平成14年4月23日
京都大学大学法人化に関する調査検討のためのワーキンググループ報告書
京都大学大学法人化に関する調査検討のためのワーキンググループ
座長森本滋
はじめに
7日、、「新しい『国立大学法人』像について」と題する中間報告(以下「中間報告」と
いう。)を公表し、これに対する各界からの意見を参考にさらに検討を進め、平成14年
3月26日、最終報告を取りまとめた(以下、「最終報告」という。)。この「最終報告」
を基礎に、平成16年度に国立大学の法人化がなされることが予想される。法人化準備の
ための時間は極めて限られている。
応することとなるが、その合理的判断に資する基礎資料を提供するため、京都大学大学法
人化に関する調査検討のためのワーキンググループ(以下、。「本WG」という)が、平
成13年8月13日の臨時部局長会議の了承のもとに設置された。本WGは、まず、「中
間報告」のコメントの作成に従事した。本WGのコメントは、平成13年10月29日、
文部科学省に提出された(別紙資料1参照。)
文部科学省の国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議は、平成13年9月2
京都大学においては、総長を中心に部局長等が法人化に対して戦略的ないし政策的に対
その後、本WGは、組織業務・人事制度と目標評価・財務会計制度の二つの作業部会に
分かれて作業を進めることとした。組織業務・人事制度作業部会は、平成14年1月9日
に組織業務等に関する一通りの検討作業を終えた。なお、職員の身分その他の人事制度に
ついては専門的検討が強く要請されるため、平成13年12月12日に「人事制度に関す
る専門家会議」が設置され、平成14年2月21日、同専門家会議の報告書が取りまとめ
られた(別紙資料2参照)。目標評価・財務会計制度作業部会は、平成14年1月9日、
「中期目標・中期計画記載事項例」を取りまとめた(別紙資料3参照)。なお、中期目標
・中期計画の作成や国立大学評価委員会(仮称)及び大学評価・学位授与機構による大学
評価等に対応する組織について検討するため、平成13年12月4日、「京都大学におけ
る中期計画策定及び大学評価に係る基礎データ収集・分析に関するワーキンググループ」
が設置された。平成14年2月19日に取りまとめられた同ワーキンググループの報告書
(別紙資料4参照)に基づき、同年3月5日の部局長会議において「京都大学大学情報収
集・分析センター」の設置が了承された。
平成14年1月22日の本WGの全体会議において、報告書取りまとめのため法人化W
G報告書起草委員会を設けることが決定された。起草委員会の報告書素案が、同年2月2
2日の本WGの全体会議において基本的に了承され、最終取りまとめが起草委員会に一任
された。同年3月1日の起草委員会において、報告書素案を一部修正して報告書の取りま
とめがなされた。これは「中間報告」をベースとするものであったが、その後間もなく、
調査検討会議の「最終報告」が公表されることとなった。この「最終報告」の内容を取り
入れて報告書をアップツーデイトなものとすることがその後の京都大学における検討に際
して有益であると考えれる。このため、同年3月29日に改めて起草委員会を開催し、
「最終報告」に配慮して必要な加筆訂正をしたほか、「人事制度に関する専門家会議」の
報告書を基礎に非公務員型のもとにおける人事制度についても加筆して、以下の報告書を
取りまとめた。
目次
はじめに
第一部組織業務・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
T はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
U 学長(総長) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
(1)学長の法的地位と役割・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
(2)被選出資格・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
(3)選考方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
(4)任期・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
(5)学長の牽制システム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
V 管理運営機構・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
(1)基本的スキーム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
(2)役員・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
(a)監事・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
(b)役員・役員会・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
(c)役員の役割と任免・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
(d)役員の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
(e)事務職役員・教員役員をめぐる課題・・・・・・・・・・・・・・・・・5
(3)運営協議会・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
(a)組織構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
(b)選考・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
(c)役割・機能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
(4)評議会・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
(a)評議会の役割・権限・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
(b)評議会の位置付け・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
(c)評議会の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
(5)部局長会議・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
W 各種委員会・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
(1)委員会の役割と問題点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
(2)改革の必要性とその基本的視点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
X 事務組織・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
(1)序・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
(2)企画立案部門の充実・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
(3)執行部門の合理化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
(4)アウトソーシング・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
Y 部局の管理運営・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
(1)部局の位置付け・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
(2)部局の自治・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
(3)その他・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
Z 人事制度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
(1)非公務員型の選択・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
(2)非公務員型における労使関係
(3)非公務員型における勤務条件決定・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
(4)人事制度の検討課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
(a)採用・能力開発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
(b)多様な雇用形態・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
(c)給与・勤務条件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
(d)兼職・兼業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
(e)法人間の異動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
(f)その他・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
Z 結語・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
第二部目標評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
T はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
U 中期目標・中期計画・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
(1)中期目標・中期計画の作成イメージ・・・・・・・・・・・・・・・・・15
(2)中期目標・中期計画と大学評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
(3)第一期中期目標・中期計画等の作成スキーム・・・・・・・・・・・・・16
