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☆文科省のシナリオか〜山大教員養成断念
 
. [he-forum 4012] 山形新聞05/27
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『山形新聞』2002年5月27日付

文科省のシナリオか〜山大教員養成断念


 「(再編の受け皿になる)『担当校』を目指すには、状況が極めて厳しい」。
山形大教育学部は先の教授会で、新学部に移行する石島庸男学部長の提案を承
認、南東北3県の教員計画養成機能は、宮城教育大に集約されることがほぼ確
定的となった。教育学部はこれまで、幾多の有能な人材を輩出し、「教育県山
形」を根底から支えてきた。県師範学校からの長い歴史にピリオドを打つ苦渋
の決断。しかし、背後にはどうしても、文部科学省が描いたシナリオが見え隠
れする。

 宮城教育、山形、福島の近隣3大学間で、教員養成機能の再編・統合を話し
合う連絡会議が3月にスタートし、当初は3人の学長がそれぞれ担当校への強い
意欲を口にした。

 仙道富士郎・山形大学長「教育県として伝統を有し、全国初の少人数学級を
宣言した本県の未来に対し、教育学部の責任は重い。諸般の事情で及ばない時
も、新しい事態に全力を傾けたい」

 横須賀薫・宮城教育大学長「東北に単科教育大は一つだけで、今後も頑張り
たい。単に生き残りを考えるのではなく、地域の教員養成のパワーアップを考
えている」

 臼井嘉一・福島大学長「200人以上の教員養成課程があるのは東北では福島
大だけで、どう発展させるかが課題。現在の3学部(教育、行政社会、経済)
に加え、理工系の学部を検討している」

 その初会合からわずか1カ月。福島大があっさりと降りた。以前からの悲願
だった自然科学系の増設と教員養成課程の存続は両立しないとの判断だった。
文科省の強い意向が働いた。

 福島県も教育には熱心で、臼井学長は教育学部出身。教育界に見切りをつけ、
経済界になびいたと一部でうがった見方をされた。

●死に体

 次第に、山形大は「客観情勢不利」と伝えられるようになり、じわじわと土
俵際まで追い込まれていく。

 当時、ある元山形大教育学部教授は「宮教大から教員養成課程を奪ってしまっ
たら、存在意義がなくなり、廃校になってしまう。それは文科省の失点につな
がるから、担当校はどうしても宮教大でなければならないんです。山大は既に
死に体です」と解説した。

 仙台市内のホテルで今月16日に開かれた3大学連絡会議の第3回会合。臼井学
長は福島大が教員を計画養成しない「一般校」になることを正式に表明し、表
面上は山形大と宮城教育大のマッチレースになった。

 連絡会議終了後の記者会見。第2回会合で、宮城教育大の横須賀学長は「次
回は担当校としての明確なビジョンを示したい」と相当に鼻息が荒かったが、
「どういう学部、大学院、付属学校の在り方が必要なのか、学内で検討を重ね
ているが、相互の問題があり、具体的なビジョンを示すまでは至らなかった」
と自ちょう気味に述べ、学内論議が遅れ気味の山形大に配慮した。

 横須賀学長は「福島大は方向性がはっきりしている。山形大もやがて、そう
いう方針が明確になるかと思う」と続けた。思わず口が滑ったかのように見え
た。記者から「今おっしゃった『そういう方針』とは、山形大も一般校になる
という意味ですか」と突っ込まれると、慌てて否定した。

 会見の終了間際、横須賀学長は「慎重な報道をお願いしたい。そんなに騒ぐ
ようなことですか」と言ってカメラの放列を見渡し、報道陣が首をかしげる場
面もあった。既に勝算があり、余裕たっぷりに映った。

●イチコロ

 その日の夕方。会合の内容を伝え聞いた山形大教育学部のある教官は「われ
われスタッフは、偉そうにしていても、上(文科省)からこうしろと言われれ
ばイチコロなんです。意見をさんざん戦わせておいて、一方では宮教大が担当
校になるという既定路線ができている」と嘆いた。

 3大学間の協議に、地域の意見を反映させる山形県の教員養成に関する懇談
会が翌17日、山形市内で開かれた。

 高橋和雄知事が「宮教大が担当校にならなければつぶれるということよりも、
なぜ山形の教育を優先できないのですか」と詰め寄った。県の教育長を経験し、
全国で初めて小学校全学年に少人数学級を広めようとしている自負が知事には
ある。「南東北の担当校は宮城教育大」というシナリオが透けて見え、文科省
に屈しようとしている山形大の姿勢にいらだった。

 「宮教大はまず、東北大と再編を考えるべきではないのですか?」。高橋知
事は山形大がやり玉に挙がっていることに納得がいかない様子で、宮城県内に
東北大と宮城教育大の教育学部が併存しているという「不可解な現状」(県教
育庁)についても異論を挟んだ。

 事態は、いよいよ終えんを迎えた。出席者にとっては長らく記憶に残るであ
ろう21日の山形大教育学部教授会。担当校を目指す方針を確認した11月の教授
会から、わずか半年。状況の変化を段階的に説明されてきたとはいえ、教官か
ら強い反論は出なかった。

●魂売った

 「教育学部は寂しく、自らの手で幕引きを演じたかのようだが、それは違う」
とある教官は強調する。「山形大は工学部の入試判定ミスで、予算が減らされ
ているでしょう。福島大は自然科学系の増設を早くやれと地元で突き上げられ
ている。両大学とも文科省に魂を売ってしまったのです」

 22日夜、仙道学長とともに緊急会見に臨んだ石島学部長は、最後までついに
口を開くことはなかった。(報道部・古頭哲)