☆国立大学長・大学共同利用機関長等会議における文部科学大臣あいさつ
.[he-forum 3773] 国立大学長会議における文科相挨拶
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平成14年4月3日
国立大学長・大学共同利用機関長等会議における文部科学大臣あいさつ
1. はじめに
本日は、ご多忙のところ、ご出席をいただき、御礼申し上げます。また、各
機関における皆様方の日頃のこ尽力に対しまして、深く敬意を表します。
本日、皆様方にお集まりいただきましたのは、懸案となっております国立大
学等の法人化の問題につきまして、先月26日に「国立大学等の独立行政法人化
に関する調査検討会譲」で最終報告がとりまとめられたことを踏まえまして、
その概要をご紹介するとともに、文部科学省としての考え方をご説明するため
でございます。
報告の概要につきましては、後ほど、担当よりご説明申し上げ、また、皆様
からのご質問やご意見を伺うこととしておりますが、せっかくの機会でござい
ますので、歴史的経緯も含め、これからの国立大学等の在り方について、私の
考えを申し上げたいと存じます。
「知の時代」とも言われる21世紀に入り、「人材大国」、「科学技術創造立
国」を目指す我が国にとりまして、「知の創造と継承」を担う大学の役割は、
ますます重要なものとなってまいりました。
昨今、我が国の社会経済情勢が厳しさを増す中で、日本の大学、とりわけ国
立大学については、種々の批判や注文が寄せられていることは、皆様もお気づ
きのことと存じます。
私は、それも裏を返してみれば、大学に対する社会の並々ならぬ期待感の現
れと受け止めておりますが、それ故に、今、この時点で、国立大学等の在るべ
き姿をしっかりと見直し、その役割を実現するための仕組みを再構築する必要
性を、常々感じてきたところでございます。
2. 歴史的経緯と国立大学改革
振り返つてみますと、我が国の国立大学は、明治10年に最初の官立大学が設
置されて以来、ヨーロッパ型の大学を基本的なモデルとしつつ、学術研究と人
材養成に努めることにより、我が国の近代化を支え、国の発展に大きな貢献を
果たしてまいりました。
先の大戦後は、新制大学への転換・一元化という大きな変革の中で、一般教
育、単位制、課程制大学院など米国型の大学モデルの諸要素が新たに取り入れ
られましたが、その内実については、関係者の間で必ずしも十分には消化され
ないまま、戦後大学制度がスタートしたという経緯がございました。
その後、国立大学については、理工系分野の拡充、医科大学や新構想大学の
設置など、社会経済の動向や国民の要請に応えた一連の整備が進む中で、学術
研究の推進、研究者の養成、進学機会の確保、さらには地域社会への貢献など、
戦後の我が国社会の発展を支えてこられました。その過程で、時代の要請に応
え、時々の関係者の努力により、一つ一つの国立大学が設置され、様々な歴史
と特質をもつ高等教育機関群となってまいったところです。
この間、経済の復興を背景とした国民の進学意欲の急速な高まりを受け、私
学を中心に大学の量的拡大が進みましたが、大学のいわゆる大衆化が進むに伴
い、大学の在り方を巡る様々な問題が顕在化し、昭和40年代の大学紛争を経て、
教育改革の大きな流れの中で、大学についても改革の必要性が指摘されるよう
になってまいりました。
そうした経緯を踏まえて、昭和62年には、大学審議会が発足するに至り、同
審議会から出された累次にわたる答申を踏まえて、いわゆる「高度化・個性化・
活性化」の旗印の下、各大学において大学改革に向けての具体的な取り組みが
着実に進んできたことは、高く評価されるべきものと、私は考えております。
しかしながら、こうした各大学における取り組みにもかかわらず、全ての国
立大学が、国民の期待に十分に応えて、改革を進め成果を上げることができて
いるでしょうか。また、一人一人の教職員に至るまで、改革の気運が浸透し、
努力が続けられているでしょうか。さらに、それらの結果として、全体として
国立大学の在るべき姿が実現されているでしようか。こうした点についての国
民の受け止め方には、依然として極めて厳しいものがあると、深く憂慮してお
ります。
3. 国立大学の法人化
このような歴史的経緯の中にあって、国立大学の設置形態の在り方は、長ら