(a)第一期「中期目標・中期計画」作成・・・・・・・・・・・・・・・・17
(b)「年度計画」作成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
(c)「各年度の業務実績評価フォーマット」作成・・・・・・・・・・・・・17
(d)第一期中期目標の達成度に関する自己点検・評価・・・・・・・・・・17
(e)大学評価の結果に対する意見申立・・・・・・・・・・・・・・・・・17
V 大学情報の収集・分析体制・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
W 結語・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
第三部財務会計制度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
T はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
U 会計制度の設計・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
(1)中期計画と予算・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
(2)運営費交付金・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
(3)学生納付金・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
(4)自己収入の取扱い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
(5)施設整備費・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
(6)不用財産処分・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
(7)施設整備の仕組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
(8)土地・建物等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
(9)長期借入金債務・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
(10)会計基準等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
(11)会計監査人による監査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
V 結語・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
検討経緯・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
委員名簿・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
第一部組織業務
T はじめに
「最終報告」において、国立大学の法人化は行政改革の視点を越えて大学改革推進のた
め企図されたものであることが強調されている。法人化後の京都大学の組織業務(管理運
営体制)を検討する際、活力ある個性豊かな大学づくりに寄与する柔軟な機構を構築する
観点に十分配慮する必要がある。法人化により、予算・組織・人事等さまざまな面で規制
が大幅に緩和され、大学の裁量範囲が拡大する。このような法人化のメリットを最大限活
用して教育研究を高度化し、国際競争力ある大学づくりを推進するため、大学運営におけ
る権限と責任の所在を一層明確化し、柔軟かつ機動的な大学運営スキームを構築しなけれ
ばならないのである。
また、国民に支えられ、最終的に国が責任を負うべき大学にふさわしい活力ある開かれ
た管理運営体制を構築する必要がある。「最終報告」も、国立大学が果たすべき使命や機
能を十全に実現させる観点とともに、学長のリーダーシップ、学外の専門家や有識者の参
画による社会に開かれた大学、大学運営の実態や教育研究の実績に関する透明性の確保と
積極的な情報公開、つまりアカウンタビリティの確保を強調する。これは、大学の自主性
・自律性が尊重されるため不可欠のものである。
さらに、「最終報告」は、大学の運営に当たって、教育研究の「サプライ・サイド」か
らの発想だけでなく、「デマンド・サイド」からの発想を重視する姿勢が重要であり、と
りわけ、教育の受け手である学生の立場に立った教育機能の強化が強く求められると指摘
する。京都大学においても、学生の立場に立った教育機能の強化を図らなければならない。
U 学長(総長)
(1)学長の法的地位と役割
「最終報告」は、学長を法人化された大学の最終責任者とし、法人を代表するとともに、
学内コンセンサスに留意しつつ、強いリーダーシップと経営手腕を発揮して、最終的な意
思決定を行うものとする。学長は、経営面に関する運営協議会の審議と教学面に関する評
議会の審議を踏まえ、大学運営にかかる最終的な意思決定をするのである。
京都大学においては、これまで、全学の合意形成能力を有する学長が適切に選ばれてき
たということができよう。「最終報告」は、学長には、教育研究に高い識見を有すると同
時に、法人運営の責任者としての優れた経営能力を有している者が選任される必要がある
と指摘する。学長は、大学の代表者として、大学のシンボルとなるだけでなく、予算の配
分のほか、全学的な中長期的戦略の策定や事務組織の改編・弾力的な人事制度の確立、さ
らには既存の部局の枠を越えた教育研究組織の再編等において、リーダーシップを発揮す
ることが期待されるのである。これまで京都大学においては、部局の利害が絡む資源配分
問題について、総長裁量経費等の一部のものを除いて、文部科学省が最終的な利害調整者
として機能し、学内において深刻な利害対立状況が生ずることは少なかったように思われ
る。しかし、今後は、これらをすべて学内で処理することが求められる。とりわけ、「最
終報告」が指摘するように、大学の教育研究組織について、各大学の自主的な判断で柔軟
かつ機動的に編制することにより、学術研究の動向や社会の要請等に適切に対応し、大学
の個性化を図らなければならないのである。
学長は、大学内部における様々な利害を適切に調整しつつ、大学運営の基本的戦略にか
かる全学的合意を形成し、これを適切かつ円滑に実現するよう、リーダーシップを発揮し
なければならない。しかし、教育研究の目的と方法には学問分野の間において大きな差異
- 1 -
があることにも留意しなければならない。「最終報告」は、大学の教育研究活動は、教育
研究者の自由な発想が尊重されることによって初めて真に実りある展開と発展がみられる
ものであることを指摘する。京都大学のこれまでの伝統に留意するときは、教育研究の持
続的な高度化・活性化のために、部局の自主的な運営を基礎に、専門家としての教員集団
からのいわゆるボトム・アップ的提案を十分に尊重することが求められよう。
(2)被選出資格
現在の総長の被選出資格は現総長及び専任教授である。法人化後においては、「最終報
告」を受けて、学内外から幅広く適任者を求めることを可能にするため、現行の被選出資
格を抜本的に拡大する必要がある。後述のように、候補者推薦制度を導入するときは、特
に被選出資格を限定する必要はないということもできよう。
(3)選考方法
「最終報告」は、憲法上保障されている学問の自由に由来する「大学の自治」の基本は、
学長等の人事を大学自身が自主的・自律的に行うことであるとして、学長は、学内の選考
機関の選考を経た後に、文部科学大臣が任命するものとする。また、各大学における学長
の選考基準、選考手続きの策定に際して、学外の意見を反映させるべきであり、具体の選
考過程においても同様であるとする。
選考方法を検討する際の基本的視座として、次の二点が強調されるべきである。第一は、
適任者をよりよく選考できる方策の検討である(適任者の確保)。第二は、学長のリーダ
ーシップ、さらには現在よりも拡大する学長の権限を正当化する方策の検討である(正当
性の確保。)
学長選考のプロセスは、(@)候補者の提案、、(A)候補者の絞り込み(B)候補者に
よる意思の表明、、(C)教員の投票による学内者の意向聴取手続き(D)最終選考の五
段階に分けられる。現行の助手以上による第一次投票は(@)に相当する。この候補者提
案は、被選出資格の拡大問題とも関連するが、投票によるのではなく推薦方式を採用する
ことに合理性が認められよう。例えば、学長の選考過程に社会(学外)の意見を反映させ
る仕組みとして、運営協議会ないし運営協議会と評議会の合同推薦委員会に一定数の候補
者の推薦権を与えることのほか、20人以上の教員にも候補者推薦権を認めることが考え
られよう。
平成13年3月にまとめられた「総長選考の在り方に関するワーキンググループ」(座
長赤岡功副学長)の報告に基づく同年7月の京都大学総長選考基準の改正により、第一
次投票による上位15人を5人に絞り込むことが評議会の権限となった。法人化後におい
てもこのような絞込み方法は維持されるべきであり、その役割は運営協議会と評議会又は
その合同委員会により担われることになろう。そして、絞り込まれた候補者は、意思表明
をしなければならない。この意思表明を参考資料として、講師以上の教員が投票を行い、
その結果を十分に尊重して、運営協議会と評議会又はその合同委員会が最終選考を行うこ
とが一つのモデルとして考えられよう。
なお、「最終報告」は、運営協議会及び評議会の双方のメンバー(の代表)から構成さ
れる学長選考委員会において、学長の選考基準、手続きを定め、学長候補者を選考すると
する。しかし、学長の選考基準、手続きは、具体の選考のための委員会とは別個に、運営
協議会と評議会(意見が一致しないときは合同委員会を開催)において定められることが
妥当であろう。
- 2 -
(4)任期
中期目標・中期計画を作成した学長が、その中期目標期間中、学長としてその実現に責
任を負うべきであり、学長の任期は基本的に6年となろう。しかし、中間に実績評価をす
ることにも合理性があり、現行の4年プラス2年(再任)ないし3年プラス3年(再任)
の合計6年制が妥当であろう。なお、再任制度を設けるときは、再任されなかった場合の、
中期目標・中期計画の変更手続についても検討する必要がある。
また、中期目標・中期計画は、その期間開始の前年度初頭には事実上確定されるため、
その時点において、次期学長もまた確定している必要がある。このことに配慮して、学長
の選考・就任時期について検討する必要がある。
(5)学長の牽制システム
学長にはリーダーシップの発揮が求められ、また、学長は、役員会組織を背景に大学運
営について強力な権限を有することとなる。したがって、学長の権限行使を適切かつ効果
的にチェックできる体制を構築することが、教育研究の高度化・活性化と自由な学問の発
