☆国立大に経営プロが必要だ
. [he-forum 4095] 週刊京都経済06/10
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『週刊京都経済』2002年6月10日付
月曜インタビュー「焦点を聞く」
国立大に経営プロが必要だ
京都大学事務局長の本間政雄さん
江戸風俗の研究など独創的な研究者が多いことで知られる国際日本文化研究
センター(日文研、京都市西京区、山折哲雄所長)が、「研究機構」に再編・
統合され、法人化する方針が固まった。文部科学省は今年1月、「大学(国立
大学)の構造改革の方針」を発表。独立行政法人化への議論が進んでいる。国
立大学の研究・教育体制はどうあるべきなのか。どんな戦略であるべき姿を実
現するのか。京都大事務方トップの本間政雄さんに聞いた。
■京都大学の現状をどうみていますか。
「京都大学は『大学』という名前がついた巨大な組織なんです。学部だけで
も10学部ある。その上に大学院がある。また、大学院クラスの独立研究科のほ
か、研究所や研究センター、附属病院まである組織です」。
「これだけの組織に人・物・金・スペースという資源が使われている。その
資源が、各部局ごとの裁量で使われている。どの部局もいったん手にした予算
を手放したくはないのが心情です。資源のどれをとっても、流動性が低いとい
うのが現状だと思います」。
「大学の先生からすると、専門性の高い研究やアカデミズムとして取り組ま
なければいけない研究分野もあると思います。十把一絡げにどんな研究も削減
すべきと言っているのではない。基礎研究ももちろん大事であることはよく理
解している。ただ、限られた土地とヒトとカネでなんでもかんでもやると言う
わけにはいかないでしょう」。
「例えば、生命科学や情報学が時代の要請で研究費を増やしヒトを増やし、
建物を建てなくてはいけないときもある。そんな時、吉田(京都大学の本部キャ
ンパス)でなくてもできるのであれば、安い土地を使ってやることも可能だと
いうことを言いたいのです」。
「各部局で使われる予算は、ある種の既得権益になっていると思います。部
局の職員も人事制度の問題からプロパーでやっていると限界がある。積極的に
大学全体の視野を持って動く人材が少ないのも問題です」。
■人事制度の問題とは具体的にどのようなことですか。
「大学職員は、大学ごとに雇っているプロパーの人間と、文部科学省から来
るいわゆるキャリア組がいます。プロパーだと、昇進に限界があるため、構造
的に職員の上昇志向をそぐことになる。逆にいうと、問題なく勤め上げればい
いという風潮になる」。
「キャリア組は、全国の大学に行くため、経験が豊富で視野は広い。しかし、
一般的に文部科学省の方向を向いているし、2〜3年で異動になるため、大学の
ことをよく知らないうちに次の大学に行くことになる」。
「このような構造のもとで、大学資源の流動性が低くなっている。誰も大学
全体のことを考えないという構造です。京大では3000人教官がいますが、この
うち10%を大学全体の視野から新しい研究分野の若手教官に割り当てることが
できれば、それだけでも独立研究科を作れるんです」。
■どのようにしたら問題を解決できると考えていますか。
「大学の職員を育成する専門教育機関が必要だと思っています。アメリカの
大学経営を見る機会がありましたが、教官出身の筆頭副学長と大学管理のプロ
といえる専門事務職がイニシアティブを取っている。その専門事務職の人間は、
大学の事務幹部を養成する大学院で学び、各地の大学経営の現場に携わってい
た人です」。
「そもそも、大学は高度な研究機関です。高度な研究を行うために、効率よ
く資源を使わなくてはいけない。そのためにも、大学事務を専門にした大学経
営のプロが必要と思います」。
「大学は研究機関としてだけでなく教育機関としても機能している。上昇志
向のある職員がいれば、教育サービスはどうあるべきかということも必然的に
考えるはずです」。
■学生の就職支援を行うキャリアサポートセンターを新設しました。
「これまで京大は就職支援を全くしなかったわけではないんです。各学部の
部局レベルで行ってきた。それは、大学全体として必要という意識がなかった
からです。というのも、医学部や工学部、法学部といった専門性の高い学部ば
かりで就職する際にも必要性がなかったからです」。
「しかし、京大では総合人間学部という学際的な学部を作った。ここの学生
は、いうなればどこの就職先にも行ける。ゆえに、どこにも行けなくなるとい
うことになっていた。さらに、女子学生に対する就職差別といった問題も深刻
化した。大学全体として就職支援のニーズが出てきたんです」。
「キャリアサポートセンターの新設でも、約1年間かけて各部局を説得し、
ようやくできた。国立大は高度な研究機関であると同時に、教育機関でもあり
ます。学生に対する教育サービスを充実させることも大きな課題です。この春
には、留学生向けのサロンも新設した。これは、長尾真・京大総長がポツンと
言ったことを受けて作ったもの。独立行政法人化を契機にいったん人事の体制
をリセットする。その上で、上昇志向のある人材をどんどん登用して、総長の
イニシアティブを中心に事務局長が裏方で実現をサポートする体制を作らなく
てはいけないと思いますよ」。
ほんま・まさお
1948年愛知県生まれ。71年名古屋大学法学部卒業後、文部省(現文部科学省)
へ入省。社会教育局、学術国際局、大臣官房審議官などをへて、97年から2年
間、横浜国立大学事務局長に。京都大学へは、2001年1月に就任した。