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独行法反対首都圏ネットワーク

☆福井大学の教授会見解
 
[reform:04087] 福井大学の教授会見解.
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福井大学の森透です。
先月の3月15日に教育地域科学部の教授会見解を合意しましたので、報告します。
長文ですが、お読みいただければ幸いです。

見解をまとめるにあたって

福井大学教育地域科学部教授会

戦後改革において地域の文化創造と民主社会実現の礎として全都道府県に設置された
国立大学の教育系学部は、今、岐路に立っている。「国立の教員養成系大学・学部の
在り方に関する懇談会」が打ち出した県域を越えた「再編・統合」案は、それが進め
られるならば、否応なく地域と教育系学部とを引き離すものとならざるを得ない。教
育系学部が、広域統合によって地域から離れ、大規模化し内部において専門分化した
形をめざすのか、地域に根ざし、地域の学校と協働して学校改革に取り組む実践的な
研究・教育拠点として、広く内外にネットワークを結んでいく途を選ぶのか。それは
教育系学部・大学院のあり方の選択であるとともに、教育改革・学校改革の帰趨を左
右するものとならざるをえない。そうであればこそ、教育改革を求める広範な世論に
耳を傾け、戦後の教員養成・教師教育の実践と研究の歴史的な展開を踏まえ、さらに
は教師教育改革の世界的な動向にも学びながら、21世紀の日本の教師教育改革のデザ
インを選び取っていくことが求められる。この見解は、そのためにまとめられた。前
半では、「在り方懇談会」の「再編・統合」案に対する世論の動向、戦後改・uア廖
w)以後の教師教育の歴史、そして1980年代後半以降大きく進んでいく学校と大学の協
働を軸とする世界的な教師教育改革の展開を跡づける。後半では、そうした検討をふ
まえ、地域の教育改革を支える教育・研究の拠点であり、ネットワークの拠点として
の教育系学部・大学院のあり方を提起する。その上で、福井大学教育地域科学部にお
いて積み重ねてきた実践をふまえ、教師教育改革のための具体的な課題を確認してい
く。ここで提起していく改革の基本的な方向は次のようなものである。より質の高い
学習をすべての人々に生涯にわたって保障すること、そして、現在の学校が直面して
いる問題を打開しゆたかな学び合う共同体として再構築していくことは、21世紀の社
会の重要な課題である。そのためには、地域の学校改革と開かれた高等教育の実現が
求められる。大学における教師教育改革は両者をつなぐ重要な環をなしている。教育
改革の実現のためには、学校・行政・地域・大学が協働し、実践と研究を進めていく
ことが不可欠である。教育系学部・大学院は、地域における改革のための協働を支
え、教師の生涯にわたる実践的な力量形成を支える研究・教育の拠点、そのァw)優・
uチトワークの拠点として、自己改革を進めていくことが求められる。教師の実践的
力量形成を支える専門大学院の実現はその核であり、プロジェクトとネットワークを
基調とする組織とカリキュラムへの転換が、改革の基本的なデザインである。なお、
地域や行政との協働、地域を支える広範な人々の実践や学習と学部・大学院の関わり
については、地域の学校改革をめざす上でも重要な課題である。この点については、
2001年10月の福井大学教育地域科学部教授会見解「地域に根ざし 開かれた教育・学
術・研究の拠点としての教育地域科学部のあり方」において論じている。














21世紀における日本の教師教育改革のデザイン
地域の教育改革を支えるネットワークと協働のセンター

2002.3.15
福井大学教育地域科学部教授会見解

T 戦後の教師教育改革の展開と「在り方懇談会」報告
1.  戦後改革と大学における教員養成
2. 「目的大学化」と「開放制」
3.  学校改革を支える教師教育改革の展開
4. 「在り方懇談会」報告の問題

U 21世紀への教育改革と教師教育改革
1.  21世紀の教育 その基本的方向
2.  教師教育のモデルの転換
3. 学校改革を支える学部・大学院のデザイン

V 福井大学教育地域科学部における教師教育改革の実践と構想
1.  地域に根ざし開かれた学部のあり方 
2.  改革のための共同研究と専門大学院
3.  共同を支える組織とネットワーク
4.  探究と実践の力を培う学部教育の改革
5.  学部間・大学間の協働と世界的なネットワーク
6.  自己改革し続けるための組織づくり


21世紀における日本の教師教育改革のデザイン


地域の教育改革を支えるネットワークと協働のセンター

2002.3.15
福井大学教育地域科学部教授会 見解


2001年11月22日、国立の教員養成系大学・学部の在り方に関する懇談会(以下「在り
方懇談会」)の報告が明らかにされた 。そこでは各都道府県に置かれている「教員養
成系大学・学部」を、県域を越えて「再編・統合」するという方向が打ち出されてい
る。この提起に対しては、多くの新聞が慎重な、あるいは批判的な立場から問題提起
を行っている。朝日新聞は「自治体や教委、学校関係者らの声に十分耳を傾けてもら
いたい」 とし、読売新聞は「地域への影響は計り知れない」 と述べている。多くの
地方紙は「『地域』の視点が欠けている」とその問題を指摘し、「地域の教育支援機
能をつぶすようなことでは将来に禍根を残す」と懸念を示している 。
また中日新聞は「教員養成大学 再編統合と言う前に」と題する11月24日の社説で次
のように述べている。

「分権の時代にふさわしい学校教育は、全国一律の基本教科に加え、それぞれの地域
の特性をふまえ、地域の産業や文化の担い手を育てる教育課程を用意したい。そのた
めの人材育成を考えると、教育大学、学部があまり地域から遠くへ離れるのはどんな
ものか。
 教育学部の役割は教員養成にとどまらない。社会教育や生涯学習の運営、地域文化
施設の経営に当たる職員の養成や研修もある。こうした機能は、これから一層、充実
が求められるはずだ。
 教育大学、学部の再編統合を進める前に、近い将来、教員養成に求められるであろ
う状況をふまえ、適正な規模や配置、教育内容について、住民参加で十分議論してほ
しい。
 小泉純一郎首相のいう「米百俵」の精神をいまの時代に生かすには、教育、なかで
も子どもと直接かかわる教員の養成は大切だ。なるべく広い視野から考えてもらいた
い。」

そして福井新聞は12月3日の社説(「教員養成大統合『改革の名の愚策』に歯止め
を」)の中で次のように課題を提起している。

「養成大・学部の機能は、単に教員養成だけにあるわけではない。現職教員の質を向
上させるための大学院などでの研修や、地域の特色に応じたカリキュラムづくりな
ど、地域の支援という役割も持っている。
 先生が、大学で学んだだけの知識で、一生通用する時代は終わった。教育環境が激
しく変わる中で、先生も学び続けなければ、子どもの変化についていけなくなってい
る。現在の養成大・学部は、働きながら学ぶ現職教員の再教育の場としても、重要な
機能を担っていることを忘れてはいけない。
 地域や学校支援の機能も無視できない。大学・学校・教育委員会が手を結び、大学
が学校や地域に支援講師を派遣し成果を挙げつつある事例も聞く。不登校、学級崩
壊、そして『みずから学び、考える力を育てる』という教育観の転換の中で、学校現
場が抱える困難な課題を考えれば、養成大・学部を、地域を支える資源として再生さ
せることの方が大切だ。教委・学校・大学が固く手を結ぶためには、三者が近くに存
在して日常的に支え合うことが不可欠だろう。」