展に寄与する健全な大学運営を確保するために不可欠であろう。「最終報告」も、監事制
度や会計監査人制度を設けるほか、大学運営の自主性・自律性の拡大を踏まえ、法令・予
算等に基づくこれまでの監査の仕組みから、各大学における財務運営等を含めた自己規律、
自己責任の確立が求められるとして、法人内部における監査機能の充実とそのための体制
の確立が必要であると指摘する。
評議会や運営協議会における重要事項の審議を通じて学長はチェックされるが、学長な
いし役員による大学の管理運営の健全性と効率性をモニターするため、学外者も含む適切
なチェック機構を設ける必要がある。
「最終報告」は、学長が不適任とされる場合は、一定の要件のもとで文部科学大臣が、
学長の選考を行った機関の審査等の手続きを経て解任できるとする。大学がどのような形
で解任請求できるかは明確ではないが、学長の権限の正当性を確保するため、学内の学長
選考機関による学長解任請求が認められるべきである。なお、運営協議会の機能、さらに
はそのメンバーに役員が含まれることに留意して、学長の解任について評議会の役割が重
視されるべきであろう。
また、大学運営をできるだけ透明性あるものとし、積極的に情報公開をすることが求め
られる。このような情報公開を通して広く大学の在り方が検証され、社会からのチェック
を受けることになるが、これもまた、効果的な学長の牽制システムである。
V 管理運営機構
(1)基本的スキーム
「最終報告」は、法人化後の国立大学の管理運営機構として、役員以外に、@主に教学
面に関する重要事項や方針を審議する評議会と並んで、相当程度の人数の学外有識者が参
画し、主に経営面に関する重要事項や方針を審議する運営協議会を設け、A学長は、運営
協議会と評議会の審議を踏まえ、最終的な意思決定を行うものとするが、B特定の重要事
項については、学長の意思決定に先立ち、役員会(監事を除く役員で構成し、学外者を含
む)の議決を経るというスキームを提案する。以下、役員会、運営協議会及び評議会等の
組織と機能について整理する。
(2)役員
「最終報告」においては、国立大学法人の役員構成を、学長のほか、副学長(複数人)
- 3 -
と監事(二人)とすることが原則とされている。
(a)監事監事は、国立大学法人の業務を監査する役員であり、文部科学大臣により
任命・解任される。「最終報告」においては、監事の任命に当たっては大学における教育
研究及び大学の運営に関し識見を有する者が選任され、そのうち少なくとも一人は学外者
から登用するとされている。
国立大学法人には、会計監査人による会計監査が予定されており、監事の主たる機能は
業務監査ということになろう。「最終報告」は、実際の監査に当たっては、大学における
教育研究の特殊性に鑑み、基本的には各教員による教育研究の個々の内容は直接の対象と
しないことが適当であると指摘する。したがって、監事は主として経営事項の監査をする
こととなる。法人化後においては、監査機能の充実とそのための体制を確立することが求
められるが、今後、監事の人選とも併せて、法人内部の監査体制との関連における監事の
具体的役割ないし機能について詰める必要があろう。
(b)役員・役員会役員とは学長を補佐し、業務の一部を分担する者であるが、「最
終報告」は、役員会制度の法定を提案する。役員会は、監事を除く役員で構成され、常勤
又は非常勤の学外者を含むものとされる。そして、中期目標・中期計画、予算・決算など
経営、教学にかかる特定の重要事項について、学長の意思決定に先立ち議決を行うのであ
るが、この特定の重要事項の内容については各大学の裁量が認められている。
法人化後の大学の運営は、学長と副学長等の役員(監事を除く。以下同じ。)が責任を
持つこととなる。役員ないし役員会が大学の執行機関を形成するのである。大学の重要な
事項について、運営協議会と評議会が審議するが、その原案を提出するのは役員会の役割
となろう。役員会には、大学の基本戦略実現のため部局の利害を調整しつつ企画立案し、
運営協議会と評議会の了承を得たうえ、当該企画を円滑かつ効率的に実施することが求め
られる。そして、特定の重要事項については、意思決定プロセスの透明性と役員間の適切
な責任分担による一体的な運営の確保及び適正な意思決定の担保のため、学長の意思決定
に先立ち役員会の議決を経ることとされるのである。
「最終報告」は、法人化に伴い権限・責任が拡大する学長を(c)役員の役割と任免
補佐するため、大学運営の重要テーマごと(例えば、総括、学術研究、教育・学生、財務
会計、人事管理、施設管理、学術情報、環境・医療、産学官連携、国際交流など)に、担
当の副学長を十分に配置するものとする。また、役員には、広く学外からも大学運営に高
い見識を有する者や各分野の専門家を招聘し、必要に応じて非常勤とすることのほか、事
務職や女性の積極的登用にも言及する。
「最終報告」は、役員は学長が自らの責任において任命するものとし、任命に当たって
はその職務の性質等を踏まえた基準・手続きにより行われるべきであるとする。役員は大
学運営に決定的に関わる者であり、その選任には評議会が関わらなければならない。他方、
学長を中心にまとまりのある執行体制を整備することにも留意する必要がある。そこで、
学長が指名した候補者について評議会が議決のうえ承認し、学長が任命することが合理的
である。ところで、役員にはもっぱら経営事項に関わる者もいる。このため、役員の選任
に運営協議会がどのように関わるべきかについても検討する必要がある。また、役員の解
任手続きに関して運営協議会と評議会の関係を整理するほか、教員から任命される者とそ
れ以外の者の任免基準・手続きに差異を設けるべきかについても検討する必要がある。
なお、役員の任期は、「最終報告」も指摘するように、現行の副学長及び総長補佐と同
様、学長の任期の範囲内とすべきである。
(d)役員の構成意思決定機能を有する役員会制度においては、常勤の業務担当役員
(オフィサー)と役員会に出席し意見を述べることのみを職務とする非常勤役員の区別が
- 4 -
認められる。日常業務に煩わされることなく、大学の戦略策定や業務執行状況について大
所高所より意見を述べ、またチェック機能も期待される非常勤役員を若干名役員会に含
めることは、国民や社会に対するアカウンタビリティを重視した、社会に開かれた大学
を目指すという法人化の趣旨に照らしても意義のあることといえよう。このような非常
勤役員候補者として、名誉教授や他大学の学長経験者のほか企業経営者等が考えられよう。
また、弁護士や税理士等の学外の専門家の非常勤役員への登用についても検討されるべき
である。
「最終報告」は、役員の数は大学の規模等を考慮して大学ごとに決定し、副学長以外の
役員を例外的なものとするが、京都大学のような大規模総合大学においては常勤役員の員
数は10人から15人程度となることが見込まれ、副学長以外の役員を置くことが合理的
ではなかろうか。また、非常勤役員は3人前後となろうが、非常勤の役員がすべて副学長
でなければならないとすることは不合理であろう。
(e)事務職役員・教員役員をめぐる課題
なお、非常勤役員の出席する役員会の開催頻度には限界があるため、常勤役員会を設け
ることのほか、副学長会議を開催して戦略的事項について検討することも考えられる。
常勤役員は、教員より選任される者(教員
役員)とそれ以外の者に区別される。後者は、さらに学外から任用する専門家(典型的に
は、民間からの任用−学外専門家)と学内の事務職員の登用のほか、他の国立大学法人か
ら任用される者に区別される。学外専門家の役員の任期は最大6年間(中期目標期間)と
なるが、このような任期付条件で有能な専門家を招聘することには相当の困難が予想され
る。学外専門家の積極的活用のためには効率的な役職員市場の形成が不可欠であり、他の
国立大学法人や私立大学の役職員との円滑な人事交流を促進する方策についても検討され
る必要があろう。
大学運営、とりわけ経営面に教員がどのように関わるべきか今後検討されることとなる
が、教育研究の高度化・活性化と個性ある発展のために、役員会における教員役員の役割
の重要性が強調されるべきである。この教員の副学長ないし役員を教授兼職(教授充て
職)とするか、教授を退任して専任とするかは、その任期とも関連して検討する必要があ
る。専任の場合は、本部留め置き教官ポストの創設等、任期満了後のいわゆる本籍部局へ
の円滑な復帰システムを考案する必要がある。したがって、教員役員のいわゆる本籍は当
該部局に残しつつ、部局における職務を大幅に軽減することで対応することが現実的であ
ろう。しかし、そのような充て職の教員役員の任期は現在と同様2年程度とならざるを得
ず、学長の任期と同様の任期の専任副学長の可能性についても検討する必要があろう。
このほか、「最終報告」は、大学運営に関する権限と責任の所在を明確にすることを要
求する。特定の重要事項について役員会に実質的決定権限が付与されるとき、その事項に
ついては、学長とともにその他の役員にも経営責任だけでなく、場合によっては法的責任
が問題となろう。このことにも配慮して教員役員の役割と責任について検討する必要があ
る。いずれにせよ、教員役員には相当の覚悟が求められるのである。
(3)運営協議会
「最終報告」は、法人化に伴い経営面での大学の裁量が大幅に拡大することに対応して、
教学面に関する重要事項や方針を審議する評議会のほか、運営協議会を設けることとする。
運営協議会は、主に財務会計(予算、決算、財産処分等)、組織編制、職員配置、給与、
役員報酬など経営面に関する重要事項や方針を審議する機関であり、中期目標・中期計画
と各事業年度にかかる業務運営に関する計画(年度計画)のうち経営面に関わる事項につ
いて審議することになる。「最終報告」は、運営協議会について、大学経営に関する学外
- 5 -
有識者(非常勤)及び大学経営に関する学内代表者で構成され、学外の有識者が相当程度
の人数を占めるものとする。
(a)組織構成京都大学における運営協議会の構成は、学内者(学長・副学長等及び
部局長)10人程度と非常勤の学外有識者10人程度の合計20人程度とすることが合理
的であろう。
学長以外の運営協議会の学内委員の指名に評議会の同意を要するか、部局(b)選考
長会議の了承でよいかは、検討を要する。学外委員については、学長の指名により、評議
会が了承することとなろうが、その選考に際しては、(c)の下段で述べる学外有識者の
機能に十分配慮すべきである。
(c)役割・機能大学の経営と教学は本来一体的なものであり、経営事項と教学事項
を明確に分離することは困難である。運営協議会の審議対象となるべき重要な経営事項の
相当部分は教学にも関係するものとして理解されよう。このような境界領域ないし重複領
域については、運営協議会と評議会のいずれにおいても審議しつつ、両者の意見が異なる
ときは、合同委員会を設置して意見の調整を図ることが妥当であろう。「最終報告」も、
経営と教学の双方にまたがる案件については、運営協議会と評議会の代表による合同の委
員会等を開催するなど、学内における円滑な合意形成のために各大学の判断で柔軟な運営
を工夫することも必要であると指摘する。
運営協議会の学外有識者が非常勤とされることにも留意して、京都大学において期待さ
