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独行法反対首都圏ネットワーク

[論あいち・談あいち]  (談)名古屋工業大学長・柳田博明さん
 .[he-forum 4147] 朝日新聞愛知版06/15 
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『朝日新聞』愛知版  2002年6月15日付

[論あいち・談あいち] 

(談)名古屋工業大学長・柳田博明さん
 
大学改革次々に先手
 未知に挑む人材育てる

 いま、名古屋工業大学(名古屋市昭和区)が熱い。民間人の学長特別補佐起
用、これまでの「学科」の概念をうち破る横断的な教官組織の構想など−−。
就任2年目の柳田博明学長のもとで、次々にざん新な改革を打ち出し、実行に
移している。国が進める再編統合、独立行政法人化などの「大学改革」の一歩
も二歩も先を行き、全国の大学や産業界などから注目を集めている。名工大が
目指す「新しい大学のかたち」とは何か。柳田学長に聞いた。

意思決定を迅速化

 −−すでに、どんな改革を実行していますか。

 「約270人の教授会でなんでも決めていたのを改め、約40人の代議員会
を作り、意思決定を迅速化した。民間の学長特別補佐には、月2回の運営会議
に参加してもらっている。大学の組織を大きく変えようとしている中で、大変
貴重な意見をいただいています」

 −−新しい教官集団「領域」をつくる学科・専攻の大改革を来年度から実行
しますね。

 「産業界から『名工大の卒業生は、まじめによく働くが、展開力がない。変
わった分野に直面すると、わからなくなって、意欲もなくしてまう』と言われ
た。視野が狭いからです。学科が自治権を持ちすぎ、人事も指導内容もその価
値観で決めている。学科間の話し合いもないから、学際的、国際的なテーマに
対応できない。教官がそうだから、学生もそうなる。この縦割りをなんとか崩
せないかと考えた。教官は全員『領域』に所属し、学科や専攻に教えに出るか
たちにする」

世界の工業に責任

 −−名工大は「世界のものづくりへの知的責任」を負っているとおっしゃっ
ています。

 「この地方はいま、日本で最も産業が集積している。家族経営が徹底してい
るから技術が継承され、大きくなることが最大の関心事ではないのでバブル崩
壊の傷も比較的浅い。欧州の携帯電話会社は、ある種の電子部品の製造は、こ
の地方の会社に任せたと言っているほどだ。そんな地域にある工科大学には、
世界の工業を担う責任がある」

 −−改革のアイデアが次々と出てくる秘密はなんですか。

 「一つは危機感です。日本は大量生産型の産業形態を変えないと必ずまた負
ける。変革には、未知の分野に挑み、予期しない展開に柔軟に対応できる人材
が必要だ。少子化で社会を担う人数が少なくなると、今以上に優秀な人材を増
やさないと社会が成り立たない。大学改革をすぐにでも始めないと間に合わな
い。一見まったく違うもの、対立するものの境目におもしろいものがあるとい
う発想が、私の研究の根底にある。人も同じで、専門の違う人同士の出会いの
なかで、新しいものがうまれる。未知なもの異質なものと出合える大学をつく
りたい」

成果主義には疑問

 −−国立大学の独立行政法人化をどう考えますか。

 「大学の裁量が広がるのはよいことだが、短期的な成果主義だけで予算配分
を決めるやり方には疑問もある。教授、助教授ら上の人には、どんどん競争し
てもらいたい。しかし、学問には採算性が悪くてもやらなければならない分野
が必ずある。若い研究者を育てるには時間と金も必要だ。そのための予算を守
るのが大学の自治だと思う」

 やなぎだ・ひろあき(67) 長野県生まれ。東大教授を退官後、ファイン
セラミックスセンター専務理事・試験研究所長に就任。名工大についての発言
などをきっかけに学長選への立候補を要請され、00年11月から現職。専門
は機能性セラミック材料工学。