再編統合・広域ブロック化は、必然的に地域から教育系学部を引き離し、そうした拠
点を持たない県を生み出さざるを得ない。こうした「在り方懇談会」の方向に対し
て、世論は「地域の視点が欠けている」としてこれを批判し、「地域の教育支援機
能」の強化を教育系学部に求めている。生涯にわたる教師の学習と研究を支えるこ
と、また学校で起こっている問題に立ち向かい新しい教育を実現していくために大学
が学校・行政と協働していくことが、そこでは課題として提起されている。教育改革
を求め、地域の教育支援機能の充実を求める世論を、教育系学部・大学は重く受け止
め、主体的な改革を進めていかなくてはならない。

福井大学教育地域科学部の教師教育改革への取り組み
「在り方懇談会」は2000年8月に発足したが、同年9月に福井大学教育地域科学部は
「地域の教育改革を支える拠点としての教育系学部・大学院のあり方」 (以下「第一
見解」)を明らかにした。また、こうした方向のもとに、現職教員のための公開講
座、そして学校と大学が協働して学校改革を進めていくことを軸とする新しい形態の
大学院・学校改革実践研究コース、現職教師のための夜間大学院を実現してきた。
2001年10月には、地域と協働する教育地域科学部のあり方を示す「地域に根ざし 開
かれた教育・学術・研究の拠点としての教育地域科学部のあり方」 (以下「第二見
解」)を明らかにしている。2000年秋に、「地域の教育改革を支える拠点としての教
育系学部・大学院のあり方」を提起した「第一見解」は、当時の「在り方懇談会」の
議論や日本教育大学協会の取り組みに反映されるには至らなかったが、現在の、ブ
ロック化に抗する広範な世論と、そこで求められている養成学部の機能に関わる課題
提起は、本学部の見解、そしてそれをふまえた取り組みと、方向性を一にしている。
 「在り方懇談会」が選択した、地域から教育系学部を切り離す統合・広域ブロック
化の方向を採るか、地域に根ざし地域の教育改革を支える実践的な教育系学部・大学
院を実現し、それを開かれたネットワークの中で活かしていく途をめざすか。その選
択は、単に教育系学部の問題という以上に、今後21世紀の教師教育、そして教育改革
全体の展開を左右するものとならざるを得ない。少なくともそれが教員養成の枠組み
の抜本的に組み替えとなる以上、戦後における教員養成の歴史的な展開を省察し、ま
た急速に進む教師教育改革の世界的な動向にも学びながら、改革のあるべき方向を見
定めていくことが求められる。この見解は、そのためにまとめられた。
 Tでは、戦後の教員養成の展開と、1980年代後半以降急速に進んでいくアメリカに
おける教師教育改革の展開を跡づけ、現在の教育系学部・大学院の改革をめぐる議論
の背景と課題を明らかにしていく。
 Uでは、地域の教育改革を支える、新しい教育系学部・大学院のデザインを明らか
にする。地域との多重のネットワーク、共同研究プロジェクトを基盤に、教育・研究
組織の抜本的な再編を図り、教育改革の実現をめざす現職教師に広く開かれた専門大
学院を基軸とする構成が提起される。
 Vでは、そうしたデザインを共有して進められている福井大学教育地域科学部の改
革構想とその実践、そして今後の展開への構想を明らかにする。


T 戦後の教師教育改革の展開と
「在り方懇談会」報告

1. 戦後改革と大学における教員養成

戦後教育改革の中で、教員養成改革は、「人格の完成」を目的に掲げる新しい教育理
念、6-3-3-4制の実現、地方教育委員会の創出と並んでもっとも重要な、そして対立
が際だった論点であった。近代日本の学校制度の形成を支えてきた戦前の師範学校
は、ペスタロッチ主義・開発主義の教育をめざして出発し、大正期の自由教育の起点
ともなったが、同時に教育勅語に象徴される教学体制の基軸でもあった。「順良・信
愛・威重」、兵式体操、服務義務規定、寄宿舎制に象徴される「閉鎖性」は、大正期
以後の教育改革の中でも批判が強まっていくが、戦後改革においてその抜本的な改革
がめざされた 。
 戦後の教育の枠組みを決めた教育刷新委員会・教育刷新審議会で中心的な役割を果
たした南原繁は、1955年の論稿「日本における教育改革」(朝日新聞社編『明日をど
う生きる』朝日新聞社,1955)においてその改革をふりかえり、三つの重点について
語っている。第一は、「民主化」の実現のために中等教育段階の旧制高校を頂点とす
る「差別的・階層的な制度」を打破し、大学をすべての人々に開かれたものとするこ
とであり、第二は大学における教員養成の実現であり、第三は地方教育委員会制度の
創出である。第一の論点に関わって、南原は「大学はもはや少数の特権的階級をつく
るためでなく、広く国民の大学としての役目を果たすであろう」とし、地方の新しい
大学に文化発展と民主主義社会実現への期待を寄せている。

「かような大学がおのおのの地方に設立されるときに、これまで学問や文化の世界に
おいてもみられた中央集中的傾向に対して、将来、全国を通じて、それぞれの地方文
化の発展が見られるであろう。(中略)その地方にあって大学教育を受け得ること、そ
して多くその地方の教育や産業に従事しつつあることは、将来、日本の民主化と新し
い社会の開拓に寄与せずには措かないであろう。」

 第二の教員養成に関わる問題について刷新委員会での議論 を南原は次のように回
想している。その箇所の全文は以下の通りである。

「いま一つ、わが学制改革において大きな問題は、教員養成機関、すなわち在来の師
範教育をいかにするか、ということであった。そして、委員会においても、最も議論
の分れたのは、この問題についてであった。なぜならば旧師範学校は長い間、県立の
中等学校の一種に過ぎず、それが文部省所管の国立専門学校に昇格したのは、最近の
昭和十八年であった。したがって、いまこれを大学に編成替することに対して、多く
の疑義と反対のあったことは、当然といわなければならない。
しかし、他の改革は別としても、未来の日本を担う少国民の教育こそ、原則として、
最高の学府の課程を修めたものをして当たらしめるに、充分の理由がある。もとよ
り、それには彼らにふさわしい社会的待遇も伴わなければならず、またこれを養成す
る教授陣容などの点から見て、その理想の完成には時を要するとしても、それこそ再
建の要石であると、結局、私たちは考えたのである。そのためには、明治以来長い
間、あまりにも特殊の型にはまったいわゆる「師範教育」を払拭して、豊かな一般教
育を授け、成るべく他の学部をもった「大学」の自由の雰囲気の中に教育すること
が、何よりもの急務である。しかるとき、各府県に大学が必要であり、各地方に存在
する旧専門学校と統合して考えるときに、全国を通じて、新たに国立大学の数の増加
することは、また必然といわなければならない。」
 
