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独行法反対首都圏ネットワーク

鳥取大学長  道上 正※(まさのり) 【注】※印は規の夫が矢
 . [he-forum 4172] 山陰中央新報羅針盤06/16
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『山陰中央新報』羅針盤  2002年6月16日付

国立大学地域交流ネットワーク

鳥取大学長  道上 正※(まさのり) 【注】※印は規の夫が矢

 大学、とりわけ国立大学を取り巻く環境がドラスチックに変わろうとしてい
る。この大きな改革のうねりは、明治十九(一八八六)年の帝国大学令による
第一の改革の波、昭和二十四(一九四九)年の新制大学の発足による第二の改
革の波、平成十六(二〇〇四)年に始まろうとしている国立大学の法人化によ
る第三の改革の波として位置付けられる。まさに半世紀に一度、起こるような
大きな改革である。

 今、振り返ってみると、第二の改革の波であった新制大学の発足の理念は、
各都道府県に少なくとも一大学を配し、大学を民主主義教育の普及の支柱とす
るとともに、戦後復興のための科学技術のバックボーンにすることであった。
これは敗戦に打ちひしがれていた国民に大きな希望を与え、そこから輩出され
た人材は奇跡的な戦後復興の大きな原動力になったことは言うまでもない。

 その改革から半世紀以上の時間が経過し、私たちも世界に例を見ないような
物質的豊かさを手に入れることができたが、その社会自身も大きな変革の波に
さらされている。このような流れの中で、大学改革の一環として、国立大学の
法人化問題が起こっており、その対応に各大学は多忙を極めているが、もう一
度、地方大学の果たす役割について考えてみなければならない。

 このような時期に、鹿児島大学の田中弘允学長の呼びかけで、二十八地方国
立大学の学長が、二十一世紀における地方国立大学のあり方について意見交換
をしてきて、提言をまとめた。

 まず、提言の背景を考えてみると二十一世紀前半、国際社会は、産業・金融・
地球環境など、あらゆる面で急速なグローバル化が進展し、二十世紀的世界シ
ステムは大きな変ぼうを余儀なくされている。これに伴って、日本の地域社会
は、産業構造上も社会構造上も地球的規模の激しい変動の下に置かれる。地域
社会はこれらの諸問題の解決を迫られると同時に、その解決なくして、日本の
活性化はありえない。

 このような状況で、地方国立大学と地域社会に求められるのは、さまざまな
経済的・社会的変動に対する柔軟な適応力を協力して培うことである。それを
実現するために、次の二つの提言がなされている。

 (1) 地方国立大学と地域社会との間に強い交流関係を築き、両者の相互
的・相乗的な活性化をはかる。

 そのためには、各大学は地域社会を大学のキャンパスと考えて、地域社会に
赴き、地域社会の問題を共同解決して、地域の活性化に寄与する。さらに、各
大学は地域が抱える現実的諸問題、例えば産学官連携・生涯学習・環境・エネ
ルギー・食糧・健康医療・福祉・学力低下・いじめなど、地域社会が直面する
あらゆる問題に深く学び、それらを教育研究に生かして、大学の活性化をはか
る。

 (2) 両者のこの相互的・相乗的な活性化の関係を強化するために、全国
的な規模で結合する「国立大学交流ネットワーク」を構築し、日本の地域社会
全体を支える。

 一地域一大学の活性化例を、ネットワークを通して全国に伝え、他の地域や
大学の活性化を促す。また、一大学一地域で解決不可能な問題はネットワーク
を通して各大学で分担しながら、ネットワーク全体で共同解決をはかる。

 このような「国立大学地域交流ネットワーク」の構築は、情報技術(IT)
の目覚ましい進展を遂げている今日では、不可能ではなく、当事者間のやる気
の問題であり、その第一歩が五月にスタートした。

 この動きに呼応して、文部科学省では「地域貢献特別支援事業費」を予算化
して、国立大学の地域貢献を推進している。これによれば、国立大学が地域の
歴史・文化・経済・産業と結びついた特色ある教育研究を展開し、地域の発展
に貢献することは、大学の使命の一つであるとの認識に立っている。

 その成果を地域社会に分かりやすく発信するために、自治体と国立大学が一
体となって、地域振興プランなどの作成や、永続的でかつ定期的な意見交換を
行う連絡協議会の設置、双方の協議に基づいた地域の課題解決のプロジェクト
に対して支援を始めようとしている。

 このような動きは、地方国立大学にあっては非常に歓迎すべきことで、これ
を契機に大学と地域の結びつきがより緊密になり、地域社会の中で大学の存在
感が増すことが大いに期待される。

 鳥取大学でも、県や市と連絡協議会をつくって、自治体との連携のあり方や
共同研究プロジェクトについて協議を始め、将来、それらの成果を「国立大学
地域交流ネットワーク」に乗せて、地域社会の活性化に役立てていきたいと考
えている。