れる運営協議会の機能を明らかにする必要がある。「最終報告」は、国の直接的な関与を
制限する代わりに、公的な財政支出に支えられる大学として、国民や社会に対する説明責
任を重視し、学外の有識者の意見を大学運営に積極的に反映させつつ、モニタリングする
仕組みを整えること、学内コンセンサスの円滑な形成に留意しつつ、大学法人としての教
育研究にかかる経営戦略を確立し、中・長期の観点に立ったダイナミックで機動的な意思
決定を可能とする仕組みを採り入れること、などの観点から、経営面に関する権限と責任
の所在を明確化するとともに、その権限と責任を担う組織に学外の有識者を参画させるこ
とが重要であると指摘している。要するに、運営協議会における学外有識者の主要な機能
としては、大所高所から大学の経営に関する助言や提言等の意見を述べることを通して、
大学の機能強化のためのモニタリングを行うとともに、大学運営に社会の目線、つまり常
識を注入することにあろう。また、民間的発想等に基づいて学長のリーダーシップの発揮
を促し経営の効率性・機動性を高めることのほか、学内の利害対立の調整役としての機能
も認められよう。さらに、外部資金集めや大学ないし部局の社会に対するPR活動につい
ても貢献することが期待されよう。ともかく、公的資金を基礎に運営され、国民に支えら
れる国立大学法人として、国民や社会に対するアカウンタビリティを確保するものとして、
運営協議会は位置付けられるべきである。
なお、このような運営協議会の機能と学外役員の関係について整理する必要がある。非
常勤の学外役員は役員会における具体的意思決定に際して意見を述べることが期待される
が、運営協議会における学外有識者は大学経営の全体的枠組みないし基本構想について意
見を述べることが期待されるのであろう。
(4)評議会
「最終報告」は、評議会は大学の教学に関する学内の代表者で構成し、主に教育課程、
教育研究組織、教員人事、学生の身分など教学面に関する重要事項や方針を審議し、学長
はこれを踏まえて最終的な意思決定をするものとする。
(a)評議会の役割・権限現行の評議会の具体的権限として、学則その他の重要な学
- 6 -
内規則の制定改廃、予算の基本方針と決算の審議、学部・研究所、研究センター等の重要
な組織の設置改廃、学生定員、専攻・学科等の改組変更、教員人事の方針、学生の身分等
があげられる。
法人化後の中期目標・中期計画及び年度計画については、経営と教学は明確に分離でき
ないため、教学面だけでなく経営面についても、全体として評議会が了承すべきである。
したがって、運営協議会と評議会の審議事項が競合することとなるが、この取扱いについ
ては、前述した。また、評議会が学長その他の役員の解任請求をなしうるものとすべきで
ある。
(b)評議会の位置付け評議会と部局長会議の関係が問題となる。現在の部局長会議
の法的地位は明確ではないが、大学運営の重要問題について意見交換をして全学的な合意
形成に資するとともに、学長(総長)が評議会に提案する重要事項の原案について審議す
る機関として理解できよう。もっとも、評議会の構成員が61人という多人数であること
のほか、その構成員のほぼ半数が部局長会議構成員であることから、評議会の審議は形式
に流れる傾向がある。現状においては、部局長会議が大学の重要事項に関する実質的な審
議機関となっているといわざるを得ない。
法人化後の評議会を今よりも質的に充実し、いわば現在の部局長会議と評議会を合わせ
たようなものとすることが考えられる。このためには、その規模を適正なものとするとと
もに(現行の半分に近い30人程度)、事前の資料配布や会議における説明の抜本的拡充
を図る必要がある。あるいは、現在の人数を維持したまま幹事会を設けたり、特別の重要
な事項について専門委員会を設置して、その報告をもとに評議会が審議することも考えら
れる。いずれの場合にも、部局長会議の廃止が問題となる。
このような単線的システムは、京都大学のような大規模大学においては適切でないので
はなかろうか。むしろ、評議会と部局長会議の機能に相違を認めて、複線的な審議機関構
成を採用することにより、円滑・効率的に大学の重要事項が審議されるとともに、部局自
治と教員の民主的コントロールによる学長ないし役員会に対する牽制機能が充実するので
はなかろうか。部局長会議は部局の執行責任者の会議として、執行責任をベースとした全
学の意思決定と部局の利害調整の場となる。他方、部局の教員の代表者で構成される評議
会において大学の重要事項が審議されることは、健全な大学運営の観点から支持されるだ
けでなく、評議会の承認を受けることで学長の意思決定の正当性が根拠付けられるのでは
なかろうか。この場合、評議会構成員数の抜本的縮小の必要はなく、若干増員することさ
え検討に値することとなる。
「最終報告」は、評議会は大学の教学に関する学内の代表者で構(c)評議会の構成
成するとする。現行の評議会の議長は、総長(学長)が務めるものとされている(国立学
校設置法第7条の3)。法人化後において執行部体制が質的に強化されることに配慮する
とき、現行のように学長が評議会の議長となることが適当かどうか検討の余地がある。
評議会における議事の円滑化のため学長が議長となることにも合理性が認められるが、
学長ないし役員会に対する評議会の牽制作用に配慮するとき、評議会メンバーにより議
長団を構成することが考えられる。この場合、議長団が事前に原案提出者である学長と、
会議の合理的進行について相談をすることが必要となる。このようなコミュニケーション
は積極的に評価されるのではなかろうか。
15人程度と予想される役員が評議会の構成員となることには疑問が生ずる。役員は学
長の補佐役ないし原案の説明者として評議会に陪席すべきであり、評議会の構成員は総長
と部局の教員代表者とすることが妥当である。
最後に、付随的問題であるが、現行の京都大学評議会規程は、2人の評議員により議題
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の提案がなされたときは、出席評議員の3分の2の賛成を得て評議会の正式議題となる旨、
定めている(京都大学評議会内規第2条)。評議会の審議の実質化のため、とりわけ、学
長や役員の解任請求等のチェック機能の実質化のため、この議題提案権の緩和についても
検討する必要があろう。
(5)部局長会議
前述のように、評議会と部局長会議の存在意義は別個のものとして理解することができ
る。法人化後において、京都大学の部局長の執行権限ないし裁量範囲はいよいよ大幅なも
のとなろう。部局長会議における大学全体の問題に対する関与の仕方と評議会の関与の仕
方にはおのずと相違が認められる。部局長が部局の利害調整の観点から行動するのに対し
て、評議員は教員の代表者として全学的問題に関わるのである。京都大学においては、と
りわけこのような複線的な審議機関を構築することが妥当なように思われる。
ともかく、部局長会議を存続させるときは、その位置付けを明確にするため、学内規程
を制定し、併せて評議会と部局長会議の審議事項や権限関係について整理されるべきであ
ろう。このほか、部局長会議と役員会、運営協議会との関係についても検討されるべきで
ある。
W 各種委員会
(1)委員会の役割と問題点
京都大学に設置されている各種の委員会は総数53にものぼり、その役割・任務は多
岐にわたる。これらの委員会が果たしている役割は複雑であり、現実には重複する機能
を有するが、あえて単純化すると、@将来計画などの全学的重要事項について全学の合
意を形成することを主たる機能とする委員会、A部局間の利害を調整することを主たる
機能とする委員会、B主として実務を執行する委員会等に分類することができよう。委
員会は、このほか、常設のものか非常設(アドホック)のものかによる分類、評議会決
定による達示と総長裁定といった設置形式による分類等様々な観点により分類すること
ができる。
これらの委員会は、京都大学の運営を支えるため必要不可欠の役割を果たしてきたが、
役割や位置付けが明確でない委員会がないわけではない。設置当時においては重要な役
割を果たしたが、今日においてはもはやその存在意義が薄れたり、設立の趣旨があいま
いとなっているものや、機能ないし権限が重複する委員会もある。また、委員会の結論
ないし提案が適切に大学の意思決定機関に上程されず、いわば「店ざらし」になってしま
う場合もあるようである。このほか、委員会の委員長あるいは委員が短期間で交代し、
委員会の継続性に問題が生じ、貴重な時間を使っての委員会の審議が無駄となる場合も
見受けられる。
(2)改革の必要性とその基本的視点
法人化後においては、学長のリーダーシップが強調され、それを支えるものとして、
役員会が法定される。運営協議会が主として経営の重要事項にかかる審議機関となり、
評議会は主として教学の重要事項にかかる審議機関となる。また、京都大学においては
部局長会議が重要な審議機関として存続することが予想される。このような管理運営機
構を前提に、委員会の役割ないし位置付けを見直す必要がある。その際、委員会に何を
期待するのか、その結論を如何にして実行していくのか明確にされなければならない。
委員会改革の基本的視点として、まず第一に、教育研究を高度化・活性化し、個性豊か
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な大学づくりを目的とする法人化の理念に配慮して、委員会の企画力を質的に充実するこ
とがある。続いて、学長のリーダーシップや役員会組織による大学執行部の機能強化に対
応して、委員会においてボトムアップ機能を充実するよう制度設計をする必要がある。こ
れに対応して、個々の委員会の権限と機能を明確化すべきである。さらに、中期目標期間
が6年であることに留意して、委員会の委員長ないし委員の任期についても検討する必要
がある。
委員会制度を再構築する際、それをどの管理運営機構の委員会として位置付けるか、そ
の意思決定を大学の意思決定のどのレベルに位置付けるかが問題となる。また、評議会決
定(又は運営協議会の同意)に基づく委員会と総長裁定委員会をどのように区分するかも
問題となる。
これらは個々の委員会ごとに具体的に検討されるべきであるが、一般論としては、委員
会を総長のもとに置くことが適切であろう。とりわけ実務執行のための委員会は、学長な
いし役員会のリーダーシップのもと、効果的に機能することが期待される。部局の利害調
整についても同様であるが、将来計画などの全学的重要事項にかかる全学の合意形成のた
めの委員会については、学長のリーダーシップと部局自治ないしボトムアップ機能のバラ
ンスに留意する必要がある。
典型的な委員会における審議経過を示すと、まず部局から委員会に対して特定の企画が
提案され、委員会はこれについて一般的に検討する。その際、役員会においても適宜検討
され、これを受けて委員会において必要な調整がなされた後、委員会としての結論が導か
れる。事項によってはその後運営協議会、評議会、あるいは部局長会議において審議され、
総長が最終的に意思決定するのである。このようなボトムアップ事項とともに、役員ない