敗戦後の混乱の中で、地方の国立大学を創出し、大学における教員養成の実現を決め
た刷新委員会の判断、その議論の底流にあって共有されていた志向を南原は伝えよう
としている。
しかし、南原の回想でも言及されているように、大学における教員養成の決定に至る
委員会における議論は曲折を重ねることになる。戦前において、長く師範学校が中学
校と並行する中等教育機関として位置づけられてきていた経緯があり、1943年によう
やく専門学校化されたばかりの師範学校を、そのわずか2年後に、大学とすることに
対しては強い抵抗が働くことになる。
これに、旧制高校や文理科大学の問題も絡んで、大学における教員養成のあり方、そ
の内実をめぐっては意見が複雑に分かれることになる。旧制高校の独自の大学化をめ
ざしていた委員と、大学段階での教員養成の実現をめざす教員養成関係の委員、旧制
高校・旧制師範等の複雑な旧制度の温存を廃して6-3-3-4制を打ち立てることを優先
する委員の意見が輻輳し、議論は行きつ戻りつを繰り返している。この問題は総会で
の議論を受けて1946年11月から12月にかけて第5特別委員会で集中的に議論される
が、その中では総合大学において実験学校等を有する教育学部・教育学科を設け教員
養成を行うという方向で議論の集約がめざされる 。しかし、とりわけ総会における
議論は、繰り返し旧制師範学校・旧制高校、そして旧制大学文学部教育学科の経験と
イメージに立ち戻り、Teachers collegeの展開をふまえた新しい教育学部のイメージ
を刷新委員会として共有するには至らなかった。結果的に、大学における「教員養
成」は、旧制の師範・高校・大学、そしてTeachers collegeやLiberal art college
のそれぞれのイメージが、あい・u「沺w)いに併存するような形で出発することにな
る。「教員養成を主とする」単科の学芸大学、地方大学における学芸学部・教育学部
が各県に新設され、旧高等師範学校や旧制帝国大学を前身とする大学の多くに、教育
に関わる研究を中心とする教育学部が新設される。
刷新委員会に先立つアメリカ教育使節団報告では、旧制度において、教職の専門性に
関わる教育が「初等学校教師のごく一部だけに限って与えられており、他の教師には
ほとんどまったく与えられていない」こと、また教育行政に関わる職員にもそれが欠
けていることが問題として指摘され、すべての教師、また教育行政に関わる職員や管
理職を含めて専門的な教育の必要性が強調されていた 。しかし、この提起は、刷新
委員会の議論の中では十分に酌み取られることはなかった。稲垣忠彦は、1998年の論
文の中で刷新委員会の議論について、「教員養成において形成されるプロフェッショ
ナルな学識の内容に関する論議、とりわけ専門性とそこで同時に求められる学問性と
の関連の検討が不十分なままに新しい制度が制定された」と評価している 。

2. 「目的大学化」と「開放制」

「目的大学化」と「開放制」の対立
新制大学、そして学芸学部(大学)・教育学部は、1949年に発足する。50年代には、新
しい教育をめざした学校と大学との共同研究が授業研究を中心として展開されてい
く。
1953年、新制大学は最初の卒業生を送り出すが、新制中学の創出期にともなう教員採
用のピークはすでに過ぎ、50年代後半には早くも制度の見直しが議論されることにな
る。1958年の中央審議会答申「教員養成制度の改善方策について」、1962年の教育職
員養成審議会「教員養成制度の改善について」とその後の国立大学設置法の改正、
「学科目省令化」に至る展開の中で、教員養成のあり方、とりわけ「開放制」の問題
が再び大きな論争となる。「教員の養成は、国の定める基準によって大学において行
うものとする。この基準に基づき必要に応じて国は教員養成を目的とする大学を設置
し、または公私立大学については認定する。」とする中央教育審議会の答申と、それ
にもとづく一連の政策化に対しては、それが「開放制」を否定し、戦前の師範学校へ
の回帰をめざすものではないかという疑念、そして大学における学問の自由と自治を
脅かし国家統制を強めるものであるとする批判が集中する。この時期以降、中教審答
申以後の「目的大学化」対「開放制」という対立図式が教員養成制度をめぐる主要な
枠組みとなる。
こうした対立のなかで、1965年に東北大学から宮城教育大学が分離される。また1972
年の教員養成審議会の答申を受けて、「目的大学化」対「開放制」の構図のもとで賛
否両論が戦わされるなか、1970年代末から現職教育を目的とする大学院を中心とする
3つの単科教育大学が新設される。こうした教育大学は、小学校教員養成の充実、教
科教育学・教授学の実現を課題とし、そして現職教員のための大学院を重要な役割と
して位置づけていることに特徴がある。とりわけ70年代の宮城教育大学の改革 は、
大学改革の実践の中からの教師教育改革案の提起として、また新しい実践の学の提起
として教職の専門性に踏み込んだものとなっている。また、現職教員の研究の場とし
ての大学院は、これまで専ら「準備教育」の段階に限定してきた教師教育に対する大
学の関わりを、「現職教育」へと広げることを提起するものとなっている。
しかし、1970年代以降学校が直面することになる問題は、単科教育大学を中心とする
教員養成改革の中で組織的に取り組まれてきた課題とは別の層から立ち現れてくる。
1960年代末に高校進学率が90パーセントを超え、70年代半ばに大学進学率が40パーセ
ントに近づくにともない、教育をめぐる問題は大きく転換し、学校という組織・シス
テム・制度そのものへの疑念や忌避、そして抵抗がクローアップされてくる。70年前
後の青年の異議申し立てのあと、青年の無気力・無感動・無関心、アパシー、自殺が
問題となり、校内暴力、いじめ、家庭内暴力、登校拒否・不登校と、子どもたちが学
校を忌避し拒絶する事態が、現れ方を変え、また表現を変えて慢性化していくことと
なる。農村から都市への人口移動、産業構造・地域社会の変動、核家族化、そして進
学率の上昇によって、学校が果たすべき役割・機能も転換が求められ、それにふさわ
しい組織・制度の再構築が不可欠となる。とりわけ、少数のエリートの大学への準備
教育機関として発展してきた中等教育制度はこの時期、とりわけその「伝統」からの
大きな転換が求められていたと言えるだろ・u「Αw)。
教育問題が中等教育を中心に、しかも学校の仕組み・組織基盤そのものの組み替えを
要する、いわば地殻変動ともいえる展開を示しているときに、70年末に新設された新
構想の単科教育大学を中心とする教員養成改革は、小学校教員養成中心に、既存の学
校の枠のもとでの教科教育学・教授学を中心とする組織改革をめざしていた。1960年
代までの学校を前提に、また戦前の師範教育以来の教員養成即初等教育中心ととらえ
る伝統に根ざした組織化の論理は、結果的に、70年代以降の中等教育中心に学校の伝
統的な組織そのものの再編成が問われる事態、教育改革の課題と、結果的に大きくす
れ違っていく。現在に至るまで、義務教育中心の教師教育の焦点と現実の教育問題・
学校改革の焦点とのズレは制度的に放置され、今日の「在り方懇談会」の議論に至る
まで繰り返されている。
子どもたちが、そして現職の教師が、現実に直面している問題について、組織的に研
究し共同して改革に取り組んでいくこと、そしてそれに大学・行政も含めて共同し、
支援していくことは、問題の解明と改革にとって、もっとも直接的でまた有効な取り
組みである。現職教師が大学院で研究することもまた、そのための支援の一つとな
る。しかし、各県わずか数人の現職教員が学校を離れて学ぶという、これまでの現職
の教師のための大学院の形態では、学校で広範に噴出している、学校そのものを忌避
し拒絶する動きを底流にもった問題の克服、学校の総体の改革を支えるにはほど遠
い。それぞれの学校が自己改革のための研究の拠点となり、その研究に大多数の教員
が参画し、その研究と実践を地域・行政そして大学がそれぞれの機能を活かして支援
していくシステムの実現が必要となる。
臨時教育審議会と「教師の資質向上」問題
 1984年、「臨時教育審議会設置法」に基づき首相のもとに臨時教育審議会が発足
し、4年間にわたる審議を経て四次の答申をまとめている。一次答申では「受験競争
の過熱や、いじめ、登校拒否、校内暴力、青少年非行などの教育荒廃といわれる現
象」を認め、「学歴社会の弊害の是正」を図り、「個性重視の原則」「基礎・基本の
重視」「創造性・考える力・表現力の育成」、「生涯学習体系への移行」をはじめと
する8つの「基本的な考え方」を提起している。そしてそれをふまえた「主要課題」
として「生涯学習の組織化・体系化と学歴社会の弊害の是正」「高等教育の高度化・
個性化」等とならんで「教員の資質向上」を挙げている。「教師の資質向上」につい
ては臨教審の第2部会で審議され、第二次答申の中でその方策が示されている。「初
任者研修制度の創出」「社会人の活用」「現職教育の体系化」が提起され現職教育が
クローズアップされるが、こうした現職教育と大学との関わり、また大学における
「養成」については踏み込んだ提起がなされたとは言い難い。
1990年代に入って、学校と子どもたちの問題、とりわけ「いじめ」による子どもたち
の死が、ふたたび世論に衝撃を与え、1995年、スクール・カウンセラーが調査の名目
で具体化される。並行して進められていた大学改革・学部改革の中でも、多くの教育
系学部・大学院に、カウンセリング・臨床心理・臨床教育に関わる講座やコースが新
設されることになる。
困難な状況に陥った子どもたちを支え、またひとりひとりの子どもたちの視点から学
校という組織をとらえ返すことを促す上で、カウンセリング・臨床研究は大きな意味
を持っている。しかし、問題を引き起こしている中等教育を含む学校制度の総体とし
ての改革という困難な課題は残されたままである。学校の根本的な改革が進まないか
ぎり、問題は現れ方を変えて再生産され続けることになる。90年代後半には、「学級
崩壊」「学びから逃走する子どもたち」が、教育を語る際の象徴的な言葉となる。

