☆新教育の森 第四部 競争再考 大学大変 4
. [he-forum 4145] 毎日新聞06/20
--------------------------------------------------------------
『毎日新聞』2002年6月20日付
新教育の森 第四部 競争再考 大学大変 4
難航する教育学部再編/「実情無視」地方は猛反発
子供が減ったから先生も少なくていい。文部科学省は国立大教育学部を大幅
削減する方針を打ち出し、各大学に教員養成課程を近隣の大学と統合するよう
迫っている。
しかし、各都道府県にある教員養成課程を整理すれば、地元に先生を育てる
専門学部のない「空白県」が出る。反発は必死である。
「3大学の中では、山形大が最も優れている。なぜ、譲らなければならない
のか」
山形県の高橋和雄知事は12日、要望に訪れた小中高校の校長らを前に厳しい
口調で山形大の対応を非難した。
山形大は5月に突然、教員養成課程の存続断念を表明した。隣県の宮城教育、
福島の2大学との協議で、宮城教育か、山形のどちらかに教員養成課程を統合
することになっていた。しかし、山形の教員養成課程放棄は、地元の関係者に
も寝耳に水だった。
「空白県」になれば、地元で教員を養成できず、現職教員の研修もできない。
今春から全国に先駆けて小学校の全学年で少人数学級を実現し、「教育立県」
を標榜する山形県にとって、許しがたい決定である。
県内の関係者から撤回を求める大合唱がわき起こった。統合を求める文科省
と地元との板ばさみ。山形大は動揺し、19日の評議会でも結論を先送りした。
北陸3県では、金沢、富山、福井の3大学で非公式協議が始まっている。各大
学の教員養成課程の定員は100人。一緒になれば、文科省が統合の目安とする
300人の規模になる。
しかし、福井大の児嶋真平学長は「教員養成は全体に手放さない」と一歩も
引かない構えだ。
国立大の教員養成課程の中には、よそと似たりよったりのカリキュラムで、
地元の課題に対応できる教員を育てていると思えない例もある。だが、福井大
教育地域科学部には地域に密着して十分な実践を積んできた自負がある。
福井市教委と共同で始めた不登校児の支援事業は9年目を迎えた。地元の教
育委員会の要請を受け、教員を目指す学生全員が「ライフパートナー」として、
不登校児らの家庭や学校を訪ねる。1対1で子供と向き合う態度を学ぶ大学の科
目で、最低でも3ヶ月間に12回の訪問を繰り返す。年齢の近い学生に子供たち
が心を開き元気を取り戻すケースも多く、派遣先は現在では3市3町に広がった。
学生が大学に招いた子供たちと一緒に歴史探検や人形劇、料理づくりなどを
学ぶ講座もあり、活動日の土曜日のキャンパスは子供たちの歓声でにぎわう。
現職教員を再教育する大学院では、大学教員が「院生」のために小中学校に出
向いて授業するコースもつくった。
「統合されたら、地域の実情に合わせた教育体系は維持できない。統合の無
理強いは、各地方の教育水準を下げる愚策だ」と児嶋学長は憤る。
国立大の教育学部の多くは戦後、旧制師範学校から昇格した。地元には有力
なOBも多く、「母校の消滅」には抵抗が大きい。しかし、国立大の教員養成課
程の01年度の新卒者で、教員(臨時採用を含む)になった人は4割に満たない。
文科省は「再編・統合は社会への公約。統合計画をまとめなければ、こちらで
相手を決めてでも統合させる」と強硬だ。
北陸3大学では、金沢大、富山大も「教員養成課程は必要」としており、統
合協議は進んでいない。
これまでに成立した「婚約」は、鳥取大が教員養成課程を島根大に譲ること
で合意した一例だけである。
文と写真 中尾卓司
=つづく
ご意見、情報を100-8051(住所不要)毎日新聞教育取材班にお寄せください。
ファクス03・3212・0005、メールアドレスはkyouiku@mbx.mainichi.co.jpです。