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☆大学は、いま 調査・リポート 連載 大学 第4部 国際競争力 <4> 研究水準
 
. [he-forum 3953] 読売新聞大阪版05/15
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『読売新聞』大阪版  2002年5月15日付

大学は、いま 調査・リポート 連載 大学 第4部 国際競争力

 <4> 研究水準


◆ポストゲノムでも劣勢◆

 全世界が注目し、二年前にほぼ終了したヒトゲノム(人間の全遺伝情報)解
読計画。「生命科学の世紀」といわれる二十一世紀の国の活力や経済的基盤に
かかわるこの分野で、日本は欧米に大きく後れをとった。国家的戦略が欠け、
研究体制や予算の重点配分ができなかったのが主因とされるが、中村祐輔・東
京大医科学研究所ヒトゲノム解析センター長は「国だけを責められない」とい
う。

 「ヒトゲノム計画の重要性に目をつぶり、自分の研究予算が減らされる、と
当時反対した学者がたくさんいた。五年、十年後の日本のあり方を考え、一致
して予算を要求すれば、研究基盤が整備され、違った展開になったのではない
か」

 個々の遺伝子の機能、病気との関係などを調べる「ポストゲノム計画」に国
際競争の場が移っても、日本の劣勢は変わらない。ポストゲノム関連技術での
特許出願件数は、一九九九年時点で米国のほぼ五分の一、四百七件。このうち、
基礎研究を担う大学・公的機関は三割だ。

 中村センター長は「このままでは、欧米に追いつくどころか、中国にも追い
抜かれる。特許使用料の支払いで将来、日本の医療保険がパンクする恐れもあ
る」と心配する。

 研究成果の還元より、発表論文数を重く見がちな「象牙(ぞうげ)の塔」の
風潮に風穴を開けるとともに、社会の役に立てればと昨年四月、バイオベン
チャー企業を設立して非常勤役員に就いた。画期的な抗がん剤の開発や難治性
がんの早期診断法の確立を目指す。

*          *

 日本の研究レベルを測る「物差し」の一つに、研究論文の引用回数がある。
回数が多いほど国際的影響力が大きい。

 学術情報サービス会社「ISI」(本社・米国)が調べた、九一年から十一
年間の引用回数から見た世界の大学・研究所ランキング。材料科学では東北大、
物理学で東京大がトップに立つなど、日本の大学も負けてはいない。

 東北大の原動力は、合金の分野で世界をリードする「金属材料研究所」。こ
こでは、約九十人いる助手の四割近くが欧米、アジア、ロシアなど外国からの
研究者。全教官が任期制で、所内がすでに〈国際舞台〉といえる。

 「材料科学国際フロンティアセンター」を四月にスタートさせ、英ケンブリッ
ジ大、米ハーバード大、スイスのIBMチューリヒ研究所に海外拠点を設置。
人材交流や共同研究で、さらに“国際化”を進める。

 研究所は一六年の創立以来、物理や化学などの基礎分野と、材料系など実学
分野がチームワークで学際的に取り組む手法をとってきた。「おかげで独自の
基礎原理の発見や材料への応用ができた」。井上明久所長は、国内外で高い評
価を受ける研究の素地をそう明かし、「助手の数を減らさず、研究の柱に置い
て若手を育成していることも、活性化につながっている」と付け加えた。

◆論文の引用は健闘◆

 アポトーシス(細胞の自殺)の仕組みの研究で知られる大阪大医学系研究科
の長田重一教授は、日本のバイオ研究のレベルは欧米と肩を並べ始めたと見る。
その根拠は、一流の国際科学雑誌に載る日本研究者の論文数が大きく増えてい
ること。英科学誌「ネイチャー」には生化学、分子生物学の分野で、日本から
の論文が最近ではほぼ毎週、掲載されている。

 「日本は非常によくやっていると思う。だが、トップクラスの研究者の数は
まだ限られている」と長田教授。基礎研究のための科学研究費を広く配分する
ことや、企業が大学などに投資しやすい税制で、研究者の底上げをと言う。