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独行法反対首都圏ネットワーク

団藤氏「大学と小泉改革:担い手不在の不幸」の感想
[he-forum 3476] 団藤氏「大学と小泉改革:担い手不在の不幸」の感想.
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he-forum の皆さま

団藤氏の「インターネットで読み解く!」第114回2002.2.21
「大学と小泉改革:担い手不在の不幸」
http://dandoweb.com/backno/20020221.htm
について、感想を送りました。以下はその抜粋です。
(加筆修正があります。「」内は団藤氏の論説からの引用です。)

なお、団藤氏はこれまでに以下のような論説を書いています。

第13回「大学改革は成功するか」 (97/07/31)
http://dandoweb.com/backno/970731.htm

第74回「大学の混迷は深まるばかり」 (99/08/26) 
http://dandoweb.com/backno/990826.htm
英訳:Confusion Deepens in Universities
http://dandoweb.com/e/univ.html

第95回「学力低下問題の最深層をえぐる」 (2000/11/30) 
http://dandoweb.com/backno/20001130.htm
英訳:Issues Behind the Problem of the Decrease in Scholastic Ability
http://dandoweb.com/e/ED.html
読者共作2「ポスドク1万人計画と科学技術立国」 (2001/09/27)
http://dandoweb.com/backno/20010927.htm

辻下 徹

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団藤保晴 様

(略)

 しかし、国立大学の独立行政法人化の不毛さを最初から(*)明確に理解されていた
団藤さんでも、この問題の全体像を十分には理解されていない、という気持ちがして、
残念に思いました。

(*) 第74回「大学の混迷は深まるばかり」 (99/08/26) 

 たとえば「反対にしか道を見いだせない大学人」という言い方には、国立大学にお
ける文部科学省の支配力の強さへの無理解があると思います。(中略)それでも反対
の声がいまなお消えないことがいかに驚くべきことか、団藤さんに理解して頂ければ
と私は思っています。

 また「反対にしか道を見いだせない大学人」という言い方から「反対すれば良いと
思っている大学人」と考えておられるように感じましたが、それは完全な誤解です。
時間が限りなくかかる教育・研究に加え単調に増大する改革雑務等に埋め尽くされる
勤務外時間の合間を使ってできることは極めてわずかなものです。何が起きているの
か把握し膨大な議事録を読み、可能ならば批判する文書を書き投書したりインターネ
ットで伝える、ということだけで精一杯なのです。

 反対するなら誰でもできる、反対するなら対案を出せ、ということは最初から言わ
れていましたが、実現可能性を考えなければ対案はすぐにでも作れます(中略)。実
現可能性とは大学社会の中で今受け入れられるという面も重要です。そういった流れ
と無関係に対案を作ろうと何人かと話合ったこともありましたが、限られた人的・時
間的資源を考慮すれば、そういった案を政策決定に影響を及ぼすには、マスメディア
に取り上げられることを期すしか方法はないが、(鹿児島大学長の構想など全く取り
上げていないことからも明らかなように)それは余りに空想的ですし、たとえ、その
ようなことが起こったとしても、いつものように文部科学省が欲するような部分だけ
「つまみ食い」されるだけで、やぶ蛇になるのが落ちである、結局対案作りはアリバ
イ作りの自己満足に終わると判断しました。それよりは、独立行政法人化を黙認しな
い方が一番現実的で醒めた戦略である、と私は思っています。


 民営化や非公務員化への反対理由についても、団藤さんは誤解されているようです。

 まず、民営化や非公務員化が政府部内では高等教育予算削減と同一視されているか
ら反対しているのであって、高等教育予算法のようなものを作り安定した高等教育予
算が確保されるのであれば、国立大学などである必要は全くないと私は思います。そ
の条件があれば国公私という区別を廃止し大学の間に、御前試合ではない真の競争が
生まれて大学全体が活性化するでしょう。しかし、現実には、これは全くの幻想であ
り、独立行政法人化や民営化は国の事業としての高等教育を縮小・廃止する長期的国
策の一環として進められているのであり、直近には、高等教育予算縮小そして学費値
上げに直結していることは明らかではないでしょうか。

 また、自分の公務員身分を守るために非公務員化に反対している人はいないでしょ
う。非公務員化しても現在の教員の身分は守ることを記した「文書」が連絡調整委員
会で配付されていることは周知の中で非公務員化反対の運動が展開されていることに
注意すべきではないでしょうか。自分の公務員身分を守るためではなく、これから大
学に就職する人達が、民間の企業と同様に「人事部」の意向を絶えず意識しながら研
究・教育をしなければならなくなることを憂えて、公務員型・非公務員型を問わず大
学の実質的企業化である独立行政法人化に反対しているのです。

