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独行法反対首都圏ネットワーク

☆ 山形大学憲章案
 
.[he-forum 3870] 山形大学憲章案
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  he-forumのみなさん

                              2002年4月26日
                            山形大学憲章プロジェクトチーム
                           山形大学職員組合執行委員長   森川幾太郎
                              日本科学者会議山形支部事務局長  岩田浩太郎

 「山形大学憲章案」につき全文をご紹介いたします。
  日本科学者会議山形支部と山形大学職員組合が中心となり「山形大学憲章プロジェク
トチーム」(医学部を除く全部局の8名からなる)を昨年10月に結成し、また有志の
方の参加も得て、憲章案(第2次案)の検討をおこなってきました。
 4月19日に山形大学小白川キャンパスで、シンポジウム「『国立大学法人』最終報
告と山形大学憲章」を開催し、「山形大学憲章案」を発表しました。山形大学ではこの
4月に、評議会のもとに基本構想委員会と法人化検討委員会が設置され、2年後の法人
化に備えた大学の制度設計がこれから本格的に進められる情勢となっています。国立大
学の独立行政法人化反対の運動をおこなうとともに進めている山形大学憲章づくりの運
動は、全国の各大学における大学憲章づくりの動向と連携するとともに、山形大学にお
ける法人制度設計に対して「学問の自由」「大学の自治」を守り発展させる観点から基
本的な視点を提起することをねらいとしています。
 以下に紹介する「山形大学憲章案」は2編構成で作成しています。第1編では本来大
学が備えるべき普遍的な基本原理について提案し、第2編ではこの普遍的な基本原理お
よび最終報告から予想される「国立大学法人法」の内容をふまえつつ、法人化に際して
山形大学が最低限遵守しなければならない基本原則(ミニマム・スタンダード)につい
て提案しました。また、この憲章案は当面、教員に関わる内容を中心に作成しており、
職員の方々や学生が大学の自治や運営にいかに、またいかなるレベルで関わるのか、に
ついてはほとんど盛り込めていません。今後の検討課題としております。
 これらの点にご留意のうえ、以下に紹介する「山形大学憲章案」につき、ご検討・ご
批判いただければ幸いです。
 大学の公的機関で制定された名古屋大学学術憲章や検討が進められている東京大学憲
章の動向、あるいは日本科学者会議や職員組合のレベルで検討が進められている岡山大
学憲章・大阪大学憲章・福島大学憲章など各大学での憲章づくりの運動に学び、連携し
ながら、さらにこれからの大学論につき議論を深めていきたいと考えております。
 4月19日のシンポジウムでは、福島大学からのご参加も得て、活発な議論がおこな
われ、参加者より「山形大学憲章案」について更に以下の点につき検討するべきとする
様々な立場からの意見が出されました。@「教育(教授)の自由」の明記、A「公正な
評価」の内容提起の豊富化、B組織評価と個人評価の区別・整理、個人のインセンティ
ヴを高める評価体系の検討、C事務職員・技術系職員・学生の大学運営への参加・関与
のあり方、D他の地方国立大学とも異なる山形大学固有の理念のさらなる追求、E大学
の種別化の進展のなかでの山形大学の位置づけの明確化、F「研究・教育者」の表現の
妥当性、など。
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 山形大学憲章案
                        山形大学憲章プロジェクトチーム

第1編 大学の基本原理  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  大学が備えるべき普遍的な基本原理につき、以下に規定する。

【大学の目的】
 大学における研究・教育活動は、つぎの目的を有している。
@人類の認識と知識をひろげることを通して、世界の平和と地球環境との共生、人
 類の生存と福利、基本的人権の確保と民主主義の前進に貢献する学術研究をおこ
 なうこと。
A学術研究の最高水準をふまえた良質の高等教育をおこなうことによって、問題発
 見能力と批判精神、問題解決能力と多様な価値観の併存に対して寛容な精神をも
 った人材を育成すること。
 右の目的を達成することが、全体としての社会一般(society as a whole)によっ
て大学に対して託されている。大学は、これを達成する責務を負う。

【学問の自由】
 大学における研究・教育者には「学問の自由」が保障されなければならない。
 この自由は、大学における研究・教育者が、全体としての社会一般から大学に付
託された責務を遂行するために不可欠の自由である。大学における研究・教育者は、
この自由にともなう責任を深く自覚しなければならない。

【大学における研究・教育者の使命】
 大学における研究・教育者は、国家や社会の既存の価値観から自由であり、あら
ゆる権威を排し、真理の探究をおこなう使命をもつ。
 しかし、大学における研究・教育者は、その研究成果の利用と教授においては、
世界の平和と人類の福利の前進に寄与するという【大学の目的】に反する行為をお
こなってはならない。

