全国の国立大学学長諸氏に訴える
―調査検討会議「最終報告」を拒否すべきである―
国立大学の独立行政法人化をめぐる情勢が重要な時期を迎えています。日頃のご苦労とご健闘に敬意を表します。
調査検討会議「最終報告」
文部科学省は、3月6日の調査検討会議(「国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議」)連絡調整委員会において「最終報告」(「新しい『国立大学法人』像について」)を決定し、3月26日の「今後の国立大学等の在り方に関する懇談会(賢人会議)」との合同会議で正式にこれを承認させようとしている。
調査検討会議の「最終報告」は、突如教職員身分の非公務員化を決定すると同時に、大学の管理運営システムに関しても学外者の関与の度合いがきわめて強い"経営と教学の分離"の仕組みを決定した。学長選考においても、学外者の強い関与に加え、学内における投票を可能なかぎり排除しようとしている。学問の自由の根幹にある教員の身分保障も、教特法の適用を排除することで否定する考え方である。これは、われわれ教育研究の現場で働く教職員の立場から絶対に容認しえないものであり、さらに広く大学関係者の受け入れることのできないものである。
調査検討会議がこうした方向を出すのは、委員会の性格や構成から想定しえなかったわけではないが、「大学の自治」や「学問の自由」の本旨をまったく理解しないものであり、経済産業省や政府の経済財政政策に追随するものであって、その見識を疑わざるをえない。とりわけ「非公務員化」の決定は、連絡調整委員会の2度ほどの会議で決定されており、調査検討会議の総意であるか否かさえ疑わしい。「非公務員化」をめぐる異常な動きは明らかに政府部内の政治的な決定によっている。1月25日の閣議決定「構造改革と経済財政の中期展望」は、大学の民営化と非公務員化の方向を打ち出していたのである。学問の独立性や自律性の観点から大学の制度を構想するという姿勢は微塵も見られないのである。
また、「最終報告」は、国立大学協会が主張してきた年来の立場、例えば昨年9月の調査検討会議「中間報告」に対する国大協意見とも大きく齟齬している。さらに、全国理学部長会議、全国農学部長会議の意見など「中間報告」に対して寄せられた多くの大学関係者の意見は無視されている。
この点で、調査検討会議連絡調整委員会の主査を兼ねた国大協会長長尾真氏の責任は大きいと言わざるをえない。長尾氏は、こうした国大協の動向を知りながら、なぜこれと真っ向から対立する調査検討会議の最終報告を取り纏めることができたのであろうか。
国大協のこれまでの態度
国大協は、これまで調査検討会議と並行して設置形態特別委員会で国立大学の法人化(独立行政法人化)問題を検討してきたが、必ずしも教育研究の現場の意見を代表してはこなかったとわれわれは考える。もともと2000年6月の国大協総会において調査検討会議に参加すると決定したことが誤りであり、これによって、文部科学省から独立して、大学の教職員の叡智を動員してこの問題に立ち向かうという立場を、国大協は放棄してしまったのである。設置形態特別委員会の作業は、その委員が調査検討会議委員と大幅に重複したために、事実上、調査検討会議に引きずられることになってしまった。
したがって、これまで調査検討会議の検討を基礎に出されてきた国大協の見解は、必ずしも構成メンバーである大学の立場を真に代表してはこなかったといえる。今、調査検討会議の最終報告がまとめられた段階に至ってなお、国大協が調査検討会議に追随するなら、国大協は多くの国立大学の、そして国立大学教職員の信頼をまったく失うことになるだろう。
国大協は、今こそ、大学の自治と学問の自由の原点に立ち返って、国立大学の真意を表明しなければならない。
最後の重要な機会
来る4月3日に全国国立大学長会議、19日に国大協臨時総会が開かれる。言うまでもなく、文部科学省の意図は、「最終報告」を大学に認めさせることによって、「国立大学法人法」の法案作りの土台を固めることにある。
もし、国大協がここで「最終報告」を承認するならば、今後の法案策定の過程で、国立大学の側はこれをすでに容認したと扱われることを意味するだろう。しかしまた、国大協が「最終報告」を承認しえないという立場を表明するならば、文部科学省の国立大学法人化あるいはより具体的には「最終報告」に基づく法人化(われわれの見解では独法化にほかならない)の試みは重大な隘路に逢着することになる。その意味で、この二つの会議は、国立大学の将来にとって決定的に重要な会議になるであろう。したがって、この会議は、国立大学の学長諸氏が真の意見を言いうる、また言わなければならない重要な会議である、とわれわれは考える。
