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独行法反対首都圏ネットワーク

☆「意見申し立て」の取り扱いと評価結果の公表についての申し入れ
 
.[he-forum 3603] 大学評価機構への国立大学協会抗議書
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http://www.kokudaikyo.gr.jp/iken/txt/h14_3_1.html より

[要望先:大学評価・学位授与機構長]

   「意見申し立て」の取り扱いと評価結果の公表についての申し入れ
 
                        平成14年3月1日

                   国立大学協会第8常置委員長

                          佐 々 木  毅
 

 1月末の貴機構の各大学に対する「評価結果の通知」について、本委員会で
は、各大学からの意見をアンケート調査し、さらに特に分野別教育・研究評価
についてはその対象となった大学・機関の間で意見を交換しました。その結果、
評価の結果、およびその今後の取り扱いについて、深刻な懸念をもたざるを得
ない点が少なくないことが明らかになったと考えます。特に下記の点について、
貴機構に慎重な配慮をお願いするものです。



1 評価結果、方法上の問題点

 上記アンケートおよび意見交換の結果、今回の評価結果については、個別の
事実認識の段階で様々な問題があっただけでなく、評価の方法そのものにかか
わる、以下のような問題があったことが明らかになった。

(1) 評価結果が、大学が用意した自己評価書の内容を忠実になぞる内容となっ
ている場合が少なくない。これは、大学自身が自己評価の水準を高く設定して、
将来の課題という意味で問題を記述した部分が、そのまま現在の短所として評
価報告書に記述されることにつながる。これを意識して、あえて問題点にふれ
なかった場合には、そのまま評価されたという場合もあった。評価の一貫性に
問題が生じている。

(2) 他方で、単純な事実誤認は別として、ヒアリングあるいは面接調査にお
いて大学側が事実誤認を指摘した場合でも、それが評価結果の通知において訂
正されていない事例があった。これは評価員の判断によるものと思われるが、
そうした判断の根拠が明示されていない場合が少なくない。

(3) 教育評価において、その専門領域において共通の理解となっているとは
必ずしもいえない、評価員の個人的信念が強く反映されている場合が少なから
ずある。ヒアリング、面接調査において、大学の特定の教育措置について見解
の相違が明らかになり、大学側がその理念を説明したにもかかわらず、評価結
果は結局、評価員の信念に基づくものとなっていた例も少なくない。これは大
学が独自の視点から設定した教育理念自体を否定するものであり、評価の原則
を踏み外している点で、問題は大きい。

(4) 研究評価において、分野別に「卓越」○割、といった形での評価結果が
示されているが、その基準が明らかでなく、大学として納得できない場合が多
い。評価結果には「研究水準の判定基準等について」が資料として加えられて
いるが、この疑問に応えるものではない。また研究分野によって、評価の基準
が異なり、特定の分野では対象大学すべてに評価が「辛い」傾向がある一方で、
逆の分野もある。

(5) また研究評価では、各大学の構成員を、その属する組織にかかわらず、
機構の設定した研究分野に配分し直して評価しているケースがかなりある。こ
のため大学側の設定した分野と異なる領域で評価された教員も多い。各大学は、
一定の理念のもとに教育研究組織を構成し、それをもとに教育研究活動を行っ
ているのであって、それを無視するのであれば、大学の学部、研究科、研究所
は単なる教員のプールでしかなく、個別大学の組織としての個性は評価されな
いことになってしまう。

(6)上述の諸点からみて、評価員への評価の趣旨の徹底が十分とは必ずしも思
えない。また評価員の間に、評価方法、基準などについて、認識の共有化が十
分に行われていないことをうかがわせる事例も少なくない。

 以上のような点で、今回の評価結果には、方法・手続き上で大きな問題点が
ある。これを機構は厳しく自覚し、その上でこれ以降の評価の結果の公表に至
る作業にあたるとともに、今後の評価方法の再検討にあたっていただきたい。


2「申し立て」の取り扱い


 機構は大学側からの「申し立て」の対象を評価報告書(案)の「・ 評価結
果」での記述に限定し、しかも「既に提出されている根拠資料並びに訪問調査
における意見の範囲内で、その事実関係から正確性を欠くなどの場合」に限っ
て行うものとしている。これに従うのであれば、前述のように今回の評価結果
には、個々の事実の解釈をめぐる問題が多いにもかかわらず、それらが「申し
立て」の対象から外されることになる。さらに評価員との見解の相違など、評
価方法そのものの公正性については「申し立て」を行い得ないことになる。