3. 学校改革を支える教師教育改革の展開
-省察的実践・同僚性・PDS-
アメリカにおける教師教育改革の展開
   臨時教育審議会と同時期、アメリカにおいても教育の危機が叫ばれ 、教育改革が
進められている。そしてその中で、教師教育改革も重要な論点となる。一方での、国
家統制強化・試験による評価中心の動きに対して、地域の学校と大学と行政との協働
によって新しい学び合う共同体としての学校づくりをめざす取り組みが、教育学部の
連合体による運動として進められていく。この中で、改革のための学校と大学との協
働、学校を拠点とする教師と学部・大学院学生の専門性形成を軸とする新しい教師教
育の形が模索され、教育系学部・大学院のプロフェッショナル・スクールへの自己改
革が進められていく。そうした方向は2001年には国レベルの教育系学部のプロフェッ
ショナル・スタンダード に組み込まれるに至っている。
こうした改革の中では、大学・学部とその地域の諸学校が、学校改革をめざす実践と
研究のためにパートナーシップを結び、その共同の実践と研究を通して教師の実践的
な力量形成を実現していこうとする取り組みが中心に据えられている。大学と学校、
そして教育行政が密接な協力関係をむすび、学校における教師と大学スタッフとの共
同研究と実践を通して、現場での教師の実践的力量形成を実現していくことをめざす
改革の拠点学校(Professional Development School「教職専門開発校」 )と、その地
域ネットワークの取り組みが進んできている。
学校と大学との共同研究―共同の改革を基軸とする教師教育においては、実践と理
論、学校と大学の関係をめぐる根本的な枠組みの転換がみられる。理論・研究から実
践へ、大学から学校へ、そして中央から地方へ、というこれまでの改革のイメージと
は異なり、そこでは地域の学校における改革のための共同の実践と研究が広範な改革
プロセスの起点となり中心となる。学校と大学とが共同して、学習づくり・学校づく
りに取り組んでいくことがまず求められる。その学校の直面している課題をテーマに
据え、学校と大学・行政とが協力し、現状を省察し研究しながら新しい学習を生み出
していく。その積み重ねを通して、教師の「省察的実践者」としての力量が培われ、
新しい世代の教師が育ち、また実践を支える研究が深められ蓄積されていく。その成
果は地域的ネットワーク・全国的なネットワークを通して共有されていく。また学校
との共同の取り組みを通して大学のあり方がさらに問われ、自己改革が促されてい
く。アメリカにおける教師教育改革は、こうした転換(reflective turn )、そしてそ
の具体化としてのPDSとそのネットワークの展開によって大きく動き出しぁw)討・u
「る。
1990年代における教師教育研究の展開
こうした新しい教師教育改革は、すでにアメリカのみならず、世界的な展開を見せて
いる 。日本においても、そうした動向を跡づけた教師教育研究が90年代以降進んで
いく 。
1990年代半ば、少子化による教員採用の減少を背景に文部省によって国立大学の「教
員養成系大学・学部」の定員5000人削減が押し進められた。そうした削減の枠組みの
もとで展開された国立の教育系学部・大学の再編では、学校改革の課題に応える教師
教育の拡充をめざす企図は、主要な流れとはなり得なかった。国立大学協会・日本教
育大学協会のこの時期までの教員養成に関する委員会の議論が、1960年代に固定化し
た「目的大学化」対「開放制」の対立図式に囚われた戦後教員養成制度史研究に規定
されていたことも、要因の一つに挙げなければならないだろう。そこでの議論は、
1990年代以降の世界的な教師教育改革の動向、そこにおける専門性形成の内実に踏み
込んだ実践研究の展開への視点を欠き、この大きな再編の時期に、21世紀への教師教
育改革の展望を提示しえなかった。
この間の福井大学教育学部の改革においては、一方で地域における実践的科学的な研
究を中心とする課程を新設すると同時に、学校教育課程においては80年代後半以降の
新しい教師教育改革の動向をふまえ、附属学校との連携を土台とした教育実践研究を
中心とするカリキュラム改革を進めてきた。
その後「カリキュラム開発」(千葉大学他)「学校改革実践研究」(福井大学)等、現職
教師との共同研究や学校改革そのものを主題とする、新しい形の実践的な大学院がよ
うやく現実化しつつある。そこでは、学校において、教師と大学とが協働で持続的に
実践を展開し、改革をめざし、それを省察し共同研究していくことが中心に置かれて
いる。共同研究が展開される場所は大学から学校へと転換する。そして研究の焦点は
一コマの授業から、学校の教師の共同性、子どもたちの共同性、そして協働の学校改
革そのものへと拡大される。こうした90年代以後の、地域の学校の改革を現実的に支
えようとする教育系学部・大学院改革においては、地域の学校と密接な協力関係を築
き、恒常的に維持していくことがその基盤となる。現に学校の問題の渦中にあり、改
革を直接に担うべき広範な教師たちこそが、広い情報と精緻な研究を活かして、課題
に立ち向かえる状況を作れなくては改革は実現しないのであり、大学はそうした教師
集団の改革プロジェクトを支えることによってはじめてその機能を果たしうるのであ
る。
1996年から99年にかけて教育職員養成審議会は、「新たな時代に向けた教員養成の改
善方策について」の審議を進めている。第一次答申「新たな時代に向けた教員養成の
改善方策について」に続いて、第二次答申では、「現職教員の再教育の推進」に関
わって「修士課程を積極的に活用した養成の在り方」を提起し、第三次答申では、
「大学と教育委員会」「附属学校」「現職教員」との「連携」「交流」「教育実践に
関する研究会等の組織化」の課題が示されている。現職の教師の研究支援を重視し、
地域の教育委員会・学校・大学の協働をめざすという点において、それらは、90年代
以降の世界的な教師教育改革の展開と軌を一にしている。



