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独行法反対首都圏ネットワーク

☆横断型研究 古い学術界を変える時だ
 
.[he-forum 3416] 毎日新聞社説02/10
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『毎日新聞』社説  2002年2月10日付

横断型研究 古い学術界を変える時だ


 これまでの学問が余りにも専門化、細分化し弊害が出てきた反省から学問の
再編・統合や知の再構築が叫ばれている。

 学者の新たな動きもあった。横断型研究開発の重要性を述べた提言が政府の
総合科学技術会議(議長・首相)に出されたのだ。

 提言をまとめたのは計測自動制御学会、システム制御情報学会、日本ロボッ
ト学会、人工知能学会など工学系が中心の12学会。

 大学の工学は土木、機械、電気工学など19世紀以来の垂直型研究が幅を利
かせているが、個別技術が成熟した現在は、横断型の研究を推進することが緊
急課題だと指摘している。

 具体的にはシステム工学、制御工学、ロボット工学、技術倫理など普遍性が
強い横断型研究に多くの研究費を出してこそ技術の新しい方向を先取りできる
という。

 提言を受け同会議は02年度の科学技術振興調整費(文部科学省)の配分で
そうした政策提言のための研究を優遇することになった。学会と企業が横断型
研究を進める組織を作る動きもある。

 横断型研究を必要とするのは工学系にとどまらないが、これまでも学際的研
究などの重要性が声高に語られた時期があった。それでも新しい芽は育たなかっ
た。

 だが、90年代に入って科学技術が社会や人間に与える影響が無視できなく
なった。地球環境問題、生命倫理問題、超高齢社会の到来など従来の学問分野
では対処できないテーマが出現している。

 そこで学問の融合、再構築の必要性が改めて言われ出した。日本学術会議は
環境問題などをテーマに異分野の学者が参集し、我々や未来世代が被る負の側
面も予測して排除しようという俯瞰(ふかん)型研究プロジェクトを提案した。

 自然科学ばかりか人文・社会科学の学者までを結集した文理融合も大きな課
題となっている。そして横断型研究の提言であり、学術界の古い体質を打ち破
ろうとする動きを歓迎したい。

 だが、縦割り行政など日本では社会が縦に分かれる傾向が依然強い。大学は
縦割りの学問分野のままだ。垂直型学会が勢力を持ち、産業界も垂直型文化が
根強い。

 文科省の科学研究費の配分では総合領域が考慮され始めたが、ほとんどは垂
直型の枠組みに沿って与えられる。俯瞰型や横断型研究が市民権を得る状況に
ない。

 行政や大学、学会がこうした古い殻を破り、真剣に改革に取り組む必要があ
る。政府は研究費配分に当たって横断型研究を垂直型と対等に扱うなど、体系
的な政策で社会的基盤を確立すべきだ。

 国立大学は学部や研究科の再編など改革の先頭に立ってほしい。個々の学者
の意識改革も欠かせない。今後は複数の専門分野と広い視野を持ち、「専門ば
か」から抜け出した人材が必要になる。

 欧米では以前から横断型研究やソフトを重視している。日本も方向転換を果
たし、環境問題など難問の解決や、産業競争力の向上による産業の立て直しに
つなげていくことが求められる。