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独行法反対首都圏ネットワーク

シリーズ 新潟大学から「法人化」後の大学を考える   その1  教授会はどうなるのか
 
2002年3月    新潟大学職員組合 独法化問題ワーキンググループ .
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シリーズ 新潟大学から「法人化」後の大学を考える 

その1  教授会はどうなるのか

文部科学省「調査検討会議」の「国立大学法人」最終答申によって、「国立大学法人」の全貌があきらかになりつつあります。この答申は、大学管理運営組織、教職員の身分保障のあり方、予算配分の方法など、大学のあり方に根本的な変化をもたらすものです。現在、大学管理運営の基本となっているのは、教授会です。教授会は教育研究組織の管理を行う基礎組織であり、それに伴いカリキュラム等の決定をおこなってきました。しかし、最終答申では教育研究組織において「教授会」という言葉はありません。

この答申をみるならば、新潟大学では、ここ数年来すすめられてきた主要な「改革」または「改革案」が、法人化の先取り的「改革」であったということを結論づけることができます。新潟大学で進行している事態を正確に分析検討した上で、全国の国立大学に発信し、あらたな段階に入った「法人化」反対の闘いに資することにしました。

まず今回は、昨年12月の学長の交代劇の主要因の一つといわれる、教員組織“一元化”をとりあげます。

新潟大学の教員組織一元化と国立大学法人

― 「みなし規定」による教授会権限の縮小の試み −  

新潟大学では、学内特例措置として「教育研究院」が作られ(01年11月22日)、それにもとづいて教員組織の一元化(集中管理)が進行しています。この一元化は必然的に教育研究と大学の管理運営にわたって「抜本的な」変更を伴います。この典型が、昨年(01年)12月21日に評議会決定された「新潟大学教員選考に関する取り扱い要項」です。

この要項の第1項では「新潟大学教育研究院規定第3条に規定する教員会議において行った教員の採用及び昇任のための選考は、当該選考に係る教員が構成員(予定者を含む。)である部局の教授会等の議を経たものとみなす。」と述べられ、教授会で教員の採用及び昇任については投票はおろか議論もしなくてよいことになっています。これは教授会を代行する「代議員会」を活用するものではありません。教育公務員特例法では、教員の採用及び昇任は教授会での審議事項となっているため、この第1項なしでは、教員組織の一元化はすすめられなかったのです。それでもなお、法律によって与えられた権限を全学機関に委譲することができるのかどうかが問題として残ります。新潟大学の問い合わせにたいして、文部科学省はこのやり方を「可」と判断したと言われています。その判断の背景に、「国立大学法人」においては教育公務員特例法をはずすという文部科学省の意図がはっきりと読み取れます。

したがって、「教育研究院」にもとづく教員組織の集中管理と教授会機能の矛盾は、新潟大学がもつ固有の問題ではなく、全国の国立大学において近い将来顕在化するものであり、その意味では「国立大学法人」化への前ぶれと言えます。

1 なぜ教員組織一元化なのか、どのような新組織なのか

もともとの構想では、教員定員の削減、教員組織の縮小化は避けられないという見方にもとづいて、教育内容と教育方法の維持向上をするためには、あらたな教育体制と教員組織の導入が必要とするとされました。また、新しい教育研究分野等を作り出すことも想定されています。

このため、教員定員を全学で集中管理し、学問分野別に統合し、学内特例措置による「教育研究院」を作り上げ、そこに人文社会科学系、自然科学系、医歯学系の3学系をつくり、教員は全員参加します。学系は分野で細分され50人規模の系列に分かれ、そこが人事の基本単位になります。とりわけ、理学部、農学部、工学部と自然科学研究科の4部局からなる自然科学系では、系列の構成において、学問分野的に関係の希薄な教員集団の統合などが数合わせのためすすみ、系列配置に不満が続出しています。

教員の人事は以下のような手続きを経る事になります。はじめに関係組織(学部、大学院)と連絡調整した上で、系列の教員会議で発議をすると、学系の企画調整委員会にはかられます。この委員会が学長、副学長、部局長からなる全学の教員調整委員会に定員の要求をおこないます。全学教員調整委員会が定員の配分を決定し、「可」とすれば、学系に定員を配分します。その場合、系列教員会議で具体的に採用または昇任人事を決定し、その結果を学部と大学院に報告します。学部と大学院は、人事の議論を経ずして、機械的に、学長に上申します。