4.「在り方懇談会」報告の問題

 教養審の三次にわたる答申の後、2000年8月に「国立の教員養成系大学・学部の在
り方に関する懇談会」は発足している。教養審の答申を受けているはずのこの「懇談
会」の議論とその報告は、専門大学院の提起等、答申の流れを受けた論点を含みなが
らも、行財政改革の枠組みに強く規定されて県域を越えた「再編・統合」を打ち出す
ことにより、地域の学校との協働を軸とする21世紀にむけての教師教育改革の基本的
な方向とは逆行する提案となってしまっている。議論の中で強調されている教職経験
者を大学教員にという論点、小学校教員養成に重心を置くとらえ方、ブロック化、教
育内容研究、そのいずれもが、50年代以来、戦後の「開放制」批判の中で繰り返さ
れ、単科教育大学を生み出していった議論の反復に止まっている。そして、なにより
学部中心・準備教育段階中心のこれまでの教育学部のイメージに囚われたまま、各県
に存在しなくても問題はないとする論理は、学校改革のための地域の学校と大学との
本格的な協働をめざし、現職教員を含む生涯にわたる教師の専門的力量形成と研究を
支える大学の新しい機能の充実をめざす、90年代以検w)紊・uフ教師教育改革の基本
的な流れとまったく背馳するものとなっている。
 冒頭に掲げたように、広範な世論もまた、「地域の視点」「現職教育」「改革支援
機能」の充実を教育系学部・大学院に求め、「在り方懇談会」の方向を批判してい
る。21世紀には、より質の高い学習の機会を生涯にわたってすべての人に保障する社
会の実現が求められている。学校教育の改革と開かれた高等教育の実現はそのための
不可欠な条件であり、大学における教師教育改革は両者をつなぐ重要な環をなしてい
る。とりわけ、現在の教育が直面している問題を打開し、ゆたかで質の高い学び合う
共同体としての学校を実現していくことが強く求められている。この教育改革の実現
のために、学校・行政・地域・大学が手を携え、共同で探究し実践していくことが不
可欠となる。教育系学部・大学院は、地域における学校改革のための取り組みに参画
し、教師の実践的な力量形成を支え、そのネットワークの拠点としての役割を果たし
ていくことが課題となる。
戦後、地域の文化と新しい民主社会実現の礎として創設された地方の国立大学、そし
て教育系学部・大学は、21世紀に向けて、ゆたかな生涯学習社会を実現し、地域の教
育改革を進めるための教育・研究拠点としての役割を果たしていくことが求められ
る。そのためには、実践的な教育・研究機能を拡充するとともに、学校と行政・地域
と連携し、さらにきめ細かな地域ネットワークの拠点としての役割を発展させていく
ことが必要となる。

U 21世紀への教育改革と
教師教育改革

地域の教育改革を支える
ネットワークと協働のセンター

1. 21世紀の教育 その基本的方向性

生涯学習と高等教育 
1990年代末には、「ユネスコ高等教育世界宣言 21世紀の高等教育 展望と行動」
(1998.10)やケルン・サミットで採択された「ケルン憲章−生涯学習の目的と希望
−」(1999.7)をはじめとして、国際機関や各国の教育担当省による21世紀に向けての
教育改革案が相次いで提示されている。ユネスコの高等教育世界宣言では「教育は、
人権、民主主義、持続可能な開発および平和のための基本的な柱であり、したがって
生涯を通じてすべての人が利用できるべきであり、さまざまな部門、特に一般的、技
術的、および専門的な中等教育と高等教育の全体およびそれらの間で、さらに総合大
学、単科大学および技術訓練施設の全体およびそれらの間で、調整と協力を保証する
ための手段が必要である。」とされている。こうした宣言や政策において共有されて
いることは、生涯にわたって、より質の高い学習の機会をすべての人に保障すること
が、次の時代の社会のための最重要課題、不可欠な基礎条件であるという認識であ
る。イギリスのブレア政権は、教育改革をもっともプライオリティーの高い課題とし
て掲げて登場し、アメリカのクリントン政権、ブッシュ政検w)△・u烽ワたそれぞれ
Goal 2000, No Child Left Behind を政策として掲げ、教育の充実を重要なテーマと
して取り組んでいる。「質の高い教師教育」の実現は、その鍵をにぎるものとして共
通して重視されている。すべての人に生涯にわたるより質の高い学習を保障する課題
を教育改革の基礎に据えることは、日本においてもこの間の改革の一連の答申を貫く
視点として明確に提起されている。
学校改革と学習の質の転換 
21世紀にむけての教育改革のもう一つの、そしてより困難な課題は、現在の学校が直
面している問題を打開し、よりゆたかな、また質の高い、学び合う共同体として学校
を再生していくことである。1960年代後半以降、自殺・校内暴力・いじめ・不登校・
ひきこもり、体罰・管理教育、学級崩壊・学力の低下問題に至るまで、さまざまな事
件と問題を通じて、学校自体が「社会問題」として取り沙汰されてきた。そしてその
つど学校改革の必要性が訴えられてきた。しかし個々の事件によって高まる改革への
社会的な関心は、個々の問題への対応に傾き、それへの個別的な対応を引き出して収
束することを繰り返している。より根本的な学習・学校の組み立て直しへの議論は進
まず、結果として歪みを生みだしている構造は温存され、問題は現れ方を変えて反復
し続けている。
19世紀から20世紀にかけて、自由で平等な教育の実現を理念に掲げて出発した国民教
育制度は、国民規模の共通教育を実現するために、多人数伝達型の学習を国レベルで
統一的に組織化する形で進められてきた。多人数の子どもたちに共通の教科書を通し
て知識を伝え、その習得の度合いを筆記試験によって評価するという形の学習が、そ
こでは国民的な規模で組織化され日常化されていく。教師は時には50人を大きく超え
るような多人数の子どもたちの学習と生活を秩序づける役割を負わされてきた。諸々
の教育の条件が整わない段階、国民教育の急速な拡大に教師の養成がともなわない段
階では、こうした形態は避けがたいことであったかもしれない。しかし、その後の教
育の普及、教師教育の拡充、経済発展、そしてよりゆたかになった文化とコミュニ
ケーションの展開を実現しつつある現代にあっても、学校での学習様式はその初期の
形から基本的に変わっていない。その様式は、近世以来、制度的に規定されて広範に
組織化され、世代を超えて反復されることによって、個別的・単発的な改変の努力で
は容易に変えがたい厚みと重みをもって再生産され続けている。そのこ・u「函w)に
よって、改革へのさまざまな努力にもかかわらず、社会の革新と学校の様態との溝は
広がり続けている。学校を多人数伝達型の学習と組織の伝統から解き放ち、民主主義
社会とグローバルなネットワークによりふさわしい学習のあり方、ひとりひとりの主
体的な探求とその分かち合いの場、そして知的な協働活動が展開される学び合うコ
ミュニティーへと再構築していくことが求められている。「生きる力」「自ら学び自
ら考える教育」の実現を掲げる中央教育審議会「21世紀を展望した我が国の教育の在
り方について(第一次答申)」(1996.7)、そしてそれを受けた教育課程審議会答申
(1998.7)は、基本的にそうした方向を提起しているものと受け止めることができる。
学びの転換を実現するために、各学校が創意工夫を活かし特色ある教育、特色ある学
校づくりを進めることができるよう、教育行政における地方分権と学校裁量権の拡大
という方向が打ち出されている。
 しかし、学校における現在までの学習の基本様式は、この百年あまりの間に社会に
根づき、伝統的秩序となってしまっているだけに、それを再構築していくことには大
きな困難をともなう。学校での学習の共通前提となっている基本的パターンを改革す
るためには、関係する多くの当事者が話し合い、より充実した学びのあり方を探求
し、再編成のためにそれぞれの持ち場で連携して取り組んでいくことが不可欠の条件
となる。教師集団・子どもたち・保護者、地域、学校の条件整備を担う教育行政、さ
らに教員養成・教育研究に責任を担う大学の間で、改革のための共同研究、協働の実
践が展開できるかどうかが鍵となる。その中で教育系学部・大学院がどのような役割
を果たしていけるかが問われている。