し役員会の提案に基づき、委員会の審議を経て、運営協議会や評議会、事項によっては部
局長会議において審議され、総長が最終的に意思決定する事項もあろう。ともかく、運営
協議会や評議会の了承を求めるべき重要事項を審議する委員会は、達示形式とすることが
妥当である。このほか、学長ないし役員会のモニタリングのための委員会も構築される
必要があろう。この場合は学長ないし役員会からの独立性を確保するため評議会(ある
いは運営協議会との合同委員会)の下に設置されるのが妥当であろう。
X 事務組織
(1)序
「最終報告」は、各大学の事務組織については、法令で規定せず、予算の範囲内におい
て各大学の判断で随時改組等を可能にし、適切な組織編制を行うものとする。また、その
事務組織が、法令に基づく行政事務処理や教員の教育研究活動の支援業務を中心とする機
能にとどまらず、日常の大学運営事務に加えて、教員と連携協力しつつ大学運営の企画立
案等に積極的に参加し、学長以下の役員等を直接支えるなど、大学運営の専門職能集団と
しての機能を発揮することが可能となるよう、組織編制、職員採用・養成方法等を大幅に
見直すものとする。このほか、学外の幅広い分野から専門家を積極的に登用し、大学の諸
機能を強化することを提言している。
今後、事務組織については、企画立案部門の拡充と執行部門の合理化が検討課題となる。
とりわけ、法人化により、事務職員についても各法人の人事戦略に基づく専門的知識・技
能等を重視した採用や、職務に対する積極的な努力と実績が十分に評価され報いられるシ
ステムを構築することが可能になる。京都大学においては、これに積極的に対応し、公正
かつ効率的な事務組織を構築しなければならない。さらに、役員組織のもとにおいて企画
立案部門の充実が図られる際、その円滑な実施のため本部事務機構を再構築することが課
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題となろう。
(2)企画立案部門の充実
事務組織が学長以下の役員を直接支える専門職能集団として企画立案に積極的に参画す
ることが可能となるよう、専門的職員の養成と機動的な組織体制の確立に配慮しなければ
ならない。なお、企画立案部門については、役員機構の整備との関連においてその位置付
けが検討されるとともに、企画立案を担う委員会制度との関係も整理する必要がある。
(3)執行部門の合理化
事務組織における執行部門の合理化については、まず、現在事務局と部局事務部が行っ
ている多岐にわたる業務について、権限・責任の所在を明確にするとともに、部局固有の
ものであるか否か、一元処理が効果的なものか分散処理が効果的なものか等の指標により
全学事項と部局事項を整理する必要があるが、現行の教育研究を支援する体制と質の維持
に配慮しなければならない。
情報化の推進や効率的な事務処理の徹底などに取り組みつつ、事務局及び部局事務部の
規模や組織の再編について検討されなければならない。また、具体的に業務内容を整理す
る過程において、アウトソーシングの対象となるに適する業務が明らかとなろう。
(4)アウトソーシング
アウトソーシングには、外注化と外部化がある。外注化は現在も実施されているが、特
に法人化移行に際して肥大化する業務処理上の混乱をできるだけ回避するため、効果的な
実施について検討を要する。外部化は、法人化に伴って可能となるものであるが、どの程
度の外部化が許容されるのかなど、今後その動向を見極めつつ、京都大学にとって効果的
なものとなるようその導入について検討されるべきである。
外注化と外部化のいずれの場合も、それぞれの業務について個別具体的に、その処理が
標準化できるか否か、一定のスケールメリットを有するか否か、さらに市場原理による適
正な競争(インセンティブ)が働くか否かについて検討し、当該業務のコスト・パフォー
マンスが向上する見込みがあるかどうか、検討される必要がある。
Y 部局の管理運営
(1)部局の位置付け
「最終報告」における部局の位置付けは明確ではない。部局は京都大学における教育
研究の中心的組織である。とりわけ、教育研究の高度化・活性化を推進するためには、
各専門家としての教員集団、したがって部局の自主的な運営が基礎とされなければなら
ない。また、部局における教学問題のほか、経営問題についても今後検討されるべきで
ある。
(2)部局の自治
部局の自治の根幹をなすものは、教育研究における自律性・自主性の確保と教員の人
事権である。また、教育課程の編成、学生の入学・卒業・学位などの決定、教員の研究
課題の決定、部局内予算等は引き続き部局に属する権限である。
「最終報告」は、教授会における審議事項を真に学部等の教育研究に関する重要事項
に精選する一方、学部等の運営の責任者たる学部長等の権限や補佐体制(副学部長等の設
置など)を大幅に強化すると述べている。そして、教員の人事に関する方針及び基準・
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手続きは、評議会の審議を経て大学内部の規則として定め、当該方針及び基準・手続き
に基づいて個別の人事を行うとする。また、具体の教員選考に際しては専門性を有する
学部等の考えが尊重されるとともに、大学全体の人事方針が適切に反映されることが重
要であり、新しい大学の運営体制の下で大学・学部等の運営の責任者たる学長及び学部
長等がより大きな役割を果たすべきであると指摘する。全学的な人事方針を基礎にする
必要があるが、各教員の採用(昇任・罷免などを含む。)等の個別の人事については、部
局の専権事項とされなければならない。
「最終報告」は、学部長等は、学長が任免し、任免に当たっては大学全体の運営方針
を踏まえつつ、ダイナミックで機動的な学部運営が求められる法人化後の学部長等の職
務の性質等を踏まえた基準及び手続きにより行われるべきであるとするが、部局長の選
出も部局の専権事項とされなければならない。
(3)その他
部局の管理運営に関して、@部局長と教授会の関係、A教授会の審議事項、B教員の
選考に関する改善等、C教員の負担軽減策とともに、D教員の定員管理問題について検
討する必要がある。本WGではこれらについて、検討する時間的余裕がなかった。最後
の点について、現在までは部局に教員定員について排他的権利があり、大学中央運営組
織は教官の定員枠を持たなかった。法人化移行後も大部分の定員枠は部局に属すること
になろうが、一部を大学全体の運営組織に移譲する可能性も検討に値するであろう。
なお、「最終報告」において、弾力的人事制度の実施、国内外の優秀な研究者等の積極
的採用、任期制や公募制の積極的導入、若手教員に対する配慮等が強調されている。さ
らに、デマンド・サイドからの発想を重視すること、とりわけ、学生の立場に立った教
育機能の強化が強調されている。このような問題は全学的に検討されなければならない
が、部局においても、全学的コンセンサスを基礎に積極的に対応することが望まれる。
Z 人事制度
(1)非公務員型の選択
「最終報告」は、職員の身分につき、「公務員型」と「非公務員型」を比較した上で、
非公務員型のもとにおいては、国立大学法人が、国家公務員法体系にとらわれない、よ
り柔軟で弾力的な雇用形態及び給与・勤務時間体系を導入することにより、職員の多彩
な活動を可能とする人事制度を実現しうるという点で、「非公務員型」がより適切である
とする。「非公務員型」が選択された場合には、そのメリットを最大限に活かして、大学
及び職員がそのもてる力を最大限に発揮できるよう、各大学独自の方針ないし人事戦略
を定めることが求められる。具体的には、教員やその他の職員の多彩な活動に適切に対
応した柔軟な人事制度の構築、職員の業績に対する厳正な評価システムの導入と職員の
潜在的能力を発揮させるインセンティブの付与、教員の流動性確保と適任者の積極的登
用などが求められるのである。
非公務員型へと移行する場合、「最終報告」も指摘するように、現に勤務している職員
の処遇について配慮する必要がある。とりわけ、すべての職員の引継ぎや、退職手当の
期間通算等については、既存の職員の利益が侵害されることがないよう必要な法的措置
が取られなければならない。また、医療保険・年金、宿舎についても従前どおりの扱い
とされるべきである。このほか、教員について教育公務員特例法が適用されなくなる。
「最終報告」において、憲法上保障されている学問の自由に由来する「大学の自治」の
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基本は、学長や教員の人事を大学自身が自主的・自律的に行うことであり、法人化後の教
員の任免、分限、服務等に関しては、このような考え方を適切に取り入れることとされて
いる。京都大学においても、前述のように学問の自由を守り、教育研究の高度化・活性化
に資する教員人事制度を確立しなければならない。
(2)非公務員型における労使関係
「非公務員型」のもとにおける職員と法人との間の法律関係は、民間企業の場合と同
様、労働契約関係となり、労働基準法をはじめとする労働諸法規が全面的に適用される。
また、集団的な労使関係も大きく変化し、労働組合には憲法28条の定める団結権・団
体交渉権・団体行動権が全面的に認められることから、争議行為を圧力手段とした団体
交渉により、給与や勤務条件が決定されることになる。「非公務員型」のメリットが十分
に発揮されるためには、、、「最終報告」が指摘するように「良好な労使関係」が形成され
相互信頼のもとで必要な改革が進められなければならないが、その前提として、透明な
労働条件決定手続きを構築し、職員層の意見が十分に反映されるよう配慮しなければな
らない。
(3)非公務員型における勤務条件決定
「非公務員型」のもとにおいては、勤務条件に関して就業規則を定めなければならな
い。就業規則には、賃金や労働時間、また、休職、解雇、退職、定年などをはじめとす
る勤務条件が規定されなければならない。就業規則は、法人が職員の過半数代表の意見
を聴取して制定することになるが、職員に新たな義務を課したり、また、既存の勤務条
件を不利益に変更することには相当の困難が伴う。このため、労働組合との良好な労使
関係を構築しつつ、労働協約を通じて勤務条件を決定することが必要となろう。
なお、就業規則は、労働基準法上最低条件を意味するだけであるから、これよりも有
利な個別契約を締結することは妨げられない。優れた能力を有する職員に対して特別に
有利な条件を提示することは可能である。
(4)人事制度の検討課題
(a)採用・能力開発教員以外の職員の選考は、国家公務員採用試験制度によるので
はなく、法人が独自に行うこととなる。その場合、とりわけ、公平かつ透明な採用に留
意しなければならない。
「最終報告」は、採用関係事務の効率的な処理や質的水準・公正性の観点から複数の
大学が共同で試験を実施することや、職員の能力の開発・向上のための研修の実施等に
ついても、大学間で協力したり共同して取り組むことが効果的・効率的な場合もあると
指摘する。このようなことにも配慮しつつ、京都大学にとり適切な採用や能力開発、研
修システムを構築しなければならない。
(b)多様な雇用形態教員の採用にあたっては、研究者の相互交流を円滑に進めたり、
