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独行法反対首都圏ネットワーク

☆産学官連携運動/理念、原則を持ち実行の時だ
 . [he-forum 4169] 山陰中央新報論説06/19
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『山陰中央新報』論説  2002年6月19日付

産学官連携運動/理念、原則を持ち実行の時だ


 産学官連携の推進を目指す第一回会議が十五、十六日、京都市で開かれた。
会場の国立京都国際会館に全国の大学や産業界から約三千六百人が集まり、新
技術や新産業創出などについて、熱い議論を交わした。

 二日間の議論は産学官連携の運動がスタートしたことを印象づけた。さまざ
まな問題が指摘され、政府や産業界、大学への注文も相次いだ。壁があった大
学と産業界で対話が始まった。

 記憶に残る会議だった。連携の条件整備など方策もほぼ出尽くした。あとは
実行の時である。

 日本の大学も捨てたものではない。研究では国際的に健闘している。技術革
新のシーズ(タネ)はいっぱいある。会場では百を超す大学や研究所が成果を
展示し、産業化できそうなものも多かった。

 シーズはたくさんあるのに、それを伸ばし育てるシステムが弱い。それでも、
条件はここ数年でかなり改善されている。

 大学から生まれたベンチャーが急増中だ。政府は三年間で大学発ベンチャー
の一千社創出を目標にする。昨年は九十二社が誕生し、計二百五十社を超えた。

 国立大の法人化もあと二年に迫った。大学も厳しい競争にさらされるが、自
由度が増す。嵐のような大学改革が地域との連携や産学協力の機運を促してい
る。

 産業が国際競争力を回復するには、技術革新に頼るしかない。生活を充実さ
せるような新産業をつくり出す画期的な技術のシーズは、多彩な基礎研究に隠
れている。日本の企業が大学などに支出している研究費は、海外が国内の二倍
以上。しかも、その差は最近広がっている。産業界は国内の大学に、もっと目
を向けるべきだ。

 グローバル化の中の大競争時代だ。大企業も技術開発に外からの刺激がなけ
れば、生き残れない。二十一世紀は情報技術(IT)やバイオなど「知の爆発」
といえる状況が続いている。技術革新が速まるにつれ、企業のライフサイクル
がますます短くなっている。

 ことしの科学技術白書はイノベーション(技術革新)をテーマにした。それ
によると、日本は研究投資が米国に次いで世界二番目なのに、それに見合うほ
ど産業技術力に結びついていない。問題の一つが産学連携の不足だ。

 もっとも、理念や原則のない産学連携は、慎まなければならない。その意味
で、特別講演した米国マサチューセッツ工科大(MIT)・技術移転事務所の
リタ・ネルソン所長らの指摘は傾聴に値した。

 それは第一に、大学の使命は教育と基礎研究にあることだ。技術移転は副産
物にすぎない。自然への自由な好奇心が「新しい知の地平」を切り開く。産学
協同と縁の薄い学問分野も大事にしたい。

 第二に、産学連携は大学や産業界、地域の自主性を尊重し、政府の強い関与
は避けることだ。規制を早く緩和し、ベンチャーへの投資や研究開発費の優遇
税制などに踏み出すのは必要だが、巨額の予算を官製の産学連携プロジェクト
に投じるのは、従来の産業振興策と代わり映えしない。

 産学連携は米国で成功した。日本は二十年遅れて動きだした。欧米から教訓
を学ぶこともできる。ただ、実るのは五−十年先だ。時間はかかるが、常識を
破る研究から新産業は生まれる。冒険心あふれる研究者と人材、ベンチャーを
励ましたい。