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タブー挑戦の小泉内閣の意気やよし  頼もしい限りの改革意欲
 .   [he-forum 4046] 産経新聞正論05/31
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『産経新聞』正論  2002年5月31日付

タブー挑戦の小泉内閣の意気やよし
頼もしい限りの改革意欲


 小泉内閣が発足して一カ月が過ぎた。総裁選の時に小泉氏が掲げていた構造
改革路線に変化は生じただろうか。

 内閣が発足した途端にこの種の勇ましい公約は後退するのが普通だが、今回
はその兆しが見えない。それどころか、支持率の高さを追い風に、郵貯の民営
化はもとより、特定道路財源の一般財源化、国立大学の民営化など、一気に構
造改革に突き進もうという意欲が感じられて頼もしい。

 構造改革路線の具体化という観点から見て第一に注目すべきは、特定道路財
源の一般財源化への動きである。これを参議院選挙前に自民党の公約の中に組
み入れるという。これには予想通り、自民党内の道路族から猛烈な反対論が噴
出した。ある有力議員は「このような問題を十分議論をしないで決めるのは独
善であり、ファッショだ」と小泉氏の手法を痛烈に批判したが、このような反
対論はナンセンスである。

 なぜなら、自民党は小泉氏が「聖域なき構造改革」を訴えていることを承知
で総裁に選出したばかりだからである。民主的な手続きを経て選出されたリー
ダーが公約に沿って政策展開をするのは当然のことであって、独善でもファッ
ショでもない。逆に、公約を後退させて、利害調整に動けば、これまでと同じ
愚を繰り返すだけである。

「国立大学民営化」にも言及

 道路財源の固定化による弊害についてはかなり前から指摘されてきた。自動
車関連の税収が増大するとともに、道路財源が自動的に膨らみ、不要不急の道
路建設への投資が増えてきたからである。しかし、道路族の反撃に恐れをなし
て、道路財源に手をつけることはこれまでタブーとされてきた。故小渕首相の
もとに設けられた経済戦略会議においても、道路財源を含む特別会計制度の撤
廃が必要だという議論が出たが、この問題には立ち入らないようにという「暗
黙の圧力」があったと記憶している。このため、経済戦略会議の提言はこの問
題に立ち入れなかった。

 このように、特別会計制度の廃止を正面切って主張するのは、かなりの政治
リスクを伴うと考えられてきたのだが、それにも関わらず、小泉首相と塩川財
務大臣がこの問題を果敢に取り上げ、解決に一定の道筋をつけようとしている
ことは高く評価して良い。

 もう一つの注目すべき動きは、小泉首相が「国立大学の民営化」という言葉
を使ったことである。国立大学の病状はかなり重症だと言わざるを得ないが、
文部科学省はとりあえずの逃げ道として独立行政法人化を進める考えを明らか
にしている。しかし、教官側からは「国家公務員の身分を保障してくれるのな
ら受けてもよい」という条件が出され、文部科学省もこれを受け入れた。しか
し、これでは大学改革は間違いなく有名無実化するだろう。

大学の生産性向上を視野に

 その理由は、終身雇用保障の見返りとしての、国家公務員法の縛りが想像以
上にきついからである。たとえば、企業研究に携わる教官が民間企業の社外取
締役に就任してはならないという規制はその一例である。これでは知的活動に
も制約が付かざるを得ない。従って、国立大学の徹底した民営化により教官の
身分を国家公務員から解放することが不可欠なのである。さらに、国立と私学
の区別を撤廃し、大学の設置形態に関わりなく、優れた研究プロジェクトを立
ち上げ、優れた教育実績を上げた大学には、予算が重点的に配分されるような
公正は評価システムと効率的な予算配分の仕組みをつくることが重要だ。

 世界で最高水準にあるとされるアメリカの大学には国立大学は一つもない。
そして、ナショナル・サイエンス・ファンデーションのような第三者評価機関
が大学ごとに、国家予算を競争的な方法で配分している。大学の生産性が低迷
する中で、小泉首相が総理大臣としてはおそらくはじめて、「国立大学の民営
化」に言及したことは朗報である。ぜひ、この線で話を進めて欲しいと考える
のは筆者だけではないと思う。

 郵政事業の民営化は小泉首相の長年の主張である。ビッグバンを迎えた日本
の金融が国際競争力を身につけるには、国に手厚く保護された郵貯を民営化す
ることが不可欠である。特別会計制度の全廃、国立大学の民営化、郵政事業の
民営化。この三大改革が実のある形で実行できれば、小泉改革内閣の業績は長
く歴史に刻まれることになるだろう。改革の後退が起こらないよう、国民の一
人として注視していきたい。