この一連の手続きの中で、定員の配分の決定権は実質的に全学教員調整委員会がもつことになります。定年退職後のポストはもちろんのこと、転出の場合も、同じ分野に定員が配分される保障はありません。分野のスクラップとビルドが学長や部局長からなる全学教員調整委員会にゆだねられることになります。新潟大学では「研究組織の柔構造」が「国立大学法人」に先駆けて形式的には構築されたことになります。

 

2 学生の教育はどうなるか

 教育組織と教員組織の見直しを行う場合、教育の責任体制をどのように実現していくかが重要な課題となります。教育組織と人事の基本単位がことなるため、教育機能が十分はたらくかどうか不透明です。学部教育の重視が必要だとされている時代に、このような形での教育組織と教員組織の分離で学部教育は保障されるか危惧されています。

  今回の教員組織一元化では、学部は存続しますが、その学部の目的目標にてらしたカリキュラムをどこが責任をもって実行していくかが重要です。分野の教員組織が責任をもつには、その分野の教員集団がいくつかの学部の目的、目標および学生の資質を十分理解することが不可欠となります。そのため、自然科学系では、教員組織と教育組織を一本化しようとするあらたな動きがでてきています。現時点では、大学院修士レベルでの人事組織にあわせた再編が検討されていますが、この動向は、必然的に、理学部、工学部、農学部の一元的再編に連動することが予想されます。

 

3 流動定員は何を引き起こすか

教員組織一元化では、流動定員が構想されており、各系で最終的には15%という数字が取りざたされています。この数値は新潟大学においては200名を越える教員数に対応しています。これは定員削減の対応を越えて、あたらしい教育研究事業に重点がおかれることを意味します。この数字のまま再編が進行するならば、既存分野の維持発展をどう考え流動定員を捻出するかという深刻な問題と流動定員をその分野がいかに獲得するかというあらたな事態に直面します。前者の問題は既存分野の大幅な縮小もしくは廃止を意味し、後者ではお互いの分野の教育と研究を尊重する気風がなければ、流動定員の分野間での争奪戦という事態が危惧されます。新規教育研究分野は大学の政策のなかで決定され、外部資金誘導型の新規分野や国策に沿った分野が優先される可能性が高くなります。研究の内的動機から生まれた新分野を育成することはこれまでに比べて困難になります。

また、このような形での分野の縮小は、教員転出後の不補充という事態を引き起こし、若手研究者の転出、流動化を結果として阻害する危険性があります。このことは長期的にみると既存分野の教育研究の停滞を引き起こすでしょう。

4 課題と展望

昨年12月の選挙で、圧倒的に優勢とされていた前学長が36票差で落選し、新学長が誕生しました。この主要因の一つが教員組織の一元化でした。しかし、前学長は任期切れの今年1月末まで教員組織の一元化を推進し、重要な学内規定を改変策定してきました。この間、人事は原則として凍結され新年度からの学生の教育に支障も一部きたしています。人事凍結の解除の動向は、一元化の組織をより実体的なもの強固なものにする方向と連動しています。

組織運営上注目すべきことは、教授会の機能が保たれるかどうかにあります。すでに教授会には評議会における「みなし規定」によって人事権がなくなったという誤った見解も一部にあります。これは、学内措置である「学内規定」と「教育公務員特例法」との関係が明確に議論されないまま事態が進行したことによります。

学内措置である「系列長会議」が教授会と独立して、または、教授会の上に位置することがあってはなりません。さもないと、学内運営は混乱し、教授会のなし崩し的形骸化がおこります。当然、採用人事と昇任人事の枠を越えて系列長会議や「調整委員会」がもたれることがあってはなりません。教育研究の基礎単位で決定した人事を形式的かつ効率よく上申していくメッセンジャーとして系列長会議が機能し、「調整委員会」は単なる調整機関としての役割に徹していくように私たちは力を尽くしていきます。この方向は、「国立大学法人」反対の闘いと軌を同じくするものなのです。

 

2002年3月    新潟大学職員組合 独法化問題ワーキンググループ