2. 教師教育のモデルの転換
「伝達」「体験」モデルから
学校改革の実践・共同研究を通じての
生涯にわたる力量形成モデルへ

今日まで教師教育のモデルは「教員養成」「採用」「研修」の三つの段階として捉え
られてきた。大学における「教員養成」とは、18歳から22歳の学生の教職準備教育で
あり、「研修」は採用後の現職教育である。「研修」に対する大学の責任体制の確立
に関わる提起が幾度もなされながら、大学の関わりは部分的なものに止まってきた。
「研修」段階の問題 
教師の専門的な力量形成の場としての研修を、実効性のある、質の高いものとしてい
くためには、現職の教師が直面している課題を共有し、それを打開していく展望を持
ち、そのための学習と研究を組織する視点と方法が求められる。教育が困難な状況に
あり、改革が求められている時期であるからこそ、より深い展望と、より質の高い学
習・研究の組織化が必要となる。
しかし、研修担当者自身も、現職教師の直面している問題について、そして専門職と
しての学習・研究の組織化について、実践的な研究の条件を十分に保障されているわ
けではない。ワークショップや実践研究を中心とする新しい研修の形が模索される一
方で、伝統化された学校での学習と行事の様式に囚わた形での「研修」も決して少な
くない。多人数・伝達型の講習会(「伝達講習」)や、あるいは洋上研修や「社会体験
研修」といった非日常的な「体験」など、古い「職業訓練」の様式も反復され、新た
に提起され続けている。現職の教員に求められる力量形成は、現実の問題に即した、
専門職にふさわしい実践的で協同的な研究組織に支えられなければならない。
大学院における現職教員の教育研究についていえば、そこで研究できる教師の数が、
一県で年数人程度の水準に止まっていることがまず問題となる。学校の改革とその研
究においては、学校の教師集団、そして関連する多くの人々の共同の取り組みが不可
欠となるが、きわめて限られた少数が、学校から離れた大学院で研究する現在の大学
院の形態では、現実の改革を支えるための本格的な研究は実際には進めがたい。そこ
には、学校との実践的な共同研究を十分に展開しえずに来たこれまでの大学の側の問
題も横たわっている。結果として、大学院における研究も、現状では量とその研究の
内実の双方において、学校改革を支える現職の教師の力量形成にとってまったく不十
分な状態に止まっている。
学校で重ねられてきた「校内研修」は、それが改革のための共同研究・実践研究とし
て持続的に展開されるならば、学校改革と実践的な力量形成に直接つながるものとな
る。質の高い共同研究を長期にわたって展開している学校が小学校を中心にたしかに
存在している。しかし、校内研修は授業の伝統的な形に即して様式化されてしまって
いることも多く、そのままでは学校改革・学習の改革にはつながらない。より長い学
校改革の展望、より広い研究の交流とそのネットワークの中に位置づける仕組みに
よって支えられ、省察的発展的に積み重ねられていくことが不可欠となる。
これまで支配的だった、研修での伝達型の学習や特殊な体験、大学院での個別研究、
そして校内研修では、それを合わせても学校改革とそのための力量形成を支えるもの
としては十分な機能を果たしえない。
学校改革と教師の力量形成に関わる内外の研究が、実践を通して提起しているのは、
学校における省察的実践・改革のための実践研究を、学校・行政・大学の協働とネッ
トワークによって支えいくモデルである。
そこでは、教師の同僚性が重視され、学校における教師集団が、大学や行政とも協力
しながら、改革のための協働の実践を展開していくことが中心となり、起点となる。
その改革のための実践、そしてそれにともなう省察・再構成の積み重ねは、同時に精
緻な事例研究の蓄積であり、恒常的な力量形成のプロセスそのものでもある。そし
て、そうした実践と省察・事例研究をより広いネットワークを通して交流し蓄積し、
水準を高めていくことが求められる。このモデルにおいて実践と研究の主体は学校の
教師とその集団であり、大学の教師は、省察を聞き取り、ともに実践と改革を構想
し、またそうした取り組みを広く交流し共有するネットワークを支える役割を果たし
ていく。教職専門性開発校と大学との協働を通して、そうした専門性形成とそのネッ
トワーク化、そして新しい実践研究が大きく展開してきている。
「養成」段階の問題 
準備教育・「教員養成」段階については、これを現職の教師の生涯にわたる力量形成
や研究と切り離してとらえることによって、二つの極端な立場を生み出さざるを得な
かった。一つは、教師としての「完成教育」を求めるものであり、もう一つは、これ
に対する批判として教職の専門的力量形成に関わる教育を否定する議論である。学校
教育が、常に新しい問題に直面し、またより質の高い学習の実現を課題とする以上
は、教師の力量形成に「完成」などあり得ない。常に実践の質を高めていく研究の持
続と発展が求められるのであり、それこそが教職の専門性の核心となる。準備教育段
階においても、そうした実践と研究の力量の形成が求められることは疑いない。そし
て教育系学部・大学院こそ、準備教育―研修の段階を通じて、教師の実践と研究を生
涯にわたって支えていく拠点である。
教職の専門性の形成はこれを学校で培われるものとし、大学では「学問」「研究」を
学ぶとする伝統的な職業観・大学観とそれによる両者の分断は、結果的に、実践と研
修を精緻な省察・研究組織を欠いたものに止め、また大学における「研究」を、実践
を変える実効性を問わないものに止める枠として作用してきた。そしてこうした分裂
は、また、「採用」のあり方にも影響を及ぼさざるをえない。
現職の教師の力量形成を、学校を拠点に、学校を改革していく共同の実践と研究の精
緻な積み重ねを通して実現していくこと、そのために教育委員会・大学・学校が協働
し、より質の高い実践的な協働と共同研究をそこに作り出していくことは、上記の三
つの問題を同時に解決していくことにもなる。
これまでの大学における「養成」、教育委員会と学校での「研修」という区分から、
生涯にわたる、実践と研究の力量形成を、大学・教育委員会・学校の協力と協働に
よって実現していくことが新しい教師教育の枠組みとならなければならない。そし
て、そうした転換の基軸となるものが、学校拠点の実践的な共同研究の展開であり、
またそれと密接に結びついた現職の大学院における研究の展開である。準備教育段階
の学生がこうした共同研究・協働の実践に関わりながら学んでいくことは、従来の短
期的な教育実習とは質を異にする研究と教育の場となる。

