☆大学は、いま 調査・リポート 連載 大学 第4部 国際競争力 <6> 法科大学院
[he-forum 3958] 読売新聞大阪版05/17
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『読売新聞』大阪版 2002年5月17日付
大学は、いま 調査・リポート 連載 大学 第4部 国際競争力
<6> 法科大学院
◆教授引き抜き過熱 ◆
宮澤節生・早稲田大法学部教授(法社会学)の元に最近、知人の教授たちか
らあいさつ状が目立って届くようになった。「法科大学院の要員として大学を
移った」という内容。宮澤教授は「年末にかけ、大移動が始まる」とみる。
自身も一昨年十月、神戸大から早大に移った。米・ハーバード、ニューヨー
ク大などのロースクールの客員教授の経験を持つ。「移籍の打診は日本で法科
大学院構想が持ち上がる前だったから、同様の引き抜きではないけれど、今の
構想は、僕が長年主張してきた法曹養成の形に合致する」。実務教育の充実と
幅広い学部からの学生集めが、宮澤教授の持論だ。
司法試験合格者を今の年間千人程度から三千人程度に増やすため、二〇〇四
年度スタートが予定されている法科大学院。合格者数上位の東京大、早大など
百大学近くが設置を計画、検討し、弁護士会や予備校も設立に動く。「卒業生
は七、八割の合格率」という教育水準が学生確保のポイントになるとされ、教
授の引き抜きは加速しそうだ。
◆予備校化 懸念の声も◆
日本の法曹人口(二〇〇一年)は二万三千五百八十九人。人口十万人当たり
十八・五九人で、米国三百七十五・四六人、英国百七十三・八九人など他の先
進国に比べ圧倒的に少ない。「長すぎる裁判」「地方の弁護士過疎」の一因と
もされるが、数に加え、国際社会に合わせた質の向上も法科大学院の課題。
慶応大四年から予備校に通い、二十四歳で合格した第二東京弁護士会の佐熊
真紀子弁護士(29)は、「予備校は効率よく教えるが、応用力がつかない」
といい、司法試験も「問題が学問的で、実務向きではない」と振り返る。
* *
東京大卒業後、エール、ミシガン大などのロースクールで学んだ小林秀之・
上智大法学部教授(民事訴訟法)は、米国の授業を「少人数制で、徹底した議
論と家族的な雰囲気作りを大事にし、頭と心を育てる」と評価。実際の法廷で
のせりふ回しまで再現した「極めて実践的な教科書」も使い、学生時代からプ
ロ意識を植え付けるという。
とくに注目するのはニューヨーク大ロースクール。「近くのウォール街から、
国際取引を手掛ける金融ローヤーを講師に招き、学生の質を急速に高めた。成
功は、地の利を生かした実務的教育システムにある」
上智大の法科大学院は、「国際関係」「地球環境」を二大テーマに打ち出す。
国際民事紛争処理や国際金融法、国際取引法など八科目の「国際関係法」群と、
国際環境法や環境規制法など六科目の「環境法」群を選択科目にする予定。
大手企業が集中する東京は、国際取引法や知的財産権の分野で高い専門性を
持つ弁護士を数多く必要とする。「欧米の渉外弁護士のように、契約交渉の場
ですぐ代替案の契約書を書くといった即応性、発想力は日本は劣る。東京とい
う地域性から、国際性が大学院の特色になる」と小林教授。
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日本弁護士連合会は今年、法科大学院の教員への希望者を募り、四月で全国
五十二弁護士会のうち二十会から約三百人を確保。近く名簿を全国の大学に公
開する。法科大学院の内容をチェックする「第三者評価」にもかかわる考えだ。
「優秀な人材輩出の環境作りは、我々の責任」と言う椛嶋裕之・日弁連司法
改革調査室副室長だが、心配もある。「法務省の中には法科大学院そのものを
信頼していない声もある。第三者評価は厳しくせず、新司法試験を厳しくと考
えているようなら、法科大学院の授業が予備校化する」
国際競争に負けない中身にできるかどうかはこれからだ。