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新教育の森 第四部 競争再考 大学大変 3     地方大“冷遇”に危機感/生き残りかけ、地域貢献
 .  [he-forum 4137] 毎日新聞06/19
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『毎日新聞』2002年6月19日付

新教育の森 第四部 競争再考 大学大変 3

地方大“冷遇”に危機感/生き残りかけ、地域貢献


 国立大学協会は4月の臨時総会で法人化を受け入れた。しかし、今も不満は
くすぶる。特に財政基盤の弱い地方の大学や小規模大学に危機感が強い。

 「いま競争原理を導入したら、大都市部の大学との格差が拡大し、地方大学
は滅びかねない」

 12日、東京都内で開かれた定期総会で、鹿児島大の田中弘允学長は主張した。

 法人化後は、6年ごとに定めた目標の達成度が不充分と評価されれば、国か
らの運営交付金を減らされる。しかし、地方の大学は大都市部の大規模大に比
べ、施設整備でも、研究費の配分でも冷遇されてきた。

 00年度の鹿児島大の学生1人当たりの支出額は327万円で、東京大(718万円)
の半分以下。各研究者に交付される科学研究費補助金の合計額(02年度)は、
東大の27分の1に過ぎない。

 スタート地点が違うのに同じ競争を強いられてはたまらない。他大学の学長
からも「もっと地方大学の視点を尊重すべきだ」と、大都市部の大学の学長を
中心とした執行部批判が相次いだ。

 しかし、遺伝子やナノテクノロジーなどの最先端の研究で、地方の大学が海
外や大都市の大学に伍していくのは難しい。どうしたら存在意義をアピールで
きるか。一つの答えが地域社会への貢献である。

 鹿児島大は昨春、鹿児島県内の米生産組合と共同で、「環境共生プロジェク
ト」を始めた。山間部の約40アールの水田に約160羽のアイガモを放し、研究
者自身が田に入って無農薬の米作技術の確立を目指す。

 アイガモは騒々しく水田を駆け回り、害虫、雑草を食べる。水と土、空気が
かき混ぜられるため、根がよく発育し、土中のアンモニアも養分に変わる。ふ
んも肥料になる。

 福岡県の農家から全国に広がった農法だが、まだ採用する農家は少ない。プ
ロジェクトはこれに科学的な裏付けを与え、学校給食や産直など、有機米の流
通ルートも開拓する計画だ。

 「大学にこもっていた研究者が現実の地域の課題に取り組み、政策提言まで
する。地域社会の中での大学の役割を示したい」。プロジェクトの先頭に立つ
萬田正治副学長は、意気込む。

 京都工芸繊維大の地域共同研究センターは、民間や自治体との技術交流を目
的に設立された。地元の民間研究者の提案をもとに、カニの甲羅を素材にした
樹脂から接着剤を開発した。天然素材なので人体への影響はほとんどない。地
元産の杉の間伐材をこの接着剤で張り合わせ、「地球にやさしい家具」の製品
化を進めている。

 「私は大学の“営業部長”。地場産業と接点を広げ、大学から次々とベン
チャー企業を生み出したい」と木村良晴・センター長は語る。

 しかし、こうした取り組みが始まったのは、大学への風当たりの強まった90
年代以降である。

 「多くの国立大は戦後、専門学校から昇格したことに舞い上がり、研究中心
のミニ東大を目指した。地元に貢献してきた専門学校の伝統を忘れてしまった」

 日本私立大学協会の大沼淳会長(文化女子大学長)は手厳しい。

 鹿児島大など28大学は昨秋、地域貢献を考える「国立大学地域交流ネットワー
ク」を結成した。今夏には成功例を紹介するシンポジウムも予定している。

 大学がようやく自覚し始めた自らの「個性」。大学の未来は、それを社会が
どう評価するかにかかっている。

文 太田浩一郎、中尾卓司/写真 太田浩一郎
=つづく

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