3. 学校改革を支える学部・大学院のデザイン
   プロジェクト・協働・ネットワーク

  これまで述べてきたような、学校改革のための実践・研究と、専門的な力量形成を
支えうる組織へと教育系学部・大学院を再構成していくためには、次のような改革が
必要となる。
改革の方向の明確な提起
 大学が、これまでの18歳から22歳の学生の教育と学術・研究を行う機関から、地域
に根ざし開かれた学術・研究の拠点として、また生涯にわたる学習と研究を支える機
関としての役割を明確にすることが必要である。とりわけ教育系学部・大学院は、地
域の教育改革を支え、教師の生涯にわたる力量形成を支える機関であることを明確に
しなければならない。そしてそれに沿った、研究・教育組織の再構築が必要となる。
核となる改革のための共同研究と専門大学院
 改革のための協働の実践研究とそのネットワークは、新しい教育系学部・大学院の
研究・教育体制の重要な軸となる。学校との共同研究を通して、大学は、学校が直面
している現実に接し、またその改革にとって求められる研究・教育のあり方を把握
し、その実現への組織改革を進めていく視点と方向性を学ぶことができる。そしてま
た改革の実践を通して培われた研究は、21世紀の新しい学術研究の一つのあり方を示
すものともなるだろう。専門的な職業のための力量形成、そして改革の実践的な課題
と密接に結びついた研究と教育は、新しい形での大学院、専門大学院として組織され
ていくことが必要となる。
改革のための重層的な研究・教育ネットワーク
 教育系学部・大学院は、学校改革の実践と研究を核とする学校との連携を広く進
め、地域の教育改革を支えていく責任を負っている。そのためには、改革のための共
同研究を進めるネットワークを重層的に、きめ細かく組織していくことが必要とな
る。
 現在教育系学部・大学院は各県に置かれているが、地域の学校改革を恒常的に支え
ていくためには、県単位よりさらにきめ細かな地区単位のネットワークを実現してい
く必要がある。県内に複数の地区とそのネットワークの拠点(サテライト)を設置し、
その地域の学校との協力関係を築いていくことが教育改革の実現には不可欠となる。
そしてまた市町村との協力関係の実現が必要となる。また県・教育委員会、そしてそ
こにおける教員研修と大学との密接な協力関係の実現、そしてまたネットワーク相互
の連絡調整が必要となる。
 また、教育行政との連携も事務的な調整に止まらず、学校改革をどのようにして支
えていくかに関わる共同研究を組み込んだ形で展開していくことが必要となる。
探究する力・プロジェクトする力を培う学部教育
 学部の教育課程においても、プロジェクト・ネットワーク型への学習と組織への転
換が求められる。大学生自身が、教養段階から、プロジェクト的に探求活動を進めて
いくカリキュラムは、たとえば工学分野をはじめとして、大学改革の一つの重要な流
れとなっている。福井大学教育地域科学部においては、一年生から子どもたちとの共
同探究活動をチームで進めていく授業を展開してきた。また教育実践研究、地域実践
科目をはじめ、長期にわたって実践に関わり、それを省察しながら学んでいく授業を
展開している。
学部間・大学間の協働と世界的なネットワーク
大学における研究は、つねに開かれた学術交流を行うことによって恒常的に発展して
きている。学校改革やカリキュラム開発といった共同研究、そしてそれぞれの分野の
専門研究を、大学間で恒常的に交流し共有していく組織の実現が必要となる。学部間
の研究協力・コラボレーションの実現が、教育系学部・大学院における研究発展のも
う一つの鍵となる。学部・大学院教育における有機的連携システムの実現、学部間に
おける研究・教育の交流、学部間の相互評価を加えた三重の評価体制(自己評価・相
互評価・外部評価)、協働の組織体制のための運営組織の実現が必要となる。
地域の学校改革とそのための実践的な研究は、世界共通の課題でもある。地域の学校
改革とその研究を進める各国の組織と国際的な交流を進めていく必要がある。また、
学校づくりは日本の平和的な国際貢献の一つの重要な柱としていくべきだろう。そう
した貢献は、現実の地域の学校改革・学校づくりの実践と研究、その経験の蓄積を持
たない限り効力を持ち得ない。教育系学部・大学院を構成する多様な専門を通しての
交流を進めるとともに、学校改革の実践に関わる研究交流の拠点としての役割を果た
していくこことが課題となる。
自己改革し続ける組織
こうした再構成は、構成員自身の教育・研究の展開と不可分に関わっている。旧来の
大学・大学院のモデルの反復に止まっている限り、再構築は進まない。ここでも、新
しい共同研究と教育へのプロジェクトとそれを通した力量形成が求められている。
ファカルティー・ディべロップメントと、恒常的に組織改革を進めていくシステムの
構築が必要となる。ここでも学校改革と同様、旧来型の「研修」は効力をもたない。
改革のための共同研究・協働の実践とその広い交流、相互評価の組織的な積み重ねが
求められる。すべての大学は、恒常的な自己評価・自己改革と、構成員の力量形成の
ための研究機能を内部に構築することが求められる。 

V 福井大学教育地域科学部における
教師教育改革の実践と構想

1. 地域に根ざし開かれた学部のあり方

福井大学教育地域科学部は、教育と地域の協働をテーマとし、地域に根ざし 開かれ
た教育・学術・研究の拠点としての役割を果たしていくことを使命としている。教育
改革・学校改革は地域と学校そして大学との協働なしには実現し得ない。学校評議会
や総合的な学習に象徴されるように、教育の組織・内容において学校は大きく地域に
開かれていかなければならない。逆にまた地域の発展と自治の実現は、市民の知的な
判断力と実践力を培う学習・研究に基礎づけられてはじめて可能となる。教育と地域
の協働は教育改革にとって、また地域改革にとって不可欠の基盤である。教育地域科
学部は、そうした教育と地域の協働をめざす研究と教育を軸として組織されている。
こうした学部のあり方をこれまで二つの学部見解として明らかにしてきた。そこで
は、「地域の教育改革を支える拠点」(第一見解)、「地域に根ざし開かれた教育・
学術・研究の拠点」(第二見解)としての学部のあり方を自らの責務として明示して
いる。