もう一度言おう。調査検討会議の「最終報告」は、大学の立場を正しく反映していない。また、大学の自治や学問の自由への配慮に欠けるところが大きい。
今、国立大学が直面しているのは、"法人化"一般でも、"独法化"一般でもない。それは、「最終報告」に具体化された「法人化」の構想である。この最終報告に基づいて、法案策定の作業が始まろうとしているのである。「最終報告」の検討をさらにつづけるという機会がないとすれば、国立大学は、今の時点で、「最終報告」の全体を受け入れるか否かが問われているのである。個別の問題点はあるが全体としてはよい、というようなあいまいな態度はもはや許されない。容認しえない重大な問題があるかぎり、そのような問題点を含む最終報告は拒否すると言わざるをえないのである。そうすることで、国立大学は、この問題をもう一度検討しなおす可能性を手に入れることができるのである。
もちろん、これからも立法過程においてさまざまな紆余曲折がありうることが予想される。しかし、大学の側がこの機会に「最終報告」を批判しておかなければ、この枠組みが最も有力な支配的な枠組みになるであろうことは自明である。他方、大学がこれを批判し、受け入れがたいという態度を表明するなら、少なくともこうした枠組みによる「法人化」は著しく困難になる。それは、当の大学の意思を無視して行なわれた「改革」として、その正統性が損なわれるからである。文部科学省は、昨年6月14日の学長会議におけると同様の「恫喝」を試みるかもしれない。しかし、それは、大学の意思がそれだけ重要であるということを示す以外のなにものでもない。文部科学省が大学の意思に反して「法人化」を強行するなら、それは「大学の自治」を破壊するものとして社会の糾弾を浴びるであろう。
国大協臨時総会と全国学長会議は、大学が大学自身の真の意思を表明する最後の最も重要な機会である。
全国の学長諸氏に訴える
国大協臨時総会では、これまでの経緯にとらわれず、「最終報告」に対する反対の意思を明確に表明すべきである。さらに、国大協がそのような意思を表明するためには、調査検討会議の最終報告についても責任を負う長尾国大協会長の辞任を要求することが必要であろう。
情勢や力関係がこのような行動を許さないという現実主義的立場もありうるであろう。しかし、それは、調査検討会議が経済産業省や政府の圧力に屈した過程をそのままなぞることを意味する。大学の将来は、大学自身が決定しなければならないのである。それは、「大学の自治」の基本的な要請にほかならない。
学長諸氏のご賢察と勇気ある行動を心より期待いたします。
2002年3月26日
北海道大学教職員組合執行委員長 神沼 公三郎
新潟大学職員組合執行委員長 谷本 盛光
茨城大学教職員組合執行委員長 森野 浩
千葉大学教職員組合執行委員長 伊藤 谷生
東京大学職員組合執行委員長 田端 博邦
佐賀大学教職員組合執行委員長 西田 民雄
宮崎大学教職員組合執行委員長 恵下 歛
徳島大学教職員組合執行委員長 中嶋 信
愛知教育大学教職員組合執行委員長 舩尾 日出志
長崎大学教職員組合執行委員長 小原 達朗
福井大学教職員組合執行委員長 森 透
秋田大学教職員組合執行委員長 佐藤 修司
小樽商科大学教職員組合執行委員長 兼岩 龍二
京都教育大学教職員組合委員長 奈倉 洋子
室蘭工業大学職員組合執行委員長 橋本 忠雄
九州大学教職員組合執行委員長 三好 永作
群馬大学教職員組合中央執行委員長 黒須 俊夫
埼玉大学職員組合執行委員長 伊藤 修
和歌山大学教職員組合執行委員長 小林 民憲
岐阜大学教職員組合執行委員長 長野 宏子
滋賀大学教職員組合委員長 黒田 吉孝
宇都宮大学職員組合委員長 片岡 健治
北海道大学水産学部教職員組合執行委員長 平石 智徳
東京農工大学教職員組合委員長 小島 喜孝
北海道教育大学札幌校職員組合委員長 加藤 富夫
福島大学教職員組合中央執行委員長 後藤 康夫
静岡大学教職員組合執行委員長 金田 利子
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