【知の共同体としての要件】 
 大学は、開かれた「知の共同体」である。その実質を十全に発揮する要件として、
大学は自由な秩序と高潔な倫理観を保持しなければならない。
@価値の自由:大学は、あらゆる権威や既存の価値観から自由な研究と議論のフォ
 ーラムである。
A共生の作法:大学は、価値の多元性・多様性を積極的に評価し、異なる価値観の
 間の共生と寛容をもって旨とする。
B知の活性化:大学は、構成員たる研究・教育者の相互批判、外部との開かれた人
 事交流、社会との対話を通じて、知の創造を活性化する努力を常におこなう。

【大学の自治】
 「知の共同体」の組織・運営の原理として、「大学の自治」が認められるべきで
ある。
@研究・教育者による自治:「知の共同体」である大学を組織・編成する権利と責
 任とを有するのは研究・教育者自身である。
A人事の自治:大学の自治は、研究・教育者の人事の自治を中核として形成されて
 きた。日本国憲法23条の保障する大学自治や教育公務員特例法のもとにおいて
 培われてきた人事に関する慣行は、学問・教育への統制が教員身分への介入によ
 りおこなわれてきた過去の経験に対する反省に裏付けられたものであり、この慣
 行は、最大限の尊重に値する。
B財政自主権:大学における学術研究・高等教育の公共的な役割に鑑みて、国は、
 その財政的基盤を十分に保障しなければならない。国による財政的支援は、大学
 の運営やその研究・教育活動の内容に関する大学の自律的な決定に対して国が介
 入することを正当化する理由とはならない。
C自治における人権保障:大学は、その運営や研究・教育活動において、人種、民
 族、国籍、性別、学歴、障碍、社会的身分などによる差別を排斥する。研究・教
 育者は、大学の運営に平等に参加する権利を有する。
D学生の地位と権利:学生は、良質の高等教育を享受し、研究をおこなう権利を有
 する地位にもとづき、大学の運営やその研究・教育活動に関して意見を表明する
 権利を有する。

【説明責任】
 大学は、その自由な研究・教育活動が真に大学に託された責務に応ヲ得るものた
るべく、社会にむけて開かれた大学として活動する。
@第三者評価:大学は、公正な手続きによって任命された、学問的識見を有する者
 からなる中立的機関による第三者評価を積極的に受け入れる。
A情報公開:大学は、研究・教育活動、管理・運営に関して、説明する責任を負う。
 この責任を具体化するために、大学は自主的に情報提供をおこなうとともに、正
 当な開示請求に対しては、これを拒まない。


第2編 山形大学の基本原則  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
                                                                          
  第1編に規定した大学が備えるべき普遍的な基本原理、及び、国立大学法人法(
仮称。以下、法人法とする)に照らして、山形大学が最低限遵守しなければならな
い基本原則を、以下に規定する。

【山形大学の理念】
 山形大学は、以下の理念を掲げる。
@本学は、総合的かつ国際的な学術研究・高等教育機関として、第1編に規定した
 【大学の目的】を達成することをその理念とする。
A本学は、全国の学術研究・高等教育機関と連携し、わが国の長期的かつ基礎的な
 学術研究体制の一翼を担い、高等教育の機会均等を推進することを使命とする。
B本学は、地方にある総合大学として地域社会の充実に寄与するため、国際的かつ
 国内的に高度な地域研究と人材育成を行う。
C本学は、「優れた創造力、逞しき意志」を高らかに唱った青春の精神*に立脚し、
 総合的かつ全人類的課題に関する教養教育を通じて二千年紀を切り拓く主体的な
 人格形成を行う。
    *「青春の詩碑」(山形大学工学部80周年記念碑 工学部構内)

【組織運営の原理】
  山形大学の組織運営は、本学の理念を実現するために、第1編に規定した【学問
の自由】【大学の自治】を最大限に保障することを基本原則として行われなければ
ならない。
@本学は、教学と経営を一体的に運営し、かつ経営は本学の理念の実現を図ること
 を目的としてなされなければならない。
A学長及び法人法に設置が規定される役員会及び運営協議会は、評議会の審議を最
 大限に尊重しなければならない。また、評議会における審議は、各部局の意志決
 定機関たる教授会の意向をふまえることを原則とする。
B法人法の規定に従い役員会、運営協議会及び監事への学外者の参加を認める。本
 学の理念の実現のために、学外者の参加は適切な範囲とし、かつその過半数は大
 学の基本原理や研究・教育に精通した者とする。
C法人法の規定する監事の他に、監査委員会を設置する。監査委員は、本学の研究・
 教育者のなかから評議会により任命される。監査委員会は独立した調査権を持ち、
 本学の執行機関たる学長と役員会の業務をはじめ組織運営・目標評価・人事・財
 務会計が適正に実施されているかどうかを本憲章の諸規定を基準に監査する。監
 査委員会は監査結果を監事、審議機関たる評議会及び各教授会へ報告する義務を
 負う。文部科学大臣への監査意見の提出をはじめ監事の監査業務は、監査委員会
 の監査報告を最大限に尊重して行われなければならない。
D学長、役員会役員、運営協議会委員、監事に対して、本学の一般の研究・教育者
 はその特別多数決で解任を請求することができる。
E社会にむけて開かれた大学たるべく、第1編に規定した【説明責任】を果たす組
 織を学長のもとに設置する。本学の研究・教育活動や組織運営につき情報を積極
 的に発信し、本学の理念が実現できているかどうかをその付託者たる全体として
 の社会一般に問い、自由な意見をひろく求め、本学の活動に活かす。

