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☆[理系白書]第4部 「知」は力なり/5 トップ30に踊る大学
 
.[he-forum 4015] 毎日新聞05/27
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『毎日新聞』2002年5月27日付

[理系白書]第4部 「知」は力なり/5 トップ30に踊る大学


 ◇「世界水準の研究」実現は…

 「オリンピックのように参加することに意義があるのではなく、金メダルを
何としても取りたい」

 金沢市東部に広がる金沢大の角間(かくま)キャンパス。大学改革を担当す
る中村信一副学長は力を込める。「金メダル」とは、全国の大学を対象に、優
れた大学院を10分野で選び、予算を重点配分する文部科学省の「トップ30
(正式名は21世紀COEプログラム)」に滑り込むことだ。

 同大は8学部と大学院(7研究科)からなる総合大学。北陸有数の大学だが、
全国的な知名度は低い。「キンダイと言えば近畿大学、カナザワダイと言えば
神奈川大学と間違われる」。事務局員は苦笑する。

 トップ30は、一地方大学が「全国区」に飛躍するチャンスだ。「本格的な
研究大学をめざすわが大学の将来像にとって、いい材料をそろえたい」と中村
副学長。

   ■   ■

 他大学も同様だ。山梨大は、「水晶加工」の地の伝統を生かすことを考える。
同大は、人工水晶の開発で知られる。この発展でできた工学部付属の「クリス
タル科学研究センター」を中心に、新しい材料科学を構想する。

 鳥取砂丘を控え、全国唯一の「乾燥地研究センター」を持つ鳥取大は、砂漠
化防止や緑化の研究を拡大し、中国やアフリカにも研究拠点を作る計画を練る。
富山医科薬科大は「富山の薬売り」。同大和漢薬研究所とアジア諸国の国際共
同研究を推進する戦略を持つ。ゲノム創薬に東洋医学を取り入れるアイデアも
ある。「大学統合などの会議を毎日のように開いているが、自分の大学の特色
を出してトップ30に入れば、将来が明るくなる」と服部征雄・和漢薬研究所
長は説明する。

 独自色をアピールし、外から金を引っ張ってくる。04年度にも導入される
国立大の独立法人化への予行演習が、早くも始まっている。

   ■   ■

 もっともトップ30は、金額的には大規模な「事業」ではない。今年度分配
されるのは計182億円で、東大の科研費(科学研究費補助金)の年間約20
3億円(00年度)より少ない。果たして、この額で文科省が目標に掲げる
「世界最高水準の研究大学」を育てられるのかという疑問もある。これに対し、
東京工業大の下河辺(しもこうべ)明・副学長は「額は大したことがなくても、
選ばれたかどうかが世間の注目を集める」と影響力の大きさを予想する。少子
化で受験者が減る中、学生を引きつける魅力にもなる。

 東京農工大は3月、15人の学生アルバイトを雇い、約20日間かけて引用
文献のデータベースを検索した。全学421人の教官のうち、希望した9割に
ついて、一人一人の論文が他の論文にどれだけ引用されたか、回数を調べあげ
た。トップ30対策だ。データべースを日常的に利用するため、今年度は数千
万円を投資し、データベースを提供するISI社(本社、米フィラデルフィア)
と契約する。

 トップ30の選考基準はまだ未公表だが、応募教官の論文の被引用件数が評
価項目に入るといわれ、各大学の関心は高い。ISI社の東京事務所は「5年
前は2大学だったが、昨年から急に増え始め、現在約20大学が契約している」
という。

   ■   ■

 「ぬるま湯」とも言われる大学の中に、競争意識が芽生えたのは確かだ。一
方、問題点も見え始めた。トップ30は、大学としての戦略に基づき、学長が
申請する「トップダウン方式」を採用する。自由な研究風土が特徴の大学に
「管理」の枠がはまる。それだけではない。文科省の一声で始まったトップ3
0は、文科省を頂点とする「トップダウン」につながりかねない。

 競争による活性化を通じて実際に大学のレベルアップに貢献するのか、それ
とも、文科省に踊らされた大学の「メダル競争」に終わるのか。トップ30の
明確な方向性はまだ見えてこない。【青野由利、元村有希子】

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 ◇21世紀COE(センター・オブ・エクセレンス)プログラム◇

 01年6月に「大学の構造改革の方針」(遠山プラン)の中で提案され、当
初「トップ30」と命名された。大学院レベルが対象で、10分野は生命科学
▽医学系▽化学・材料科学▽数学・物理学・地球科学▽情報・電気・電子▽機
械・土木・建築・その他工学▽人文科学▽社会科学▽学際・複合▽新領域・そ
の他。1分野10〜30チームに年間1億〜5億円が5年間、重点配分される。
今年度の対象は5分野。地方大学より、研究実績のある有名国立大学に有利と
いわれる。