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独行法反対首都圏ネットワーク

☆国立大学協会への意見書:最終報告に不可欠な項目について 
.[he-forum 3524] 国立大学協会への意見書:最終報告に不可欠な項目について .-

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                          平成14年3月2日
国立大学協会会長
長尾 真 様

                
                辻下 徹

                北海道大学 大学院理学研究科  教授

                〒060-0810 札幌市北区北10条西8丁目
                TEL and FAX 011-706-3823
                tujisita@math.sci.hokudai.ac.jp


 国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議の最終報告に関する意見
を、国立大学協会会則28条(註6)に従って国立大学教員として述べさせて
頂きます。

          最終報告に不可欠な項目について
         

 調査検討会議協力者(以下「委員」)の過半数は国立大学関係者でしたが、
1年を経てまとめられた中間報告は、国立大学関係委員の主張を十分反映した
ものではなく、2月21日に公表された最終報告事務局案は、中間報告に対す
る多数のパブリックコメントに記された大学関係者の懸念や要望を嘲笑うかの
ように正反対の方向に修正が加わっていました。

 最終報告に向けて開催されている連絡調整委員会は密室性を高めており、調
査検討会議委員ですら1ヶ月遅れでしか議論の進行を知ることができなかった
と聞きます。国立大学全体の意向と乖離した事務局案がそのまま最終報告となっ
た場合に、国立大学関係者が多数参加していたことを以て国立大学の意見を反
映した案であると誰かが主張しても、私は納得できませんし、国立大学教職員
の大半も同様と思います。

 2月21日の事務局案には、中期目標策定時に大学の意見への配慮義務を文
部科学大臣に課す点や、教員人事の規則を評議会の審議事項とする、など、国
立大学関係委員の努力の成果がかすかながら認められます。しかし、国立大学
法人(仮称)の骨格は、中期目標を文部科学大臣が策定し、文部科学省内に設
置される国立大学評価委員会(仮称)が評価と予算配分を連動させる、など、
大学の活動全般を行政が直接制御する多数の把手を用意する点では独立行政法
人制度と何ら異ることはなく、大学の抱える諸問題解決に必要な構造改革とは
逆の方向を向いた制度設計となっています。

 さらに、事務局案の組織設計では、学長の上に学外役員を含む少人数の役員
会を置き大学運営の全権を付与しており、大学の自立性を構造的に否定する度
合は独立行政法人制度の比ではありません。

 国立大学だけでなく日本の大学全体が必要としている構造改革は、行政が予
算配分・施設整備等の権限を通し大学の教育・研究全般に強い影響力を及ぼし、
大学が自立し自主性を発揮し自律的に活動する機会を奪ってきた状況の打破で
す。独立行政法人制度を利用して国立大学を自立させて活性化しようとしてい
るのだ、という国立大学協会の言葉に偽りがないならば、国立大学関係委員が
協力し以下のような具体的提言を最終報告に盛り込むことで、その誠意を示し
て頂きたいと思うのです。


(1)高等教育予算法(仮称)設立

 国公私大全体の高等教育予算額を国民的議論を経て定量的に定め、行政から
独立した機関が予算配分に当たることを規定する法律が必要です。

 国立大学法人化を財政効率化の有効な手段として活用しようという意図が公
的会議で政府関係者が表明している以上、こういう提言を最終報告に明記しな
ければ、国立大学の独立行政法人化が高等教育予算の底なしの減少をもたらす
契機となることは不可避であり、また、予算配分権が行政に留まる限り、狭い
偏った視野による行政指導がもたらす大学の画一化と多様性喪失はさらに進行
するでしょう。


(2)高等教育行政を司る独立性の高い機関の設置

 大学での教育・研究は、国民全体に対し直接に責任を負つて行われることが
教育基本法で定められています。それに反する過度の行政指導が教育システム
に及ぼす種々の弊害は具体例に事欠きません。現在、大学全体を混乱させてい
る大学構造改革(いわゆる遠山プラン)などは、その典型例です。

 こういった弊害に終止符を打つために、行政からの独立性の高い機関を設置
し、教育政策を審議決定する権限を与えることを真剣に検討する時期が来たと
思います。この提言は、2000年6月の第106回国立大学協会総会の確認
事項4(註1)を敷衍するものと言うことができると思います。