若手研究者に対し広く研究機会を与える観点から、任期付契約や勤務日数を短縮した契
約など、多様な雇用形態の利用が積極的に検討されるべきである。また、教員給与に関
しても、任期付で雇用する場合などは、より高い給与の支払いが検討されてよいであろ
う。
なお、外部資金を活用した研究プロジェクト等を推進するための任期付き職員の積極
的活用についても検討されるべきである。
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(c)給与・勤務条件「最終報告」は、今後の人事のあり方として、教員、事務職員、
技術職員等の既存の職種の画一的な区分にとらわれない多様な職種の設定、業績重視の
賃金体系、教員に関する多様な勤務形態などを指摘する。従来の職種区分で生じていた
問題点を是正するとともに、状況の変化にも柔軟に対応できるような職種の設定・運用
を行う必要がある。職種間の異動や、外部あるいは法人内での公募制なども検討される
べきであり、それに対応して必要なルールが就業規則などにおいて明確化される必要が
ある。
また、活力ある事業展開のためには、業績を重視した賃金体系への移行も効果的な手
段の一つとして位置づけられよう。その場合、公正な業績評価を実施する必要がある。
これについては先行する民間企業において必ずしも成功例ばかりでないことから、大学
に相応しい評価システムを慎重に検討する必要がある。教員に関しては、職務遂行の姿
が多様であることから、それに合わせて多様な勤務形態を導入することが検討されるべ
きである。これにつき、労働基準法は多様な労働時間制度の可能性を開いていることか
ら、裁量労働制を含め、京都大学における職務の実情に相応しい労働時間規制を検討す
る必要がある。
(d)兼職・兼業「最終報告」は、大学教員の有する優れた知識や経験等を社会に還
元し、産学官連携の推進や地域社会への貢献等に資する観点から、兼職・兼業規制の大
幅緩和を提言する。京都大学においてもこの方向で検討すべきであるが、国立大学法人
が国費で運営されることとの関係上、本務がおろそかになるような兼職・兼業が許され
ないことは当然である。特に学生に対する教育面での支障を生じたり、大学と教員個人
との利益相反が生じることがないよう、適切かつ明確なガイドラインを設ける必要があ
る。
(e)法人間の異動現在、事務局長及び部課長級の職員については、文部科学大臣の
任命権に基づき全国的な人事異動がなされ、課長補佐級以下の職員についても機関相互
の合意に基づき近畿圏内を中心に人事交流がなされている。法人化によりこれらの職員
はいずれかの法人に固定されるため、従前どおりの人事異動・交流を行うについては困
難を生じ得る。
「最終報告」は、これらの職員については、法人化後、当分の間の過渡的な対応とし
て、他の大学等への異動が可能となるよう、各大学が他大学等と連携・協力し、文部科
学省もこれを支援するなど、運用上の工夫が必要であると指摘する。京都大学において
も、その自律性と主体性に配慮しつつ、円滑な運用について検討する必要がある。
(f)その他非公務員型が選択された場合、労働安全衛生法の適用を受けることから、
同法の求める安全衛生管理体制を整える必要がある。また、労災保険に加入する義務が
生じ、雇用保険についても同様と考えられる。
[ 結語
我が国の社会は激動期を迎えており、教育研究の分野における変化も極めて大きい。国
立大学の法人化が提起されたのは時代の要請ということもできる。国立大学の法人化につ
いていろいろと問題点を指摘できるが、本WGにおいては、「最終報告」を踏まえつつ、
京都大学が、法人化後において京都大学らしさを維持しながらその教育研究をどのように
発展させるべきかを基本的視座として、組織業務(新たな管理運営体制)について検討を
重ねてきた。この報告が今後の京都大学における管理運営に関する議論に何ほどか役立つ
ことがあれば、報告書作成に関わった者にとって望外の幸せである。
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今後は、学長のリーダーシップを基礎に全学のコンセンサスを形成し、教育研究活動を
高度化・活性化することが求められる。その際、教職員、学生に支持される公正な管理運
営体制を構築する必要があることに特に留意する必要がある。他方、国民や社会に開かれ
た大学として、学外有識者の参画を求めるほか、大学運営を透明化し、情報公開を通じて
国民や社会に対して説明責任を尽くさなければならない。
京都大学において部局長等を中心に、このような観点に配慮しつつ、法人化後の新たな
管理運営体制の構築にむけた議論がなされることを期待する。
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第二部目標評価
T はじめに
「最終報告」は、第三者評価に基づく重点投資システム等の競争原理の導入や効率的
運営を図りつつ、高等教育や科学技術・学術研究に対する公的支援を拡充することを提
言している。このために、厳正かつ客観的な第三者評価のシステムを確立し、各大学の
教育研究及び業務運営の実績を検証するとともに、評価結果に基づく重点的な資金配分
の徹底を図るべきであることを強調する。具体的スキームとして、平成16年度の国立
大学法人化への移行に伴って目標・評価システム(中期目標・中期計画の設定とその達
成度評価)が導入される予定であり、国立大学評価委員会(仮称)及び大学評価・学位
授与機構による大学評価を前提として、各大学は@教育研究等の質の向上、A業務運営
の改善及び効率化、B財務内容の改善、C社会に対するアカウンタビリティ、Dその他
の重要事項について中期(6年間)の目標を定め、項目ごとに目標達成のための計画を
作成しなければならない。
上記趣旨の目標・評価システムの導入は基本的に同意できるが、大学評価の方法と評
価結果を資金交付に反映させる方法についてはさらに慎重な検討を要する。大学におけ
る教育研究活動の評価に当たっては、計量的・外形的な基準だけでは適切に評価し難い
面があることや、教育研究活動の中長期的な視点にも十分に留意すべきであるという
「最終報告」の指摘に配慮して制度設計がなされるべきであろう。とりわけ、文系と理
系における評価基準の相違や若手研究者の潜在能力を開花させる適切な評価システムを
開発する必要性についても強調しておく。他方、このような外的状況にも拘わらず、京
都大学においては、大学固有の基本理念と長期的な目標を踏まえ、教育研究の質的向上
と業務運営の持続的改善に真摯に取り組むべきである。計量化されたデータに基づく画
一的な達成度評価を安易に容認して対処するのではなく、基礎的・萌芽的研究や歴史的
・文化的研究等のように、目標達成にリスクを伴うとともに中長期を要する教育研究の
取組みにも配慮しつつ、社会からの要請に応えうる適正レベルの目標設定と計画立案を
図ることが求められるのである。
U 中期目標・中期計画
(1)中期目標・中期計画の作成イメージ
平成16年度の国立大学法人化を想定するとき、「最終報告」に準拠した中期目標・中
期計画の作成とそれに関連した大学評価のスキームに基づき、京都大学としての対応策
を先行的に検討し、大学法人法制定後必要に応じて適宜修正する方法を採ることが最も
現実的である。このような観点から、目標評価・財務会計制度作業部会は、大規模総合
大学にとって中期目標・中期計画をどのように記載するのが適切であるかをイメージし
つつ、京都大学の「中期目標・中期計画記載事項例」(別紙資料3参照)を取りまとめた。
また、第一期の中期目標期間(平成16年度〜21年度)に対応した中期目標・中期計
画の作成にかかる各種作業の日程管理について検討(別紙資料5参照)するとともに、
京都大学における現行の管理運営組織の枠組みを維持しつつ、中期目標・中期計画を作
成する全学組織として「中期目標・中期計画作成準備委員会」の設置を提案した(別紙
資料6参照。)
多数の部局や附置研究所さらには病院等の教育研究施設を擁する大規模総合大学の中
期目標・中期計画は、必然的に膨大かつ多岐にわたる内容にならざるを得ない。このよ
- 1 5 -
うな実情に即して、京都大学の中期目標・中期計画は、文部科学省に提出する「原本」
とともに、全学と部局等にかかる大規模かつ詳細な目標と計画を記述した「大学実施要
綱」の2本立てにすることが適当である。また、とりわけ大規模総合大学における教育
研究の質の向上を図るためには、教育研究基盤施設の整備とメンテナンスは重要課題の
ひとつとなることに留意し、施設整備の有効利用と効率的整備に関する目標とそれを達
成するためにとるべき措置についても、中期目標・中期計画に記載することが必要であ
ろう。
「最終報告」において、中期目標は原則として全学的にわたるもので、主に大きな方
向性を示す内容とし、大学運営の基本方針や大学として重点的に取り組む事項を中心に
記載し、各部局の内容は中期計画の中で記載するものとする。しかし、部局の計画のう
ち重要なもので大学全体に影響を与えると判断されるものは、全学的な目標ないし計画
として取り扱うことが必要であろう。
ともかく、教学の企画立案と実施機能は不可分であるとの観点から、大規模総合大学
の部局等においてはそれぞれ固有の中期目標と一体的に中期計画を企画立案することが
必要である。なお、部局等における中期目標・中期計画の作成に当たっては、全学作成
準備委員会が作成配布するワークシートに記載する方式を採用することにより、全学の
中期目標・中期計画と整合させつつ、作成作業を効果的かつ円滑に進めうると思われる
(ワークシートのイメージ例については、別紙資料7参照。)
(2)中期目標・中期計画と大学評価
各大学は、中期目標期間の最終年度にその達成度について国立大学評価委員会(仮
称)による評価を受けることとされている。この大学評価に先立ち、中期目標の達成度
について種々の外部評価や第三者評価を活用しつつ、各大学は厳正な自己点検・評価を
実施し、国立大学評価委員会(仮称)に報告しなければならない。国立大学評価委員会
(仮称)は、各大学の自己点検・評価に基づき、教育研究に関する事項については専門
的な評価を大学評価・学位授与機構に依頼し、その評価結果を尊重しつつ、国立大学法
人(仮称)の業務運営全体を含めて総合評価するスキームを採用する。
大学評価・学位授与機構は、平成12年度から試行的に全学テーマ別評価、分野別教
育評価及び分野別研究評価を実施中であるが、国立大学の法人化後は、同機構の評価結
果は教育研究経費の配分に直接影響を及ぼすものとして重要な意味をもつことになろう。
大学評価・学位授与機構による現行の評価実施要項を参照すれば、教育研究等の質の向
上に関する目標と計画については、中期目標・中期計画に記載すべき事項の詳細を想定
することが可能である。この点に留意し、「中期目標・中期計画記載事項例」には、大学
評価・学位授与機構による評価項目とそれに関連した評価の観点を例示してある。
中期目標・中期計画の作成については、予算の確保に影響するとの観点から、教育研
究に関する評価項目が注目されがちであるが、業務運営の改善及び効率化や財務内容の
