☆未完の改革
. [he-forum 4074] 朝日新聞夕刊06/03
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『朝日新聞』2002年6月3日付夕刊
窓 論説委員室から
未完の改革
いま生きていたらどう言うだろう、と思わせる。永井道雄さんはそんな人だ。
東工大教授から朝日新聞論説委員、さらには文部大臣になり一昨年亡くなっ
た。
大学紛争が盛んだった60年代末の大学論を収めた『未完の大学改革』(中央
公論新社)が先ごろ、出版された。
永井さんは書いている。
日本の大学は、学閥、終身雇用制、年功序列制で「封建時代の村にも似た息
苦しさ」がある。高度工業化社会の大学で古典的な教授会自治だけを唱えるの
は「あまりにも自己欺瞞的」で「利益擁護の口実」に過ぎない・・・。
永井さんの処方箋は、国立大を政府から切り離すことだった。公務員制度か
ら独立し、業績重視の昇進制や給与体系をつくる。人事異動も活発にする。
一見すると、文科省の調査検討会議が今春、発表した国立大学法人化案にも
通じる。
だが、法人化案は大学をそれぞれ法人にするが、文科省が予算配分を握り続
ける。それに対して、永井案は大学行政も合わせて文部省からはがし、私大も
含めた協同体「大学公社」をつくる。
財務と事務を握られた自治などあり得ない、という主張は当時、現実離れし
ているとしてほとんど無視され、理想は夢のまま終わった。
「予言めいたことはいいたくないが、このまま進めば日本の大学も文化も衰
退する」と永井さんは警告していた。
それから30年余り。大学はどこに行こうとしているのだろうか。
〈氏岡真弓〉