☆国立大病院、患者本位へ改革案
. [he-forum 3572] 読売新聞03/09
『読売新聞』(Yomiuri On-Line) 2002年3月9日付
国立大病院、患者本位へ改革案
大学病院の医療事故防止対策に取り組む国立大学医学部付属病院長会議は、
患者本位の診療の強化を図るため、病院組織の抜本的な改革案をまとめた。
〈1〉教授が持つ人事権を病院長主導に切り替えてリーダーシップを持たせる
〈2〉患者への責任体制があいまいになる医師のアルバイト診療を制限する――
などの具体策を盛り込み、11日にも公表する。同会議は「事故防止や医療の
質向上には、100年来の病院組織自体の改革が不可欠」としており、文部科
学省も強く実施を求める。
同会議は、実質的に国立大病院の医療安全策を決定する機関。
今回の改革案は、大学病院が事故防止対策などに取り組む際の「壁」になっ
ていたリーダーシップの欠如や、閉鎖的な医局制度の弊害を解消するため、具
体的な指針を示したものだ。
教授が医師の人事権を握り、医局に君臨する大学病院では、医局間に壁がで
き、病院内での連携した治療の妨げや、隠ぺい体質の背景になると批判されて
きた。これに対し、改革案では、病院長主導で医師の採用や配置を行う体制作
りを求め、複数の診療科にかかる患者に適切に対応したり、診療科の異なる医
師同士が交流し、患者に関する情報や治療方針などの検討がスムーズに進むよ
う改める。
病院長は教授(診療科長)との併任をやめて専任とし、適任者を外部から求
めることも提案。病院長が各診療科の「調整係」になりがちな現状も改善する。
医師が他の病院でアルバイト当直をし、患者の急変に十分に対応できなかっ
たり、疲労で集中力が落ちたりするなどの現状に関しては、本来の勤務に支障
をきたしたり、責任体制があいまいになったりする勤務体系は「認められない」
と批判。アルバイト診療の許容範囲を明文化するよう求めるほか、研修医のア
ルバイト診療の禁止も提言する。
また、教授が研究業績で選ばれ、診療能力が低くても診療科長になることが
少なくない現実を踏まえ、診療能力が高い「臨床教授」の導入を勧める。縦割
りの各診療科を横断的に統括する「主任診療科長」を置き、病院長を補佐する
ことも求めている。
大学病院の「格付け」や、各診療科の「発言力」の基準にされがちな病床数
についても、医療の質向上や研修医の教育などの観点から、「削減を含め適正
数を病院ごとに考えるべきだ」としている。
国立大学医学部付属病院長会議は2000年5月、医療事故防止対策の中間
報告をまとめ、これを受けた全国42の国立大病院は、事故防止委員会の設置
やリスクマネジャー(危機管理者)の配置などの体制整備を進め、他の医療機
関でも同様の対策が本格化した。
しかし、昨年末、東大病院で胃に入れる栄養剤を誤って肺に入れ、患者が死
亡した事故など、中間報告以降も深刻な医療事故が起きており、医療関係者か
らは「形作って魂入れず」との指摘も出ていた。
◆国立大の法人化が改革急ぐ背景に◆
【解説】国立大学医学部付属病院長会議の改革案は、「白い巨塔」とも称さ
れる大学病院を、患者中心の医療に向けて抜本改革しようとするものだ。医療
の安全と質向上を追求する取り組みとしては評価できる。
国立大病院が改革を急ぐ背景には、かつてない“逆風”にさらされていると
いう現状がある。2004年度にも移行が予定されている国立大の法人化によ
り、効率的な運営が求められるうえ、医療事故訴訟で敗訴した場合、費用の大
半が自前になる可能性もある。
医療費の抑制、医療の質向上を目指す医療制度改革――などの“外圧”も強
い。一方で、医療は専門分化、高度化し、明治以来の医局制度や病院の組織が
制度疲労を起こしてきた。研究至上主義や閉鎖性、医局間の連携のなさなどは、
現代の患者のニーズからかけ離れている。
改革案をまとめた部会の田中雅夫・九大病院副院長は、「今すぐ、できるこ
とから改革しなければ、将来、消えてしまう大学病院も出るという強い危機感
があった」と語った。
患者側から見れば、遅すぎた改革とも言えるが、同会議がこれまでに打ち出
してきた対策が、具体性に富み、私立大病院や民間病院の医療事故防止にも寄
与していることも事実だ。今回の改革案を実行することで、地域医療の中核を
担う大学病院の改革が大きく前進することを期待したい。
(社会部 鈴木 敦秋)
--------------------------------------------------------------