☆NHK「あすを読む・国立大学法人化に一歩」(早川信夫解説委員)
.[he-forum 3665] あすを読む(NHK)03/28
--------------------------------------------------------------
NHK「あすを読む・国立大学法人化に一歩」(早川信夫解説委員)
2002年3月28日00時00分〜00時10分
国立大学が独立行政法人に移行したあとのあり方について議論してきました
文部科学省の調査検討会議は、おととい、最終報告をまとめて遠山文部科学大
臣に提出しました。116年におよぶ国立大学の歴史の中で、設置形態にまで手
を加えるのは初めてです。今夜はこの報告の内容と課題について考えたいと思
います。
法人化されると国立大学はどう変わるのでしょうか。国の行政組織の一部に
過ぎなかったものが、大学ごとに法人として独立した存在となります。つまり
これまでは自治は認めつつも国立大学全体の舵取りは国が面倒を見てきました。
各大学は保護者の手を離れ、自分の責任で歩んでいくことになります。人生に
たとえるならば、親離れ、子離れにあたるのかもしれません。かといって私立
大学になるわけではありません。大学の予算は国からのお金でまかなわれ、名
称も国立大学のままです。お金の使い道について縛りがゆるめられますけれど
も、大学ごとに収支が問われることになります。これからはお金は自分でやり
くりしなければなりません。しかしその分、自分でがんばって儲けたお金は自
由に使えるようになります。自立性を認める代わりに自己責任が求められると
いうわけです。
では今回の最終報告では、法人化に向けてどんな提言をしているのでしょう
か。柱は四つです。
まず、トップダウン方式の強化。学長を中心に役員会を作り、責任をもって
経営を担ってもらうことにします。大学は議論ばかりしていてなかなか改革が
進まない、これでは時代の変化のスピードに追いつけない、と批判されてきま
した。教授会の決定を通さなければ何も決まらない、という今の方式を改め役
員会の決定に委ねようというのです。学長のリーダーシップの強化が狙いです。
二つ目ですけれども、外部パワーの導入です。役員会には学外の専門家を必
ず招き入れることを求めています。外の知恵を借りて大学を活性化させ、「大
学の常識、世間の非常識」と揶揄されないように狙っています。必要ならば、
非常勤とすることも考えます。
三つ目は能力主義の徹底です。そのために教職員は非公務員とするとしてい
ます。これによって学長に経営手腕のある外国人を登用できるようになります。
日産自動車のゴーン社長ですとか、サッカー日本代表のトルシエ監督のように、
る外国人が大学を引っ張る日がくるかもしれません。また、社会的に活躍して
いる著名人を、名物教授として何年間か採用することも考えられます。さらに、
兼職や兼業の縛りがなくなり、教授がビジネスマンを兼ねる、といったことが
当たり前になるかもしれません。ただし、みなし公務員として引き続き贈収賄
の対象にはなります。
四つ目ですけれども、事後チェック方式への移行。大学はみずからどういう
大学を目指すのか、6年間の中期目標と中期計画を立てるように求められます。
この計画にもとづいて予算が配分されます。そして六年後、目標と計画がどれ
だけ達成されているのか、第三者機関によって評価され、その結果に応じて次
の予算配分が決まる仕組みです。評価は教育研究の内容が理解できる専門家が
行います。評価項目をどうするのかといった、具体的な詰めは今後の検討課題
です。
最終報告が出たことで、国立大学は法人化に向けて一歩を踏み出します。し
かし、一年八カ月におよぶ今回の議論、けして平坦なものではありませんでし
た。といいますのは、今回の議論は行政改革の論議から出てきたものだからで
す。会議では時間をかけることで行政改革の呪縛から離れ、自分たちの改革の
ペースに持っていこうと、次第に変わっていったという印象を受けました。し
かし、地方の国立大学を中心に依然として根強い抵抗感があります。評価結果
による予算配分によって、有力大学にばかり重点配分されるのではないか、と
いう心配は解消されませんでした。国から引き継ぐ資産の格差も不安の種です。
また、六年間で結果を出しにくい学問分野が切り捨てられ、基礎研究の低下を
招きかねない、という危惧も払拭されてはいません。その一方、厭戦気分も広
がっているようで、私には気になります。どうせ良くはならないと、若手研究
者を中心に、先行きが見通せるようになるまで、研究条件の良い海外の大学や
研究所に職を求めようという情報が飛び交っているという話を耳にしました。
頭脳流出の加速が心配です。
こうした中、法人化反対を叫んでいた大学も、それぞれに学内の論議を活発
化させています。去年の六月に大学の構造改革プランが文部科学省から打ち出
されました。法人化に加え、国立大学の再編・統合、世界的な水準の研究への
重点的な資金配分、という方針が示されたことは、改革論議に拍車をかけてい
ます。すでに今年の一〇月には山梨大学と山梨医科大学、筑波大学と図書館情
報大学が、それぞれひとつの大学に統合する予定です。また来年の統合を目指
して、九州大学と九州芸術工科大学など、八組一七大学が検討を進めています。
この他にも、県域を超えた統合の動きが出始めています。
増えつづけるだけだった国立大学は、再編の時代に入っています。今回の最
終報告を受けて、文部科学省は来年の通常国会を目指して関連法案の作成に取
りかかり、早ければ再来年の春には国立大学法人が誕生する見込みです。そこ
で、今後の課題を三点挙げたいと思います。
まず、教員と職員が一体となって改革に取り組んでほしいと思います。検討
会議の議論を聞いていますと、教員だけで大学を経営しているという錯覚に陥っ
ているのではないかと感じることがたびたびありました。教員と事務職員が一
体となって知恵を出しあってこそ、大学としての力が発揮できるのではないか
と思います。
二つ目は、やはり経営感覚が大事です。法人化によって土地や建物といった
資産が国から大学に移され、大学ごとに収支をとる必要が出てきます。山種証
券の社長から早稲田大学の財務担当の理事になり、多額の債務の処理にあたっ
てきた關昭太郎さんは、大学の内側に入ってみると、財務のことをあまりに知
らなさすぎるのに驚かされた、帳簿を読めるまでに職員を一から育て上げるの
に七年かかったと話しています。国立大学といえど、財務のプロが必要な時代、
対応が急務です。
第三ですけれども、改革の本義は、受益者である学生や社会にたいして、大
学がどういったサービスを提供できるか、といった問題があります。そうした
配慮のひとつとして、大学ごとに安易に授業料を値上げしないようにとの歯止
めが、報告に盛り込まれた点は評価できます。しかし、法人化がどうサービス
向上につながるのか、といったことはいまだに見えてきていません。競争的な
資金配分、ということが言われだしたとたんに、先生の多くが資金の獲得のた
めに、研究、研究と走りはじめたと聞きます。大学の先生たちには、急速な改
革の動きの中で、肝心の教育を忘れないでほしいと思います。また、産学連携
を通して、社会還元を考えることも必要です。
法人化まであと二年。時間はあるようで案外ありません。政府や文部科学省
には、国立大学を法人化することで、大学全体をどうしたいのかといったプラ
ンを示すよう求めたいと思います。その上で、大学への投資が充分なのかも含
めて、改革に取り組みやすい条件整備をすすめてほしいと思います。また、大
学関係者には、自分たちの思惑を先行させることなく、大学が果たすべき役割
を考えながら、改革に取り組んでほしいものだと思います。
それでは今夜はこれで失礼いたします。