 また「申し立て」を行っても、それが評価結果にどのように反映されるのか
は機構の判断に任される。しかも、機構の判断理由は記載されることになって
いるものの、それはいわば最終的な弁論の機会が機構の側に与えられているこ
とを意味するから、「申し立て」を行うことによって、かえって大学の側にとっ
ては不利な結果が生じることもありえる。こうした点を顧慮して、あえて「申
し立て」を行わないことにした大学も少なくない。

 こうした点から、各大学からの「申し立て」については、(1)機構の判断を
加えずに全文を評価報告書に記載すること、(2)指摘された点については、誠
実にその適否を検討するとともに、(3)機構の側の対応の理由を、公正性に十
分配慮して具体的かつ明確に示すこと、を望みたい。

3 評価結果の公表について

 上述のように、今回の評価については、具体的な事実誤認にとどまらず、評
価の方法や手続き、その結果の表記形態などにかかわって不備な点が多い。今
回の評価はあくまで試行であることからすればこれは致し方のないことともい
えるかもしれない。しかしその結果が、いったん大学評価の結果として公表さ
れれば、社会においてはそれが本来の意味を超えて用いられる危険が大きいこ
とはいうまでもない。試行段階であるからこそ、率直に問題を認識し、改善の
努力を積み重ね続けることこそが必要なはずであって、現在の段階での評価事
業の成果の誇示にこだわるようなことがあってはならない。

 とくに研究評価において、研究水準が「卓越」であるものが ○割、といっ
た評価結果が公表されれば、前述のように様々な問題があるにもかかわらず、
それが様々な形で指標化され、流通する可能性が大きい。

 こうした観点から、(1)研究、教育評価の双方にわたって、最終的な評価報
告書では、今回の評価が試行段階にあり、方法、手続き、評価結果などについ
て様々な問題点を残していることを明確に述べるとともに、(2)研究評価にお
いて分野別の研究水準について数字による記述をおこなうことについては慎重
に再検討すること、(3)評価結果の社会への公表にあたっては、その性質につ
いて誤解がないように十分に配慮すること、を要請する。


4 評価方法の見直し

 分野別教育・研究評価のみならず統一テーマ別評価についても、各国立大学、
大学共同利用機関は、外部評価を教育研究の活性化にむけての自己改善の努力
に役立てることが必要だと考え、そうした観点から今回の試行を積極的ノ位置
付け、協力してきた。しかし実際に評価を受けたいま、評価の本来の趣旨と、
現実に大学評価・学位授与機構が行う評価との間の乖離が明らかとなってきて
いる。

 現在の評価システムでは、実施に要する大学側の負担は予想したより遥かに
大きいものである。その反面で、評価の結果に必ずしも首肯し得ない場合も少
なくなく、大学の側の自己改善に大きく寄与し得るとも必ずしもいえない。し
かもこの評価の結果、必ずしも正確とはいえない情報が社会に流通することさ
えありえる。これでは大学は良い結果を得るためだけの一種のゲームを演じる
ことになってしまい、健全な評価システムを育成することは難しい。

 今後は、(1)評価に用いるフォーマットの画一性を緩和し、各大学が行って
いる自己評価を積極的に用いるなど、大学側の労力を削減すること、(2)大学
の自己改善に資するような評価の方法、結果の表現の方法を工夫すること、
(3)そうした視点から、今回の経験を踏まえて大胆に評価のシステム全体を見
直すこと、を要請する。


5 申し入れの取り扱い

なおこれまで国立大学協会第8常置委員会は、数度にわたって大学評価・学位
授与機構に対して「申し入れ」を行ってきたが、これに対する機構の判断、措
置が明確に回答されたことはなかった。すでに評価結果の公表が予定されてお
り、このままでは機構の側は評価対象である大学の意見にかかわりなく、一方
的に評価の作業を進めていくことになり、評価の公正性、公平性に対する、大
学と社会の信頼を損なう可能性が大きい。国立大学協会の申し入れに対しては
文書等をもって明確に応え、申し入れとそれに対する回答とを、機構のホーム
ページ等に同時に掲載することをお願いしたい。
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