☆大学は、いま 調査・リポート 連載 大学 第4部 国際競争力
. [he-forum 3965] 読売新聞大阪版05/19
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『読売新聞』大阪版 2002年5月19日付
大学は、いま 調査・リポート 連載 大学 第4部 国際競争力
<7> MBA(経営学修士)
◆欧米トップ級めざす ◆
学生ラウンジで数人が談笑していた。飛び交うのは英語。一瞬、外国の大学
かと錯覚した。
一橋大学が二年前に開設した大学院「国際企業戦略研究科」(東京都千代田
区)。MBA(経営学修士)を取得できる日本初の職業人の専門大学院だ。中
でも国際経営戦略コースは、授業はすべて英語。一流の教授陣、都心の立地、
一橋人脈を駆使した就職指導……。「欧米に負けない本格的なビジネススクー
ルが出来た」との呼び声が高い。
MBAは米国生まれ。MBAを与える米国のビジネススクールは、ビジネス
教育の国際的評価機関(AACSB)が認証した学校だけで約四百。日本では
一九七八年の慶応大が草分けで現在約二十校。二〇〇〇年には専門大学院制度
が設けられ、一橋が先陣を切った。
* *
一橋の目標は、「世界から学生が集まり、世界から卒業生を引っ張りに来る
プロの市場を作ること」と竹内弘高研究科長。日本では慶応が二年前にAAC
SBの認証を受けたが、日本のMBAは国際的にはまだメジャーとは言えない。
一橋のカリキュラムのポイントは「ベスト・オブ・ツー・ワールド」。日米
双方の良さが学べるという意味。事例研究など即戦力重視の米国スタイルで先
端知識を得るのと同時に、日本の優れた生産管理を学び、チームワークを養う
合宿や町工場の見学も行う。
同コースの学生約五十人は三十歳代前半が中心。約六割は中国や韓国、欧米
などからの留学生、残りは企業を辞めるなどした日本人。約八年勤めたリクルー
トを退職した桜井弓子さんは「『西洋と東洋のブリッジとなるリーダーを』と
いう理念に共鳴した。英語で世界の最新情報を取り込みながら、日本の有名な
先生にも学べる」と話す。
MBA教育で十三年の蓄積を持つ神戸大大学院経営学研究科は今春、西日本
初の専門大学院に衣替えした。一橋とは対照的に「スキルだけでなくアカデミ
ズム重視」。「ビジネスの仕組みはすぐ変わる。方法論を考え、判断力を養う
方が将来役立つ」と谷武幸教授。
講義の目玉は「プロジェクト方式」。実際に学生が仕事上感じた疑問や課題
を出し合い、グループで解決策を探る。「日本型経営の合理性と限界を認識し、
それを土台に国際的に活躍出来る人材の育成」。それが“日本型MBA”を目
指す神戸大の狙いだ。
◆中国のスクールも台頭◆
MBA受験予備校の「イフ外語学院」は来月、中国・上海のビジネススクー
ルを訪れるキャンパスツアーを行う。「上海のスクール、CEIBSは設立間
もないのに英紙にランクインした。授業は英語で、難易度も欧米のトップ並み。
うかうかすると日本は負けてしまう」と中野正夫学院長は話す。同学院で学ぶ
男性会社員もCEIBS志望。「中国のマーケットが分かり、人脈もある人は
今のところ希少価値。今後ニーズは絶対増える」
毎年、米国に社員を留学させてきた自動車部品製造の矢崎総業は、今年初め
て中国・広州のスクールに社員を受験させた。同社は中国に工場を持つが、
「今後はただ工場を造るだけでなく、中国文化を理解し、マネジメント出来る
人材が必要」と同社人材開発部。
圧倒的なブランド力を持つ米スクールに加え、台頭する中国のスクール。中
野さんは言う。「日本もグローバル化を引っ張る人材を出さないと。市場のニー
ズを常に意識し、欧米のように客観的なランク付けで切磋琢磨(せっさたくま)
すべきだ」
同志社大もビジネススクールを二〇〇四年に始める。世界からお呼びがかか
る人材を生むには、大学が個性とレベルを競い、国際評価にさらされることが
必要だろう。
(第四部おわり)
(水谷工、冨浪俊一、鈴木敏昭、岩倉誠、藤井泰介、新井清美)