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独行法反対首都圏ネットワーク

国立大法人化/変えるもの変わらぬもの
 
[he-forum 3683] 神戸新聞社説03/29.
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『神戸新聞』社説  2002年3月29日付

国立大法人化/変えるもの変わらぬもの


 国立大学の独立行政法人化に当たって、基本的な制度の検討をしていた文部
科学省の調査検討会議が、さきごろ、組織・運営などについての最終報告をま
とめた。

 それによると、最大の焦点であった教職員の身分については、活動幅を広げ
るため全員を非公務員とすることで決着したほか∇学科設置や予算配分の自由
化など大学裁量権の拡大∇大学経営や評価機関への学外有識者の導入∇競争原
理を取り入れた柔軟な組織運営∇産学協同の積極推進―といった大幅な改革が
盛り込まれている。

 法人化は、二〇〇四年春にも実施に移されるが、明治の帝国大学、戦後の新
制大学設置に匹敵する大学改革とも位置づけられているだけに、ムード先行に
陥らぬよう、「新しい大学」の創造に向けた着実な詰めの作業が求められる。

 最終報告の中でとくに強調されていることの一つは「大学の経営」というこ
とである。“ぬるま湯に浸ったような”とやゆされた従来からの運営方式が一
八〇度転換された。

 すでに私立大学で始まっている学長の権限拡大や、民間手法による評価や費
用対効果の重視、大学内外での競争を促す方針が打ち出された。国立大学にとっ
ては脱皮のためのショック療法ともなろう。ただし、教育研究施設や体制が一
様でない各大学を一斉に競争の渦中に引き込むのは問題が多い。大学切り捨て
は避けるべきだ。

 教職員の兼業解禁も時代の要請だろう。教育・研究に支障をきたさぬ限り、
大学の社会貢献、地域貢献という観点から、前向きにとらえたい。

 予算の自由化については、特許関連学部や病院など収益部門の活性化にもつ
ながり市民サービスの向上にも寄与する。拡大した裁量権をフルに活用し、特
色ある大学をつくりあげることも可能である。

 ただ、こうした「経済合理主義」が前面に出過ぎることで、大学運営や研究
分野がいわゆる実学一辺倒に片寄るのではないかとの指摘もある。

 その結果、基礎学問の軽視につながる恐れある。ことに「カネにならない」
が、しかし、教養として欠かすことのできない学問分野の研究予算がカットさ
れるという懸念が広まっている。競争・実利重視の初期サッチャリズムによる
英国の急激な大学改革で浮き彫りにされた問題点である。そんな愚を繰り返し
てはならない。

 法人化が、避けて通れぬものなら、そのために変えるべきもの、変えてはな
らないものをしっかり峻別(しゆんべつ)する必要がある。