  例としては、日本の各方面から直接選出された委員からなり、独自の事務局
を持つ独立行政委員会を設置することが考えられます。(最後に委員構成につ
いての2つのタイプを記しました(註2))。

 初等中等教育と高等教育との関係の正常化、国公私大学の単位互換、ヴァー
チャル・ユニバーシティ、高専・専門学校などとの連携など、広義の高等教育
機関の連携を以てしか取組めない諸課題が山積しています。社会の各方面の認
識とニーズを反映し、真の国益を視野に入れて議論する場がない限り、時代が
必要としている方向に大学システムが進化することは望めないと思います。

 なお、最終報告案では全国的な機関設置の必要性が言及され、それぞれ別の
機関が想定されています(註3)。これらの機関は大学システム全体の根幹に
かかわる事柄を担当するにもかかわらず、相互関係は検討されていないようで
すし、行政の影響力が強く及ぶものとなるように思います。これらの機能の大
半は、ここで述べたような、行政からの独立性の高い機関が担うわなければな
らないものと思います。


(3)学生・院生の大学運営参加

  最終報告案では、「教育の受け手たる学生の立場に立った教育機能の強化が
強く求められる。」とあります。法人化の意義として強調されている産学連携
推進の中で大学院生が有能で安価な研究労働力として産業界に利用される構造
が生じることが懸念されます。教育機能の強化のためには、学生・院生の人権
を保障する具体的システムが最低限必要ですし、措置が形骸化させないために
は、学生・院生が教学・運営全般に関して発言する場を大学運営組織内に設け
ることが不可欠であると思います。

 また、教職員とならぶ主たる大学構成員である学生・院生の大学運営参加は
大学活性化の鍵となると思います。さらに市民として自立した専門家を育てる
という大学の使命の実現手段として代替法がないほど重要なものであり、大学
の「国際水準」を問題にするならば、まず第一に実現しなければならないこと
の一つである、と私は思っております。


              おわりに


 2000年6月14日に、国立大学協会は「独立行政法人化に反対しつつ独
立行政法人化のための調査検討会議に参加する」ことを決めました。総会後の
記者会見で蓮實前国立大学協会会長は、法人化を容認したのではなく、法人化
の議論に大学が影響を与えるために参加することを決めたのだ、と説明されま
した。「教育,研究の質のさらなる向上によって,国民の利益の増進と,地域
社会,人類社会の持続可能な発展に貢献することを目指し,その実現にふさわ
しい国立大学の設置形態」を目指した大学側の意見がほとんど受け入れずに最
終報告がまとめられようとしている今、2000年6月14日国立大学協会総
会での決意(註1)を全うする取組みを期待しております。

 なお、昨年5月の国立大学協会設置形態検討特別委員会の報告書「国立大学
法人化の枠組」(註4)は、第108回国立大学協会総会で承認されなかった
ことを国立大学教職員は承知しております(註5)。「国立大学法人化の枠組」
は、最終報告案の評価基準にはならない、ということに留意して、最終的な作
業を進めてくださいますようお願い致します。

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(註1)第106回総会の確認事項 平成12年6月14日

 国立大学協会は,第106回総会において,次の4点を全会一致で確認した。

1. 5月26日の文部大臣の「説明」以後も,国立大学協会は,国立大学の設置
形態に関して,これまで表明してきた態度を変更する必要があるとは認識して
いない。すなわち,すでに法制化されている独立行政法人通則法を国立大学に
そのままの形で適用することに強く反対するという姿勢は維持され,今後も堅
持されるだろう。

2. 教育,研究の質のさらなる向上によって,国民の利益の増進と,地域社会,
人類社会の持続可能な発展に貢献することを目指し,その実現にふさわしい国
立大学の設置形態を検討するために,副会長を正副委員長とする「設置形態検
討特別委員会」を国立大学協会内部に新たに設置し,この委員会を中心に,文
部省をはじめ,内外の各方面への政策提言を積極的に行う。

3. 上記の二点を踏まえ,かつ,我が国の高等教育と学術研究の健全な発展に
資するために,国立大学協会として,文部省に設置される予定の「国立大学の
独立行政法人化に関する調査検討会議」に積極的に参加し,そこでの討議の方
向に,国立大学協会の意向を強く反映させるための努力を行う必要がある。

