☆[理系白書]読者の声 構造改革が必要――滅私奉公やめよ
[he-forum 3619] 毎日新聞03/18.
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『毎日新聞』2002年3月18日付
[理系白書]読者の声 構造改革が必要――滅私奉公やめよ
◇滅私奉公やめよ/研究能力劣らないのに/「博士」反対すればよかった
日本のモノづくりを支えてきた研究者や技術者の現状を描く連載「理系白書」
に、さまざまな意見や感想が寄せられている。第2部を終了した時点で、いく
つかを紹介する。【元村有希子】
1月にスタートした第1部「研究とカネ」(6回)では、よりよい待遇を求
めて日本を飛び出した技術者、不況を背景に先細りする企業の基礎研究、研究
費獲得に苦しむ大学人などをとりあげ、金と無縁ではない研究の世界を報告し
た。
技術者らの流出について、北海道白老町の徳田伸之さん(66)は、日本の
滅私奉公的な考え方が問題の根っこにあると指摘。「そこから抜け出さないと、
奴隷技術者の現状は改まらず、流出も止まらない」と警告した。
「文部科学省は、研究費の申請時から成果を求める。成果が出るかどうか分
からないのが研究では?」。地方の私立大教授(60)は、国が出す研究費の
あり方に疑問を呈した。また、「東大など有名国立大の先生が申請すると、巨
額の研究費がつきやすい。そんな出し方は妙だ」と、配分の不公平さを問題視
した。
第2部「博士ってなに?」(5回)は、研究力の強化を狙った大学院拡充政
策によって毎年1万人ずつ生まれる博士が、終身雇用・年功序列の日本社会で
実力を発揮しにくい現状を報告した。
「私の息子は30歳で博士になったが仕事がなく、渡米して3年になる。在
学中に借りた奨学金を親が年金から返している。博士になることを反対すれば
よかったと痛感する。本当に博士ってなんなのでしょう」。新潟県新発田市の
女性は、こんな胸中をつづった。同様に「実態を知って驚いた」という親たち
の投書が目立った。
定職がない博士に対して一定期間、国費で経済支援する「ポストドクター」
制度に対する意見も多かった。日本のポスドクは1万人を超えるが、期限切れ
のあとの就職先がないなど、まだ「一時しのぎ」の色彩が強い。
米国でのポスドク経験がある大阪府の大学教員、足立明人さん(33)は
「米国では、3年のポスドク経験を積まないと、大学教員に志願したり研究費
の申請ができない。理念があり、制度として根付いている。日本のように意味
なく増やすのとは違う」と指摘する。
海外からの感想も多かった。
スイス・チューリヒ大大学院でロボット工学を学ぶ飯田史也さん(27)は、
日本で修士課程を終えた後、「研究か就職か」という二者択一に迷い、留学の
道を選んだ。「二つに一つではない自由な発想が欧州にはある。欧州では大学
院を出て1〜3年はいろんな経験を積んだり研究分野を広げる。それが独創性
として、研究にプラスになる」
スウェーデンの大学院博士課程で半導体物理を学ぶ岩田一紗臣(ひさおみ)
さん(24)は「欧米の博士課程では、授業料を払って無給で研究している人
はいない。100%自立している。日本の大学院生がふびん。優秀な学生がみ
んな海外へ行ってしまえば、国が深刻さに気づいて、10年後には社会が変わっ
ていくのでは」と怒る。
国の政策だけでなく、研究室や研究者も変わらなければ、という声も強かっ
た。北海道大大学院の助手、福嶋伸之さん(39)は「大学の研究室に根づく
日本特有の上下関係(師弟関係)が研究の弊害になることが多い」という。
「一門意識は、人事や研究費の配分に不透明さを生む。研究の世界では誰もが
対等という意識があって初めて、個人の能力が十二分に発揮される。日本人の
能力は劣っていないのだから、研究の世界から儒教精神を捨て去ること、研究
者の意識改革が必要です」