 ーーーーー

 大学が今の100分の一の規模になるとすれば違うかも知れませんが、数万人の社
会である国立大学社会は、日本社会の良いところも悪いところもそのまま引き摺って
います。日本社会の持つ短所とよばれているものを大学から一掃しようということを
目指して改革することは、その短所をさらに悪化させることになるリスクがありま
す。短所を矯めるのではなく長所を伸ばすための改革を目指さないと大誤算となると
おもいます。大学には縁の下の力持ちであることに誇りと喜びを感じている人達が沢
山います。そういった人達を評価する数値などないのです。一部の「怠け者」(非常
に活動的だが、良く見ると何もしていない怠け者も沢山居るので、数値や見た目では
わからない)を捜しだし追いだすために、多くの真摯な人達を苦しめる一方、その場
限りの仕事しか関心が持てない短期派遣業務の人達で大学は埋め尽くされ、大学は機
械のようなものに変身していくリスクが余りに大きいのです。
 マイナスをゼロにすることは、ゼロをプラスにする以上の意義のある大学改革では
ないでしょうか。独立行政法人化で大学が失うものは余りに大きい、それを反対する
ことは、現在の国立大学教職員の当然の義務であると私には思われますが、それを口
にすることで所属する部局等に迷惑を与え孤立することを怖れるのは自然な人情です。
独立行政法人化後に独立行政法人化の毒を消し去る努力をする方が誠意がある姿勢で
はないか、と、良心的な人達の多くは秘かに決意を固めているのかも知れません。し
かし、それは大きな誤算であると私は思います。やはり今1の努力でできることが、100の努力でも出来なくなってしまうことが数多くあることは明らかなので、今大
学に居るものは誰が何と言おうと、独立行政法人化の底知れないリスクを指摘してい
かなければならないと思っています。

 それを伝えるためには、団藤さんの言う2行改革

   1.助手や助教授に対する教授の人事権を廃止、教官選考は公開、
   公募制とし、選考委が学部にどういう専門分野の人材が必要かを
   検討して選ぶ。

   2.その大学の出身者は学外機関での勤務経験を経ていなければ
   給与を70%しか与えない。この規定は現職の全教官に対しても5
   年後から適用する。

を東大や京大などの旧帝大が打ちだして独立行政法人化に反対するのは検討に値する
戦略であると思います。

(中略)

 日本社会で問題を抱えていない組織や社会はないと思います。どの組織をやり玉に
上げるのかーーそこの選択が全く無茶苦茶であると感じています。マスメディアの罪
悪は、何が公正であるか、という意識を失ってしまっていることです。国立大学を今
この時点でスケープゴートとしてやり玉に上げられていることは自明なことではない
でしょうか。

「しかし、メディアは所詮は社会を映し出すものにすぎません。独立行政法人化の動
きに対して具体的な代替案が出てこないと報道することすら難しいのです。「学問の
自由」がそれに当たらないことは、もう理解いただけましたね。」

このような言葉を団藤さんから聞くのはとても残念です。少数の者にしか重要性が理
解できない問題がたくさんあります。特に大きな政策であればあるほど、問題点が見
えないような工夫がされていることはよくご存知でしょう。社会の反応の大きさだけ
で記事を評価する今の新聞社は、政府の意見を広げるだけの役割しかなくなりジャー
ナリズムの使命を失いかけているのではないでしょうか。

  今回の団藤さんの通信も根本において大きな「公正」さに欠けていたと思います。

 ーーーーー

 「変わるしかない――そう思えればインターネットの時代です。今からでも声を
糾合して、大きなうねりを作り出すことは不可能でないはずです。」

 内発的に「変るしかない」と思う人は大学ではわずかです。文部科学省に鞭打たれ
て「変るしかない」と思う人達のやることは画一的で大学を悪化させます。良いもの
は、やはり小人数によってしか担われない、という醒めた意識が必要です。そして、
その小人数を排除する機能を持つ独立行政法人化ほどの大学改悪はない以上、いま、
それを反対することが最も冷静で醒めた行動である、と私は思っています。

 今、大学は正念場です。大学内部では「再来年4月の法人化」に向けて準備が当然
のように始まっているようですが、あれほどまでに問題点が明確に認識されているこ
とに対して、わずか2年が経過しただけで、日常的に準備をし始める光景には背筋が
寒くなるものを覚えます。しかし、これは日本社会そのものの縮図なのでしょう。そ
の縮図の中で「時代の流れ」という呪文の呪縛を解くことができるか否かーーそれが、
今の大学関係者に課せられた、象徴的な課題であると思っています。大学社会がこの
問題の適切な解決に失敗することは、日本社会の前途にとり不吉な予兆となると思い
ます。


辻下 徹

北海道大学大学院理学研究科数学専攻
〒060-0810 札幌市北区北10条西8丁目
TEL and FAX 011-706-3823
tujisita@math.sci.hokudai.ac.jp
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