☆学は、いま 調査・リポート 連載 大学 第4部 国際競争力
.[he-forum 3937] 読売新聞大阪版05/13
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『読売新聞』大阪版 2002年5月13日付
大学は、いま 調査・リポート 連載 大学 第4部 国際競争力
<2> TLO(技術移転機関)
◆技術移転やっと始動◆
大津市の歯科技工業「聖和デンタル」。社員八人の小さな会社は昨年末、京
都大再生医科学研究所で生まれた技術を手に入れた。
オフィスで岡野仁夫社長が見せてくれたのは、同研究所の堤定美教授らが開
発した柔軟な新素材。かすかにミントが香る。「衝撃吸収力が高い上に、いろ
いろな味や香りを簡単につけられる」と岡野社長。現在、この素材を応用した
マウスガードの製作キットの商品化に取り組む。「歯科医院で歯型をとれば自
宅でいくつでも簡単に作ることができる。混ぜるものを変えれば居眠り運転防
止用、禁煙支援用などもできそうだ」。夢は海外市場にも広がる。
「あそこがなければ、とてもうちには手に入れられなかった技術」と岡野社
長は言う。「関西TLO」(京都市)がそれ、である。
* *
大学で生まれた発明を企業へ橋渡しするTLO(技術移転機関)は全国に二
十七ある。関西TLOは、一九九八年施行の「大学等技術移転促進法」に基づ
き、同年十月に設立された。京都、大阪を中心に三十九大学の研究者五百人余
と企業約二百五十社が集い、今年四月までに出願した特許は二百十件、うち十
三件が技術移転された。
同法の原型は、アメリカの通称「バイ・ドール法」。八〇年に成立し、公費
助成を受けた発明でも権利は開発者にあるとする、この法律がバネとなり、特
許の出願件数が飛躍的に増えた。「一年間で六百五十億ドルの経済効果と四十
三万人の雇用を生み出した」という米TLO団体「AUTM」(大学技術管理
者協会)のデータ(二〇〇〇年)と比べると、日本の現状が見劣りすることは
否めないが、健闘するTLOもある。
代表格が東京大の「株式会社先端科学技術インキュベーションセンター(C
ASTI)」。東大先端科学技術研究センターの教官が出資し、資本金一千万
円で誕生した。
二〇〇一年の年商は一億六千万円で、二期連続の黒字を計上。東大の各大学
院、研究所の成果を特許化し、これと狙いをつけた企業へ売り込む“ピンポイ
ント型”で成果を上げる。特許使用料が払い込まれると、経費を引いて30%
ずつを研究者、所属学部、CASTIで配分、10%を大学に還元する。出願
中の特許が約三百六十件、国内外で三十三件の契約が成立した。
大学から企業への技術移転とベンチャー企業創出。「このうねりを大きくす
れば、日本は元気になる」と山本貴史社長は力説する。
◆「軌道に乗るまで10年」◆
「どうやって行政の支援を取り付けたのですか」。昨年七月に始動した大阪
TLOには一時、全国から問い合わせが相次いだ。
「オール大阪体制」を掲げる大阪TLOは、大阪府の出資法人、大阪産業振
興機構が運営。最初の五年間、大阪府と大阪市が計四億五千万円を援助する。
兵庫県や神戸市などが出資する新産業創造研究機構の「TLOひょうご」とと
もに、自治体が財政支援する数少ないTLOの一つだ。
「いい形で出発できた」と真弓和昭・TLO事業部長。設立を議論していた
府内大学学長会と、大阪経済の再生を模索する行政の思惑が一致したからだ。
しかし「事業が軌道に乗るのに十年はかかる。その間、国などの補助金は必要」
と言う。
四月には関西大教授らが開発した教育支援システムの特許仲介に初めて成功
した。今年度、五件の仲介を目指すが、TLOはすぐに安定した収入が得られ
るか不透明だ。
一足先にスタートした関西TLOは、五年目の今年度で国からの助成が切れ
る。伸び始めた芽をどう育てるのか、日本の産学連携の将来を占うケースとも
なる。