☆新教育の森 第四部 競争再考 大学大変 5 「県境またぐ合併」迷走/中身より「器」優先迫られ
. [he-forum 4157] 毎日新聞06/21
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『毎日新聞』2002年6月21日付
新教育の森 第四部 競争再考 大学大変 5
「県境またぐ合併」迷走/中身より「器」優先迫られ
埼玉大と群馬大は1月、統合を前提に協議に入ることで合意した。県境をま
たいだ総合大学同士の初の「対等合併」。文部科学省も国立大の大胆な再編、
統合のモデルになると注目した。
しかしその雲行きが怪しくなっている。
「教育学部を説得する自信がない」
5月15日、東京都内で開かれた両大学の学長懇談会。埼玉大の兵藤つとむ学
長の心もとない発言に群馬大関係者は困惑した。
2大学の統合話は群馬大の赤岩英夫学長が昨年12月、兵藤学長に持ちかけた。
埼玉大は教養、教育、経済、理、工の5学部、群馬大は教育、社会情報、医、
工の4学部がある。統合で埼玉大は医学部を持ち、両大学にある工学部もパワー
アップが期待できる。両大学の評議会も承認し、両学長の間では、埼玉大の教
員養成課程を前橋市の群馬大キャンパスに移す方向で話が進んでいた。
しかし根回しが不十分だった。埼玉大の教員養成課程の入学定員は410人と
群馬大(入学定員220人)より多い。文部科学省が教員養成課程の統合の目安
とする300人もクリアしている。「単独でやっていけるのに、統合の犠牲にな
る必要はない」と不満が噴出した。
埼玉県教委も教員養成課程の存続を大学に申し入れ、6月に統合の基本方針
を承認するという執行部のシナリオは崩れ去った、。
国立大の統合、再編は昨年6月遠山敦子文科相が公表した「遠山プラン」に
始まる。競争原理や民間的発想の経営を国立大に導入し、大学数も大幅削減す
るという大胆な大学改造計画である。
これに従って多くの大学が近隣の大学との統合を検討し始めた。ところが文
科省は11月になって、教員養成課程の統合を急げといい出す。これが事態を複
雑にした。
滋賀大と滋賀医大は昨年12月、統合協定に調印する予定だったが、直前に文
科省の教員養成課程統合の方針が示される。このため、滋賀大は急きょ、教員
養成課程を持つ京都教育大との協議を優先することになり。滋賀医大との統合
は振り出しに戻った。
滋賀大は「教員」の統合がまとまり次第。滋賀医大との協議を再開するが、
この席に京都工繊大も加わるという。県境をまたいだ4大学の統合である。
しかし、統合協議は2大学でもままならない。京都工繊大は単独で生き残り
を探る姿勢も捨てていない。4大学の見合いは始まる前から迷走気味である。
これまでにまとまった統合は、いずれも総合大が小規模な単科大を吸収合併
するか、単科大が一緒になるパターンである。しかし、教員養成課程に手をつ
けていない場合は、さらにどこかと統合しなければならない。大学の法人化も
04年度に迫っている。
「国際的な実績のある環境教育をさらに充実しようと思って就任したのに、
統合と法人化の準備に忙殺され、それどころでない。個性ある大学をどう実現
するか、学問の自由を守れるのか、という本来あるべき議論ができていない」
環境経済学者として知られる滋賀大の宮本憲一学長は嘆く。
しかし、文科省の工藤智規高等教育局長は「予算は限られているから、統合
しない大学には金を出さない」と強硬な姿勢を崩さない。
小瓶の酒を徳用パックに移す。中身の熟成より「器」の改革を優先させ、大
学の迷走が続く。
文 横井信洋、中尾卓司
=つづく
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