く我が国大学制度上の大きな課題とされてまいりました。我が国の国立大学は、
独立した法人格を持たず、国の行政組織の一部として位置付けられてきたため、
逐次、改善が図られてきたものの、予算、組織、人事など種々の面で一定の制
約があり、各大学における教育研究の柔軟な展開を図る上での障害となってい
る点は、従来から繰り返し指摘されてきた通りでございます。
この点、欧米諸国においては、国により大学制度は様々でありますが、国立
大学や州立大学を含めて、大学には法人格が付与されているのが一般的である
と承知しております。
このため、国立大学の法人化の必要性については、各大学における自主的・
自律的な運営を実現し、個性的な発展を図る観点から、昭和46年の中央教育審
議会答申以来、度々指摘されてまいりました。
残念ながら、今日まで、その機が熟さず、具体化には至りませんでしたが、
国による確実な財政措置を前提とした独立行政法人制度の発足を機として、国
立大学の法人化の問題を現実の課題として検討することになったことは、国立
大学の今後の発展を図る上で、大きな意義を持つものと、私は考えております。
この間、行政改革会議の最終報告をはじめとする行政改革の大きな流れをも
踏まえながら、国立大学の法人化を大学改革の一環として位置づけ、平成11年
に、有馬大臣が国立大学等の法人化に関する検討の方向を示されました。さら
に一昨年には、中曽根大臣の下、法人化への具体的な歩みが始まり、今、私が
その結論をいただくということになりました。
この問題の具体的な検討を行うために、一昨年の7月に発足した調査検討会
議には、学長を始め国立大学等の多くの関係者の参画も得て、難しい検討テー
マが多い中、国立大学等の「改革と新生」という大きな目標に向けて、熱心に
ご議論をいただいたと伺っております。
ご協力いただいた皆様に対しまして、この場をお借りして、心から感謝申し
上げます。
ここで、報告書の内容に関連して、若干の私の所感を申し上げたいと存じま
す。
まず、第−に、国立大学等を取り巻く諸情勢が大きく変化する中で、一つ一
つの国立大学等の存在意義が改めて問われており、国民や社会に対する説明責
任が増大しているという点であります。
その点、今回の報告書では、各機関ごとに、一定期間の目標や計画を社会に
対して明らかにし、また、第三者による事後的な評価を受けて、その存在意義
を証明する、という視点が示されていることは、極めて重要なことと考えてお
ります。
また、こうした取り組みが、各大学等における教育研究活動の活性化や、個
性ある発展にも大いに寄与することになるものと期待しているところでござい
ます。
第二に、国立大学は、社会に対する説明責任から更に一歩を進め、経費の過
半を税金により支えられる大学として、大学の外の社会との間で、意思疎通を
図り、信頼関係を築いていくための積極的な取り組みが求められているという
点であります。
その点、役員への招聘を始めとして国立大学の運営に学外者の積極的な参画
を求めた今回の提言は、まことに時宜を得た画期的なものであると受け止めて
おります。
また、今回の報告書そのものが、実は、国立大学関係者と学外の各界の有識
者との間の相互理解と協力が、いかに有意義な成果をもたらし得るかというこ
とを実証しているのではないでしょうか。
第三に、そのような社会との間の信頼関係を基盤として、現下の困難な時代
にこそ、国立の教育研究枚関として、国民や社会の期待に応えて、その持てる
能力を存分に発揮し、時代や社会をリードしていくことが強く期待されている
という点であります。
その点、国立大学法人の骨格を決める教職員の身分の問題、大学の運営組織
の在り方、財務上の取扱い等について、過去の経緯にとらわれず、新しい時代
にふさわしいものとすべく、精力的な御議論をいただきました。その結果、非
公務員型の選択を含めて大胆に改革の方向性が示されたものと考えており、調
査検討会譲の委員の方々のご見識に対しまして、私は、心から敬意を表したい
と思います。
4. 国立大学への期待
今、国の内外の情勢を見るとき、これからの我が国の国立大学は、国際的に
通用する、魅力ある大学でなければなりません。
一般的に、大学が果たすべき機能としては、次の三点が挙げられます。
第一に、充実した教育による優れた人材の養成であります。すなわち、深い
