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独行法反対首都圏ネットワーク

☆今日の視角 大学の教官
 
. [he-forum 3745] 信濃毎日新聞04/06
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『信濃毎日新聞』2002年4月6日付

今日の視角 大学の教官

 「ほかの職業の人は辞めればただの人だが、教員は退職しても先生だ。人格
を磨き上げる点で全くほかの職業の人と違うのだから、しっかりやりなさ
い」―。四十五年ほど前に先輩からいただいた戒めの言葉である。

 大学教官の役割の一つは先見性である。米国では科学担当の大統領補佐官が
いて、科学政策について助言をするが、日本にはそのような制度がない。米国
とは違って国立大学が多いから、なおのこと国立大学の教官に課せられた義務、
責任は重い。教官である以上、しっかり勉強して人格も学識も尊敬に値する水
準に到達したいし、もしそれができなければ、日本という国が重大な機能を欠
く事態にもつながる。

 大学での研究は必ずしも現実社会だけが対象ではないから、大学には治外法
権的な自治が許されてきた。今日、その自治だけが独り歩きして、今日的な注
目に値しない研究をしている教官も自治だけは要求するから、世の批判を浴び
る。

 他方、現実社会の秩序の下で動くべき官庁の中で、かつての軍部を思わせる
ような大掛かりな“自治”が行われていた例を見せられて呆然とさせられる昨
今である。このような時代、学生は大学在学中、自ら修養に励み、社会を引っ
張る大きな牽引力とともに、不法行為を防ぐだけの実力を養うことが急務では
ないか。

 戦後の立ち上がり時代に、私が産学協同の重要性に気付いたのは、英グラス
ゴー大学の流れをくんで東大物理学科から本多光太郎先生が東北大学に持って
こられた現場主義の学風に触れたからにほかならないが、それとともに、同じ
流れをくむ米スタンフォード大学の試みにいち早く注目した浜田成徳教授の慧
眼に導かれた点が大きかった。しかし、世は冷たく、スタンフォード流に大学
の近接地で産学協同を実施して手痛い攻撃を受けた。

 それが今は、研究と教育の牙城であるべき学内の中心で、何の議論も批判も
なく産学協同が行われている。昔、批判していた人たちも黙ってそれにかかわっ
ている。不思議なことだ。

(西沢 潤一)