☆[やまなしに想う] 椎貝博美さん 統合その後
.[he-forum 3644] 朝日新聞山梨版03/16
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『朝日新聞』山梨版 2002年3月16日付
[やまなしに想う]
椎貝博美さん 統合その後
以前この欄で、山梨医科大学と山梨大学の統合について触れたが、その後の
経緯や私が気付いたことを報告したい。
新大学の設立については、すでに閣議決定が行われている。これは「山梨大
学と山梨医科大学を廃止して、改めて山梨大学を設立する」という趣旨のもの
で、国会の決定以後、第三者を含む新大学設置の委員会により、新しい山梨大
学の学則など細部を決定することになるであろう。
この統合において、私にとって大変参考になったのは、1886年に行われ
た、東京大学と工部大学校の統合である。これが、日本における国立大学最初
の統合であろう。
結果としてこの統合は成功し、「帝国大学」の誕生を見た。なお当時の日本
の国名がまだ大日本帝国ではなく、「日本国」であったことは大変面白い。
この私の調査に誤りがなければ、われわれの統合は国立大学2回目のもので
ある。同時に、筑波大学と図書館情報大学は吸収合併型、つまり図書館情報大
学のみを廃止するという統合を行うことに決定した。
大学統合では、利害得失などをよく見定めて、すべてを見通して行わなくて
はならない、という考え方があり、実際そういう意見はよくマスコミにも紹介
されている。
しかし、人間が未来のことすべてを見通すことは不可能であろう。
実際、われわれが大学統合の作業を行っている間に、大学統合のもたらす利
益のかなりの部分は、この統合作業の中にあるということが次第に分かってき
た。
大学統合にあたっては、現在自分のいる大学を少しでも有利にしたい、と考
えるのは人情である。しかし統合にあたって、二つの大学がそれぞれ自分の利
益になることだけを主張すればどうなるであろうか。
おそらく感情的な対立が生じて統合ができなくなるか、できたとしても教職
員、学生の間に好ましくない感情が生まれ、それが長い間持続することは明ら
かである。
このことを考えれば、滑らかに統合作業を進めることそれ自体が、大学統合
の第一の利益なのであろう。実際私自身、統合作業が進行するにつれて、次第
に医大の立場がよく理解できるようになった。
そう考えるようになってから、統合作業は一層滑らかに進行するようになっ
た。多分この統合によって新しい大学が得るものは膨大なものであろう。しか
し、現在のわれわれはそれを知ることはできない。それは大学統合自体が未知
の分野だからである。
従って私は思いもかけなかった、何かすばらしい効果が表れることもひそか
に期待している。
(しいがい・ひろよし=山梨大学長)