教養とともに優れた専門性を兼ね備えた人材を育てること、とりわけ国立大学
は、国家や社会に貢献するという高い使命感を備えるとともに、国際的にも通
用する人材を、責任をもって養成することが重要であります。
第二に、学術研究面での創造と維承であります。特に、優れた独創的な研究
を活発にしていくことで、国際社会への「知の発信」が必要であります。同時
に、先人からの学問の継承の上に新たな蓄積を加え、次代に伝えるという大切
な使命を担っております。
第三に、社会貢献であります。大学、わけても国立大学は、社会的存在とし
て、人材育成と学術研究を通じた地域社会や産業界等への幅広い貢献が重要で
あります。近年、特に長期にわたる経済の低迷を背景に、産学官連携の要請が
高まっており、このような社会からの大きな期待に応えていくことが、国立大
学にとって、ますます重要な使命となってきております。また、生涯学習への
対応も大切であります。
もちろん、これら三つの機能を、全ての国立大学が、同じように体現する必
要がないことは言うまでもありません。各大学が、これまでの蓄積や地域での
役割などを背景に、大学改革の理念に照らして、それぞれの存立の意義や目標
を明確にされ、個性や特色を発揮して前進していただくこと、それこそが重要
であります。
現在、各大学において、大学の枠を越えた再編・統合についての検討をお進
めいただいておりますが、こうした取り組みの中で、いかに新しい個性や特色
を創造していただくかが、正に学長の双肩にかかっております。
この点は、再編・統合を具体的に検討されている比較的小規模の大学におい
て、種々工夫を凝らしていただくのは当然のことでありますが、大規模な総合
大学をはじめ比較的規模の大きい大学においてこそ、新たな視点から本格的な
改革の姿勢を国民に対してお示しいただくことを、私としては是非ともお願い
したいと考えております。
5. おわりに
以上、これからの国立大学の在り方を中心に、私の考えを述べてまいりまし
たが、大学共同利用機関について一言申し上げます。大学共同利用機関は、全
国の研究者に開かれた共同研究の拠点として、特色ある発展を遂げてこられま
した。私は、今回の改革の方向は、大学と同様に研究者の自由な発想を源泉と
して学術研究と教育を推進してこられた大学共同利用機関にとっても、ふさわ
しいものと考えております。大学とはまた異なる種々のご苦労もあるものと存
じますが、今回の改革の趣旨を是非ご理解いただき、各機関においてご努力を
重ねていただきますようお願いいたします。
今後、我が省といたしましては、今回の報告書を重く受け止め、その内容に
沿って、制度の具体化を図ってまいりたいと考えております。もちろん、その
際には、引き続き皆様のご意見を十分お聴きしながら、作業を進めてまいる所
存です。どうか、各大学等におかれましても、新制度への移行に向けて諸準備
に怠りなきを期していただきますとともに、我が省における準備作業にも、積
極的にご協力賜りますよう、お願い申し上げます。
我が省としては、国立大学とともに、公立大学、私立大学がそれぞれに発展
することで、我が国の高等教育機関が全体として充実したものとなることが重
要と考えており、そのためにも、国立大学等の改革が、その牽引力になること
を期待しております。
国立大学等の法人化を含め、昨年6月に公表した「大学の構造改革の方針」
は、いずれも、これまでの大学改革の流れの上に、国立大学が国民の信を得て、
さらに大きく発展することを願ってのものでございます。その中でも法人化の
問題は、我が国の大学制度120有余年の歴史の上で、一大転換点と位置付けら
れるものと考えており、その具体化に向け、担当大臣としての責任の重さを痛
感しております。
たいへん難しい課題ではありますが、私は、大学改革の成否如何が、我が国
社会の浮沈に大きく関わるものと考えております。とりわけ、多くの国費を投
入している国立大学の関係者に対しては、志を高くされ、不断の努力に邁進さ
れますことを、国民の多くが望んでいるものと思います。私としては、学長を
始め関係各位と協力しつつ、この歴史的な事業に全力を尽くす所存でございま
す。同時に、国立大学等の法人化を契機に、国としての支援の拡充のため、心
新たに努力してまいりたいと存じます。
皆様のご理解とご協力を切にお願い申し上げ、私のごあいさつとさせていた
だきます。