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教育の森 第四部 競争再考 大学大変 2   「改革派」学長に教員反発/将来像には関心低く
 .[he-forum 4125] 毎日新聞06/18 
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『毎日新聞』2002年6月18日付

新教育の森 第四部 競争再考 大学大変 2

「改革派」学長に教員反発/将来像には関心低く


 国立大学ではものごとが「民主的」に決められる。細かな事案も各学部の教
授会に諮り、教授会は学科や研究室に下ろす。学長といえども学部、学科の意
向を無視できない。

 新潟大学では昨年12月の学長選で、2期目を目指した荒川正昭氏が、理学部
長だった長谷川彰・現学長に敗れた。

 荒川氏は在任中、学部や大学院に所属していた教員を人文社会科学、自然科
学、医歯学の三つの「学系」に所属する形に改めた。学系ごとの教員の定員や
配置は、学長や学部長でつくる委員会が決める。

 九つの学部の教授会が事実上決定していた教員人事を集中管理し、強化した
い分野に教員を重点的に配置する。文部科学省が推進する「個性輝く大学」づ
くりを先取りした大胆な改革だった。

 「新潟大はすべての分野で一流品をそろえた『百貨店』にはなれない。だか
ら、法人化を前に『銀座の専門店』を目指す体制をつくっておきたかった」と
荒川氏は語る。

 しかし、脳や腎臓の研究重視を強調したこともあって、多くの教員は、荒川
氏の出身学部である医学部の優遇策と受け取った。

 「トップダウンでどんどん改革が進み、自分たちの研究ができなくなると不
安が高まった」と新潟大教職員組合の谷本盛光委員長(理学部教授)は話す。

 学長選では、対抗馬の長谷川氏を推薦するメールに書き込まれる賛同人の名
が日ごとに増え、投票率は過去最高の84%に達した。荒川氏は医学部、歯学部
以外の票を集められずわずかの差で落選した。

 大阪教育大では、5月の学長選で現役の中谷彪氏が落選した。候補5人中4位。
決選投票にも残れない惨敗だった。

 昨年6月の付属池田小児童殺傷事件で、大学職員を派遣するのが遅れるなど、
不手際が目立った。不調に終わったものの、独断で他大学との統合、再編交渉
を進めたことも不興を買った。

 「統合をしり込みするムードがあり、改革論議がなぜ行われているか理解し
てもらえなかった」と中谷氏は唇をかむ。

 教員「自治」の“虎の尾”を踏んだ学長の敗戦。しかし、教員たちは通常、
研究と教育中心の生活を送る。大学の将来像をどうするかといった問題への関
心は高くない。

 岩手大では4月、法人化に伴う改革に積極的な工学部長(当時)と慎重派と
目される人文社会科学部長が争い、工学部長が新学長に選ばれた。

 法人化への準備作業を担う学長選ぶ重要な選挙だけに、投票前には候補者に
よる初の公開討論会も開かれた。しかし、当日集まったのはわずか48人。約
250席の会場は閑散としていた。キャンパスでは桜が満開で、教官の多くは学
生らと花見に出かけたという。

 「討論会が花見に負けた。法人化への関心はその程度でしかない」

 討論会を主催した岩手大教職員組合の小林英信委員長(人文社会科学部教授)
は苦笑する。

 改革論議には参加せず、既得権が脅かされると感じた時だけ反発する。国に
守られた大学は、こんな「有権者」を育ててきた。

 しかし、国立大は04年度にも法人化され、学長が教育、研究と経営の最高責
任者として大きな権限を握る。「自立」を目指す大学に、各部局のわがままを
許す余裕はない。

文 佐柳里奈、中尾卓司/写真 内林克行
=つづく

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