改善のように事務局及び部局事務と一体的に取り組まなければならない評価項目も大き
な比重を占める点に留意しなければならない。組織改善にむけたこれらの取組みの成否
は、組織業務の制度設計とも関係する問題であり、今後の検討を要する。
(3)第一期中期目標・中期計画等の作成スキーム
平成16年度の国立大学法人化に対応して第一期中期目標・中期計画を作成するとき、
その作業内容は時系列として下記のように整理されるであろう。
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(a) 第一期「中期目標・中期計画」作成[平成14年度中に作成準備] 全学及び
部局等において第一期中期目標・中期計画を作成する際には、中期目標に掲げる個々の
項目に関する現況を客観的データに基づいて正確に把握し、教育研究及び組織業務運営
の質的向上と改善に資するとともに、社会からの要請にも適切に対応しうる適正レベル
の目標設定を図らなければならない。また中期計画には、全学及び部局等の社会に対す
るアカウンタビリティの確保から、設定した中期目標を可能な限り実現するための達成
度と達成時期を含む計画の具体的内容を記載することが求められている。
(b) 「年度計画」作成[平成15年度〜20年度の各年度6月まで] 各大学は、
第一期の中期目標期間(平成16年度〜21年度)における各事業年度の業務運営につ
いて、第一期中期計画に基づく「年度計画」を定め、これらを文部科学大臣に届け出る
こととされている。とりわけ「平成16年度計画」については、第一期中期目標・中期
計画の作成作業と併せて、平成15年6月までに作成する必要がある。各事業年度にお
ける業務実績については大学評価委員会による評価を受けることとされているため、6
年間の中期計画に比べると、「年度計画」には、当該年度中における中期目標達成レベル
をより具体的に記載することとなろう。なお、「最終報告」は、期間中の中期目標や中期
計画の見直しについて、大学からの意見提出や申請等に応じ、文部科学省は年度を単位
に可能な限り柔軟に対応するとしている。
(c) 「各年度の業務実績評価フォーマット」作成[平成16年度〜21年度の各年
度末] 各大学は、各事業年度における業務の実績について、主として中期目標達成へ
の事業の進捗状況を確認する観点から、国立大学評価委員会(仮称)の評価を受けるこ
ととされている。この評価は、一定のフォーマットにより収集した情報に基づいて実施
されるなど、各大学にとって過度の負担とならないよう配慮されるようである。各大学
においては、国立大学評価委員会(仮称)による各事業年度の業務実績の評価結果を活
用し、自主的に業務運営の改善等を図ることが求められており、翌年度の「年度計画」
に反映させることによって、発展的かつ現実的な計画内容となるよう配慮しなければな
らない。
(d) 第一期中期目標の達成度に関する自己点検・評価[平成20年度中に着手]
前述のとおり、各大学は、中期目標期間の最終年度にその達成度について国立大学評価
委員会(仮称)による評価を受けることとされ、これに先立ち、中期目標の達成度につ
いて種々の外部評価や第三者評価を活用しつつ、厳正な自己点検・評価を実施し、国立
大学評価委員会(仮称)に報告しなければならない。したがって、第一期の中期目標期
間は平成21年度まで継続するが、その達成度に関する自己点検・評価の作業は、平成
20年度中に着手することとなるであろう。また、この作業と併行して第二期中期目標
・中期計画の作成にも取り組まなければならない。
国立大学評価委員会(仮称)及び大学評価(e) 大学評価の結果に対する意見申立
・学位授与機構は、中期目標期間の後、最終的な評価を決定する前に、評価結果を大学
に示して意見申立の機会を設けることとされている。評価の観点は一義的ではなく多様
であることから、意見申立のための適切な評価指標を設定するとともに、その根拠デー
タを示すことが必要である。
V 大学情報の収集・分析体制
前述の国立大学法人化に伴う中期目標・中期計画の作成と中期目標の達成度に関する
大学評価に対処するためには、評価データに関連した大学情報全般を恒常的に収集・分
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析する学内支援組織が必須であり、平成14年3月5日、「京都大学大学情報収集・分析
センター(以下「センター」という。) ) 」が設置された(別紙資料4参照。
このセンターは、京都大学に蓄積されている多様な大学情報(数値データ、活字デー
タ、図版データ、物的・人的資源所在データ)の恒常的な収集・分析活動を通じて、全
学及び部局等による中期目標・中期計画の企画立案と作成、さらには自己点検・評価、
外部評価及び第三者評価の実施に際して、中期目標・中期計画の記載事項に関連した大
学情報を提供するとともに、京都大学及び部局等の基本理念や長期目標に合致した適切
な評価指標の設定について助言する支援組織となることが期待される。
W 結語
国立大学の法人化を契機として導入される中期目標・中期計画の作成と中期目標の達
成度評価のシステムは、社会の期待や要請に応えうる国立大学を指向した自律的かつ持
続的な改善活動を促し、所期の目標である大学改革の達成に資することを企図している。
このような大学改革の取組み努力に一定のインセンティブを付与する観点もあって、目
標の達成度評価の結果を資金配分に反映させるスキームが強調されるあまり、大学改革
の本筋をやや離れて、法人化後の資金配分の在り方に過度の関心がむけられてしまって
いるとすれば問題である。教育研究の高度化に真に資するための適切な競争原理による
重点投資システムの導入は、今後の国立大学法人にとって経営基盤を支える重要な要素
のひとつになることは明らかである。教育研究の質的向上はいうまでもなく、業務運営
の改善及び効率化や財務内容の改善等についても本格的に取り組む体制を整備しておく
必要がある。それとともに、大学の運営や教育研究の実績に関し、社会への積極的な情
報提供が強く求められている点にも留意すべきである。
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第三部財務会計制度
T はじめに
「最終報告」で示された財務会計制度の改革の詳細については不明な点が多いため、
目標評価・財務会計制度作業部会においては、現段階で対処しうる「中期目標・中期計
画のイメージ例」の編成作業を中心に検討を進めることとし、今後、財務会計にかかる
諸制度の具体像が明らかにされた段階で詳細な検討に着手する際の参照資料として活用
すべく、以下のとおり留意点の整理等を行った。
U 会計制度の設計
(1)中期計画と予算
「最終報告」では、国は、資金交付に当たっては、原則として中期計画に記載された
事業等の実施を前提とするものの、必要に応じ中期計画の変更を行いつつ、各年度の財政
状況、社会状況等を総合的に勘案し弾力的・機動的に措置するものとする。
予算措置の手法については、基本的には中期計画において中期目標期間中の予算額確
定のためのルールを定め、各年度の予算編成においてルールの具体的適用を図る「ルー
ル型」とするとしている。そして、この「ルール型」の手法は、事前のルールに従った
算定にはなじまない経費についても適切に対応しうる手法とするとされている。しかし、
「最終報告」において、。「ルール型」の詳細は明らかにされていない「最終報告」でい
う「ルール型」の手法がどのような制度として構築されるのか、とりわけ事前のルール
に従った算定が困難なケースにも適切に対応しうるとされる手法がどのような制度とし
て具体化されることになるのか、今後注意深く見守る必要がある。
「ルール型」の手法の円滑かつ公正な運用を図るためには、明確で分かりやすい標準
的ルール等を文部科学省等において作成するとともに、これを事前に各大学関係者に周
知徹底することが、不可欠の前提となるであろう。また、各大学においては、「ルール
型」の手法に対応した予算編成の詳細にかかる内規やマニュアルを事前に準備すること
が必要となろう。いずれにせよ、予算措置にかかる「ルール型」の手法は、大学におけ
る財政運営の効率化と透明化に資することを第一義的な目的とするものであって、大学
の自主性を過度に制約するものであってはならない。
(2)運営費交付金
運営費交付金等の算定基準や算定方法については、とりわけ不明な点が多い。@学生
数以外の客観的な指標、A研究所・研究センター(以下「研究所等」という。)に対する
措置、B弾力的な運営費交付金の算定方法等がどのように構築され、制度化されること
になるのか、今後慎重な見極めを要する。とりわけ、「最終報告」は、研究所等の運営に
ついて特定運営費交付金を充てることを考えているようであるが、既存の大型設備の維
持・改良、先端プロジェクト型研究の効果的遂行等に配慮する必要があろう。
また、「最終報告」では、競争的環境の醸成及び各大学の個性ある発展を促進する観点
から、中期計画終了後、各大学に対する第三者評価の結果等を運営費交付金の算定に反
映させるとしているが、その具体的な方法や手続きは明らかにされていない。こうした
評価連動型制度の円滑かつ公正な運用を図るためには、その具体的な方法や手続きを予
め大学及び国民に対して明確に提示することが不可欠の前提となる。
運営費交付金の算定及び学内配分に際しては、当分の間は前年度実績が考慮されるで
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あろうが、中長期的には全学の中期目標・中期計画の内容及び中期目標の達成度評価の
結果が相対的に重視されるようになるものと予想される。しかし、そのような場合にお
いても、達成度評価にはなじみ難い基礎的・萌芽的研究や歴史的・文化的価値の高い研
究等を支える制度をどのように確保するかについて、十分配慮する必要がある。
また、「最終報告」では、運営費交付金は、使途を特定せず各大学の判断で弾力的に執
行することができ、年度間の繰越しも可能であるとされている。このような弾力的な制度
設計の趣旨を十分に理解し、効果的に活用する必要があろう。
(3)学生納付金
「最終報告」では、学生納付金については、国が一定の納付金額の範囲を示し、各大
学がその範囲内で具体的な額を設定することとしている。しかし、学部間で異なる納付
金額を設定することができるかどうかなど、その詳細は明らかでない。
ちなみに、私立大学においては、学生1人当たりの教育コストをある程度反映させた
学部別学生納付金制度がすでに一般化している。大学運営の自主性を促す観点からは、
納付金制度の緩和を進めつつ、学部ごとの具体的な金額の決定は各大学または各学部に
委ねるという方策を採ることも考えられるのではなかろうか。
(4)自己収入の取扱い
「最終報告」では、各大学が自己努力により剰余金を生じた場合には、あらかじめ中
期計画において認められた使途に充てることができるとしているが、中間報告に対する
本WGのコメントにおいても述べたように、剰余金の使途を「あらかじめ中期計画にお
いて認められた使途」に限定するのではなく、中期計画から切り離した自主財源とし
