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大学は、いま 調査・リポート 連載 大学 第4部 国際競争力
 
.[he-forum 3944] 読売新聞大阪版05/14
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『読売新聞』大阪版  2002年5月14日付

大学は、いま 調査・リポート 連載 大学 第4部 国際競争力

<3> ベンチャー

◆米国に追いつけ!!◆

 ナノテクノロジー(超微細技術)の分野で世界に知られる川合知二・大阪大
産業科学研究所教授は、ベンチャー企業「インターサイト・ナノサイエンス」
の取締役だ。研究者仲間らで出資し、昨年五月に設立した。取締役には同じ阪
大の吉崎和幸教授(免疫学)と月原冨武教授(たんぱく質構造解析)も。

 川合教授は、独自の方法と特殊な顕微鏡で、世界で初めてDNAの二重らせ
んを撮影した。慢性関節リウマチなど難病の原因物質の働きを封じる抗体を見
つけ、新薬を開発するのがベンチャーの目的。兵庫・播磨科学公園都市の大型
放射光施設「SPring―8」も活用する。

 「基礎と応用が密接なナノテクやバイオといった研究の実用化には、機動力
のあるベンチャーが一番」と川合教授。世界最高水準の成果を、五年以内に自
らの手で世に送り出したいと考えている。


*          *

 大学発ベンチャー。企業との共同研究、特許技術を企業に仲介するTLO
(技術移転機関)以上に、大学の研究者が実用化にタッチする。採算面で企業
が二の足を踏む研究開発に取り組める利点もある。昨年八月現在、全国に二百
五十一社。一年で六十五社増えた。

 龍谷大は全国二位の二十社。理工学部がある瀬田キャンパス(大津市)の
「龍谷エクステンションセンター」が拠点だ。地場の中小企業を母体にしたコ
ンピューターソフト会社などが多い。センターにはレンタルラボが十七室。実
験機器も借りられ、常時ほぼ満室だ。物理的にも心理的にも企業と教員との距
離は近い。

 「無名企業との連携」に最初は学内に消極論もあった。河村能夫・副学長は
「エクステンション(普及)は、米国の高等教育では主要な社会的機能。地域
に根を張った研究を通じ、世界的なレベルを達成するあり方こそ、目指すべき
方向と説得した」と話す。

 そこにしかない技術を持つ「オンリーワン企業」を滋賀県内に百社つくるこ
とが、当面の目標だ。

 昨年五月、経済産業省が発表した「新市場・雇用創出プラン」。大学発ベン
チャーを三年間で千社にする目標が盛り込まれた。米国では二〇〇〇年だけで
四百五十四社が起業した。「二十年近く取り組んできた米国の実績に追いつく
には、相当の時間がかかる」と専門家は指摘する。

 文部科学省の幹部も「十分な支援策はこれから」と認める。「資金援助の充
実」「経営スタッフの確保」「経営リスクの軽減」などが課題だ。

*          *

◆資金・ルールなど課題◆

 産学連携は新たな問題もはらむ。大学教員らの間で関心が高まる「利益相
反」。教育、研究の場である大学の公益性と、特許使用料収入や企業コンサル
ティングの報酬など個人的利益が対立することだ。文部科学省の科学技術・学
術審議会のワーキンググループは今月末から半年かけ、その事例をまとめる。

 一九九八年に発覚した名古屋大教授の収賄事件。多額の資金提供の見返りに
製薬会社に大学の施設を無償で使わせ、実験結果も提供したとされる。欧米に
比べ、産学連携のルールが不明確な現状を浮き彫りにした。

 同グループのメンバーで指針作りを検討してきた今田哲・元奈良先端科学技
術大学院大教授は、武田薬品で三十数年間、研究開発に携わり、名大教授とも
親交があった。「何らかのルールがあれば、事件は起こらなかったのでは」と
いう思いがある。

 文科省の磯谷桂介・技術移転推進室長は「産学連携の陰で、教員や大学がも
うけているという疑念が出れば、産学連携も足踏みする。透明性の高いルール
づくりが必要だ」と強調する。