☆新教育の森 大学大変 1 突然の国立「非公務員化」/文部省の背信に無力感
. [he-forum 4120] 毎日新聞06/17
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『毎日新聞』2002年6月17日付
新教育の森 大学大変 1
突然の国立「非公務員化」/文部省の背信に無力感
国立大学が改革の大波に翻弄されている。国の組織から切り離される「法人
化」。少子化に伴う他大学との統合、再編―――。狙いは競争原理の導入によ
る研究、教育の活性化と運営の効率化である。しかし、教職員は公務員の身分
を奪われ、評価の低い大学は国からの交付金を減らされる。国の庇護の下、横
並びに慣れてきた大学がどこまで変われるのか。戸惑う「学問の府」の現状を
報告する。
「公務員の身分の奪われたら、民営化にも抵抗しきれなくなる」「せめて一
般職員は公務員のまま残すべきだ」
4月19日、東京都内で開かれた国立大学協会の臨時総会は、出席した国立大
学の学長たちから次々に不満が噴出し、紛糾した。
国立大学の法人化は99年、それまで反対していた旧文部省が容認に転じ、既
定路線となった。大学の自治を確保するため、通常の独立行政法人とは別の形
の法人とし、教職員の身分は公務員のままとすることが条件だった。
ところが、今年2月、文部科学省は突然、教職員の身分を「非公務員型」と
する案を示し、それが翌月、法人化を検討してきた同省の調査検討会議の最終
報告にそのまま盛り込まれた。
臨時総会では「約束が違う」と憤る意見が続出した。しかし、執行部が「民
営化を避けるためのぎりぎりの妥協だ」と説得し、最後は挙手による賛成多数
で、法人化が受け入れられた。
国立大が自ら「非国立」に向けて歩み出すことを決めた日。会場には「今さ
ら抵抗しても仕方ない」という無力感が漂った。
文科省の検討会議の主査(座長)は、国大協会長の長尾真京都大学長。副会
長の名古屋大の松尾稔学長、一橋大の石弘光学長もメンバーだった。なぜ、非
公務員化を阻止できなかったのか。
「2月の会議の2,3日前にはじめて知らされた。それまでそんな話は一切な
く、公務員の枠組みが守られることは、まったく疑っていなかった」と松尾氏
は言う。しかし、文科省は約2年前から、実務レベルでひそかに非公務員化を
検討していた。
法人化後の職員は、各大学法人と雇用契約を結ぶ。建前上、国の人事権は及
ばないが、各大学が要請すれば、地方自治体への出向と同じ形で国の職員を派
遣できる。これは身分が公務員でも非公務員でも変わりはない。
「それなら非公務員化を受け入れ、民営化論への防波堤にしたほうがいい」
と担当職員は話す。
民営化を阻止し、自らの影響力を残すために教職員の身分を差し出す。一心
同体と思っていた文科省の“裏切り”である。
2月の検討会議で石氏や松尾氏は「(一般職員の反発で)法人化そのものが
吹き飛びかねない」「大学間の人事交流が滞り、士気が低下する」と反対した
が、民間メンバーは「教職員組合に向けた発言」と冷ややかだった。
教職員が公務員でなくなることで、大学は外国人の優秀な研究者を学長や学
部長に登用し、特定の分野を強化することが可能になる。兼業や能力給の導入
なども容易になり、研究、教育のレベルアップも期待できるという。
しかし、NTTの子会社の社長を経験した池上徹彦・会津大学長は「倒産の恐
怖の中で決断した経験がない」と、新法人のかじをとる国立大学長の経営手腕
を疑問視する。
「しばらくは努力を見守るが、いうことを聞かなければ、またガツンとやれ
ばいい」
自民党関係者は民営化をちらつかせながら、改革を渋る大学をけん制する。
国のくびきを離れた自由競争の中で、国立大学は生き残れるのか。未来の大
学の形を決める国立大学法案(仮称)は、来年の通常国会に提出される。
文 横井信洋/写真 五味宏基
=つづく
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