ても運用できるようにすることが望ましい。それを可能にする具体的な方途とし
て、剰余金や寄附金等を、大学独自の奨学金、研究費補助金、設備整備費等に利用可能
な基本金に組み入れる基本金組入会計制度(基本金制度)の創設が考えられる。他方、
ある事業年度に業務コストの低減に成功し、剰余金を計上し得たとしても、それが翌年
度の運営費交付金に対する減額理由とされる可能性もあり、その取扱い等の詳細につい
ては慎重な見極めを要する。
なお、独立行政法人会計基準に基づく行政コストの認識に際しては、恣意性の排除を
理由に、学生数等の客観的な外形基準の利用を基本とする方向で、現在検討が進んでい
るようである。しかし、学生定員を有さない研究所等の事例を見れば明らかなように、
学生数等の外形基準のみでは、国立大学の行政コストを適正に認識することはできない。
国立大学の行政コストの認識に当たっては、外形基準以外の基準の併用も考慮されるべ
きである。
なお、「最終報告」は、寄附金等の自己収入については、原則として運営費交付金とは
別に経理し、運営費交付金の算出に反映させないとしている。京都大学として積極的に外
部資金(競争的資金、寄附金等)を導入するための組織の強化、さらには、同窓会組織の
結成とその活動支援などを検討するべきである。
(5)施設整備費
国立大学における自主的・自律的な教育研究活動の基盤をなす諸施設は、大学の業務
運営に必須の重要資産である。このような施設の整備及び経常的メンテナンスを効果的
かつ効率的に進めるためには、今後、国から交付される施設整備費のみならず、競争的
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資金、寄附、PFI等、多様な財源を積極的に活用する必要がある。PFI方式による
施設整備やメンテナンスの対象を選定するに当たっては、業務のアウトソーシングも視
野に入れつつ、多様な可能性が検討されるべきであろう。
(6)不用財産処分
「最終報告」では、移転整備及び附属病院整備にかかる長期借入や不用財産処分収入
の処理等を行うために共同の「システム」を構築するとし、その具体案として、国立学
校財務センターの活用を検討するとしている。こうした共同の「システム」を円滑に機
能させるためには、不用財産の処分にかかる権利義務関係や意思決定の主体等を事前に
明確にしておく必要があろう。
(7)施設整備の仕組み
運営費交付金の算定や学内配分と同様に、施設整備についても、基本的には中期目標
・中期計画に沿った仕組みが設計されることとなろう。
(8)土地・建物等
「最終報告」では、土地・建物にかかる移行時の措置について、各大学が法人化移行
前に現に利用に供している土地・建物は、処分が適当と考えられるものを除き、各大学
の財産的基礎を確立する観点から、原則として現物出資(又は無償貸与)するものとし
ている。しかし、@処分が適当と考えられるものをどう確定するのか、A土地・建物の
処分の実質的裁量はどの程度可能なのか、B現物出資(又は無償貸与)はどのように確
保されるのか、C現物出資と無償貸与の相違は何かといった点は、明らかにされていな
い。
いずれにせよ、法人化移行後は、土地・建物の維持管理は、基本的には国立大学法人
の負担で行うことになるものと考えられる。国立大学法人にとっては、そのための費用
を捻出することが必要となるだけでなく、土地・建物の保有にかかるリスクの管理に関
するスキルを蓄積することも必要となる。また、ペイオフの解禁問題との関係では、大
学が保有する現金資産のリスク管理が重要課題となる。規制緩和と大学の裁量範囲の拡
大に付随して生じるこうしたリスクの管理体制を早急に整備する必要があろう。
(9)長期借入金債務
「最終報告」では、現在、国立学校特別会計が有している長期借入金債務については、
前述の「システム」に継承させ、同「システム」が附属病院を有する大学からの拠出金
を取りまとめて償還する仕組みを検討するとしている。具体的なスキームはなお明らか
でないが、その制度設計に当たっては、各大学病院の再開発や高度医療機器の購入が国
の施策として行われてきたことや、本来、文部科学省(旧文部省)の予算で賄われるべ
き資金が、財政投融資からの借入金によって賄われてきたことに留意する必要がある。
いずれにせよ、今後は病院長のリーダーシップのもとに関係者のコンセンサスを形成し
ながら、法人化のメリットを最大限に生かした様々な改善を図り、附属病院の財政的な
安定を目指す必要がある。
(10)会計基準等
「最終報告」は、国立大学法人に適用する会計制度については、「独立行政法人会計基
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準」を参考としつつ、大学の特性を踏まえた取扱いとすべきであるとしているが、どの
程度大学の特性を踏まえた会計基準になるかは、なお不明である。とはいえ、独立行政
法人会計基準は、現在のところ国立大学法人会計の在り方を考えるうえでは、最も参考
になりうる制度である。財務会計制度の設計作業は、独立行政法人会計基準の準用を前
提に進められるべきであろう。
(11)会計監査人による監査
「最終報告」は、大学の規模に関わらず、社会に対するアカウンタビリティ等の観点
から、全ての大学は会計監査人の監査を受けるべきであるとしている。これは、公認会
計士による監査を、原則としてすべての国立大学法人に導入するという趣旨であろう。
その際、どのような種類の監査を、どのレベルで実施するかが問題となる。とりわけ、
当該監査が、財務諸表監査に限定されるのか、それとも業績監査をも含むのかが、重要
な問題となる。また、会計監査人と監事の関係も整理しておく必要がある。
公認会計士については、これを単に会計監査人として活用するだけでなく、必要に応
じて経営コンサルタントとして活用することも考えられる。法人化に伴い法務及び税務、
さらにはリスク管理等、高度の専門性を要する業務が飛躍的に増大するものと予想され
ることから、公認会計士を大学法人のガバナンスに効率的に活用するスキルの蓄積が重
要となろう。
V 結語
国立大学法人化は、行財政改革の視点を越えた、21世紀の「知」の時代に相応しい
新しい大学づくりをめざす大学改革の一環として検討されてきた。法人化後の財務会計
制度については、こうした国立大学法人化の趣旨を十分に踏まえた制度づくりを進める
ことが重要である。「最終報告」で示された改革の基本内容からすれば、国立大学法人制
度は、経営面における大学の裁量が大幅に拡大するというメリットを積極的に活用でき
る反面、業務の効率的運営に努め、財務内容の安定化と透明性の確保を自主的に図るこ
とが必須になるなど、大学運営における自己責任体制を早急に確立することが避けて通
れない重要な課題となる。今後、大学の特性に配慮しつつ、目標の達成とアカウンタビ
リティの強化にむけた独自の取組みが活かせる弾力的な財務会計制度を構築・整備する
ことが望まれる。
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大学法人化に関する調査検討のためのワーキンググループ検討経緯
全体WG
第1回( 9月4日)−大学法人化とこれに対する京都大学の対応等について
第2回( 9月18日)−WGの設置目的と作業日程の確認、部会の設置について
第3回(10月16日)−文科省・調査検討会議中間報告のコメント案について
第4回(11月26日)−各部会の進捗状況と今後のスケジュール等について
第5回( 1月22日)−各部会における検討結果と今後の進め方について
第6回( 1月29日)−第1期中期目標・中期計画の作成手続き、特に関連学内委員
会との調整ないし学内委員会の整理統合問題を検討
第7回( 2月22日)−報告書案の検討(最終報告は起草委員会に一任)
組織業務・人事制度作業部会
第1回(10月3日)−作業日程の確定、組織業務に係る問題点の整理・役員組織と
出資事業の検討
第2回(10月11日)−役員組織と管理運営問題の検討
第3回(10月30日)−組織業務に係る京都大学の現状と問題点の検討
第4回(11月14日)−部局と全学運営組織との関係
第5回(12月4日)−全学の管理運営の在り方、役員の身分の検討
第6回(12月18日)−総長選挙制度、総長任期の検討
第7回( 1月9日)−事務機構の在り方等の検討
目標評価・財務会計制度作業部会
第1回(10月1日)−中間報告の検討
第2回(10月9日)−中間報告の検討
第3回(10月23日)−中期目標の項目案について、松尾案も参照して検討、病院中
期目標の紹介
第4回(11月5日)−過去の関係答申等を集約した資料をもとに意見交換
第5回(12月4日)−中期目標・中期計画の記載例案の提示・検討
第6回(12月25日)−中期目標・中期計画の記載例案について、大臣策定用原本と
大学実施要綱の分離について検討
第7回( 1月9日)−中期目標・中期計画の記載例の取りまとめ作業
WGの検討結果(報告書)取りまとめのための起草委員会
第1回( 1月16日)−各部会における検討結果と今後の進め方の確認
第2回( 1月25日)−組織業務の論点整理(総長選考、役員会、評議会等)
第3回( 2月4日)−第1期中期目標・中期計画の作成手続き等の検討
第4回( 2月7日)−組織業務の論点整理(全般)
第5回( 2月14日)−報告書案の検討
第6回( 3月1日)−報告書案の検討(最終的取りまとめ)
第7回( 3月29日)−「最終報告」に配慮して必要な加筆訂正等
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大学法人化に関する調査検討のためのワーキンググループ委員名簿
所属官職氏名備考
総長補佐森本滋座長
総合人間学部教授林哲介
文学部教授杉山正明
法学部教授真渕勝
経済学部教授藤井秀樹
理学部教授笹尾登
医学部教授中村孝志
工学部教授西本清一
農学部教授矢野秀雄
エネルギー理工学研究所教授吉川潔
事務局長本間政雄
企画調整官川本幸彦
総務部長富張実
経理部長小林和久
大学法人化に関する調査検討のためのワーキンググループ
組織業務・人事制度作業部会委員名簿
所属官職氏名備考
総長補佐森本滋主査
総合人間学部教授林哲介
文学部教授杉山正明
理学部教授笹尾登
法学部教授岡村周一
情報学研究科教授森広芳照
事務局長本間政雄
企画調整官川本幸彦
総務部長富張実
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大学法人化に関する調査検討のためのワーキンググループ
目標評価・財務会計制度作業部会委員名簿
所属官職氏名備考
工学部教授西本清一主査
法学部教授真渕勝
経済学部教授藤井秀樹
医学部教授中村孝志
農学部教授矢野秀雄
エネルギー理工学研究所教授吉川潔
企画調整官川本幸彦
経理部長小林和久
大学法人化に関する調査検討のためのワーキンググループ
WGの検討結果(報告書)取りまとめのための起草委員会委員名簿
所属官職氏名備考
総長補佐森本滋
総合人間学部教授林哲介
経済学部教授藤井秀樹
理学部教授笹尾登
工学部教授西本清一
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