4. 一国の高等教育政策は,国民,地域社会,人類社会の利益という視点から,
長期的な展望のもとに議論されねばならず,それには,国際的動向をもふまえ
た恒常的な政策決定の機構が必要である。国立大学協会は,この際,科学技術
基本計画に対応する学術文化基本計画の策定を課題とする議論の場の設定を強
く訴えたい。
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(註2)「中央高等教育委員会」のイメージ

行政組織法にある委員会として設置し、委員は各界から直接選出する。なお、
人数は、具体性を持つために仮に挙げたものである。

・任務 大学政策の審議・決定、高等教育予算(施設費を含む)案作成

・委員(委員は選出母体に属さなくてもよい、選出は直接選挙が好ましい)

 大学教員代表      10名(国公私立大学教員・非常勤教員が選出)
 研究者代表       10名(例:日本学術会議から選出)
 職員代表        10名(大学職員が選出、常勤・非常勤を問わない)
 小中高教育関係者代表  10名
 学生代表        10名(学生・院生が選出)
 経営者代表       10名
 労働者代表       10名

・オブザーバ 
 中央省庁         若干名

・事務局 30名(委員会が直接人選する)

○大学との関与の度合いを配慮し、研究者代表・大学関係者を中心とした委員
構成も有りうる。

・委員

 大学教員代表      10名
 大学職員代表       5名
 学生代表         5名
 研究者代表       10名
 小中高教育関係者代表   5名

・オブザーバ 

 中央省庁        若干名
 経営者代表       若干名
 労働者代表       若干名



(註3)最終報告案(2/21)で言及されている種々の全国的機関

II 組織業務 2.制度設計の方針(4)目的・業務(国立大学の連合組織)

「今後、各国立大学における自主的・自律的な運営を前提としつつも、必要に
応じて大学間で連携・協力して案件の処理を行うことが可能となるよう、国立
大学相互間の連絡、協議等のための自主的・自律的な連合組織を明確に位置付
ける。」

III 目標評価 2.制度設計の方針(1)国のグランドデザイン等と大学の長期
目標(国のグランドデザイン等)

「国は、大学関係者や広く各界の有識者で構成される審議機関による検討を踏
まえ、我が国の高等教育・学術研究に係るグランドデザインや政策目標を策定
し、その中で、国や国立大学が果たすべき役割や責務等を明らかにする。」

III 目標評価 2.制度設計の方針(2)中期目標・中期計画等(中期目標・中
期計画の内容)

「国、国立大学協会等は、中期目標・中期計画の形式及び内容について、大学
の長期目標に沿った複数の参考例を提示することが望ましい。」


III 目標評価 2.制度設計の方針(3)評価(評価の主体)

「国立大学評価委員会(仮称)は、社会・経済・文化等の幅広い分野の有識者
を含め、大学の教育研究や運営に関し高い識見を有する者から構成することと
し、その構成員の選任に当たっては、各分野において国際的水準の活動に従事
した経験を有すること等を基本的な要件とする。なお、大学関係者については、
現に所属する又は過去に所属した大学の個別評価には参加できない。」

V 財務会計制度 2.制度設計の方針(3)施設整備費(長期借入等を行うシス
テムの構築)

「移転整備及び附属病院整備に係る長期借入や不用財産処分収入の処理等を行
うためのシステム(以下「システム」という。)を構築する(共同機関の設置
等)。なお、その際、国立学校財務センターの活用を検討する。」
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(註4)国立大学協会設置形態検討特別委員会「国立大学法人化の枠組」
2001.5.21 
http://www.kokudaikyo.gr.jp/chosa/txt/h13_5_21a.html

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(註5)
第108回総会議事録 2001.6.12
http://www.kokudaikyo.gr.jp/katsudo/txt_soukai/h13_6_12.txt

国大協総第69号「臨時理事会の開催等について(報告)」2001.7.11
http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/dgh/01/711-nagao.html

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(註6)国立大学協会会則

第28条:国立大学の教員は、協会の事業に関して協会に意見を述べることができる。

2 前項の意見は、文書で提出するものとする。

3 意見が協会に提出されたときは、会長は、これを関係のある事項を担当す
る委員会に回付するものとする。

4 前項の規定により、意見の回付を受けた委員会は、必要があると認めたと
きは、口頭によってその教員の意見を聴取することができる。