☆[技術革新]「大きな飛躍へ大学は先頭に立て」
. [he-forum 4077] 読売新聞社説06/10
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『読売新聞』社説 2002年6月10日付
[技術革新]「大きな飛躍へ大学は先頭に立て」
「困った時の大学頼み。何でも問題が持ち込まれ、叱咤(しった)される」。
そんな声を最近、大学関係者から聞くことが多い。
社会の期待がそれだけ大きいことの反映だ。今こそ大学は、変身し、飛躍す
る好機といえる。
文部科学省がまとめた今年の科学技術白書は、特集で「イノベーション」
(技術革新)を取り上げ、大学の役割の大きさを指摘している。
日本がかつて高度経済成長を謳歌(おうか)した時代、造船や家電製品、半
導体製造などの分野で強い国際競争力を発揮した。
これらの分野で行われた技術革新の内容は、製造工程の改良や革新が中心で、
いずれ他国に追われる運命にあった。
だが、技術革新といっても多様だ。航空機やコンピューターの登場のように
文明自体を変えるような大きな革新や、遺伝子組み換え技術に始まるバイオテ
クノロジーのように、影響力が大きくより根源的な革新もある。
前者を「改良型」の革新とすれば、後者は「原理型」の革新とも呼べる。
改良型では開発研究に熱心な企業が独力で競争に勝てたが、原理型革新は独
創的な基礎研究なしには達成できない。大学の「知」が期待されるゆえんだ。
原理型革新こそが、世界的な大競争時代を勝ち抜く国力の源泉であることを
意識した先進諸国は、産学官連携の充実と知的財産権の強化を車の両輪に、大
学などの活性化を図っている。
日本の現状はどうか。白書は、研究者数や投下資金はかなりの水準にあるが、
重要論文や基本的特許の比率で米国などに劣ると分析している。知の生産性向
上が、課題ということだ。
折から国内で、様々な動きが同時並行で進んでいる。政府の総合科学技術会
議や文科省などが産学官連携の強化方策を次々と打ち出し、知的財産権の国家
戦略策定も大詰めを迎えている。
これらの重要性はかねて指摘されながら、日本では大学の硬直性、閉鎖性が
阻害要因のひとつになっていた。
国の研究予算の最大の投入先である国立大学が、二〇〇四年度の独立法人化
に向けて準備の最終段階に入っている。
各大学の裁量権が大幅に拡大され、運営方針も自ら決められる。優秀な人材
を高額で採用することも可能になり、民間などからの資金獲得も努力次第だ。
環境は整いつつある。大学にとって技術革新の主役となり、社会貢献を果た
す絶好の機会だ。
こうした時代の潮流に鈍感では、大学の盛衰にもかかわることを、大学の研
究者は改めて自覚すべきだ。