文化論」「通訳法」。キャンパスプラザの開講科目は
年間100を超えた。企業で職業体験を積む学生のためのインターンシップ講座
や、ベンチャービジネスを志す社会人、学生を対象にした講座もある。「ここ
なら個々の大学が尻込みする実験的な取り組みにもチャレンジできる」とコン
ソーシアムの森島朋三事務局長は胸を張った。

 ほかにも地域単位で大学が連携する動きがある。

 愛知県では今春、県内の47大学すべてが参加する単位互換が始まった。多用
な科目を提供して受験生が関西や東京に流出するのを食い止め、東海地域以外
からも学生を呼び込むねらいだ。岐阜県でも14の大学、短大が参加する単位互
換が始まり、年度内にすべての大学、短大を結ぶ光ファイバー網が整備される。

 しかし、大学側の努力はすぐに評価されるわけではない。

 大学コンソーシアム京都は7月、東京、大阪で初めて「学びフォーラム」を
開く。高校生らに加盟大学が模擬授業を披露し、「京都の大学」をPRする試み
だが、近畿地区の高校教諭らの会合で説明したときの反応は冷たかった。

 「大学の中身を高校生自身に判断してもらおうと思ったが、『受験に役立た
ない』と関心を示してくれない。がく然とした」と森島事務局長は話す。

 ほかの地域との競争を勝ち抜くための大学共闘。古い殻を破り、21世紀の大
学像を模索する試みは、まだ始まったばかりである。

文 中尾卓司
=つづく

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