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☆国立大再編・統合の検討状況公表、明確な理念見えず
 
[he-forum 3428] 日本経済新聞02/02
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『日本経済新聞』2002年2月2日付

国立大再編・統合の検討状況公表、明確な理念見えず


 文部科学省は国立大学101校(短大を含む)の再編・統合に向けた検討状況
を公表した。6割を超す大学が統合を視野に検討しているが、始めに統合あり
きの感も強く、今後活発になる教員養成系の統合が国立再編の本番でもある。
一方で、生き残りのため各大学は教育体制の見直しや、独立法人化に向けた体
制整備など様々な改革を進めており、本格的な国立大学の競争と選別の時代到
来が浮き彫りになっている。

 調査は、文部科学省が昨年6月に公表した「大学(国立大学)の構造改革の
方針」(遠山プラン)を受けて、各国立大学がどのような取り組みをしてきた
かを報告させたものだ。これを基に、同省は1月末にヒアリングを行った。

 報告書は、多い大学ではA4判に20枚以上もびっしりと書き込まれている。検
討している事項はすべて書き込んで、文科省の好印象を得ようという大学側の
思いが伝わってくる。

 調査の最大の眼目は、各大学の再編・統合の検討状況だ。筑波と図書館情報、
山梨と山梨医科が2002年10月に統合するのを皮切りに、2003年10月には東京商
船・東京水産、神戸・神戸商船、九州・九州芸術工科など9組が統合で合意、
弘前・岩手・秋田、群馬・埼玉、静岡・浜松医科、高知・高知医科、滋賀・滋
賀医科など15大学が統合に向け協議中。さらに、他大学との折衝を始めた大学
がこれに続いている。

 もっとも、その内容を詳細にみると、総合大学と医科大学や芸工大、商船大
など単科大学の統合が大半。もともと学部の重複がないため、統合に比較的抵
抗が少ないとみられるケースがほとんどだ。統合するといっても、現下の財政
事情では新規に統一キャンパスを建設するのは難しいとみられ、学生や地域に
とってのメリットもいまひとつわかりにくい。「結局、現状とあまり変わらず、
大学の数と学長ポストが減っただけに終わるのではないか」という指摘さえあ
るほどだ。

 こうした批判をはね返すには、統合した新大学が学生や社会に魅力ある大学
像を明確に示す必要がある。しかし、各大学の報告書を読む限り、それがなか
なか見えない。むしろ、統合に向けて走り出してから、新しい大学像を模索し
ているといった印象が強い。

 その点、重複部分のリストラが避けられない教員養成系の統合は、学内も地
域も含めた様々な抵抗が予想される分、逆に統合の意味が厳しく問われること
になるだろう。実は、国立大学再編統合はこれからが本番なのだ。

 戦後、旧制の師範学校や専門学校、高等学校など様々な歴史を持つ高等教育
機関が半ば強引に合体させられ、新制大学が誕生した。発足当初はキャンパス
も学部によってバラバラだった。それから半世紀たった今でも、学部ごとにキャ
ンパスが別々の“たこ足大学”が残るなど大学としての一体感に欠け、“学部
の連合体”でしかない大学は少なくないといわれる。

 文科省主導で国立大学の再編統合が進む中、統合で何を目指すのか、学生や
社会にとってどんなプラスがあるのか、21世紀にふさわしい大学とは何なのか、
理念を明確にした上での統合を目指さない限り、統合で生まれる大学は、多く
の新制大学がたどった半世紀と同じように、同床異夢の寄り合い所帯になる恐
れもある。

 すでに、一部の統合に合意した大学間の協議過程で、主導権争いともとれる
あつれきが聞こえてくるのは、この懸念が決して杞憂(きゆう)ではないこと
を示している。

 文科省自身も各大学に再編統合への取り組みを求めるだけでなく、大学進学
率が50%に迫る時代にふさわしい、国公私立を含めた21世紀の高等教育のグラ
ンドデザインを示す必要があるのではないか。

 独立法人化問題や遠山プランの公表は、「このままでは我が大学は生き残れ
ない」というかつてない危機感を、国立大学に持たせることになった。各大学
の報告書からは、そうした危機感を背景に、様々な改革に取り組んでいる大学
の姿がうかがえる。

 日本の大学は教育力が弱いという批判が根強い。学生にきちんと勉強させて
いない、きちんと教育する体制になっていないという指摘だが、国立大学は今、
大きく変わろうとしている。

 教育体制の見直しを見ると、多くの大学が成績評価の基準明確化や評価の厳
格化、成績を数値化するGPA、履修科目数の上限設定を実施または検討して
いる。補習授業は珍しくない。なんでも学生相談室設置(千葉)、学生支援セ
ンター(上越教育)、学生相談総合センター(名古屋)、学生なんでも相談室
(名古屋工業)、学生総合支援センター(三重)、クラス担任制の充実(鹿屋
体育)など、学生の面倒見の良さを売り物にしようとする大学も多い。学生支
援担当専門員の配置や、学生が自由に相談に行けるオフィスアワー設定も普及
した。ものづくり創世工学センター(宇都宮)、ものづくりテクノセンター
(名古屋工業)、もの創り実践センター(三重)などを設ける動きも出ている。

 学生の授業評価も広がっている。教育優秀者賞制定(北見工業)、高い授業
評価を得た教官への助成金導入(弘前)、顕彰制度検討(岡山)、五段階の教
員評価導入(長崎)、教官相互の授業参観制度導入(山口)など、教官の意欲
を向上させる様々な取り組みが進む。

 秋入学制度や優秀な学生の飛び入学、4年を待たず卒業できる早期卒業を検
討する大学も多い。これまで普及が進まなかった秋入学や飛び入学だが、今後
は日本の大学でも能力や適性に応じて様々な学び方の選択肢が選べる可能性が
高くなった。

 教養教育の見直しや、大学院の充実も急速に進む。法科大学院(ロースクー
ル)には法学部を持たない大学までも名乗りを上げ、ビジネススクール設立を
計画している大学も多い。社会人の学習意欲の高まりに応えようと大学外に教
室を設けるサテライト授業もブーム。自県の中にとどまっていては限界がある
として、他の都府県にサテライト教室を設ける“攻撃的な”戦略も目立つ。高
校との連携では、授業の公開や近隣高校への出張授業も幅広く行われている。
大阪教育は滋賀県や四国と他県にまで出張授業の範囲を拡大する。東北や大阪、
京都など海外に研究拠点をつくる大学もある。

 一部に抵抗が強い法人化問題でも、準備室(帯広畜産、京都、大阪など)や
財務企画室(東京医科歯科)の設置をはじめとして具体的対応の検討に入る計
画が目白押し。すでに職員に簿記研修(滋賀)を実施した大学もあり、現場の
論議はすでに法人化の是非論議から、具体的にどんな対応をとっていくかとい
う、各論段階に突入している。

 興味深いのは、広報プラザ・野依教授コーナー、野依研究センター(仮称)
を設置する名古屋と、福井謙一記念研究センター(仮称)を設ける京都の動き。
ノーベル賞受賞者を大学のイメージアップに利用する戦略は、大学の“大競争
時代”の象徴だ。

 こうした一連の動きは、旧大学審議会答申の後追い的要素はあるにせよ、国
立大学が生き残りをかけて動き出した表れでもある。

 「国が長い間、集中的にヒト、モノ、カネを投資してきた国立が本気になっ
たら、私立にとっては脅威」(有力私大幹部)という一部私大の不安が現実の
ものになりつつあるのは間違いない。

(編集委員 横山晋一郎)