【目標評価の原則】
  山形大学の中長期目標・計画フ策定および評価は、本学の理念及び第1編に規定
した大学の基本原理をふまえて行われなければならない。
@中長期目標・計画の策定は、本学を構成する一般の研究・教育者の意見を最大限
 に尊重してなされなければならない。
A研究・教育に関する目標・計画の策定及び評価に関しては、以下の点に特に留意
 しなければならない。
  (1)研究・教育が計量的基準だけでは適切に評価できない面があることを十分に考
   慮すること。
 (2)目標達成率などの外形的基準を過度に重視して、研究・教育のあるべき姿を歪
   めないこと。
 (3)産学官連携にもとづく外部資金の導入による研究・教育の実施の計画策定にお
   いては、人類の福利と平和、地球環境との共生を妨げるような研究・教育をそ
   の内容としてはならないこと。
B組織運営に関する目標・計画の策定および評価は、第1編の【知の共同体として
 の要件】【大学の自治】【説明責任】の諸規定の実現ないし履行を基本的な観点
 としてなされなければならない。
C公正な手続きによって任命された、学問的識見を有する者からなる中立的機関に
 よる評価は厳粛に受け止め、研究・教育、組織運営の改善努力に積極的に取り組
 まなければならない。研究・教育成果が共同的作業の結果であることに鑑み、評
 価の結果を身分上の処遇に結び付ける場合においては、安易な点数主義や不毛な
 競争に陥ることによって、【学問の自由】【知の共同体としての要件】を阻害す
 ることがあってはならない。

【人事制度の基本】
 山形大学の理念を実現するために、本学の研究・教育者は安定した身分及び雇用
が保障されていなければならない。
 山形大学の研究・教育者の身分は、国を設置者とし上述の理念を掲げる本学の公
共的な性格に鑑み、公務員であることが望ましい。万が一、法人法で「非公務員」
と規定される場合にも、教育公務員特例法の精神を遵守すべきである。
@本学の研究・教育者の人事(任免・分限・懲戒・服務等)および人権保障につい
 ては、第1編に規定する【大学の自治】にもとづき行われなければならない。就
 業規則についても同様の措置がとられなければならない。
A本学の代表者たる学長の選考は、本学の全ての研究・教育者が参加する直接選挙
 に基づき、法人法に設置が規定される学長選考委員会が行う。
B学部長など各部局長の選考・任免は各教授会等の構成員の直接選挙に基づき、学
 長が行う。
C本学の人事制度は、他の学術研究・高等教育機関等との人事交流を円滑に確保す
 るために、国立大学全体の人事制度の内容や水準を充分にふまえて構築されなけ
 ればならない。
D本学に対する社会的な要請や学生の要望等に適切に応えるために、本学の一部の
 部局・分野においては法人法の規定に従い多様かつ柔軟な雇用形態を適用するこ
 とを認める。その際にも、適用された研究・教育者について【学問の自由】【大
 学の自治】の諸規定が最大限に保障される措置をとらなければならない。

【財務会計の方針】
  わが国の長期的かつ基礎的な学術研究体制の一翼を担い、高等教育の機会均等を
推進する山形大学の公共的な使命に鑑み、設置者たる国は、標準及び特定運営交付
金の充分な配分により本学の財政基盤を保障しなければならない。
@学生納付金額の設定については、高等教育の機会均等を保障する地方大学たる本
 学の使命をふまえて行われなければならない。
A本学における予算配分は、わが国の長期的かつ基礎的な学術研究体制の一翼を担
 う本学の使命をふまえ、各部局及び学問分野の総合的かつ均衡的な発展に考慮し
 て実施されなければならない。また、個々の研究・教育者に対する基礎的な研究
 費配分は保障されなければならない。
B外部資金の導入が、本学の理念や【学問の自由】を侵犯し、大学の公共性の破壊
 に結果してはならない。外部資金の獲得が困難な研究分野・領域への基礎的研究
 費の配分は、優先されなければならない。
C外部資金の獲得・運営に関しては、研究・教育者が実質的な決定権をもたなけれ
 ばならない。監査委員会は、外部資金による研究内容・資金運用につき審査を行
 う。監査委員会は第1編に規定した【説明責任】をふまえ、企業などの外部資金
 提供者の正当な財産的利益および競争上の地位を害さない限り、審査結果を本学
 内外に対して公表し学長に対して勧告する義務を負う。