2. 改革のための共同研究と専門大学院

地域の学校との改革のための共同研究の展開は、教師教育改革にとっても重要な鍵と
なる。福井大学教育学部・教育地域科学部においては、教育実践センター 、教育実
践研究を核とし現職教育を重視した大学院教育学研究科の取り組み、そして附属学校
との共同研究を通じて学校との共同研究の基盤を培ってきた。
また大学院教育学研究科の実践研究をより広く地域の学校と結びつけ、現職教員と大
学との協力関係を生み出していくために、大学院の公開講座を開設している。2001年
度には学校改革の実践・研究を、学校を拠点に展開していくことをめざした、新しい
様態の大学院である学校改革実践研究コース、そして現職教育の要請に広く応える夜
間主コースの試行を進めている。両コースは、2002年度から正規に出発する。
学校改革実践研究 省察的実践とネットワークモデルに立った、学校改革と教師の力
量形成のためのコースである。ここでは学校が直面している課題、学校改革のために
学校と大学とが共同で実践し研究していくことを中心に据えている。それは改革のた
めの学校拠点の実践研究と大学院での現職教育の融合をめざすシステムであり、学校
改革のための実践研究を組織的長期的に進めていくことを目的としている。
カリキュラム開発 カリキュラムを総合的に研究し新しいカリキュラム開発に関わる
大学院のコースの検討を進め、現職教員との共同研究のもう一つの拠点とすることが
検討されている。
これらは学校改革の拠点となると同時に、近い将来における教育系の専門大学院(プ
ロフェッショナル・スクール)実現の基盤でもある。

共同研究の三つの形
 改革のための学校と大学との共同研究としては、当面次の三つが想定される。
@学校改革のための開発研究校としての附属学校 附属学校は教育改革のための抜本
的な組織改革をも含んだ開発研究校であり、学校と大学、教師・学生・院生との日常
的恒常的な共同研究の拠点でもある。福井大学教育地域科学部では一貫して附属学校
と大学との教育実践に関わる共同研究を進めてきたが、それを土台に、学び合う共同
体としての学校づくりのために、学校組織の抜本的な再編成にまで踏み込んだ改革を
学部と附属学校の共同研究を通して進めつつある。
A公立学校との連携による学校改革共同研究学校  個々の大学の教員が公立学校の研
究に協力することはこれまでも積極的に進められてきたが、学校改革を進めるために
は、より組織的な共同研究体制が双方に必要となる。大学院学校改革実践研究コース
を軸に学校と大学が連携して改革のための実践と研究を進める取り組みが2002年度か
らスタートする。現在福井市豊小学校との取り組みが進んでいるが、地域の学校改革
を総体として実現していくためには、中学校、そして高校とも協働して、改革のため
の研究を進めていくことが不可欠となる。
Bカリキュラム開発に関わる連携学校  大学院におけるカリキュラム開発研究の展開
と連動して、個別の科目のカリキュラム開発を通じて学校と連携するもう一つの形が
求められる。ここでの共同研究を通じて開発されたカリキュラム・教育内容が、地域
ネットワークや公開講座を通じて、より多くの学校で活かされていくことを期待する
ことができる。

3. 共同を支える組織とネットワーク

福井大学教育地域科学部では、福井県教育委員会と現職教育に関わる合同の委員会を
設け、協議を重ね、大学院公開講座、大学院夜間主・学校改革実践研究コースを実現
させてきた。また、大学開放事業の中で、開かれた大学のあり方を市民と共に話し合
い、今後の課題を探る取り組みを重ねてきている。こうした協議を深めるとともに、
大学の立地する福井市、そして県レベルに止まらず、より広い、またきめ細かなネッ
トワークづくりが必要となる。
教育改革と地域づくりのためのネットワークとして、嶺南地区・奥越地区・丹南地区
に、それぞれ地区ネットワークとその拠点(サテライト)を置くことが必要となる。地
域の学校と共同研究を進め、さらにそれを研究ネットワークやサテライトにおける公
開講座等を通して交流し共有していくことが可能となる。その実現のためには、市町
村教育委員会と大学との協力体制が必要となる。
4. 探究と実践の力を培う学部教育の改革

 福井大学教育学部・教育地域科学部は、教育実践センターを拠点に1980年代から教
育実習改革を積極的に進めてきた。生活科関連科目・総合教育科目における、教科専
門・教科教育・教育科学の担当者が共同して授業を進める取り組み、生活指導論にお
ける地域の不登校の子どもたちを支える活動(ライフ・パートナー)、子どもたちと
一年間にわたって共同プロジェクトを展開していく取り組み(探求ネットワーク)等
を重ねてきている。
学部教育においては、文化創造の力の基盤となる教養教育を土台に、学的な探究と教
育実践の力を培うカリキュラムの構築をめざしている。学校教育課程では一年次から
四年次まで、学校における学習に接しつつ、学校のあり方・課題について学び、実践
と研究とを往還しながら積み重ねていく教育実践研究T-Yを主軸とするカリキュラ
ム改革を進めてきた。
 学習・研究の評価の質を高めていくこと、学生一人ひとりの学習を研究の発展を跡
づけ支えていく体制の充実も大きな課題となる。

5. 学部間・大学間の協働と世界的なネットワーク

1990年代半ばの改革以来、教師教育改革・大学改革に関わる大学を超えた研究協議を
重ねてきているが、今後、地域における学校改革を支える機能をもった学部・大学
が、さらに組織的・恒常的に、それぞれの実践と研究を交流し、共有していくこと
が、国レベルで組織化されている公教育の総体としての改革にとって不可欠となる。
また、それぞれの専門分野ごとの研究交流、授業の連携、そして大学院生や学部学生
の実践・研究交流は、大学における教育実践の内実を高めていくために不可欠とな
る。
 そうして学部間・大学間の研究・実践の協働をふまえ、国を超えて学校改革と教師
教育に取り組んでいる諸大学や、その連合体と実質的な研究交流を進めていくことも
課題である。そうした実践・研究の積み重ねと交流を通して、現在、学校づくりの課
題、学校改革の課題に取り組んでいる国々にどのような貢献ができるか、教育におけ
る国際貢献も今後重要な課題となる。

6. 自己改革し続けるための組織づくり

福井大学教育地域科学部においては、大学院新設・学部改革等、新しい課題に応える
改革の展開の中で、学部・研究科構想検討委員会をはじめとして、教師教育をめぐる
改革と研究の動向を注視し、地域の人々に意見を求めつつ、改革を進めてきた。2001
年度には外部評価を行っている。
今後さらに、より組織化されたネットワークと協働を通して、地域の学校、地域の実
践とともに歩み、その展開を支えるために、不断の改革を進めていくことが求められ
る。学校改革のための地域・学校・行政との協働は、大学の自己改革の土台でもあ
る。
それと同時に、大学は常に世界的な研究ネットワークの中にあり、大学改革の世界的
な展開からも学び続けなくてはならない。そうした交流と研究を恒常的に続けていく
ことが求められる。
あらゆる組織改革は、それにともなう構成員の研究と力量形成なしには実効性を持た
ない。ファカルティー・ディべロップメントが大きな課題となる。大学のファカル
ティー・ディべロップメントにおいても、基本的には学校における教師の力量形成と
同様の視点と方法の転換が求められる。改革のための協働の実践と研究、そしてその
交流と省察のサイクルが力量形成の重要なプロセスとなる。学部改革のプロセス、大
学における教育実践、そしてファカルティー・ディべロップメントの推進に関わる研
究的な協議の積み重ねが求められる。