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独行法反対首都圏ネットワーク

☆国立大の法人化/国は自立への支援に徹せよ
 
[he-forum 3669] 山陰中央新報社説03/28.
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『山陰中央新報』社説  2002年3月28日付

国立大の法人化/国は自立への支援に徹せよ


 文部科学省が検討していた国立大学法人化の最終報告がまとまった。予算の
使い方や人事、教育研究組織などについての国の規制を緩和し、大学の裁量を
大幅に広げるというのが法人化の趣旨だ。国家の付属機関だった従来に比べれ
ば、よりオープンな制度になる。大きな前進と言えるだろう。

 だが、最終報告を見る限り、国の関与の及ぶ余地は依然大きく、やり方次第
では、かえって国のコントロールが強まる恐れもある。

 肝心なのは大学の自主性・自律性の確立だ。国は大学支援に徹してほしい。
あれこれと手を出して、自立の芽をつぶしたのでは元も子もない。

 最終報告では、教職員の身分を非公務員とすることや、外部の有識者を含め
た役員会を設けることが新たに盛り込まれた。

 大学の自由度をできるだけ高める、という観点から言えば、非公務員とした
のは妥当なところだ。教育研究の自由も、公務員でなければ守れないというわ
けでもなかろう。問題があれば、透明性を高める中で社会に問い掛け、勝ち取
るのが本筋だろう。

 役員会を設けて大学全体として「透明性の高い意思決定」を目指したのも理
解できる。経営・教育の責任者となる学長の権限は強大だ。重要事項について、
学長の意思決定に先立ち役員会の議決を経るとしたのは、権力チェックという
点でも意味がある。

 気になるのは、行革論議で浮上した独立行政法人の基本的枠組みを依然引き
ずっている点だ。

 行政の企画立案機能と実施機能を分け、企画立案を本省が、独立行政法人が
実施機能を担うという仕組みだが、実施機能として想定されていたのはもっぱ
ら定型的業務だ。主務省が中期目標を定めて指示、主務省に置かれた評価委員
会が達成状況を評価するという上意下達の仕組みは、自由な発想が基本の大学
に到底なじまない。

 最終報告は大学の中期目標について、各大学が作成した原案への配慮義務な
どを盛り込んだものの「文部科学大臣が…定める」とし、文部科学省内に置い
た国立大評価委員会が達成状況などを評価し「運営費交付金等の算定に反映さ
せる」とした。

 中期目標について、中間報告にはなかった各大学の原案への配慮義務を盛り
込んだのは一歩前進だが、国が目標を定めるという基本は変わらなかった。と
ても先進国の大学と思えない。

 国によるトップダウンの仕組みが強まれば強まるほど、大学に未来を開く自
由な発想は生まれにくくなる。白川英樹さんや野依良治さんのノーベル賞も、
国のプロジェクト研究ではなく、ごく日常の自由な研究から生まれたものだ。

 具体的な制度設計に当たっては、評価と離れた基盤的経費の一定程度の保証
や国立大評価委員会を第三者機関とすることなど、国の関与をできるだけ制限
する方向で組み立てるべきだ。

 国立大も正念場である。法人化により大学は、これまで国任せだった予算の
配分や人事・労務などさまざまな業務を自律的にこなさなければならない。限
りあるカネを基礎研究につぎ込むかどうかも、大学の見識になる。

 自由が広がる分だけ責任も大きくなる。「大学自治」を構築できない大学に、
未来はない。任せられたができなかった、では済まない。