☆「育英授業を後退させるな」
[he-forum 3563] 福島民報論説03/08 .
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『福島民報』論説 2002年3月8日付
「育英授業を後退させるな」
今春の大学入試は、私立大の大半が終了、国公立大の前期日程は県立福医大
と会津大が7日、福島大が8日に合格者を発表するなど今週末までに終える。
残るは私立大の3月日程と国公立大の後期日程のみとなった。
志望校に合格した受験生は、大学生活への夢を膨らませる楽しい時期だ。そ
の一方で、保護者の中には入学金や授業料の払い込みに続いて、毎月の仕送り
の算段に頭を痛めている方も多いことだろう。金融機関の窓口を訪れて、教育
ローンを借りる手続きをされた親も大勢いるのではないだろうか。
大学生協連の調べでは、自宅外の大学生の生活費は全国平均で月13万40
00円かかる。首都圏だとアパート代などが割高で、さらに必要になる。親の
仕送りだけで生活できれば幸せだが、仕送りが十分でなければ生活費を切り詰
めるか奨学金やアルバイトで補うしかない。
ところが、「頼みの綱」となるはずの奨学金が先細りの状況だ。企業、地方
自治体、学校などが平成11年度に学生、生徒に給付・貸与した奨学金の総額
が4年前に比べて25%も減っていることが文部科学省の調査で分かった。長
期にわたる不況のあおりで、奨学金事業から撤退したり規模を縮小したりした
団体が増えているためとみられる。
奨学金貸与のメーンとなる日本育英会の事業も後退する恐れがある。平成1
3年度には約75万人に約4700億円の奨学金を貸与している日本育英会は
昨年暮れ、特殊法人改革で独立行政法人に移行することになった。貸与事業の
内容が低下しなければ独立行政法人でも問題はないが、平成14年度の政府予
算案では無利子奨学生の募集人員が1万6000人も減った。「在学中の利子
は免除されるし、現在は低利子で無利子とあまり差がない」。財務省はこう説
明するが、金利が将来上昇しない保証はない。なにより独立行政法人になれば、
より収益性が求められる。今後も学生に有利な制度が続くとは言えなくなる。
国立大では15年度の入学生から授業料が3万6000円アップして53万
2800円になる。私立大との差を縮めるための措置だが、「改革の痛み」が
学生を直撃する形だ。
県内の大学でも、家庭の事情で授業料を払えないため大学生活を断念するケー
スがあるという。郡山市内の県立高校の進学担当教師は「倒産やリストラが相
次ぐ中で、教育支出を伸ばすのは大変なこと。むしろ奨学金のウエートは極め
て大きくなっている」と強調、奨学金制度の充実を訴えている。その通りだ。
教育は国家100年の計であるはず。政府の改革に聖域はないといっても、
次代の人材育成を主眼とする日本育英会に採算性はなじむはずがない。収益性
を前面に出した育英事業では教育の機会均等を確保することは困難になる。
日本育英会の奨学金は、長期にわたって返済することが可能なので利用しや
すい。ただ、学生時代のありがたみを忘れて、返済を忘れている社会人も多い
という。この優れた奨学金制度を維持するためにも、きちんと返済して後輩の
ために原資を残してほしい。(佐藤 晴雄)